ルポ貧困大国アメリカ(堤 未果 岩波新書 2008年)を読む①はじめに
私の買ったのは第12刷りでこの本は実によく読まれたことがわかる。しかし私は岩波が苦手でこの本も今頃になってやっと読む気になった。それというのは、昔使った岩波の教科書(翻訳書)は実に難解でまず最初の2ページくらいで投げ出してしまうものだった。噂によると岩波は大変な殿様商法で一流の学者に、厳密な翻訳を要求したらしい。ために生乾きの逐語訳の教科書であった。(日本人の学者が日本語で書くとそうでもない。ただしそういう人でも文の下手くそな人はいくらもいる。今はどうか知らないが、岩波は学者として一流であれば文の下手くそには目をつぶるという文化があるように思う。)
文は中身も大事とは思うがリズムも大事で、読み下し漢文の値打ちはそのリズムにあるだろうし、紫式部も清少納言も半分は中身ではなく文章のリズムで勝負していたような気がする。芭蕉蕪村はもちろん太宰治も泉鏡花もリズムで売ったと言えないか?私は逐語訳のリズムのない文章の教科書で勉強嫌いになったので、ついでに岩波も嫌いになった。さらに岩波新書までも嫌いになって手に取らなくなった。しかし、ここまで有名な本になると読まないわけにはいかない。読んで面白いだけではない、考えが変わり生き方が変わるというのがよい本であろうからこれはよい本である。
9.11以降のアメリカがずいぶん住みにくくなっているというのはヒト伝手に聞くことがあるが、わが国も負けずに住みにくくなってるのだから人のことなんかカマッテいられないと聞き流していた。しかしこれを読むと、ひょっとしてわが国もここまで来ることがあるかもと思うから他山の石にすべきかもしれない。
まず第一は学費ローンであろう。中間層の所得が少なくなってくると子供の学費にローンが使えるようになるのはアメリカが先陣を切り同じころだと思うが日本でも始まった。ただアメリカでは高校の学費にまで使えそうなのは驚きである。これは何も親切でやってるのではなく、貸出先に困った金融機関がこういうことをはじめたというだけであろう。その際何らかの保証を政府機関がやっているものと考えられる。親切に見せかけておいて実は金融機関に仕事を作ってあげるということではないか。凡そ金貸しがモミ手で近づいてきたときは身構えねばならない。
アメリカでは学費ローンの返還に困って軍に入隊する人が多いという。ただし入隊しても返還が必ずしもスムースに行くわけでもないとこの本では例を挙げていた。わが国にも返還に困ってる人は多いのではないかと想像されるが果たしてどうなっているのか。また、かつてわが国では学費ローンを良いことのようにして盛んに勧める論調があったがそろそろ結果をよく調べてその論調が良かったのかどうか調べるべきだろう。
ついでにアメリカは知らずわが国でも果たして大学に行くことがその人のあとの人生を開くかどうかはよくよく観察しないといけない気がする。なるほど大学では忙しく勉強しているが、勉強したことが本当に役立ってるのかと思うことが一杯ある。例えるに毎日出勤するときに何億円の札束を腹巻にいれて出ているようなものである。仕事中はさっぱりそれを忘れて昼ご飯は手持ちの薄い財布から支払い、帰宅してからは腹巻を枕元に置きまた同じことを繰り返す。知識はうんと持ってるけど役に立てようとしない、または立たない仕事になっている、そんなことになってないかと疑うのである。
そうなら大変な時間と資源の無駄である。社会全体でもまた個人の立場としてもよく考えねばならない。高校全入は昭和の中期ごろに唱えられたが、その真意は失業者が増えることを恐れたためである。むかし良かったことがそのあともずーと良いこととして通用するとは限らないことに注意すべきだと思うがどうか。