貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

石の名前

2022-02-05 13:29:58 | 漫筆

現在、国際鉱物学会で認定されている鉱物は4700くらい。だとか。
多いねえ、と思ったけど、蟻は世界で1万種以上、蝶は1万7000、トンボは5000、蛙は(もういい) それらに較べれば多くはない。多くはないけれど多い。(どっちだよ)
それに名前を付けるのはけっこう大変。

おまけに、組成の比率が違うと別の名前を付ける。長石の名前なんぞは細かすぎて開いた口がふさがらない。結晶構造が違っても別の名前。同質異形というやつね。カルサイト・アラゴナイトとか、カイヤナイト三姉妹とか、ルチル三兄弟とか。

まあ、しょうがない。ガイアの作りたもうた作品は多彩です。名前が増えるのは致し方ない。
学会でも、あまりに増えすぎた名前を整理しようという作業はされているようで、例えばハイパースシーン、ブロンザイトというのはエンスタタイト(頑火輝石)に併呑されたらしい。石屋さんはまだ使っているけど。

学会認定の正式鉱物名とは別に、通称とか商品名とかが加わる。アクアマリンとかエメラルドとかは色による通称。タンザナイトとかティファニーストーンとかは商品名。宝石系はさらに細かい命名をする。ガーネットとかトルマリンなんかはカオスの世界。
かくして名前はもっと増える。やれやれ。

     *     *     *

さらに事情は複雑怪奇になる。
国際的正式名称とは別に、「和名」というものがある。まあ日本人なんだから日本語で呼ぶのは当然だし正しいと言えないこともない。あちきは洋式名は排除しろというエスノセントラリスト(自文化中心主義者)でもないし、洋式名で統一しろというインターナショナリストでもないけど、二つ名前があるというのは面倒であることは間違いない。
日本の鉱物研究者や博物館関係は、和名を使う。「鉱物系」の石屋さんもガンとして和名で表示する。英語風に慣れてしまっていると、時々これ何だったかなと迷う。
いっぱしのマニアだったら両方覚えないといけないだろうけど、あちきは和名はわからんのがけっこうある。
はい、以下の石は何でしょう。
天青石、菫青石、青金石、藍方石、天藍石、藍晶石。なんか尻取りやってるみたいだな。
正解は、
セレスタイン、アイオライト、ラズライト(lazuRite)、アウイン、ラズライト(lazuLite)、カイヤナイト
これ、試験に出ます。(そんな試験ねえよw)

けれどこう種類が多いと、和語が追いつかない。アタカマ石はアタカマ石で、塩化水酸銅鉱とは言わない。マジェマジェバイトやツクツクボーシ(こら)に至ってはもう滅茶苦茶。
「ボー石」なんてのもある。何だいそりゃ、と思ったら「Vauxite」。アルミ原料の方は「ボーキサイト(Bauxite)」。ちゃんと和名を付けてあげればよかったのに。
ヴァとかディとかを使わないから余計変になるのですね。エピディディマイト(Epididymite)がエピジジム石になってしまうのも滑稽。じじむさい。(君のことかね?)

英名カタカナ読みだとたまに変な名前になる。ヘソナイト、アホーアイト、ゴーマナイトなんてのは、あまり日本語としてはいい響きではない。ま仕方ない。多くはないし。
デブナイトとかハゲナイトがないのは幸いでしたね。デブンさんとかハーゲンさんはいそうなのに、発見者にはならなくてよかった。(気にしてんのかよw)
まあこの前あげたデヴィリンなんかは西洋語としても変だけど。遊んでるんか?

一般的な天然石業界では、英語(の日本語読み)を使う。まあ藍銅鉱というよりアズライトと言った方が神秘的で商品価値が増すかも。「セレナイト」「ジプサム」と書かれていれば、「お、いいね」と思うけれど「石膏」と書かれると「やめとこ」と思うかもしれない。けれど「セレスタイト」「ダイオプサイト」なんて石はないぞ。

これは某安売り店でばかばかと出始めた頃に買ったセレスタイン。すごくお手頃だったけど、そこそこ青がきれい。写真では全然出ていないですけど。セレスタイン、あるいはセレスティンであってセレスタイトではない。ちなみに「-in」は形容詞的名詞化語尾。仏語系などではよく使われるみたい。でも、セレスタイトで定着してしまったようですね。
ちなみにこの石、店によって安かったりえらく高かったりする。何ですかね。



しかしカタカナだらけだと鬱陶しいもので。「レムリアンシード・タイムキーパー・フューチャーアンドパストリンク・エンジェルラダー・ウォータークリア・レインボークォーツ・クラスター」なんてね。(そんなのねーよw)
あちきも英語風に染まってしまったけど、和名のほうがなんか鉱物ハカセみたいで格好いいから和名派に改宗しようかな。(格好気にしてどうする) でもボー石とかエピジジム石とかは恰好よくないね。

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一番困るのはまぎらわしいやつ。
ボー石とボーキサイトもそうだけど、Lazurite と Lazulite は日本人には区別不能だぜ。
ローゼライト(Roselite 砒酸塩鉱物)とロゾライト(Rosolite グロシュラー、ラズベリーガーネット)はよく混同されるし、ロードライト(ガーネット)、ロードナイト、ロードクロサイト、ローザサイトなんてものもある。バラもいい加減にしろと言いたくなりませんか。あ、ローザサイトはバラとは関係ないのか。青だし。
赤ベリルをビクスバイトとしたら、ビクスビー石のビクスビアイトと紛らわしいのでやめたとか。
パイロフィライト・パイロモルファイト・アストロフィライト・ヘミモルファイトって、何かアナグラムみたいじゃね? 
レピドクロサイトとレピドライト、クリソベリルとクリソプレーズ、ウーバイトとウバロバイト、マグネサイトとマグネタイト、なんていうのもまぎらわしい。
ちょっといい加減にしてほしい。こういうことをしているから「鉱物学は科学じゃねえ」なんてなめられるのだよ。(ほんとか?)

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あちきが個人的に一番いやだなと思うのは、鉱物名に人名を付けること。ごく当たり前のようになっているけど、なんか、歴史に名を残すことが最大の目標だとする、西洋人の妄執を感じる。個人主義の極地ね。
そもそもガイアの創造物に人間の名前を付けるなんて傲慢ではないか。ちょっと日本人の感覚からしたら、「おこがましい」感じがする。などと言っていると、日本人の名前が付いたのもあったりするorz。まあ真似したのだからしょうがない。
「結晶学の父」とか讃えられる人だったらまだしも、鉱山会社の社長さんだったり。自分の名前では申請できないらしいので、奥さんの名前をつけるなどという暴挙もある。マリアライトとか。これも日本人の感覚(以下略)。「節子石」なんて、ちょっとどうかと思う。……と思っていたら「千代子石」というのがあるらしいorz。やれやれ。千代子にはえらい目にあったからこんな石は買いたくない。(おいおい)
発見地とか主要産地とかの名前は自然でいい。ほっとする。アフガナイトとかコロンビアナイトとかアンダルサイトとか。ツクツクボーシ(トゥグトゥップ石)はちょっと困るけれど。

もっと科学的・合理的な命名法はないか。
カバンサイトというのは、カルシウムとバナジウムとケイ素(シリカ)の頭部分を合成したものだそうで、そういう意味では科学的かな?
和名だと「灰礬電気石・満礬電気石・鉄礬電気石」なんていうのもある。けれど商品カードにこう書かれるとみんなちょっと引くかも。
まあ、興ざめだし、無理だし。灰苦珪酸石なんていっぱいあるし。

一方、ロマンチックな命名というのもある。空や天界を意味するアズライト、セレスタイン、エンジェライト、セラフィナイト(天使ケルビンに由来)。海に関連するアクアマリン、ラリマー(ル)。アマゾナイト、アトランティサイトとかもね。正式鉱物名ではないのもあるけど。
名前としては美しいけれど、ちょっと商売臭い感がなきしもあらず。エンジェライトはいささか名前負けしてないか?

石の名前で今まで一番ひどいと思ったのは、「プラムポグマタイト」で、和名は「鉛ゴム石」。和名が変なのではなく、原語自体がそういう意味らしい。こんなネームカード出していたら、買う人なんかいるかよ。(別に商売考えてないだろ) 結晶に少しマットな感じがあるだけで、ぐにゃぐにゃしているわけではないし、けっこういい色している。石がかわいそう。

まあ、文句を言ったところでどうなるものでもない。和名やカタカナ表記の再検討・統一をしてくれるような公的組織があればいいのだろうけど、文科省じゃあねえ。

以上、ジジイの繰り言でした。
(え? これで終わりかよ)


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