狂女のうたⅢ

狂女は眠る

天の父の腕の中で

狂女は眠る

狂女の父の腕の中で

けれど

狂女は

自分を抱いている男が

おのれの自分の父であり

唯一

彼女を狂女ではなく

童女だと思っている事すら

わからないだろう

この父は

この女を狂女と思わない

この女が

まだ幼い娘のとき

あどけない眼で父を見た

その穢れない眼を覚えているから

しかし

狂女はその事を知らない

知る力がもう

彼女には

無いのだ

哀れな狂女よ

せめて

天の父のたくましい腕の中で

安心して

身を横たえて

眠れ

天の父がおまえを抱き上げて

御国へ還って行くまでに

狂女のうたⅡ

狂った女は
笑っている
笑っているけど
笑っていることが
わからない
彼女にには
もう
考える力が
ないのだ

狂った女は
一生懸命生きてきた
誠実に生きてきた
馬鹿真面目に生きてきた

そして
次第に女は感じる

自分の中のバランスが崩れ
自分の中に大切に守ってきたものが
ゆっくりと壊れていくのを
心が引きちぎられるような痛みをもって
感じている

その痛さ
狂女は
薄笑いに変えて
その呆けた顔を
人に見せて笑う

（そうでもしてみせないと
　狂女の事など
　この忙しい時節
　だれもかまってくれないし
　知ってくれるひともいない）

狂女は悲しくても泣かない
狂女は
狂女でいるだけで
自分が世の中の迷惑だと言う事を
ちゃんと知っている
残酷だが
哀しいことに
それだけは頭の中で冷静に
ちゃんと
わかるのだ

神が創った
月よ
星よ
太陽よ

あなたがこの
生娘のような
純情で真面目な狂女を
少しでも哀れんでくださるのなら




どうぞ


あなたの御腕の中で
もう、泣き笑いしかできない
この娘を抱き上げてやってください