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もう東大話法にはだまされない(安富歩著 講談社+α新書2012年)を読む ②

2023-04-06 15:04:43 | 日記

もう東大話法にはだまされない(安富歩著 講談社+α新書2012年)を読む ②

 私ははじめ、立場主義で仕事をして何が悪いんだと思いながら読んでいた。立場に立てる人であるから実入りはいいはずだ。(立場のないヒトとは、非正規や長く無職であった人のことらしい)仕事がスムースに行ってるときは楽だろう。いい立場さえ手に入ればそれにしがみついて生きて何が悪いもんか。たまには縄のれんの向こう側で本音を喋っても許されると想像されるからそれで本人の精神衛生も守られるはずだ、と考えながらここまで読んだ。

 しかし、著者は最近の若い人が折角の大企業や役所への就職をやめてしまう例が極めて多いこと、続ける人の中にもうつ病にかかって休職する人が多いことをあげて立場主義になる(社畜になる)ことが精神衛生上きわめて悪いことであると力説する。立場主義者というのはえ付けされてやりたくないことをやらされている猿回しの猿のことだろう。この場合の猿は自然の猿より元気がないことは観察できるが、根拠はないけど猿回しの猿の方が長生きできそうな気もする。どちらがいいとはにわかに判定できないとわたしは思う。

ここでさらに著者は、立場主義者をこう表現している。「奥さんも立場主義者であることから、奥さんに搾取され立場主義者は収入が多いにも関わらず小遣いが異様に少なく何でもかでも割り勘にする。」これはわたくしが観察する事例と一致する。立場でモノを言うような人は出世もするし収入にも恵まれているが、どこか影の薄いところのある人が多いしあまり強引でもない。しっかり者の奥さんがいて、奥さんは旦那の立場と結婚したと考えられる。しかしこれもそんなに悪いことでもなさそうな気がする。

しかし、次の考察は本当かと耳を疑うような話である。立場主義社会では、立場を失った旦那は奥さんには無用の長物だから熟年離婚が頻繁に起こると主張されている。この実例らしきものも実際ちらほら耳にするようになった。

昔は、出世した人は天下りとか子会社社長にするとかいろいろな激変緩和処置があった。私の知る人は天下りして毎朝新聞を5つくらい買ってそれを携えて出勤して夕方よれよれになった新聞を持って帰って月に15万円くらい貰えたらしい。ありがたいのだかどうだかわかりにくいが、それでもおかげさまで当時熟年離婚という言葉もなかった。最近立派な風采の紳士が長い間商業施設の椅子に座っているのを見ることがある。

この社会が壊れかけているのは、なにも登校拒否が増えているとか会社の中でパワハラがあるとか格差が大きくなったとかだけではない。行くところのない立派な風采の紳士というのもなかなか大きな問題である。そういう紳士を生みだした原因が日本に長く続く立場主義であると筆者は説く。しかしこの本には解決策の記載がない。自分で考えろと言う意味か、筆者にも思いつかないのか?

 立場を守るためにグズグズした話をしてその挙句が商業施設での長いお座りでは気の毒としか言いようがない。私のごくごく小さいころの老人は、何かというとうまいものを食べに連れて行ってくれてその代わり面白い(と本人が思っている)話を大声で語るのを周囲に聞かせる元気なひとが多かった気がする。