滋賀県 建築家 / 建築設計事務所イデアルの小さな独り言

建築家・清水精二のブログ、何でもあり独り言集・・・。

建築訴訟でマンション建替えの判決が下された!!

2019年04月29日 | 建築

世間は10連休のようですが、私は連休中もずっと仕事をする予定です・・・。計画中の建物プランが上手くまとまらないので、連休中に頭を切替てじっくりと考えようという作戦です。わが家の周りで、春先から鳴き始めたウグイスも最初は上手く鳴けなかったのですが、今頃の季節になると「ホーホケキョ・・」と上手く鳴けるようになりました。なので・・私の建物プランも連休中にはそろそろ上手くまとまるかなぁ~と思ったりしています。(あまり関係ないか・・?)

という事で、今日は建築訴訟のお話です。先日、建物に重大な瑕疵※1があるとして、事業主が施工会社に対して建物の解体・建替えを主張する控訴審裁判の判決が下されました。私は、この建築訴訟で瑕疵による損害賠償を求める事業主側の建築専門家として訴訟協力をしていました。問題となっていたのは、鉄筋コンクリート造14階建ての分譲マンションで、今回の判決内容は事業主の主張どおり建物の解体・建替えが認められるというものでした。(誤解がないように言っておきますが、私はこの分譲マンションの設計・工事監理には一切携わっておらず、建築専門家の立場で客観的に瑕疵調査に立会い、瑕疵の鑑定を行い、瑕疵を立証するための技術的な証拠資料の作成、証人尋問での証言などを行ってきました)

今回の建築訴訟では、私を含め複数の建築士や有識者が建築専門家として訴訟に協力していました。問題となった分譲マンションでは数多くの瑕疵主張がされていましたが、中でも高等裁判所が注目し集中的に審理したのが、コンクリート打継部が一体化していないことでした(打継部が一体化していない瑕疵によって、建物を建替えなければならない場合は、他の瑕疵の有無について審理する必要はないとの判断)。私たち専門家の鑑定は、「コンクリート打継部が一体化しておらず、建物の構造耐力が低下しており、居住者の生命・身体・財産を危険にさらしている」というものでした。このことを裁判で認めてもらうためには、コンクリート打継部が一体化していないことによって、具体的に建物の構造耐力がどの程度低下していて危険であるかを数値化(構造計算)し立証しなければなりませんでした。「構造耐力が低下しているので危険!!」と言うだけでは裁判で認めてもらえません・・。

そもそも私に今回の建築訴訟への協力依頼があったのは、私はもともと建物の構造計算をしていた経歴があり、現在は総合設計(意匠設計)を行っていることから、意匠と構造の専門知識を有しているので、建物の瑕疵について総合的な鑑定をしてほしいという要望が事業主からあったからです。このようなことから、私は協力してくれる他の構造専門の建築士たちとコンクリート打継部が一体化していないことによる建物の構造耐力低下を数値化(構造計算)し立証することにしました。

とは言っても、構造耐力にかかわる瑕疵を数値化(構造計算)することは容易ではありません。なぜかというと、構造計算で用いられている各基準式は建物の安全性を確保するために定められたものであって、瑕疵を数値化するために定められたものではないからです。単純に設計時の建物荷重よりも実施工された建物荷重が増えているといような場合には、荷重の増加分を構造計算ソフトに入力するだけで済みます。しかし、法令で定められている基準式はコンクリートが一体化していることを前提としているので、コンクリート打継部が一体化していないような瑕疵を数値化(構造計算)するには、定められた基準式が採用できるように実状の瑕疵をモデル化したり、基準書以外の文献などにある算定式を調べて参考にしなければならず、膨大な時間と労力を要します。

このように創意工夫して、コンクリート打継部が一体化していないことを反映させた構造計算書を作成し、瑕疵による建物の危険性を数値化して主張してきました。裁判所も危険性を数値化することにより、「建物の構造耐力が当初の構造計算によって算出された数値より相当程度低下していることを裏付けている」と認めてくれました。もちろん、建物の解体・建替えが認められたのは瑕疵による危険性を数値化しただけではなく、調査会社による瑕疵の調査や有識者・専門家による鑑定意見書など多くの主張・立証を積み重ねた結果であることは言うまでもありません。

今回、建築訴訟に携わることによって思ったことは、建築瑕疵の有無が問題となるような場合は、建築に関する専門技術的な事項が主な争点となるため、紛争解決に至るまでの瑕疵主張や証拠作成について、建築士などによる専門的知見の必要性が高いということです。また、瑕疵を主張する建築訴訟では、瑕疵の立証や瑕疵主張への反証のための調査や実験、専門技術的な証拠資料の作成などに多くの時間や費用を要するため、当事者双方に大きな負担を強いる結果となることも実感しました。さらに、建築訴訟は、専門性が高いことから長い審理期間を要することとなるので、このことも当事者双方には大きなストレスとなっていると感じました。

ちなみに施工会社は、今回の判決を不服として最高裁判所に上告※2したそうです。結審するまでには、まだ時間がかかるようです。私としては居住者のためにも、このマンション問題が1日でも早く解決することを願うばかりです・・・。

※1  瑕疵:通常有すべき品質・性能を欠いていること。2020年4月に施行される改正民法では、「瑕疵」という言葉は「契約不適合」へ置き換えられ、より契約を重視する社会を志向することになります。

※2  2020年3月に最高裁判所は上告審として受理しない旨を決定し、控訴審裁判の判決が確定しました。

 

 

 


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