ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

Speech or Communication??

2006年11月05日 | ケネディスクールの授業

 早いもので9月より始まった秋学期も折り返し地点を過ぎてしまいました。この秋学期は6種類の授業と「格闘」していますが、今日は、その中でもっともお気に入りの授業について紹介します。

          

 「A Mobilizing for Political Action: Communications & Advocacy(人々を動かす政治コミュニケーション)」と名の付くこの授業は、ジャーナリストの経験もある政治コンサルティングの専門家Marie Danziger教授の指導の下、「一対多」のコミュニケーションスキルを磨くことを主目的としています。僕は、「おぉ!これぞケネディスクールの授業だ!」と感動し、はまってしまったのですが、それは、教授の魅力的な人柄に加え、学生一人一人のスピーチとそれへのフィードバックで進められる授業形式が僕の心を掴んで放さなかったからです。

 「理論と実践の融合」を売りにしているケネディスクールですが、この授業はまさにその典型のようなものでした。週二回の授業のうち、一回は著名政治家や経営者によるスピーチや、コミュニケーションの専門家の文献を題材に、パブリック・スピーチのエッセンスを見出すべく、皆でディスカッションを行います。そして週の後半の授業では、各自が様々なテーマで4分間のスピーチを行い、その内容について、参考になる点、改善すべき点を皆で議論した上で、スピーカに点数とコメントを記した紙をフィードバックをします。さらに、フィードバックは教室だけで終わりません。全てのスピーチはビデオで録画されており、クラス専用のウェブサイトで共有できるその録画を見ながら、さらに詳細なフィードバックをペアを組んだ学生同士で交換し合うことが求められます。

               

 また、同級生の多くは、民間企業や政府、NGO・NPOの職員として、あるいは学校教師、医師、そして軍人として、概ね5年以上さまざまな分野で経験を積んだ上で、ケネディスクールに学んでいます。多様な経験に基づくオリジナリティ溢れるスピーチに耳を傾けていると、一人一人の人生観や職業観が浮かび上がってくるわけです。

  「一人一人の学生の経験がお互いを高める材料となる。」

  これもケネディスクールの特徴だといわれていますが、この授業はまさにその真骨頂であるように思いました。

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 この半期の授業を通じて、僕自身も4回ほどスピーチを行いましたが、その中でも、

  「聴衆に対し、決して歓迎されないニュースを伝えるとともに、その必要性を説き、最終的に彼らを味方につけるようなスピーチを4分間で行え」

という課題の下で行ったスピーチは、教授から、「あなたのスピーチが今回はクラスで最高得点よ!」という思いがけないコメントを頂く「ヒット作」となりました。そのテーマは

 「消費税を5%から10%に引き上げます・・・」(←ブー!)

という、文字通り聴衆が「どうしても歓迎しないメッセージ」を財務大臣役になって伝えるというものでした。

 前半に、政府の無駄遣いに辟易とし、「何で政府の借金のツケを我々が負わないとならないんだ!!」と怒り心頭であろう納税者の気持ちを代弁しつつ、税率引き上げは持続不可能な財政赤字と増え続ける社会保障のため不可欠だということを、

「Our tax will turn to our common assets(税は私達の共通の財産になるのです)」

「For the responsible tax payers who are thinking of our future generation, to share the current liability is as important as to enjoy our current assets. (次世代に思いをめぐらすことできる責任ある納税者にとって、現在の負債を共有することは現在の資産を享受することと同様に重要なことなのです。)」

というメッセージで伝えていったところ、「不満でいっぱいの聞き手が、税金を納めることを誇りに思えるようなスピーチだった」、「聴衆の怒りを敢えて代弁することで、うまく一体感を醸成できていた」等のコメントをもらうことが出来ました。

 もちろん現実はこのように甘いとは決して思いませんが、この授業を通じて、スピーチとは、まさにコミュニケーション、即ち双方向のものであるという認識を新たにすることが出来ました気がします。

 人前でスピーチをするとなると、どうしても「どうやったら、大勢の人達にうまく、(かっこよく)僕の言いたいことを伝えることができるだろう!?」と肩に力が入りがちなのですが、「どうやって伝えよう」を考えるよりもまず、

 「どのような人々が集まっているのだろう?」

 「彼らはどんなことに関心があるのだろう?どんなことを誇りに思っていて、どんなことを心配しているのだろう」

ということを、相手の立場に立って吟味することが大切なのだろうと思います。

 スピーチを始めるに当たって、聴衆の立場や経験、彼らが誇りにしているものをクローズアップすることで、自分(スピーカー)に当たっているスポットライトを、自分から聴衆に向けて当て直す、それによって、聴衆とスピーカーとの間に一体感を創り出す。その上で、伝えたいこと、伝えなければならないことを、ゆっくりと伝えていく。

 「一対一」のコミュニケーションでも「一対多」のコミュニケーションでも本質は全く変わらないこと。なぜ、このコースのタイトルが「Public Speech」ではなく「Communication」なのかがつかめた気がします。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
充実した留学生活が羨ましい (naoki)
2006-11-07 21:27:35
お久しぶりです。
メールでブログの存在を知り、拝見させて頂きました。
コミュニケーションの威力って絶大だ
の、一言で終わらしては
怒られちゃうかな

とにかく、
頑張ってるね!!!

いつも、大いに刺激を受けています。

そのうち俺もブログやってみようかな~
これだけ忙しいのに、よくこんなに充実したブログが書けると、感心しております。

さあ、明日も頑張ろっと
平塚の夕日はきれいです。
潮の香りがお気に入りです。
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>naoki (ikeike)
2006-11-08 15:01:49
久し振り!コメント有難う。そして元気そうで何より。確かにコミュニケーション力ってもっとも大事なスキルの一つだと、歳を取るごとに思います。毎日大変な日々が続くと思うけど、回りの人や家族とのコミュニケーションを大切に、頑張ってね。ボストンにも是非遊びに来てください。そのときは、あのカレーパンをお土産によろしく!またかぶりつきたい!!
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