大島の空の下で

伊豆大島在住の中年のおっさんのブログです.日々の出来事を綴っていきます.一部は mixiとマルチポスティングしています.

道化師の蝶 を読んで

2012-02-25 23:08:31 | Weblog
先週三宅島に出張した折に民宿で島焼酎を飲みながら読みしました.
着想を捕獲するという銀の虫取り網をキーアイテムとして,話者が入れ替わる,時間が入れ替わる,性が入れ替わる,客観と主観が入れ替わる...物語の場面がどんどん切り替わり状況が変わったことに付いて行く事で忙しいお話でした.昔読んだSFマガジンのコラム欄だったかに1.現実世界で現実の主人公,2.虚構世界に現実の主人公,3.現実世界に虚構の主人公,4.虚構世界に虚構主人公.この中で1は一般の小説.2と3がSFで4はファンタジーに分類されるという趣旨の記事がありました.その分類で行くと一見ファンタジー小説みたいに思えるけど実は2.に該当するSFかもしれない作品です.芥川賞を受賞させてしまうと,これを読んだ人の多くが二度と受賞作品を手に取らなくなると危惧した選考委員もいたようですが,時間や空間が自在に変わる小説はSFの世界には普通にあり,それほど突飛なお話とは感じませんでした.今から40年ほど前に読んだ小松左京の「果てしなき流れの果てに」は時空の自在な移動やストーリーの訳のわからなさなどの点で本作品とよく似た読後感の小説でしたが描かれている世界のパースペクティブは桁違いの広がりを持っていたような気がします(あまりにも昔に読んだので詳細はすっかり忘れてしまいました)選考委員の多くが首をかしげたという評判どおり一読しただけではストーリーや世界観が伝わりにくい小説ですが,難解と受け取れる書評は気にかけず頭の体操程度の気持ちで読めばそれなりに楽しめるお話しではないかと思いました.

「道化師の蝶」円城 塔 第146回芥川賞作品

共喰いを読んで(ネタバレ有り)

2012-02-21 22:49:46 | Weblog
筋金入りのニートと表現され受賞時の言葉でも話題になった田中慎弥氏の今季芥川賞受賞作品です.
17歳の高校生遠馬は開発から取り残され汚水で淀んだ河口付近に父円とその愛人琴子との三人で暮らしている.遠馬は閨房で女を殴る性癖を持つ円と同じ血を受け継いでいるのではと恐れながらも,一級年上で幼馴染の千種とぎこちない性交を繰り返している.川向こうには,そんな父と早くに別居した実母の仁子が単身魚屋を営んでおり遠馬は両家のあいだを行き来しながら成長した.大雨で祭りが中止になった夕方,父を見限った琴子が家出し,逆上してあたりを捜し始めた円はたまたま境内で遠馬を待っていた千種を強姦してしまう.それを知った仁子は円を屠り拘置所に入って不本意だった人生に段落をつけた.
プロットだけ書くとATGかなにかの作品で観たことがあるような気にさせるストーリーです.高揚感やカタルシスとは縁の無い文章ですが読んでいるあいだ中緊張感が漂います.それは登場する女たちの場面に顕著で片手欠損の障害を持ちながらも気丈で淡々と日々を生きる実母の仁子,円を殺しに行く仁子を止めようとした遠馬を制止し「殺してくれるんなら 誰でもええやんけえ」と言い切る千種の描写が凄いです.短編なのに漂う空気の濃厚さはつたない感想文では伝えようがありません.芥川賞作品中に緻密な性行為の描写は珍しいですがぜんぜんエロじゃないのがチト残念でした.

ところで,光母子殺人事件の犯人である大月孝行の育った環境についての新聞記事を読んでいてこの作品がすぐ連想されました.同様な感想を持った方は他にも多くいそうな気がします.

堤 智恵子さんの伊豆大島ライブ

2012-02-13 20:42:25 | Weblog
昨夜は女性サックスプレイヤー提智惠子さんのライブに行ってきました.二年ぶりの大島出演でしたが30名余りの聴衆との息はピッタリ.大盛り上がりのひと時に浸ることができました.6回目の来島とのことですがワタシ自身は二年ぶり3回目のお目見えでした.
彼女のプレイはとにかく元気.ムーディーな曲を演奏しても不思議と情熱的になってしまう.ひとくちで言うとコルトレーンよりはカリフォルニアシャワーの頃のナベサダに近い感じです.MCも同性にも好かれるフェミニンさを抑えた明るいしゃべりで,生来の性格もあるだろうけど何気なくやっているように見えて実は高い好感度をねらったプロのステージ技術ではないかと感じました.右耳を失聴してから初めてのライブでしたが生音の充満する会場では片耳だけでも何の支障も無いことを確認でき二重の好日でした.
ところで昨晩のミュージックチャージは5千円でした.銀座のハウスでも3千円を切るくらいが相場ですから一見高く感じますがプレイヤー4名の往復の船賃と宿泊費は安く見積もっても一人につき2万5千円ほどかかります.客が30名とするとチャージの合計は15万円.となるとギャラは…というわけでよくこのお値段で催せたものだと感心してしまいます.地元の協力者から機材を借りたり島内移動の車を用意したりと毎年幾多の面倒を乗り越えてライブの開催にこぎつけるミュージックカフェらイヴのナナさんホントにご苦労様です.