大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

「苦役列車」を読んで

2011-02-19 22:27:54 | Weblog
読み始める前に題名から連想したのは内田百間の阿房列車ですがあちらは元祖乗り鉄の鉄道紀行.この作品の読後に連想したのはそれとはまったく別なおもむきの小説「蟹工船」でした.といっても内容は資本主義を糾弾するプロレタリア文学ではなく,やむない経緯により肉体労働に従事したかつての記憶を私小説という形式で著した一種の青春文学でした.
主人公の貫多が家庭環境や自身の性格から来る負のスパイラルから抜け出られず不本意な日々を悶々と過ごす様を悲しいくらいリアルに描いています.
かつて吉行淳之介の私小説的な作品を読み漁った記憶がありますが,この作品の自分のさらけ出し方はそれらとは桁違いで受賞者インタビューのサブタイトルには「自分の恥をさらけ出して書く」の言葉がみられます.ワタシ自身貫多と同じ三畳一間のアパートに住みながらパートタイム工員で日々の糧を得ていた経験があるので不如意な日々の描写には既視感があります.主人公と異なるのは学校卒業後には別の生活があるはずという希望があったことで,おかげでどうにかひねくれずに社会に出ることができたようです.先に読んだ同時受賞作品の「きことわ」と合わせて読むことで小説のあらわせる世界観の多様さを改めて感じさせてくれる作品だと思いました.

「苦役列車」西村賢太作
平成22年度下期芥川賞作品

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