一風斎の趣味的生活/もっと活字を!

新刊、旧刊とりまぜて
読んだ本の書評をお送りいたします。
活字中毒者のアナタのためのブログです。

最近の拾い読みから(192) ―『雲の都』

2007-11-01 10:14:07 | Book Review
前作『永遠の都』に続き、時田一族の人びとの戦後を描いた小説(T. マンの『ブッデンブローク家の人々』、北杜夫の『楡家の人々』を想起)。

時間的には『永遠の都』が戦前・戦中を舞台にしたのに対し、第一部と第二部では占領下の日本と、独立間もない日本が舞台となります。
したがって、『永遠の都』から読み進むことが、最も著者の意図には合っているのでしょうが、『雲の都』単独でも「物語」として読むことはできます。

第一部と第二部との関係は、第一部が複数視点からの描写(戯曲的記述まで含めて)であるのに対し、第二部は時田一族のいわば「第三世代」(「第一世代」は病院長の時田利平の世代、「第二世代」は利平の長女で小暮悠太の母・初江の世代)、に当たる悠太の一人称記述で、第一部とほぼ同じ時代とその後の時代とを併せて描く形となります。

小暮悠太が精神科医として、大学・セツルメント・精神病院・監獄での体験を通して医者として一人前になっていく部分は、ビルドゥングスロマンであり、また、加賀の自伝的な要素をも含んだ小説となっています。

さて、著者の意図に「全体小説」を描くということがあるそうなので、第一部のような複合視点からの描写が出てくるのでしょうが、視点の混乱、夾雑物の混在とも受けとれないことはない。
古典的な小説としての「結構」としては、第二部の方がすっきりしているとも言えるでしょう。

とりあえず、ストーリーとしては、
「主人公の悠太は、若き精神科医。拘置所で死刑囚に接して悩みを聞く一方で、遠縁にあたる造船会社社長夫人桜子と密会を重ねる。彼はまた、森鴎外、チェーホフなど医師で小説家の作品を愛読し、自らも同じ道を志していた。戦後まもない東京を舞台に、外科病院一族の運命を描き、自伝的要素を色濃くたたえた大河小説の第二部。 」(「BOOK」データベースより)
ということになりますが、それだけではなく、『永遠の都』では謎であった事件の真相が少しずつ明らかになってくるということもあり(精神科医になったため、従兄弟にあたる脇晋助のカルテを見ることが可能になる、など)、なかなか複雑な構成となっています。

ですから、読み手の側としても、どこに重点を置くかによって、見え方が違ってくるという点もあり、なかなか紹介するのも難しい。
まだ、小生としても、うまい補助線の引き方が見つかっていないので、今回はざっとしたスケッチのみで、詳細を論じるのは、またの機会ということに(前作『永遠の都』:文庫版で全7冊を再読する必要があるので)。

加賀乙彦
『雲の都』「第一部広場」「第二部時計台」
新潮社
定価 2,100+2,520円 (税込)
ISBN978-4103308102+978-4103308119