一世を風靡した「トースト娘ができあがる」「でっかいどお。北海道」「あんたも発展途上人」「幸服を買う」、「恋を何年、休んでますか。」そして、「AERA]のネーミングなどで知られるコピーライター・真木準が亡くなった。享年60歳。どちらかというと駄洒落っぽい、言葉遊びが好きなコピーライターだった。まさに同じ時代を生き、同じ、といってもかなり違う広告の仕事に携わっていたが、こちらはお構い無しにデザイナーのOさんなどと、いつも友人の1人のように「真木のコピー、いいよなあ」なんて悔しがったり、感心してみたり、いつも僕らの広告創りの目標でした。そんなコピーライターやデザイナーを互いに持っていたから、打合せしている時でも、飲んでいる時でも挨拶はいつも「最近、○○の広告は…」が挨拶代わりでした。60歳の早すぎる死にはビックリした。しかし、しかしそれ以上にビックリしたのは、最近の若い人がコピーライターの真木準を知らない、ということ。そうか、すでにコピーライターという職業や広告が、若者の注目を集めないのかもしれないが、広告の端くれに携わっているんだから、知ってて欲しい。広告にもっと関心を持って欲しい。頼むよ!
今朝の朝刊に全七段でサントリーの「新社会人おめでとう」の広告が掲載されていた。成人式の「新成人おめでとう」と並ぶ名物広告で、最初の広告は昭和53年「人生仮免許」というタイトルで全5段の広告スペースにゆったりと、作家の山口瞳のエッセイが明朝体の活字で20行ほどの文字が置かれていた。思わず魅き込まれ、「いつかこんな広告作りたいな」と読み込んだ記憶があります。後で聞いたら、この20行の原稿を書くために山口瞳は考えられないような時間をかけ、命を削るようにして書いたのだと知ったが、迫力のある文章でありながら、新成人と同じ目線でしっかりと語りかける文章は、いま読んでも人生の先輩としての温かい山口の思い伝わってくる。翌年は「一人前とは何か?」、翌々年は「あわてず、恐れず」と続き、毎年楽しみにしていた広告ですが、1995年に山口瞳が亡くなり、このシリーズどうなるんだろうかと他人事ながら心配していたら、伊集院静で新シリーズが始まった。そして今朝の広告、「その仕事はともに生きるためにあるか」は、新社会人ばかりでなく、むしろ大人の胸にもグサッとくる、いい文章でした。
その仕事はともに 生きるためにあるのか。
新社会人おめでとう。君は今春、どんな仕事に就いただろうか。どんな仕事、職場であれ、そこが君の出発点だ。今、世界は経験のしたことのない不況にある。金を儲けるだけが、自分だけが富を得ようとする仕事が愚かなことだと知っていたはずなのに、暴走した。なぜ止められなかったのか。それは仕事の真価を見失っていたからだ。人を騙す。弱い立場の人を見捨てる。自分だけよければいい。それらは人間の生き方ではないと同時に仕事をなす上でもあってはならないことだ。仕事は人間が生きる証だ、と私は考える。働くことは生きることであり、働く中には喜び、哀しみ、生きている実感が確かにある。だから出発の今、真の仕事、生き方とは何かを問おう。その仕事は卑しくないか。その仕事は利己のみにならないか。その仕事はより多くの人をゆたかにできるか.その仕事はともにいきるためにあるか。今何より大切なのはともに生きるスピリットではないだろうか。一人でできることには限界がある。誰かとともになら困難なものに立ち向かい克服できるはずだ。会社とは、職場とはともに働き、生きる家である。仕事は長く厳しくが、いつか誇りと品格を得るときが必ずくる。笑ってうなずく時のために、新社会人の今夜はともに祝おう。その日のために、皆で、ハイボールで乾杯。
伊集院 静
代官山のおしゃれなギャラリーで、いつも美波の振袖の撮影でヘアーメイクをお願いしている資生堂の照沼美紀さんの作品写真展が開かれているので、F嬢と会場に。とっくに開場していると思ったら、12時会場で20分ほどあるので、珈琲専門店に。地下にある洒落たお店で、マスター1人で仕切っているこじんまりした落ち着いた内装にBGMのJAZZが心地よく流れている。最近は喫茶店にしても本屋さんにしても1人で経営しているお店に心惹かれてしまう。それなりの苦労はあるのでしょうが…
10坪ほどだろうか、シンプルな壁面の会場。照沼さんが今回の個展のメインとして美波を起用し、ヘアーメイクを創作した撮り下ろしの写真がとてもいい。それにしても美波 というのは、不思議な女優で、演技力もさることながら勘というか、頭がいいんだろうな、制作者が意図するところをきっちりと表現している。だからヘアーメイクの作品展ではなく、照沼さんと美波のコラボ作品展になっている。インレタを効果的に使用し、床や壁面にダイヤモンドや草花のイラスト、メッセージが配されていて、とてもおしゃれ。写真を見ていると美波をもっと上手くプロデュースできない自分、気持ちが一致しないスポンサーにすごく腹が立つやら、情けないやら。お客様もそうだし、起用する女優もそうだし、店でも何でも心を持って育てる、成長を喜ぶという気概がなけりゃ。安ければいいという考えを説得、価値観を変えられない、気付かすことを出来ない自分にムカムカしてきてしまった。
新宿
昭和31年創刊、以来52年間続いてきた着物業界唯一の月刊誌「西陣グラフ」が8月で休刊との寂しいニュースが飛び込んできた。着物業界は外に向かっての情報発信が非常に少ない珍しい業界ですが、その中で西陣織工業組合が発行する西陣グラフは、A4・20ページという小冊子ながら、その存在感は大きかった。突然の休刊は、ほんとうに残念です。
西陣グラフが休刊になったのとは理由がことなり、「本が売れなくなった」からですが、昨年は218誌が休刊となり、今年も講談社のオピニオン誌「月刊現代」や学生時代衝撃的な思いで夢中になって読んだ「日本版プレーボーイ」「広告批評」「RODSHOW」「主婦の友」など一世を風靡した雑誌が相次いで休刊。いまや雑誌広告費は、TV、新聞に次ぐ第3の地位をインターネットに奪われ、10年連続で広告費も減少。なにごとも安いに越したことがないが、情報もインターネットはタダ、TV、ラジオもタダの中、新聞、雑誌だけは有料。趣味や価値観の多様化する中、成り立つだけの部数を確保するだけの絶対読者数を確保できなくなった結果とはいえ、時代の移り変わりを痛感し、一抹の寂しさを感じます。