ウォーレン・バフェット唯一の公式伝記と銘打った本書。
現役の人物の伝記に対して上下巻計1300p以上という分量はちょっと冗長すぎる気もするが、
なかなか示唆に富む本に仕上がっている。
バフェットというのは“オマハの賢人”として知られる著名な投資家で、オバマ政権の閣僚
入りするのでは、という噂もあったくらいの大物だ。
投資家と聞くとこのご時世、金融資本主義の負の面を連想する人もいるかもしれないが、
バフェットは“そちら側”の人間ではない。金融工学で派手な勝負を繰り広げるウォール街
に常に批判的で、「自分の理解できないものは買わない」というルールからIT銘柄にも
手を出さない。もちろん、仕組みの複雑すぎる金融商品にもだ。
「バフェットも衰えたな」と笑うものは多かったが、今も変わらずマーケットに立ち続けて
いるのは彼のほうだ。
本書は、投資に関する指南書ではなく、あくまでも彼の伝記にあたる。ノウハウが知りたい
人には物足りないかもしれないが、その分、彼の人間性が垣間見られて面白い。
この人はかなりの変人で有名で、大金持ちなのに酒は飲まず、ハンバーガーやポテトといった
アメリカンなフードが好物で、というか基本それ以外は食べない。
ソニーの盛田昭夫氏に招かれたディナーでは、選り抜きの板前が作った日本料理に最後まで
箸をつけなかったが、もちろん悪気があってのことではない。ビル・ゲイツに
「当社で一番美人なスタッフを(PCのセッティングに)派遣しましょう」と言われて断った
時と同じく、好きじゃないからいらないというだけの話だ。
(結局、オンラインでブリッジがやりたくて使うようになったが)
そんな彼の行動原理は、いたってシンプルなものだ。
「人がどうふるまうかを大きく左右するのは、内なるスコアカードがあるか、それとも
外のスコアカードがあるかということなんだ。内なるスコアカードで納得がいけば、
それが拠り所になる」
これは僕自身もつとに感じていることで、「あーこの人は充実してるな」と感じられる人
というのは、自分の中に何らかの絶対的基準があり、諸事それに照らし合わせて生きている
ように見える。
面白いのは、アウトサイダーかどうかには関係無い点。ばりばり年俸制の企業で稼いでいても、
常に他者との相対的比較でしか自身を測れない人というのは、どこか余裕がない。
“相対的レース”に終わりはないからだ。
レールの完全に崩壊した社会で幸せな人生を送るカギというのは、資格や学歴ではなく、
自分だけの絶対的な基準を見つけることではないか。
「お金をいっぱい稼ぐ方法」的な啓発本なら他に手頃なのがたくさんあるわけで、この分厚い
伝記がベストセラーになっている現実をみると、意外にアメリカ人も自分の立ち位置に
悩んでいるのかもしれない。