Joe's Labo

城繁幸公式。
というか避難所。移行か?
なんか使いづらいな・・・

トヨタ型雇用モデルの崩壊

2009-06-22 10:56:35 | 経済一般
「雇用を守れない経営者は、腹を切れ」

なんというかすごく昭和的で、共産党から国民新党まで泣いて喜びそうな発言である。
ちなみに発言者はトヨタの奥田会長(文藝春秋99年10月号)。
と聞くと、ちょっと意外に思う人も多いかもしれない。

トヨタといえば下請けへの苛烈さに加え、期間工・派遣などの非正規雇用を使って
減産時に雇用調整するスタイルを確立した企業で、保守・左翼問わず、
構造改革否定論者からは“新自由主義”の代表みたいに言われている企業だ。
(この新自由主義という言葉が何を指しているのか全然わからないのだが、
 どうも派遣切りのように「人を大事にしないこと」を指しているらしい)

その家元がこういう日本型雇用バンザイという発言をしているわけだ。
少なくとも雇用に関する限り、悪いのは日本型雇用そのものだろう。
「新自由主義のせいでいっぱいクビになったのよ!」ではなくて
「日本型雇用のせいでクビになったのね!」である。


「全員終身雇用なのが本来の日本型雇用だ!」なんて無茶苦茶なことを言う連中も
いるが、
雇用調整せずに組織が存続可能かどうかは、余剰人員を
指名解雇して不当解雇だと訴えられている社民党に聞いてみるといい。

弁護士でもある代表が懇切丁寧に答えてくれるはずだ。

現在の正社員と非正規の二本立て(および後者による雇用調整)は、よく言われるように
95年経団連(当時日経連)の「新時代の日本的経営」がベースとなっている。
前回述べたように、トヨタという会社は、このスタイルの典型企業であり、言い換える
なら新時代的経営の壮大な実験モデルと言ってもいい。
なにせ、現役の人事部長が
「トヨタ社員と期間工は身分が違うのである」と言っているような会社なので、
間違いない。

このモデルの概要は以下だ。
・コア業務を正社員に、単純作業を非正規に切り分け、不況時は後者で雇用調整
・労使は従来どおりの年功序列・終身雇用を維持(要するに労使の一体化)

上の奥田発言は、まさに労使の一体化を象徴するものだ。
トヨタにとっては人材流動化なんぞもってのほか、終身雇用こそ日本型経営の真髄であり
従業員は守るべき家族なのだ。
下請けや非正規雇用という存在は、そのための人柱という位置づけになる。

ところが、トヨタ型雇用モデルには死角があった。
切られた非正規雇用が「ああそうですか」とすんなり引き下がらなかったことだ。
トヨタにしてみれば不況になったので想定どおりに解雇し、組合にしてみれば下界の事は
露知らずとばかりにベア要求しただけなのに、全国からバッシングされてびっくりした
はずだ。

だが最大の誤算は、想定をはるかに上回る大波が来たことだろう。
期間工を少々減らした程度では収まりきらない。
こうなると、強固な年功序列組織を維持してきた企業ほど、かえってそれがアダとなる。
組織拡張のDNAが強いから、組織が肥大しきっているのだ。
他社に比べてトヨタだけぶざまな醜態を晒す理由はここにある。
80年代、関連する事業に手を広げ続けた電機と同じ轍を、今頃になって踏んだわけだ。

正社員にメスを入れるかどうかはギリギリのところだろう。
ただし、比較的機能していた報酬システムとしての年功序列制度は
これで完全に破綻するはずだ。

そうなると、他の大手で起きているのと同様、社内では過半数の30代飼い殺し状態が
出現し、それを見た若手の流動化が進むことになる。
(従来も3年で辞める人間はいるにはいたが、極めて少数だった)

そうなれば、正規と非正規をわけて、前者を過保護に包み込む必要性などなくなるわけだ。
壮大な実験モデルは破綻したといっていいだろう。
総括するなら、確かに長期雇用自体に「高い忠誠心」「ノウハウの蓄積」といった
メリットはあるのだが、それを引き出すためには組織の成長が不可欠だということだ。

従来、労働市場の流動化論者に対し、日本型雇用論者が決まって持ち出す成功例が
トヨタだった。
そういう人々はとても不思議な思考回路を持っていて、
「トヨタはこんなにひどいんです!下請けや非正規を搾取してるんです!」
と、普段はけちょんけちょんにトヨタの悪口を言うのだが(これ自体は間違いではない)
「そうですね、ダブルスタンダードは良くないですね、では格差の元凶である終身雇用を
廃止して、労働市場を流動化しましょうね」と言ってやると
「日本型雇用は素晴らしいんですよ!トヨタを見てください!」
と調子の良いことをぬかすのだ。
ついでに、こういうバカたちもしおらしくなってくれることを期待したい。

最新の画像もっと見る

22 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私は逆に考えています。 (松本孝行)
2009-06-22 11:51:44
私は逆に、今回の非正規雇用者の首切りによるバッファで正社員の既得権が逆に強くなるんじゃないかな?と天邪鬼に思っております(笑)

今回の経済不安によって、非正規の方々がかなり職を失いました。それに比べて正社員は相対的に失職していません。これ以上経済が悪くならないという前提においては「非正規をバッファにして正社員雇用を守ることに成功した」とも言えるんじゃないでしょうか?

今のところ整理解雇もほとんど聞きません。ほぼ早期退職募集だけしか聞いていませんし、補正予算も組まれて一段落しています。これから整理解雇に突入するかと言われると、ちょっと疑問です。

ですので、逆に正社員既得権を守るためには非正規を増やせばいいんだ!(少なくとも今の割合を維持する)そうすることでみんなハッピーだと、経団連も連合もみんな思ってそうな予感がしています…
Unknown (Unknown)
2009-06-22 12:54:19
最初からできないならできるとか言うんじゃ!と言ってやりたい!
雇用 (kenji)
2009-06-22 13:27:06
豊田はこれから、正社員の首切りをしないと、たぶん生き残れない。遅ければ遅いほど傷が深くなる。するとどうなるか。正社員の世界が「壊れる。其れは多分半端ではなく、まるで別世界が来るだろう。
 豊田の子供を使った宣伝で俺はもう終わりだと判断した。
もともと正社員、非正規社員の区別は景気がしていただけで、経営がしていたのではない。生地が出てくるだけである。
 小企業においても経営者は従業員に順序を付けている。其れが露骨で良く分かるが、大企業は其れが複雑だと言うことである。
 しかし面白い実験が見られるとは不謹慎な意見だろうか。今年はGDPが15パーセントくらい減る感じだが、皆はどのようにおもっているだろうか。政府も資金繰りに困るのでは私はおもっている。
 正社員、非正社員と言う区別とは別の区別がわが国にはある。其れが肝心である。

 年功序列はこれで壊れる。その次は公務員である。今年から始まる。

 この経済変革で年金はどのようになうだろうか。何しろ大恐慌は初めてのはずである。基本はなくなると私は見ている。大体年金のもらえるだろう額が行くたびに計算してもらうと異なるようでは、おかしい。大体積んだ金は確定しているから、難しくはないはずだが、仕組みはそのようになっていない。つまり流布している正社員的年金は何処にも無いと言うことである。これは多くもらう人を少なくする方向でしか調整はできないから、いろいろ考えると、面白いものがある。
 いずれにしても経済は拡大しないから、金は稼げない。これは何を意味するか速く考えを変えないと、若い人は困るぜ。これから20年はこの調子ではないだろうか。
Unknown (Unknown)
2009-06-22 13:49:02
>そうなると、他の大手で起きているのと同様、社内では過半数の30代飼い殺し状態が
出現し、それを見た若手の流動化が進むことになる。

トヨタのある愛知の妙な外れの方はとんでもないド田舎です。地元民ですらどうやって行けばよいのかよく分からないような所で、彼らは得意げにやっています。彼らに思う所があっても、殺伐とした閉鎖的・排他的地域であれ程散り散りにさせられている彼らには、何もやりようが無く思われます。炭鉱のようなものです。ただ無残にもひしゃげ潰れていくだけなのでしょう。
雇用の流動化に向けて (DAI)
2009-06-22 16:21:49
日本型雇用論者は、次には
「過度の流動化や行き過ぎた成果主義は知的財産の流出を招き、企業にとってもマイナスになりかねない」
「人件費を余りにもコストと考え過ぎたら、日本の製造業を根っこから支えてきた職人が『高コスト体質の象徴』と言われるようになり、技術的付加価値が日本から消えてしまう」
と、鉄鋼や食品、スポーツ用品などの職人を持ち出して反論してきそうですね。

常識的に考えれば、この種の知的財産を生む人や職人はそれ自体が付加価値だからそうそう簡単に消されることはないのですが、行く手に詰まればこれくらいのことは言いかねません。

雇用の流動化を加速させつつスキルアップを図り格差を縮小するには、雇用保険受給資格の緩和などとともに、公共職業訓練校の講座と講師陣を充実する必要もあるかと思います。
公共職業訓練校の講座って旋盤とかSEの基礎とかありますが、町工場の人曰く、「現場で使えるスキルじゃないから採用してない」らしいです。
講師陣も、職業訓練大学校で4年間机の上で勉強した方々なんだそうです。
これじゃ「現場で使えるスキルが身につかない」のは当然ですよね。
そこで、食品(酒・漬物など)や製鉄、部品加工などの世界で腕を極め定年退職した職人を講師に招いて教えるだけでも全然違うだろうし、
文系人にはFPやMBAなどのスキルを持ちたい人のための講座を設ければ良いでしょう(民業とかぶる部分があるので難しいのかも・・・)。
全然関係なんですけどvoice-waveの対談の (あ)
2009-06-22 20:35:54
season1ってもう渡辺さんの回しかサイトでは聞けないんですか?
Unknown (yasu)
2009-06-22 21:29:38
幕末、攘夷の最右翼だった長州藩が馬関戦争(下関戦争)で外国艦隊にボコボコにされて、攘夷から開国へと180度方針転換。
ここから明治維新が始まる。

現代、年功序列・終身雇用の昭和的価値観の権化であるトヨタがリーマンショックから始まる大不況でボコボコにされて雇用流動化へと180度方針転換。
ここから平成維新が始まる。

てなことにならないかねえ~。

墜ちよトヨタ!
公務員 (まさき)
2009-06-22 23:12:46
保守本流、神聖にして犯すべからずの地方公務員様から、夕張から、雇用流動化が始まっております。
橋本さんの地方の乱も、見方を変えれば雇用流動化の単なるステップの一つです(幸福な自治体はそれぞれにその幸福の様を異にしているものだ、貧乏な自治体は皆同じように似ているが、)。
たぶん因果関係が逆 (X)
2009-06-22 23:52:52
終身雇用・年功序列だから、「高い忠誠心」「ノウハウの蓄積」が発揮できて企業が成長できたわけではないんですよね。企業が成功して成長できたから、終身雇用・年功序列が維持できた。
だって、ほとんどの企業は初期の成長期は終身雇用でも年功序列でもなかったが、急成長している。パナソニックだって、中小企業だった頃にリストラしても急成長していた。
その成長を上手く続けることができたから、終身雇用・年功序列を受け入れる余力があって、定着したのであって、その逆ではない。そこを履き違えて、どっかで因果関係を逆転させちゃったんですなあ。
「終身雇用・年功序列が日本企業の特徴」と言うこと自体は昭和後期限定の現象として正しかったが、本来は「恵まれた企業環境や優れた技術や経営戦略→成長→終身雇用・年功序列の維持」だったのを、「終身雇用・年功序列の維持→優れた技術や経営戦略→成長」と言う風に誤って転置させてしまった。この事実誤認が日本全体を誤らせる、大きな災いの元になった。返す返すも残念。
Unknown (Unknown)
2009-06-23 01:29:06
トヨタの人は凄く思い込みが激しく、圧倒的なパワーでプレッシャーを掛けて来そうです。
城さん、こんな事を云ってて全然平気なんですか?