山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

柔道フォーラム開催

2009-03-24 09:06:25 | Weblog
 全日本柔道連盟は、昨年、柔道独自の指導者養成システムの構築を行うために指導者養成プロジェクトを立ち上げた。私も委員の一人として参加している

 プロジェクト活動の第一弾として全国から指導者約100名を招聘し、指導の現状や問題点などを明らかにし、今後の指導者養成システム構築への足掛かりを探るべく「柔道フォーラム」が開催された。(3月21日~22日、ナショナルトレーニングセンター)

 <プログラム>
 第1日目 10:30~20:00
 1 世界における柔道の現状(ビデオ):情報戦略部長 射手矢氏
 2 基調講演 「世界で戦うために必要なこと」上村春樹(全日本柔道連盟 専務理事)
 3 パネルディスカッション 第1部 「指導とは何か?新しい指導法の提言」道場指導者
 4 パネルディスカッション 第2部 「高等学校柔道強化のあり方」高校指導者
 5 グループ討議(これまでの内容を踏まえて参加者が意見交換及び発表) 
 6 情報交換会 

 第2日目 9:00~13:00
 1 問題提起 山口 香
 2 パネルディスカッション 第3部 「現状指導の問題点および打開策」総務委員会委員
 3 パネルディスカッション 第4部 「世界で戦うための方策」強化委員長、現役選手、情報戦略部、国際審判員、メンタル担当者
 4 まとめ プロジェクト委員長 小野沢弘史

 プログラムを見てわかるように、今回のフォーラムは新しいプロジェクトを立ち上げたことへを全国の指導者に周知してもらうことが一義的であったために、指導者といっても対象やレベルなどが絞られておらず、打ち上げ花火的なものとなった

 しかしながら、それぞれの場面において様々な貴重な意見が述べられ、問題点が明らかにされたことは有意義であったと思う。こういった意見を全柔連がどういった形で拾い上げ、解決策を打ち出していくかが重要だろう

 私自身が気になった点を挙げ、感想を述べたい。(~私の意見、感想)

高校指導者の意見:世界で活躍する選手は、中学校、高校、大学など現場の指導者が育てている。全日本のコーチが育てたとは思っていない。私は年間100日は外泊している。全柔連はせめて、世界チャンピオンを育てた指導者に感謝状の1枚でも出してもらいたい。そういった簡単なことが指導者の励みになる!

至極ごもっともなご意見で、是非今年の世界選手権から実行するべき!

高校指導者の意見:強豪校には選手が集まる傾向がある。私自身も選手を集めているのでこういった意見を述べるのは心苦しいが、同じ指導者に長く指導を受けることによって似通ったタイプの選手が作り上げられてしまう傾向がある。選手がもっと分散んして様々なタイプの選手が出てくること、そういった選手達が競い合うことが国内の競争力を高めると思う。

このブログで以前にも書いたが、国内競争力を高めることは世界で戦う上において非常に大切なことである。身近に強い選手がいることは、高いレベルでの稽古が可能であり、メリットもある。しかしながら、レギュラーになれない選手のモチベーションをどうやって担保していくかなど課題は多い。

高校指導者の意見:全日本のコーチと現場のコーチとの連携をもっと密にしていくことが重要。選ばれて遠征や合宿にいって怪我をして帰ってくると本当にがっかりする。大事にしていないとは言わないが、フォローも大切。選手を一番知っている人間は誰かを考えてほしい。

全日本のコーチは大事な選手を預かっているという意識が必要だろう。合宿などで厳しくするのは構わないが、その選手の特徴や性格、日頃の練習量や内容などを現場の先生から情報を得ておくこと、遠征や大会の後には報告するなどの極めの細かい配慮が大事になる。私の個人的な意見としては、近い将来、世界選手権やオリンピックにおいては選手が最も信頼を寄せている現場のコーチが帯同するという形式(マラソンや水泳などと同様)になっていくべきだろうと考えている。

総務委員の報告:柔道における重大な事故は頭、首が多い。首については日頃から鍛えておく必要性がある。

これについて会場から、「以前の稽古ではブリッジの練習が習慣的に行われていたが最近はやっていないところが多い」と報告された。確かに私も子供時代からずっとやっていた記憶がある。最近では科学的なトレーニングということで目新しさに目が向きがちだが、長い歴史に裏打ちされた練習方法は意味があるのだということを認識し、見直していくべきだろう。

参加者からの声(情報交換会):昨年の講道館杯の1週間前にルールの変更が告げられた。(効果の廃止、場内外の解釈、ズボンを持って技をしかけることは反則など)大会の1週間前に文章で伝えられるだけでは現場(選手、コーチ、審判)は戸惑う。こういったやり方はやめてほしい。

ごもっともなご意見である。基本的にルールは、それが良い変更であっても時期を決めて行うべきである。そしてルールの変更を周知する時間(HPや講習会などを活用して)を確保することが重要である。最近では、IJFが変えたいと思った時にルールが変えられるようになってしまった。昨年の世界ジュニア大会などでは、新ルールを大会にきて告げられたという国もあるぐらいだ。連盟、コーチは情報を収集する能力も重要だが、すべての選手に有利不利が出ないようにすることは大事であろう。

参加者からの声(情報交換会):柔道の専門家が教員になれる率が非常に少なくなっている。全柔連などが各県に働きかけをして柔道の専門家が教員になれるような採用方策を探っていってほしい。

少子化に伴って教員採用枠は減少傾向にある。それに伴って中学校における柔道専門の教員が減っており、柔道部のない中学校が増えている。こういった現状を踏まえて、何かしらの対策、方策を打ち出していかなければならないのは間違いない。しかしながら、同時に柔道選手の文武両道にも目を向けていきたい。低年齢からの競技化が進み、昔以上に柔道に専念し、勉強がおろそかになっている傾向がみられる。家にいれば親からもうるさく言われるので勉強もするだろうが、寮にでも入っていれば、まず勉強などはしないだろう。勉強をするという習慣がないので、採用試験となっていきなり勉強は難しいといえる。採用試験のみならず、現役後、社会に出て行くことを見据えた場合、トップの成績をとる必要はないが本を読む、勉強に取り組むという習慣を小さい頃から植え付けることは絶対に必要だろう。

 ここに挙げたのは、ほんの数例であるが、多くの貴重な意見や提言が聞かれた。そういう意味では、非常に意義のあるフォーラムであったと思われる。早速、全柔連のHPにもアップされていたが、あまり詳しく書かれていなかったのが少し残念である。参加者だけが恩恵を受けるのではなく、多くの人たちに情報が発信されることが望ましい。おそらく、今回のアップは速報で、後日詳しい内容が載るのだと思う(期待したい)

 私自身も今回のフォーラムの仕掛人の一人であり、プログラムのなかでは短い時間ではあったが、提言という形で問題提起をした。内容については次回のブログで詳しく書きたい




最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
柔道フォーラム (tottori)
2009-03-24 12:17:40
柔道フォーラム参加させていただきました。指導者育成という観点で言えば多少疑問の残る内容ではあったというのが率直な感想です。
しかし、各地区で同じような悩みがあったり、指導者としての葛藤が共有・共感できたりした点に関しては非常に有意義なフォーラムであったと思います。また、全柔連のスタッフ・選手の生の声が聞けたことは非常に貴重な経験だと感じ感謝をしております。この指導者養成のシステムが近い将来、「柔道も人間的にも強い」ことが両立するような選手を生み出すものになることを期待しております。
「精力善用」「自他共栄」の両輪の揃った選手育成に努力をしていこうと改めて実感するに足るフォーラムであったと感じ、指導者としてのモチベーションの高揚を感じました。
ただ、残念なのは、参加していない地元の指導者に具体的に指導法とが明示できるなど伝達講習が難しい内容ではあると感じましたので、その当たりも配慮していただけると地区代表として参加させてもらった立場で言うと助かります。
準備等非常に大変だったとは思いますが、2日間貴重な体験をさせていただき感謝しております。本当にありがとうございました。
返信する