山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

視覚障害者の柔道

2009-08-10 13:25:15 | Weblog
 8月8日第2回全国視覚障害者学生柔道大会が浜松市にて開催されました。参加者は男子24名、女子3名で、まだまだ多い人数とは言えないものの、こういった大会が開催され視覚障害者の柔道家にチャンスが一つでも増えることは素晴らしいことです

 大会に引き続き強化合宿が開かれ、私も講師として参加しました。視覚障害者の柔道は何度も見ていましたが、指導するというのは全く初めての経験でした。自分の伝えたいことを言葉だけで伝えることの難しさ、そして自分がいかに視覚に頼っていたのかを改めて感じました。言葉で足りない部分はボディコンタクトも必要になります。女子の選手が少ない原因の一つがここにあるのかもしれません。やはり現状では男性の指導者が多いために、女子選手に指導する際にお互いに躊躇する部分があるのかもしれません。そういった意味では健常者の指導者以上に女性の指導者が必要とされているのだとも気がつきました

 選手達は、日頃の練習環境が整っているとは言えないので、技術・体力においては健常者の選手とは大きな差があります。しかしながら、柔道への情熱や強くなりたいという気持ちにおいては決して引けを取るものではありません。ましてや、パラリンピックでメダルを獲得したからといっても世間一般の評価や関心はオリンピックとは比較になりません。彼らは何かに見返りを求めて柔道をやっているわけではなく、純粋に何かに挑戦するという部分を強く感じます彼らの頑張りに接すると理屈抜きに応援したい気持ちに駆られます。そして、励ましているつもりが、実は反対に励まされている自分にも気がつきます

 視覚障害者と健常者との柔道の大きな違いは「組み合った所から始まる」という点だけです。乱取稽古はとても激しいものです。指導をして気がついた点は、「力を抜く」という動作が難しいこと、組み合った状態から始まるので5分の時間であればフルに5分行うので運動量は相当なもの、といった点です。見えない分、つながっている部分、組んでいる手に必要以上に力が入ってしまうようです。スキー初心者が上半身に力が入ってストックに頼ってしまうのに似ているかもしれません

 力勝負になるとフィジカルで勝る外国人にはなかなか敵いません。この辺りの恐怖感をどう克服していくかが課題のようです。一方、健常者のような組み手争いがないので見ている方は一昔前のクラシックな柔道をみているような感覚になります。私も乱取をしてみましたが、組み合っての5分間は想像以上にきつく、これまでいかに組まないで休んでいた時間が長かったのかを痛感しました。力をうまく抜いた稽古も柔道には必要だと思いますが、組み合う時間が長い稽古も重要です。いっそ、健常者であっても、とくに子供達などには、組み合ったところからスタートするというルールで試験的に行ってみるのもいいのではないでしょうか

 今回、縁があって新しく立ち上がった障害者武道協会の活動に協力させていただくことになりました健常者と視覚障害者の柔道が、オリンピックとパラリンピックの選手達が同じ環境を得られないのは、管轄省庁が文部科学省と厚生労働省であるというところです。お金の出所が違うと難しい面が多々出てきます。しかし、数年前からは、連盟同士の交流が以前にも増して行われるようになってきました。フランスを始めとするヨーロッパのいくつかの国では、パラリンピック代表も相当な援助を受けて強化をしている国があります。そういった部分では日本は遅れています

 国のシステムを変えることは容易なことではありませんが、柔道家の意識を変えることはできるような気がします。そのためには、まずは知ってもらうこと、触れてもらうこと、理解してもらうことが重要です。そのために何ができるのか、できることからお手伝いができればと考えています。皆さんも応援をお願いいたします

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8 コメント

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Unknown (Unknown)
2009-08-10 21:17:27
視覚障害者の大会があると言うことは聞いたことがありましたし、組み合った状態から始めるというのもその時聞いていました。障害者の柔道と言うことで、ただでさえ危険なスポーツなのに大丈夫なのかなって気にする程度で深い話は、あえて聞きませんでした…
見たこともないので全くイメージも沸きませんが、大丈夫なんですか??
それと障害者の方たちはどこでどのように練習をしているんですか??
連盟と言うのは県連の下部組織になるんですか??
自分でも調べますが、もう少し情報がないと理解するのも難しいと思います。
もし障害者の方が柔道をやりたいと思ってて、受け入れてもらえるところがないなどの問題があるなら柔道人として考えなければならないと思いますがいかがでしょうか。
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視覚障害者の柔道環境 (山口 香)
2009-08-10 22:55:48
 先天的な障害であるか、後天的な障害であるかによっても差があります。柔道の経験があって後天的に障害がおきた場合には柔道の経験があるので比較的取り組みやすいようです。先天的な障害の場合には、見えない状態で一からの指導になりますので指導する側もされる側も大変な努力が必要なようです。
 多くの方が一般の人と混じって稽古をされていますが、受け入れてくれないケースもあるようです。稽古をする場合、①相手を自分では見つけられないので手を挙げていて相手に選んでもらうのを待つ②健常者と乱取をする場合でもお互いが組み合った状態から行う③道場が狭い場合など壁などの距離がわからないので相手もしくは周りのものが注意してあげる
などといった注意する点はあるものの、おそらく言われなければ視覚障害者だとわからないほど練習風景は変わりません。
 主となる連盟は日本視覚障害者柔道連盟であり全日本柔道連盟にあたる組織です。日本では障害者柔道というと視覚障害者を対象にしていますが(パラリンピックも同様)、海外においては知的障害や他の障害者にも柔道を積極的に推奨しています。もちろん、これをするにいたっては医師や専門家のアドバイスも行われます。私が関わっている障害者武道協会は、柔道のみならず武道全般、視覚障害だけではなく様々な障害にも対応するといったもので、研究部門、事業部門、広報活動、国際交流などの活動を考えています。
 私もまだ勉強している最中ですが、障害者の方々が柔道を行える環境が十分整っていない、援助も少ない現状は事実です。これは柔道に限ったことではありません。そういった状況を多くの方が関心を持ち、理解していただきたいと思っています。
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自他共栄 (柔心)
2009-08-11 09:01:52
障害者に柔道を推奨してる海外と日本の違いは何なんでしょう?
ボランティアで成り立っている日本とクラブチーム経営としてやっている海外、それとも日本人が障害者に対しての意識が低いからでしょうか?

何にせよ柔道を教育として広めた本家がこれでは格好悪いですね…
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初投稿 (筑柔・後輩(軽量男子))
2009-08-11 22:41:44
山口先生初めまして。とはいっても、練習会場では何度もお会いしてはいます(笑)。今回は視覚障害者柔道がテーマですね。実は僕も高校時代、出稽古をする中でアテネ・北京の両オリンピックに出場し、アテネでは60キロ級で銀メダルを獲得した広瀬誠選手にお会いしました。大変気さくな方だったので、今でも交流があります。広瀬選手は全盲では無いらしいのですが、相手の表情などはまったくわからない程の視力でした。だから、自分も当初は「世界2位といっても…。」という印象がありました。しかし、初めて乱取りで組み合った時の衝撃は今も覚えています。視力が低いというハンデを感じさせない組み手の強さ、技のスピード、集中力は県内の上位に食い込んでくる高校生を上回るのではと感じたほどです。畳の上で戦う上で、努力次第ではハンディもなにも乗り越えられるのだと実感させられました。その広瀬選手も、「日本と海外では障害者スポーツに対する支援や配慮、環境に差がある。」と言っていたのを覚えています。世界レベルの選手であることは、オリンピックでもパラリンピックでも証明されるはずなのに…。それ以来自分は日本の柔道と海外の柔道の現状に興味を持ち、調べるようになりました。そして、大学進学後はこの方面の分野をゆくゆくの研究テーマにしてみたいとも思っています。実際に海外に研修にも行ってみたいですし、競技と同等のいい目標になっています。また、機会があれば山口先生にもご指導願いたいです。よろしくお願いします。
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クラシックな柔道 (元柔道家)
2009-08-12 06:02:09
NHK教育の番組で時々取り上げられていましたので多少は知っていましたが山口先生から具体的に専門家の観点から説明があるとより分かりやすくて良いですね。

組み合った状態からの柔道は、もしかしたら柔道の今後あるべき形になるような気がしています。つまり未来の柔道は先祖返り(=組み合った柔道)を果たすのではないかと。

しかし一般の柔道場が受け入れてくれないケースがあるとは(きっと受け入れないケースのほうが多数でしょうが)残念ですね。弱いものをいたわるのが柔道だと思うんですが。
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Unknown (Unknown)
2009-08-17 10:16:47
目の不自由な柔道家の方々は、つり手の力の抜き方・いなし方の上手い方が多いと聞きます。
少年柔道や初心者の指導に繋がらないでしょうか。
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組み合ってからの柔道 (在外柔道)
2009-08-22 19:52:30
フランスの子供の大会では、組み合ってから始めるというルールが既に試みられています。フランス柔道の将来を見込んでとのことです。同国内での賛否両論はあるようですが、連盟の方針が明らかで、それをすぐに実行に移しているのは評価できますね。
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障害者も一緒に楽しめる武道 (大橋千秋 (社)障害者武道協会)
2009-09-29 16:27:49
私は、柔道でなく打撃系の武道の拳法です。障害者の柔道が危険でないかとのコメントが記載されていましたが第2回全国視覚障害者学生柔道大会をお手伝いして、ルールに従い行えば、全く安全で楽しめると言うことがよく分りました。是非、みなさんも応援に来ていただきたいと思います。感激します。
 また、打撃系の私たち拳法でも目隠ししてやってみました。十分に楽しく稽古できました。
 武道は、十分に楽しめて自立支援に役立ちます。
  ところで山口香先生、浜松では、お疲れ様でした。
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