ゆめ未来     

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興味深い話だ 魔女の組曲

2020年06月15日 | もう一冊読んでみた
魔女の組曲(上)/ベルナール・ミニエ    2020.6.15

 そのとき、どこからか絶叫が聞こえてきた。恐怖と苦悩に
満ちた叫びだった。聞いていると、こちらまで錆びたかみそりの刃で肌を切られたように
苦しくなる。何をされたのだろうか? どんな恐ろしいことを・・・・・・。



久々に面白いミステリを堪能しました。
魔女の組曲(上)/ベルナール・ミニエ

上巻では、誰が何のためにクリスティーヌを執拗に追い詰めているのか、皆目見当もつか
ない。
「もしかしたら、これか?」 と、思うような話もあった気もするが、まだ、詳細は不明
だ。
セルヴァスとクリスティーヌがどのように関わってくるのかも、まったく分からない。

さあ、はやく下巻も読んでみよう。


 風の音に交じってひときわ大きな吠え声が夜の闇をつんざいた。

 そして、そのあとはもう何も聞こえなくなった。ただ、風の吹きすさぶ音がするだけだ。

 レックスは死んだんだ。


 まったく、あなたって鼻もちならない。それに嘘つき。あなた
の約束を信じていたなんて、それこそ信じられないくらいよ。まあ、しかたがないわね。
言葉が増えれば増えるほど、真実はなくなっていく。世の中なんて、そんなものよ。</fo
nt>

 長袖のTシャツには、“パラノイアでさえ敵がいる” という
言葉がプリントされている。その昔、イスラエルのメイア首相が米国の国務長官キッシン
ジャーに向かって言った言葉だ。


 「どうすればいい? じゃあ、教えてやろう。ゲームに参加す
るんだ。今、やっているこのゲームに参加しろ。どうだ? このゲームは気に入った
か?」
 クリスティーヌは答えなかった。


 「そうだろう?」デグランジュはうなずいた。「とはいえ、人
が何を考えているかなんて、本当のところはわからないもんだがな。誰もが、いつでも筋
の通るやり方で行動するわけじゃない」


 「所長・・・・・・ですか。どちらさまです?」
 セルヴァズは警察の身分証を見せた。とたんに、女性は露骨に嫌そうな顔をした。まる
で悪臭でも嗅いだようだ。


 捜査をしていると、一見、関係のありそうな事柄が、あとにな
って無関係だとわかることがよくあるのだ。捜査は未知の文字を使った未知の言葉を解読
するのに似ている。重要な文字のつながりをいくつか発見すれば、解読は一気に進むのだ
が、解読を始めた段階では、どのつながりが重要なのか、判別がつかないのだ。


 クリスティーヌは礼を言って、電話を切った。パソコンを見る
と、新しいメールが一通、入っていた。件名は<ゲーム>。送信元はmalebolge@hell.com
だ。malebolgeというのは、ダンテの『神曲』の「地獄編」に出てくる地獄の第八圏の第
五の梟のことだ。それに、hell.comとは・・・・・・


 麻薬常習者が絶叫する声や、酔っ払いが怒鳴る声も聞こえる。
向かいの部屋は独房でなく雑居房のようだったが、喧嘩をする声まで聞こえた。ここは地
獄だ。都市はさまざまな地獄を抱えている。そして、そのなかでも最大の地獄は人だ。サ
ルトルは「地獄とは他人のことだ」と言っていたが、それとは違う意味で、同じことが言
える。地獄とは人のことだ。この留置場にいる人もそうだし、ポーリューやあの女性警官
もそうだ。自分は今日、その地獄を目のあたりにしたのだ。いずれにしろ、確かなことは、
地獄とは地下にあるものだということだ。


 この世に地獄が存在することを知らないのだ。もし、ここにい
る人々が自分と一緒に地下室に来たら----小便と汗のにおいが混じるなかで、へどと血で
汚れたシャツを身につけた人間を目にし、大の大人が泣き叫ぶのを聞いたら、そこではじ
めて理解することになるだろう。この世に地獄があることを。



 『 魔女の組曲(上・下)/ベルナール・ミニエ/坂田雪子訳/ハーパーBOOKS 』



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