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遺伝子を自由に書き換えられる、「遺伝子ドライブ」技術の“過大なリスク” 生物種が絶滅するかもしれない… 202202

2022-02-10 01:06:00 | 気になる モノ・コト

遺伝子を自由に書き換えられる、「遺伝子ドライブ」技術の“過大なリスク” 生物種が絶滅するかもしれない…
   現代ビジネス より 220209美馬 達哉


⚫︎無数の惨劇を生んできた優生思想
 差別的な言動や凶悪事件があるたびに、その背景にある考え方として「優生思想」という言葉が非難の意味を込めて使われる。
 優生思想とは、一言でいうと、人間の優劣は生まれつきのものであって、「優秀」な人間に生きる価値はあるが、「劣等」な人種や障害者には生きる価値がないとする考え方だ。

 これは、19世紀に、当時の進化論や遺伝学から生まれた「優生学」――ある人種の遺伝的な質の改良を目指す学問(現在では否定されている)――をもとにしている思想である。
 とくに問題となるのは、「劣等」な人々は生まれつきの「劣等」な遺伝子を持っているはずだから、そうした人々は生まれる価値も生きる価値もないという差別的な考え方につながるからだ。

 日本で1996年まであった旧「優生保護法」は、不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づいて障害者に強制的な不妊手術をすることをみとめる法律だった。
 現在では、不妊にさせられた被害者の裁判提訴をきっかけに、救済制度の整備や実態調査が行われつつある。
 また、20世紀前半のナチスドイツの時代には、障害者は「生きる価値のない生命」として強制的に安楽死させられていたことも知られている。

20世紀前半のドイツで優生思想に基づく政策を進めたアドルフ・ヒトラー

 こうしたことは、現在では、障害者差別に由来する非人道的な犯罪とされている。
だが、医学技術の進歩に伴って、倫理的に微妙なボーダーライン上の行為も出現している。

 その一例が、産科医療で、胎児に対して行われる出生前診断や不妊治療での着床前診断(胚を子宮に移植する前の診断)である。
 その結果によって選択的に妊娠中絶することを前提とするなら、最終的に「障害者を生まない」事態へとつながってしまうという懸念があるからだ。
 そのため、優生思想を強く批判する人々は、出生前診断を利用した選択的な妊娠中絶のことを「新優生学」と呼ぶこともあるくらいだ。

⚫︎ゲノム編集と21世紀の優生学
 ここまでは、過去と現在の優生思想や優生学のお話だ。

 ここからは生物医学のテクノロジーの進歩を踏まえて,未来の優生学について考えてみよう。
 ここでキーワードとなるのは、積極的優生学・消極的優生学という見方だ。
消極的優生学は望ましくないとされた遺伝子や人々を減らそうとする手法を意味し、積極的優生学はその逆で望ましいとされた性質を増やそうとするものだ。

 2016年に相模原で発生したような障害者を狙った犯罪、ナチスドイツやかつての日本の優生学、新優生学として批判されることもある出生前診断などは、いずれも、この意味で「消極的」であるために、「生かさない」・「生まれさせない」ということになって、生命の価値を軽んじることにつながる。
だが、「優秀」な遺伝的性質を広げていくという場合は、どう考えるべきだろうか。

 21世紀になって技術革新が進んだゲノム編集技術は、人間にとって有用な遺伝子を選び出し、しかも、それを高スピードで拡大させる手法を実現可能にしている。
 それが、親から子への通常の遺伝よりも、遺伝子の拡散をスピードアップさせた「遺伝子ドライブ」技術である。
 人間への臨床応用はまだまだ先だが、動物や昆虫など他の生物ではすでに実用化に向けた実験段階に入っている。

⚫︎遺伝子ドライブを支える「スーパーメンデル遺伝」
 遺伝子ドライブの技術とは、ワープロのように遺伝子暗号を書き換えることができるゲノム編集技術そのものをパッケージ化して遺伝子に組み込むというものだ。
 遺伝子ドライブへと改編された遺伝子は、ゲノム編集の能力を持っているので、それが入り込んだ細胞を乗っ取って、もともとのものとは別の遺伝子に書き換えることができる。

具体的には、どういうことかを簡単に図解して説明しよう。

図:優性遺伝と遺伝子ドライブ(筆者作成)

 図に示したように、もともと野生の小さいアオ蚊の群れがあって、そこに、一つの遺伝子をゲノム編集した大きなアカ蚊を1匹いれたとしよう。

 第一の場合は、普通にゲノム編集した遺伝子で、メンデル遺伝でいう優性遺伝(顕性遺伝)だったとする。
もともといたアオ蚊の方が圧倒的に多数なので、アカ蚊の子孫は最初の4分の3がアカ蚊になるが、あとはアオ蚊と混ざり合ってしまい、2分の1の子孫にだけ遺伝子が伝わっていく。
 これは有性生殖では両親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐからだ。

 もし仮に、アカ蚊のほうがとても優秀で、生存競争に有利でより多く生き残るとしても、ゲノム編集されたアカ蚊が野生のアオ蚊を置き換えるには何世代も必要になる。

 一方で第二の場合は、遺伝子ドライブを組みこんだゲノム編集をしたアカ蚊をアオ蚊の中に入れる。
 アカ蚊とアオ蚊の子孫が両親の遺伝子を一組ずつ受け継ぐところまでは同じだが、違うのは、遺伝子ドライブの遺伝子はゲノム編集能力を持っているところにある。
 そのため、子孫の細胞の中で、アカ蚊の遺伝子は、アオ蚊の遺伝子を強制的にアカ蚊の遺伝子に書き換えることができ、子孫はすべてアカ蚊になる。
すると、アカ蚊の遺伝子はネズミ算式にどんどん拡大していくことになる。
 メンデル遺伝よりもはるかに素早く遺伝子が拡大するので、これは「スーパーメンデル遺伝」とも呼ばれる。
 遺伝子ドライブを積極的優生学に使えば、人間に有用な遺伝子を自然の遺伝よりも素早く拡大させて、集団の遺伝的質を操作することができる。

⚫︎遺伝子ドライブ実用化に伴う「リスク」
 先ほどの図で「蚊」を例に使ったのは、遺伝子ドライブの実用化が最も進んでいるのがマラリアを媒介するアノフェレス蚊での研究だからだ(「ターゲット・マラリア」計画)。
 蚊の場合は害虫なので、人間にとって有用な遺伝子(蚊にとっては不利な遺伝子)を拡大させる計画となっている。
 具体的には、オスに、子孫のメスを不妊化させる遺伝子を含む遺伝子ドライブを組み込むという内容である(蚊にとっては消極的優生学である)。

 2021年には、実際に遺伝子ドライブ蚊を外界に放出する前段階として、大型ケージで効果を試した実験が行われている(Hammonds 2021)。
それによると、遺伝子ドライブを持つオスの蚊を、蚊の集団全体の8分の1から4分の1の数で入れると、1年以内に集団が死滅したという。

 実際にマラリアが蔓延している地域で同じことを行うかどうかは議論の最中だ。
マラリアを媒介する蚊は害虫なので全滅してもいいとの考えもある一方で、どこか一カ所で放出されれば、全世界の生態系に予想外の影響を与える可能性も捨てきれない。

 もっと議論になっているのは、ニュージーランドの「プレデター・フリー」計画で、外来種を遺伝子ドライブで駆逐するための研究だ。
 果樹園や森林や固有種の野鳥を襲う害獣となった外来種フクロギツネに対して、「自殺遺伝子」の遺伝子ドライブを組み込むという計画があるという(ヘレン・ピルチャー『LIFE CHANGING ヒトが生命進化を加速する』化学同人)。
 だが、フクロギツネはニュージーランドでは侵略的な外来種だが、本来の生息地オーストラリアでは保護獣である。
もし、遺伝子ドライブを入れたフクロギツネがオーストラリアに入り込めば、フクロギツネは全滅しかねない。
ゲノム編集による遺伝子ドライブは、強力なテクノロジーであるだけに、それを制御することは難しそうだ。

「遺伝子=生まれつき=変化しない」というイメージが大きく塗り替わり、親から子への遺伝を超えたスーパー遺伝も可能になりつつあるのが、生物学の現状である。

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