鉄塔に燃へ移りたり曼殊沙華 稲葉朱灯
今年もみごとな彼岸花が咲いた。古代からそういわれるように
それは炎のようで一面が火の海になったかのようである。
それほど情熱的な花であり色である。
そんな花があまり人間に好かれないのはなぜだろう。好んで
栽培する人は少ないし、せいぜい堤防か墓場のあたりである。
ずいぶん損をする気の毒な、ある意味で不気味な花である。
そんな一群落のまん中に鉄塔が立っていた。その根元にいま
燃え移るのではないかと思うほどに競い咲いていた。
作者はそれをすでに燃えていると見たのである。
07/10/10 Vol. 89