■おれたちの歌をうたえ/呉勝浩 2021.9.13
『 おれたちの歌をうたえ 』 を読みました。
このような題名を目にすると、ついつい手に取ってしまいます。
往年のハードボイルド小説を彷彿とさせる題名です。
河辺久則と茂田に託された、佐登志の五行詩。
その五行詩は、久則を幼なじみと過ごした故郷へと過去の惨劇へと導く。
あきらかになる四十年前の真実とは。
いつものメンバーに春子を加えた六人で、国道を菅平高原の方角へぶらぶら歩いた。
高校生になってから会う回数はずいぶん減った。上田市に通う久則とコーショーもべつの学校だし、フーカは女子高。キンタにいたっては長野市の進学校だ。実家で働いているサトシともたまに道で鉢合わせする程度で、それぞれがそれぞれの生活のなかで新しい友人や知人をつくり、それぞれに喜びや苦しみを昧わっていて、それらをぜんぶ相談し合えた時代は過ぎてしまった。
なのにこうして集まると気づまりはなく、話題が途切れることもない。サトシがちゃらんぽらんな冗談を飛ばし、フーカが叱る。どこか調子っぱずれな豆知識を披露するキンタ、カッコをつけて口笛なんぞ吹いているコーショー。なぜか久則がまとめ役をやらされる。口ではぶつくさ文句をいうが、内心悪い気はしていない。
幸せであることも気づかずに、幼なじみと過ごした牧歌的な日々。
四十年後の現実。 明らかになる過去。
「ようするに飽きと慣れなんだ。適応とよぶのもおこがましい軽やかさだろう? とはいえ食い物をめぐって来る日も来る日も生き死にの殺し合いをしていた時代はともかく、それなりに腹がふくれた人間の根源的な欲望は、いつになっても変わらんとおれは思う。保身と嫉妬さ」
「いいか、久則。ひとつだけ大事なことをいっておく。二度はいわないからよく聞けよ。警官だろうがヤクザだろうが、どっちも命を張った商売だ。タマ張ったもん同士があの手この手で化かし合って殴り合う、それがおれらの世界なんだ。生き残りたかったら、想像しろ。想像力をなくしたら負けなのさ。どんな場合でも、いちばん起こってほしくないことを想像するんだ。だいたいは起こりそうなことが起こるだろう。だが、それがどれほどあり得なさそうであったとしても、いちばん起こってほしくないことだけは必ず起こる。起こっちまうもんなんだ。それに備えてない奴は、たった一度の不運で舞台から退場だ」
<過去にはなんの意味もない>
暴かなくてもいい嘘、真実が、この世にはある。弱さやあさましさ、醜い本音、野蛮な本性・・・・・・
「頼むから答えてくれ。あんたの四十年はなんだった? ただ過去から目をそむけ、日々を暮らしていただけなのか? それとも、何かを成したのか」
敗北が、ただ敗北でしかないのなら、この生には、いったいなんの意味がある?
「答えろ。あんたが岩村清隆だというなら、おれに答えなきゃ駄目だ」
「過去は、果たされない約束だらけだ」
「いいえ、途中なのよ。罪も希望も、過去も未来も」
あなたは、岩村清隆の今の生きざまをどのように感じただろうか。
ぼくは、久則よりも、清隆の生き方にずっと感動を覚えたのだが。
『 おれたちの歌をうたえ/呉勝浩/文藝春秋 』
『 おれたちの歌をうたえ 』 を読みました。
このような題名を目にすると、ついつい手に取ってしまいます。
往年のハードボイルド小説を彷彿とさせる題名です。
河辺久則と茂田に託された、佐登志の五行詩。
その五行詩は、久則を幼なじみと過ごした故郷へと過去の惨劇へと導く。
あきらかになる四十年前の真実とは。
いつものメンバーに春子を加えた六人で、国道を菅平高原の方角へぶらぶら歩いた。
高校生になってから会う回数はずいぶん減った。上田市に通う久則とコーショーもべつの学校だし、フーカは女子高。キンタにいたっては長野市の進学校だ。実家で働いているサトシともたまに道で鉢合わせする程度で、それぞれがそれぞれの生活のなかで新しい友人や知人をつくり、それぞれに喜びや苦しみを昧わっていて、それらをぜんぶ相談し合えた時代は過ぎてしまった。
なのにこうして集まると気づまりはなく、話題が途切れることもない。サトシがちゃらんぽらんな冗談を飛ばし、フーカが叱る。どこか調子っぱずれな豆知識を披露するキンタ、カッコをつけて口笛なんぞ吹いているコーショー。なぜか久則がまとめ役をやらされる。口ではぶつくさ文句をいうが、内心悪い気はしていない。
幸せであることも気づかずに、幼なじみと過ごした牧歌的な日々。
四十年後の現実。 明らかになる過去。
「ようするに飽きと慣れなんだ。適応とよぶのもおこがましい軽やかさだろう? とはいえ食い物をめぐって来る日も来る日も生き死にの殺し合いをしていた時代はともかく、それなりに腹がふくれた人間の根源的な欲望は、いつになっても変わらんとおれは思う。保身と嫉妬さ」
「いいか、久則。ひとつだけ大事なことをいっておく。二度はいわないからよく聞けよ。警官だろうがヤクザだろうが、どっちも命を張った商売だ。タマ張ったもん同士があの手この手で化かし合って殴り合う、それがおれらの世界なんだ。生き残りたかったら、想像しろ。想像力をなくしたら負けなのさ。どんな場合でも、いちばん起こってほしくないことを想像するんだ。だいたいは起こりそうなことが起こるだろう。だが、それがどれほどあり得なさそうであったとしても、いちばん起こってほしくないことだけは必ず起こる。起こっちまうもんなんだ。それに備えてない奴は、たった一度の不運で舞台から退場だ」
<過去にはなんの意味もない>
暴かなくてもいい嘘、真実が、この世にはある。弱さやあさましさ、醜い本音、野蛮な本性・・・・・・
「頼むから答えてくれ。あんたの四十年はなんだった? ただ過去から目をそむけ、日々を暮らしていただけなのか? それとも、何かを成したのか」
敗北が、ただ敗北でしかないのなら、この生には、いったいなんの意味がある?
「答えろ。あんたが岩村清隆だというなら、おれに答えなきゃ駄目だ」
「過去は、果たされない約束だらけだ」
「いいえ、途中なのよ。罪も希望も、過去も未来も」
あなたは、岩村清隆の今の生きざまをどのように感じただろうか。
ぼくは、久則よりも、清隆の生き方にずっと感動を覚えたのだが。
『 おれたちの歌をうたえ/呉勝浩/文藝春秋 』
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