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山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

審判とルール(世界選手権をみて)

2010-09-17 16:11:45 | Weblog
統計的な数字は見ていないが、今大会はゴールデンスコアになった試合が多かったように思われる。また、ゴールデンスコアから判定になるケースも多く、判定に関して物議をかもした試合もあった。

 52kg級の決勝の中村選手対西田選手、無差別級決勝のリネール選手(フランス)対上川選手の試合は、日本人でも意見の分かれる微妙な判定であった。審判が技のかけ数を見るのか、技の効果を見るのか、全体的な流れを見るのかによって判定は変わってくる。おそらく日本人の場合には、試合をコントロールしていること、技の効果という部分を判定の基準としてみていることが多いのではないだろうか。実際には判定の基準に明確なものはないために、見ている側にはわかりにくいものとなっている。また、今回はメダルのかかった試合を反則で決することに抵抗があったのか、消極的であるという「指導」が遅かったように思う。57kg級の決勝戦でも「指導」が遅いと感じた。

 確かに勝負が反則で決するのは好ましくないので、こういった傾向は良いと思うが、そのことを選手達が理解して闘っていたかということである。また、メダルのかからない予選では指導が簡単にとられていたとしたら、選手はその流れで行われると思うに違いない。リネール選手が判定に不満そうな態度を示したのも決勝戦以外は同じような試合運びで相手に「指導」が与えられていたからではないだろうか。IJFとしては、今後、判定の基準をある程度明確に示していく必要があるだろう。

 柔道はビデオによる判定が導入されているが、その運用方法に対しては疑問がある。大会をみていて何度も気がついたのが、主審が自分の出した技の判定や反則に対して副審が異議を唱えるわけでもないのに訂正をする場面だった。おそらく会場で見ていた人にも不審に映ったに違いない。自分で出した判定を自分で訂正するのである。実はここにはカラクリがある。各テーブルでジュリーといわれる人がビデオをチェックしているが、さらにメインテーブルに審判理事のバルコス氏がビデオでチェックしている。例えば会場でブーイングが起きると、すかさずバルコス氏がビデオでチェックし、訂正を審判に指示する。訂正に関して審判員3名が集まって競技することはない。訂正を要求された審判員がバルコス氏に意見を言うこともない。ある時期からコーチたちも気がついて文句があるときには審判ではなくバルコス氏に向かって抗議するようになった。

 3人の審判で見ていても角度や間の悪さで判定が難しいケースはあるのでビデオの導入は良いと思う。しかし、導入にあたっては技の判定に関してはビデオによって覆ったりすることはないという条件であった。それが今となっては審判が「有効」といったのに対し、バルコス氏が「一本」といえば、そうなる。小野選手が負けた試合の投げられたシーンでも審判はノースコアであったのにバルコス氏が有効を指示した。バルコス氏はすべての試合を判定できるほど有能なのか???というよりは、バルコス氏が「勝たせたい」「勝たせたくない」という思いがあれば簡単に試合を支配することができる。こういった状況で審判は徐々に考える力をなくしていっているように思う。「どうせ真剣にやったってバルコス氏にいわれたら変えなくちゃならないし、間違ったら彼が直してくれるはずだ。」という心理になっていく。

 試合が終わると審判が子どものようにバルコス氏のもとへ駆け寄って怒られている(指示をうける?)のを目撃した。世界選手権を捌く審判は世界で最も高いレベルのはずであるが、その人たちが大会中にあんなにも怒られるというのはどういうことか?彼らには力がないのか?そう思うと、「やっぱり決勝戦の判定も間違っていたのでは」という穿ったみかたになってしまう。そのバルコス氏でさえ、無差別級の決勝戦の後にはIJF会長のビゼール氏に判定について問いただされていた。

 双手刈や朽木倒といった、いわゆる足取りについての反則も不明瞭な場面が何度かあった。初日の3位決定戦で勝ったフランスの選手は足を取って大内刈をかけて一本勝ちとなった。私の目からは、技に入る前に足を取ったのだから「反則負け」のケースである。実際にはお咎めなしだった。技をかけた本人もかけられた相手も一本勝ちか反則負けかでは天と地ほどの差がある。前述した小野選手の試合でも同じような場面があった。「反則」が認められれば小野選手は勝っていた。選手は不用意に足に手が触れてしまうことはあるのだから、それを「反則」にしていいかどうかという議論はある。しかし、今のルールに忠実に判定を下す責任が審判にはあるし、そうでなければフェアとはいえない。

 審判が見切れないルールであるのであれば「反則負け」ではなく、「指導」のような軽い反則に変更すべきだろう。

 新ルールによって確かに以前よりも上半身が起きて見栄えが良くなったと感じるので、IJFの試みは成功したと評価できるかもしれない。しかし、そもそも誰のための柔道なのか、見ている人なのか、競技者なのか・・・。ルール、審判は、そのスポーツを支える大きな柱である。そういった意味で今のルール、審判のシステムには大きな問題がある。

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12 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (泰輔)
2010-09-17 18:04:12
人間が判断する事ですから、
間違いはあろうかと思います。
しかし、素晴らしいジャッジをする審判と疑問な
方との差額が有りすぎ

なので、統一できる様に
してあげて欲しい。
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詳細解説 (Unknown)
2010-09-17 23:03:08
今回の世界選手権、山口先生の詳細解説つきで、ほんとに楽しませていただきました。勉強になりました、ありがとうございます。1日位会場に行けばよかったと悔やまれます。

今回の大会を通して、福見選手と、中村選手を、さらに応援したくなりました。
日本選手、今後とも頑張ってください!




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Unknown (Unknown)
2010-09-18 08:31:28
試合の判定に3人の審判以外が関わるのはおかしいと思います。
ビデオを導入するのはよいことと思いますが、ビデオを見て判断するのはやはり審判であるべきです。
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審判とルール (パスカル)
2010-09-18 21:05:44
山口先生、審判とルールについての説明をありがとうございました。前よりも理解したと思います。まだまだ、問題が続くでしょう。

リネール選手はフランスに帰ってから、次のようなコメントをしました。

「私は、もう一回同じ経験しません。私はこれから、試合の結果は、二度目審判の判定に任せない。これからそうならないように良く練習していきます。できないであっても、頑張ります。今回の結果はもう一度なりません。そのために、良く働きたいと思います。来年のパリの世界選手権の時に、リターンマッチしていきたい。より強くになる!」

 ところで、準々決勝の時に相手の選手はリネール選手の手を噛んだ...その傷は、まだ完全に治していない。

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審判員に不審感 (一柔道家)
2010-09-19 10:10:11
大会が変われば、技の効果や反則の基準が変わるらしいことは、皆が気づいています。同じ大会であっても、日が進めば変わることも珍しくありません。しかし、同じ日でありながら決勝ラウンドに入ると、その前の予選ラウンドと指導を与えるタイミングが変わってしまうというのは驚きです。
川口先生の「館長のひとり言」には、バルコス氏の一言に審判員が過敏に反応したとありますが、真相はバルコス氏の指示でテレビ用に意図的にそうしたと思います。
4日目に館内(というより選手席からの)のブーイングで技の判定が「一本」から「技あり」に訂正されたのを見ました。副審が異見を示したわけでもないのに、副審を呼んで訂正したので、審判の権威をなくす行為だと思いました。
決勝ラウンドは同じ審判員が数試合置いて出てきました。優秀な審判員だからと思いたいのですが、バルコス氏の意のままに動く審判なのかもしれません。
日本では、試合後に審判に礼をする選手がよくいます。相手選手だけでなく、審判に対しても感謝を示すのです。しかし、国際大会における審判員には、それだけの権威がないというわけですね。
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独裁とスピード (彦左衛門)
2010-09-19 12:16:54
今回の大会は細かいケチをつけたらきりが無いけど全体的には久しぶりに面白かったね。回りの声も圧倒的にそうだった。大きな理由としてはやはりルール改正が挙げられるよね。
ルール改正が一部の人達によって決められているという批判もあるが、利点としては改革がスピーデイに進む。もし今までのようにみんなで話し合いなんかしてたら今大会の改正は絶対間に合わなかったと思うよ(もしかしたら実現しなかったかもしれない)。そしたらまたあのつまんない試合を見せられて柔道人気に悪い影響を与えたに違いない。
ただ心配なのは「独裁者」の判断ミス。多少の失敗は当然でてくる。しかしそれを最小限に抑えてこの調子で改革を進めて欲しいな。
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Unknown (yzy)
2010-09-19 16:01:10
確かに柔道として綺麗なものになったと思います。
しかし私は以前のほうが面白かったです。
それはいろんな格闘技が好きだからかもしれません。
私はレスリングスタイルといわれるものも、本物レスリングとは違い、
派手に担ぎ上げて落とすので私はそれはそれで好きでした。
別に足を掴んで倒すのが汚い柔道とも思いませんでしたし。
レスリングだって相手を倒すという柔道と目的を同じとする、
立派な人気スポーツであり格闘技の正々堂々とした技術ですから。
しかし柔道というか"柔道的なるもの”を崩しかねないというのも事実ではあるでしょう。

私は以前のルールは選手同士が比較的によく動きまわるので、
技の連携やタイミングで投げる、テクニカルな一本が多かったように思います。
一方、今回はお互いよく組み合うようになった反面、
今までとくらべてスピード感が減ったような気がします。
特に決勝あたりになると、多くの試合が押し合いの相撲のような試合になるか、
一方が組み手で有利に立つとすぐに技はかけず、
やはり押して場外際の攻防になり、技が一つ出るたびに場外になるを繰り返す。
結局指導が決まり手になるという試合が多く、私は少し不満でした。
場外際の攻防で一々試合の流れが止まってしまい、
その原因は選手たちが投げを掛けた後の返しを警戒してか、
真ん中ではあまり技をかけていなかったからのように思いますがどうでしょう。
比較的実力差があり一本の多い序盤の試合が、
ダイジェストでカットされているので印象に残ってる度合いが違うだけかもしれませんが。


判定もわかりにくいです。ルール改正が早急すぎて審判たちも基準を共有できず、
その結果、結局頭の中に完璧な判定基準のある、
バルコス理事が一々口を出す余地ができているんじゃないでしょうか。
上川VSリネールだって立場が逆で、
さらにオリンピックだったとすると日本国民は納得できないと思います。
今のルールは改善の余地があると思います。

もう少し前ルールと折衷してもいいのでは。
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Unknown (Unknown)
2010-09-19 19:17:24
 ルール改正に際しては、必ず実施上において問題点が噴出します。それは審判部において不断に整理すべき事柄でありますが、いかなる大会においてもグレーゾーンか存在し、そのことに対する議論を通じて新しい基準が作られて行きます。

以上のことを踏まえた上で、
現行の方針ー指導ポイントを廃止、
レスリングのようなポイント絶対主義ではなく
一本による決着を優先した、観客を魅了する
スペクタクルな柔道をめざすという基本的な方向性には全面的に賛成します。
 決勝において指導による決着を回避する審判団の態度も支持します。

 問題なのは、その方針が審判団の中で徹底されていたのかということです。指導の基準が各決勝において違いすぎたと思います。それは「指導を出さなかった」ことではなく、「従来と同じように指導を出してしまった」例えば、女子48Kgについて一考すべきことだと思いす。
 次なる問題は延長GSでも同ポイントの旗判定の基準です。改正以前の「効果」ポイントに相当するもの(もちろんそれは示されませんが)を優先するのか、試合をリードしたものを選ぶのか、はっきりと基準を示して欲しいと思います。
 改めて繰り返しますと、一本の柔道を追い求めると、どうしても間の空いたように見える試合運びは避けられないと思います。きびきびした試合運びを優先すれば、ポイントを重視せざるを得ません。
 その辺りをあいまいにした「本家たる日本柔道」の「上から目線」の書き込みが多いように思われます。
 しかし、日本選手の勝利に対する判定の不満が多いことを忘れてはなりません。フランス選手ののみならず会場のプーイングを思い起こしてください。プーイングの出ない判定を開催国は心がけるべきであり、結果第一主義ではく、内容を重視したTV放送を「本家日本」なら目指すべきだと思いますが、どうでしょうか。
 たとえば、サッカー放送が世界基準の中で、
日本の現状を冷静に把握することを心かげていることを考えますと、柔道の放送は、余りに情緒的であり、ナショナリスティックにすぎ、真摯に努力をづけている他国の柔道家に失礼な気がいたします。
 柔道の本家であればあるほど、より広い視野と寛容な態度が必要に思われますが、どうでしょうか。




返信する
Unknown (Unknown)
2010-09-19 19:17:45
 ルール改正に際しては、必ず実施上において問題点が噴出します。それは審判部において不断に整理すべき事柄でありますが、いかなる大会においてもグレーゾーンか存在し、そのことに対する議論を通じて新しい基準が作られて行きます。

以上のことを踏まえた上で、
現行の方針ー指導ポイントを廃止、
レスリングのようなポイント絶対主義ではなく
一本による決着を優先した、観客を魅了する
スペクタクルな柔道をめざすという基本的な方向性には全面的に賛成します。
 決勝において指導による決着を回避する審判団の態度も支持します。

 問題なのは、その方針が審判団の中で徹底されていたのかということです。指導の基準が各決勝において違いすぎたと思います。それは「指導を出さなかった」ことではなく、「従来と同じように指導を出してしまった」例えば、女子48Kgについて一考すべきことだと思いす。
 次なる問題は延長GSでも同ポイントの旗判定の基準です。改正以前の「効果」ポイントに相当するもの(もちろんそれは示されませんが)を優先するのか、試合をリードしたものを選ぶのか、はっきりと基準を示して欲しいと思います。
 改めて繰り返しますと、一本の柔道を追い求めると、どうしても間の空いたように見える試合運びは避けられないと思います。きびきびした試合運びを優先すれば、ポイントを重視せざるを得ません。
 その辺りをあいまいにした「本家たる日本柔道」の「上から目線」の書き込みが多いように思われます。
 しかし、日本選手の勝利に対する判定の不満が多いことを忘れてはなりません。フランス選手ののみならず会場のプーイングを思い起こしてください。プーイングの出ない判定を開催国は心がけるべきであり、結果第一主義ではく、内容を重視したTV放送を「本家日本」なら目指すべきだと思いますが、どうでしょうか。
 たとえば、サッカー放送が世界基準の中で、
日本の現状を冷静に把握することを心かげていることを考えますと、柔道の放送は、余りに情緒的であり、ナショナリスティックにすぎ、真摯に努力をづけている他国の柔道家に失礼な気がいたします。
 柔道の本家であればあるほど、より広い視野と寛容な態度が必要に思われますが、どうでしょうか。




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Unknown (たにがわR)
2010-09-20 07:29:37
三位決定戦のフランスの選手は、相手が片襟だったので、反側ではないです。
正しい組み方をしている場合のみ、足とりの反側が適用されます。

今回は、ジュリーの適用もわりとスムーズで、なお前述のような展開でも合議することなく審判団の意思疎通がしっかりしている印象でした。

ということは、テレビでみただけの印象です。年々審判団のレベルは上がっている気がします。その裏側にある努力などは知りたいです。

山口先生のお話は、至極もっともと考えさせられることもあるのですが、なんとなく外から(遠い距離から)みた話で、的外れではないかと感じる時もあります。

もっと内側に入っていただいて、より真実に近い話を外に出してほしいと思ったりもします。今の柔道界の内側などにはいる気はないのかもしれませんが。
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