貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

地球で最も多い石

2022-06-26 11:32:41 | 単品

クイズです。全地球で最も多い石は何でしょう。

けっこう難しいクイズかもしれない。
まあこれちょっとレトリックのトリックがあって、「多い」は体積比、「石」は「鉱物」「元素」ではない。
まあそれでも圧倒的に「一番多い石」があって、そのことは一般にあまり知られていない。それは何でしょう。(勿体ぶるな)

答えは「橄欖岩」。(あら)

普通「最も多い石」というと長石あたりを思い描くけれど、実は橄欖岩。
地球全体積中、なんと82.3%が橄欖岩。玄武岩は1.62%、花崗岩0.62%、金属15.4%。これで99.94%となる。余の岩石は0.06%ということになる。

なんでこんなことになるのかというと、「マントル」があるから。
マントルは橄欖岩からできている。だから量がめちゃめちゃ多い。
「そりゃずるだぜ」「マントルって岩石と言えるのか?」という反駁もあるでしょうけど、多少溶けていようが、結晶構造を持ち、他の鉱物も含んでいるから、岩石でしょう。

橄欖岩の主要構成鉱物は橄欖石。その美しいものがペリドット。
しかし、信じられますかねえ。地球の大部分は「橄欖岩」でできている。地球は「ペリドット」の星だぜえ。橄欖岩とペリドットはイコールではないけど、マントルはかなり純度が高いだろうから、似たようなものだ。(ほんとか?)

と、これは『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著、講談社ブルーバックス、2017年)の受け売り。この本、わかりやすくてものすごく面白いです。

     *     *    *

透明緑の美しい石、ペリドット。橄欖(オリーブ)というだけあって、少し渋めの独特な色。もっとも「オリーブ」を「橄欖」としたのは誤訳で、橄欖は中国の別の植物。とのこと。

これはパキスタン産原石。

お安いルース。これであちきのルース禁制は崩壊したのでした。

何度か上げたけど、このさざれ石の美しさ。いいさざれ石はいいです。

超美品結晶は別として、ペリドット自体はそれほど高くない。
天然石業界のダイ〇ーさんでは、5ミリくらいの玉のブレスレットが1000円台で売っていたりする。それでも透き通っていて美しい。

     *     *     *

けど、こやつ、オリヴィンと言われたりフォルステライトと言われたり、わけわからん。
オリヴィン=橄欖石は、シリケート SiO4 が単独(ネソ)でマグネシウム、鉄などと結合したもの。グループ名で、やたらと定義が広い。
  M SiO4  M=Mg,Fe,Mn,Ca
その構成員でマグネシウム単独のやつがフォルステライト(苦土橄欖石)
  Mg2SiO4
鉄単独のやつがファイアライト(鉄橄欖石)
  Fe2SiO4
ところがオリヴィンの多くはフォルステライトとファイアライトの固溶体(だいたい鉄が5~40%)なので、普通はこの固溶体をオリヴィンと呼ぶ。なんかスキャポライトでも似たようなことがあったな。だからわけわからなくなる。
  オリヴィン=〇SiO4
  オリヴィン=(Mg,Fe)SiO4
こりゃちょっとひどい。
で、さらにオリヴィンに輝石などが加わったものが「橄欖岩 peridotite」になる。オリヴィナイトとは言わないのね。ぐちゃぐちゃ。

で、この(Mg,Fe)SiO4オリヴィンのうち美しいものをペリドットと呼ぶ。多くは緑で、その緑は鉄イオンによる発色。つまり純粋なフォルステライトだと緑にはならない。無色透明なフォルステライトのルースも売られているけど、それはペリドットとは呼ばないみたい。
ああややこし。

     *     *     *

で、このオリヴィンが、上部マントルを形成している。
上部マントルは、おおまかに地下60キロから660キロにわたってあり、上から橄欖石層、変形スピネル相、スピネル相と分かれている。そして最上部の橄欖石層の真ん中部分、地下100キロから300キロは流動性が高い。液体っつうことね。つまり、
 地殻の下、60キロから100キロは固体のペリドット。
 100キロから300キロは液体ペリドット。
 300キロから440キロがまた固体ペリドット。
ということになる。
下部マントルは「ペロブスカイト」と呼ばれるもので、超高温高圧で結晶構造が違っているらしい。「82.3%」はこれも含めてのことでしょうか。

うーむ。
地殻の下には何十キロにも及ぶ固体ペリドット層がある? その下は液体ペリドット? さらにその下はまた固体ペリドット? 上部マントルは透き通った緑のペリドットの世界?
だとしたらペリドットってすごくね?
もし地底探査船が作れるのなら、地殻を突き破ってペリドットのみの世界に行けるかもしれない。
ほんとかしら。

     *     *     *

ペリドットの最大産地はアメリカの「ペリドット・メサ」。膨大な橄欖岩マグマ(マントルそのもの)が噴き出した溶岩大地。25センチもあるペリドットの塊がごろごろしているらしい。こちら参照。
日本にも橄欖岩噴出地はあって、北海道日高山脈南端の幌満にあるアポイ岳は全山橄欖岩でできているとか。緑に輝いている山を想像したけど、そういうわけではなさそう。(そりゃそうだ)

地殻というのは分厚いので、マントルがそのまま噴き出すということはめったにない。普通はマントル上部でできたマグマでも、上昇するに従って橄欖岩は変化し、蛇紋岩や玄武岩になってしまう。けれど、プレートとプレートが激突する地点で、稀に地殻の底にあるマントル質が飛び出すことがある。そうすると橄欖岩がもろに地表に露出する。そしてあのきれいなペリドットが見られる、ということらしい。ペリドットは、一般の石とはかなり異なる、特別な石ということになりませんかね。

ダイヤモンドも、上部マントルの上部あたりで形成されたと言われていて、キンバーライトという橄欖岩の一種が地殻の亀裂などから高速で噴き上がり、それに守られて地上に出現すると考えられているようです。
ペリドットがペリドッタイトの一種のキンバーライトを生み、そのキンバーライトがダイヤモンドを生む。ペリドットはダイヤモンドの祖父なのです。(そなあほな)

まあ、誰も見たことがない、見ることができない世界のお話。実際はどうなっているのかは、人類にとってはおそらく永遠の謎。遠い宇宙は観察できても、足下の世界はどう逆立ちしても実際に観察することは不可能なんですねえ。

ペリドットは美しいだけでなく、そんな謎をほんの少しばかり明かしてくれる、神秘な石と言えるのではないでしょうか。


磨き石讃

2022-06-19 10:06:37 | 漫筆

石の美へのアプローチはいくつもあるようでして。
宝石が代表するように、色と輝きを求める道。まあ非常に正統的なものかも。
もう一方に、石の生成の姿を見せている母岩付き標本を愛でる道もある。玄人っぽい感じ。
さらには両方を求めて、母岩付きの美結晶を、という道もある。おお贅沢。今はツイッターなんかでもこういうのが主流のような感じ。皆様、審美眼も経済力もえらくハイレベル。すごいものです。
あちきはどれも好きです。どれかに絞れないからコレクションがとっ散らかって困る。いや困ってはいない。(まあカオスだね)

それらに比して、「磨き石」、特に不透明なものを愛でるのは、少しマイナーっぽい感じがある。タンブルにせよ、丸玉やエッグにせよ、ビーズやカボッションにせよ。
宝石派からは「キラキラしてないじゃない」と言われ、標本派からは「半人工物じゃないの」と言われ。
まあそう言われればそうかもしれませんけど。
でも、あちきはけっこう好きなのですね。不透明磨き石。比較的安いし。(それかよw)

石集めをしようと思い立って(とんだ踏み外しかな?)、一番最初に買った石が、前にも書きましたけど、アズライトの卵型磨き石。とても心惹かれたし、今も見るたびに不思議な気持ちになる石です。

確かに不透明な磨き石というのは、キラキラして澄んだ色をしていないし、母岩付き標本のように石の本来的な姿もとどめていない。
けれど、それがゆえに、そこに、「石そのものの存在的質感」とでもいうものが、現れている。


ムーカイト


ブラウンオパール


ラルビカイト

宝石系だと色や輝きに主眼が行く。石の組成や生成過程なんかはどうでもいい。その澄んだ色、きらめく光が第一になる。
原石派だと石の鉱物学的知見に気を取られる。これは稀少元素がどうたら、スカルンやらペグマタイトがどうたら、と考えざるを得ない。
けれど、磨き石だと、そういうものはあんまりない。ただそこに、加工されて、ぽんとある。それがゆえに、逆に石そのものの、質感・存在感といったものが浮き彫りになる。ような気がする。
いや、うまく言えないな。滑らかに磨かれた石の持つ、何か特別な存在感。
あちきらのまわりは、金属だのプラスチックだの木だの紙だのといったもので占められている。そうではない、何かどっしりした物質性、凝縮された色と密度が、丸みを帯びた滑らかな肌合いをもってそこにある。その不思議。
あるいは、普段は粗野で鈍重なものである石が、思わぬ変身を遂げて、本来持っている繊細な色と質感を表し出している。その不思議。
小さい頃、海辺や河原で、丸く艶々と磨かれた石を見つけると、妙に嬉しかった。そんな経験は誰もが持っているのではないでしょうかね。珍しいからというだけでなく、その色と艶の不思議さに、魅了されたのではないか。きれいな石を見つけてきて、せっせと磨いて、床の間に飾る、なんてことは、昔は誰もがやっていたなのではないか。子供たちの机の引き出しには、つるつるの石が入っていたのではないか。
何かそんな、とても原初的な嗜好が、磨かれた不透明石にはあるような気がするのですねえ。

     *     *     *

前にネットでカヴァンサイトの磨き石を見た時、「カヴァンサイトを磨いてどうする」と思ったのですけど、この前、原宿さんに行ったら、妙に色鮮やかな磨きタンブルがある。よくよく見るとカヴァンサイト。えらく心惹かれて、ほんの少しお高めだったけど買ったのです。

カヴァンサイトの青がとても美しく出ている。共生の沸石との色の取り合わせも素晴らしい。ちょっと七宝細工を思わせる。
こういう美は磨き石ならではのものですねえ。

そう言えば、原宿さんは磨き石中心。けっこう歴史あるお店であって、もしかすると少し前までは、天然石愛玩は磨き石が中心だったのではないかという推量が湧いた。もちろん原石標本マニアというのはずっといただろうけれど、磨き石を楽しむ人は多くて、「母岩付き美結晶」という贅沢派が増えたのは最近ではないだろうか。とちょっと疑った次第。違うかな。

    *     *     *

磨き石のもう一つの良さは、握って楽しむということ。
しかるべき大きさで、ずっしりした質感で、つるつる、ないし少しざらざらを残した触感。そして冷たさ。なんか落ち着きますよね。
色や模様を楽しみつつ、その色・模様が生まれてくる物質の神妙な造化を味わう。これがいいんですな。ルースや繊細な結晶ではこういう楽しみはない。
パワーももらえるかもしれない。

これ、プレセリー・ブルーストーンの磨き石。前に原石は掲載したのですけど、その後、あまり高くなく出ていたのを見つけて購入。なんかパワーがありそうに感じたので、握れるのが欲しくなって。
で、これ、ちょっと逸話があって、過日、高尾山に遊びに行きまして、登りはリフトだったのですけど、よしゃいいのに、下りは歩いた。(年寄りの冷や水乙w) けっこう大変な道でした。「こりゃ明日はばりばりの筋肉痛だな」と思って、その晩、ちょっと遊び心でこれを枕の下に入れて寝たのです。そしたら、唖然。次の朝、全然筋肉痛がない。ありえん。まあ、この石のおかげと断言はできませんけど。


まあ好き好きですけど。「石は滑らかに磨いた時に妙な魅力を持つ」ということは確かだと思うのですね。


石屋さんあれこれ

2022-06-18 11:30:05 | 漫筆

(失礼ながら敬称略)

昔2ちゃんねるの書き込みで、「石を拾ってきて並べておくと売れる」というのを見たことがある。ただの石でも買う人はいる。多くの人は石というものが好きなのでしょう。
天然石販売業の人・会社は世に多い。フェアとかショーとかに行くとびっくりする。
もちろんただの石を拾ってきて売っているわけではない。それなりの経験や知恵があるからやっていけているわけで。
しかし、基本的には誰でもできる。免許や認可がいるわけではない。
ある古い人の話では、昔は「物品税」というのがあって、宝石商も商品の宝石も登録制でいちいち申告が必要だったらしい。宝石以外の天然石はどうだったのかは知らない。古物商扱いかな。
まあ、今は誰でもできて、ネットを使えば匿名や片手間でもできる。コレクターがコレクションをぽちぽちと売っているケースもある。自由市場ですな。よいか悪いかは知らない。
くだんのある古い人は、「マルシェとか行くと、なんかヒッピーみたいなのがいっぱいだよ」と笑って言っていた。あちきもジジイだけど輪を掛けたジジイで、さすがに言うことも言葉も古い。あ、あくまでその人が言っていたことですよ。

百花繚乱は消費者にとっては嬉しいこと。種類も豊富になり価格も下がる。アヤシイところも増える危険性はあるけど、どうもあまりそういうことはないみたい。石業界には偏屈や変人はいても(おいw)悪人はあまりいない感じがする。
もっとも、以前ある石を買ったネットショップは、若い人だったのか、商売のイロハも知らないような感じで度肝を抜かれたことがありますけど。

百花繚乱なのでいろいろな個性がある。一人か二人でやっているところもあれば、会社組織になっているところもある。会社組織にできるというのはすごいことですな。実店舗中心のところもあれば、ネット販売専門のところもある。
がちがちの母岩付き鉱物標本ばっかのお店もあれば、ルースだけというお店もあり、磨き石が主体というお店もある。強気に超高級品ばかり取りそろえるところもあれば、100均ばりの大量安売り店もある。たくさんの種類の在庫を持っているところもあれば、少品種で勝負というところもある。
ネット専門店では、仕入れたものをぱっと売って、在庫はあまり持たないというスタイルもけっこう多いみたい。なかなかクレバーな商法かもしれない。けど、ちょっとカチンと来るのは、トップページに「カテゴリー」としていろいろな石の名前が並んでいるのに、クリックしてみると「sold」ばっかりというもの。あれ、やめてほしい。

ネットショップの中には、多くのファンがいて、更新されると瞬く間に「sold」の焼け野原になるところもある。すごいですねえ。鯉の餌を投げ込んだ池のような、というのはひどい譬えかな。あちきのようなジジイがもたもたしていると、まず買えない。SNSでは「スナイプ」と言うらしい。ライフルを構えておいて、ターゲットが頭を出したら即発射ということですな。数万円の高級品ばかり並べた店でそういうところもあるみたいだけど、あちきには無縁の世界。

更新も毎日のところもあればたまーにというところもある。「パーフェクトストーン」なんて休みなし。勤勉ですねえ。見ているだけでも楽しい。(買えよw) めったに更新しないところは「やる気あるのかしら」と思ってしまう。(新米のくせに傲慢だねえw)

     *     *     *

実店舗であちきがちょこちょこ行くのは、
クリスタルワールド五反田TOC店(ただし22年9月まで)
コスモスペース(原宿)(原石系は少ない)
新宿紀伊国屋1階東京サイエンス
なんですけど、なぜかというと、どの店も低価格品があるんですねえ。種類も豊富だし。特に五反田は600円のアポフィライトとか1600円のトゥグトゥップ石とか、唖然とするものがあって嬉しい。子供もよく見に来ている。

ネットショップは色取り取り。
石の種類ということで言えば、あちきの知っている範囲では「エヌズミネラル」と「Vec Stone Club」でしょうかねえ。こんなものまである、とか、こんなん聞いたこともない、とかいうのがいっぱい。「エヌズ」は標本のみ。「Vec」は意外なことにちょこっとアクセサリー・ルース系もある。
「エヌズ」はもしかしたら「日本一の鉱物屋」かもしれませんな。種類・質・価格帯の広さなど、どれも素晴らしい。25・30%オフ・セールは嬉しかったですなあ。財布は悲鳴を上げていたけど。
レアものということでは、「ミネラル・ストリート」もすごい。ただし在庫豊富というわけではない。「タケダ鉱物標本」もレアものは多い。特に国産ものはすごい。ちょっとサイトや買い方が不便で更新も少ないけど。

安さといえば、まあ「誠安天然石」「銀座東道」でしょうか。種類も豊富だし、とにかく安い。品質は自分で判断するしかないけど、それは何だってそうだし。
「Mineral Quest」も少種だけど安い。ペンタゴナイトなんて1000円とかで売っていたのでびっくり。あちきはピーターサイトを1600円で買いました。普通5000円くらいするぜ。

あちきがちょこちょこお世話になってきた「セルフクリエイション」は、在庫の種類が豊富で、価格も安い。有名商品も安いものを置いている。最近経営者交代があったけど、特に変わりはなさそう。あまり商売っ気はないけど、いいお店だと思いますねえ。内緒だけどここでしか売っていない石もあったりする。(内緒にすんなよw)

ルース系のショップはたくさんあるけど、あちきはあまり足を踏み入れないようにしているので、よくわからない。

あくまで新米の個人的感想です。
ほかにも素晴らしい石屋さんはたくさんあるでしょう。「ぜひここを」という方がいらっしゃったら教えてください。ただし安いとこね。(安いばっか言ってるなw)


あ、ちなみにくだんの古い人は、こうも言ってました。
「昔はマニア主体だったけど、今は子供がすごく多いね。しかも四、五万くらい平気で買っていく」
はええ。あちきより一桁多いではないですか。生意気。裕福なジジババがお金を出してくれるのかな。天然石業界はけっこう先が明るい?


日本最初の石コレクターは誰か

2022-06-12 10:54:23 | おべんきょノート

宗教的な意味づけを持つ石(縄文の石棒、神社のイワクラなど)やアクセサリー(勾玉など)を別にして、日本人が趣味として石を愛でたのはいつ頃からか。そんな疑問を持ってやんわりと調べてみた。

どうも、日本最初の天然石コレクターは、後醍醐天皇(1288-1339)らしい。文献に残る限りでは。
「異形の天皇」ね。相貌はあんまり特徴がないみたいだけど。

彼は王政復古に猪突猛進する傍ら、中国文化に傾倒し、様々な文物を入手・蒐集し、時に人に惜しげもなく配っていたという。その中に多数の「石コレクション」があった。いつもたくさんの石を持ち歩いていて、隠岐に流された際には、世話になった地元民たちにも石を分け与えたという。彼ら平民たちにすれば「こんなん、うちの畑にいくらでもあるぜよ」という感じだったろうけれど。
外国から買い込んで蒐集する。今のあちきらがやっていることを、七百年以上前にやっていたわけですな。
その中で、彼が最も愛したという石が遺っている。「夢の浮橋」と銘打たれたもの。隠岐流罪の時も、吉野逃亡の時も肌身離さず持っていたという。徳川美術館蔵。

《盆石中の王者として古来有名な品です。後醍醐天皇が笠置・吉野へ遷幸した際にも、常にこれを懐中していたと伝えられ、石底に朱漆で書かれた「夢の浮橋」の銘は、後醍醐天皇筆と極められています。銘の「夢の浮橋」は、『源氏物語』の最終巻である「夢浮橋」にちなんでいるとみられます。石は中国江蘇省江寧山の霊石と伝えられています。》徳川美術館


長さ28.8cm、高さ4cm、奥行5cm。「懐中」はちと無理じゃね? 江寧山というのは現・南京市の近郊らしい。
まあ、実物を見たわけではないから何とも言えないけど、ううむ……の世界。
現代の愛石家の解説によると、
《この石は、当時から有名石種であった、中国産の霊碧石とも見える真黒の石で、形は、いわゆる長石(ながいし)と言う名石形の石で、左に丸い小山があり、その前に平たい岡があって、右に延びるに従って、土坡(平野)があるという段石形の土坡石で雄大な景をもち、長年月にわたる、持ち込み味を深ませているものである。
この石を水平の地板などの上に置くと、底部の中央付近が少し浮き上がり、空間の出来る石なので、「夢の浮橋」の名がある。》「山水園」ホームページ

ちょっと見てみたくはある。(猫に小判猫に小判)
ちなみに、夢窓疎石を見出し重用したのは後醍醐。夢窓は日本の禅宗庭園作庭の祖となる人物で、石とは関係が深い。龍安寺のあの石庭だって夢窓がいなければ生まれなかった。
後醍醐は日本の石観賞文化の鼻祖と言えるかもしれない。(なんかすごい言葉使うじゃんw)

「夢の浮橋」は、その後豊臣秀吉・徳川家康へと伝わり、尾州徳川家収蔵となったという。けど、これちょっと不思議。秀吉はどうやってこれを手に入れたのだろう。
後醍醐は吉野に落ち延び、その末裔はなんとなく雲散霧消した。後醍醐は三種の神器は返しても、この秘蔵っ子を誰かに渡すことはなかったろう。秀吉とこの幻の南朝を繋ぐ何かがあったのか。どうも秀吉というやつ、アヤシイ。土木技術の職能民集団と関係が深かったのは確かだし。

後醍醐のコレクションが完全な形で残っていたら、面白かったでしょうね。

ちなみに中国では北宋・南宋時代に石鑑賞が盛んになり、11世紀の文人・画家・収集家にして奇人・米元章(1051-1107)、12世紀の北宋最後の皇帝徽宗のコレクション「花石綱」、13世紀前半の画家・趙希鵠による『洞天清録』などが知られている。

付記:ただし、後醍醐の「夢の浮橋」の前に、親鸞が京都・西洞院で発見した「本願霊石」なるものがあるという説もある。高野山巴陵院に現存するけれど、これに関する史料はネットでは見つからなかった。親鸞が石コレクターだったということになるかどうかは不明。
ほかに、「文書に残る最古の愛玩(?)石」として9世紀発見の「千里浜のさざれ石」というものがあったらしい(1977年消失)。貞観5年(863年)の頃、紀伊の国千里の浜で、夜な夜な光っていた石を浦人が拾って、その後有力者の間で伝承されたもの。こちら参照。けど、これは「怪異の石」で、愛玩石というのとはちょっと違うでしょうね。

     *     *     *

日本の歴史的名石というのがありまして。産地のほうではなく個別ものね。
後醍醐天皇コレクション「夢の浮橋」はその筆頭。
その次くらいに来るのが、西本願寺蔵の「末の松山」。

後醍醐と同じくらい中国大好きだった足利義政が、腹心の相阿弥から献上されたもの。相阿弥は中国から来た禅僧から入手したらしい。その後、織田信長の手に渡る。まあ、強奪したのでしょうね。そして信長と石山本願寺が戦争し和議をした際、「石山城」(後の大阪城)を明け渡す代償として、名品の茶碗とともに本願寺に贈られた、と言われている。茶碗と石で城を買ったという見方もできなくはない。
参考画像。

まあこれも……。

「末の松山」にはもう一つ名石があって、徳川美術館蔵のもの。こちらは徳川家康の遺愛品とのこと。
参考画像。

信長も秀吉も家康も、けっこう石好きだったようですな。文人大名の小堀遠州なんかも。
もともとは茶の湯と一緒に「文人趣味・唐風趣味」の一環だったわけで、後醍醐天皇は「闘茶」というお茶の原産地当てゲームに熱狂したとか。小堀遠州は「重山」という自身のコレクションを「茶席に飾るには最高の石」と激賞したとか。遠州のコレクションなんて残っていないのかな。
ちなみに以前、秀吉が作らせたという醍醐寺三宝院の庭を見たことがあるけど、思わず噴き出しましたねえ。「いくらいい石ったって、こんなに集めて並べ立てるんじゃあねえよ」と。秀吉は見る目はあるんだろうけど、幽玄なんてものはちっとも理解していなかったようで。

けれどやがて愛玩石は茶道とは別々になって、江戸時代には「弄石」なんていうけったいなものができてくる。

     *     *     *

まあ江戸人というのは、暇だったのか、いろいろな趣味芸事を発展させた。さらには和算、からくり仕掛けといった科学の先駆となるようなものも生み出している。江戸人恐るべし。
「弄石」は京都などを中心に、山野河海で珍奇な石を集め、会を開いて品評をしたりしたらしい。結晶とか鉱物標本というものではなく、不思議な模様の石や「景色」を漂わせる石が中心。
そこで登場するのが日本最古の考古学者にして鉱物学者、木内石亭。
まあ、この人、すごいみたい。簡単にまとめると、

1725(享保9)-1808(文化5)、近江国坂本村(現滋賀県大津市坂本)生。
近江南部は名石・奇石の産地で「弄石」趣味が流行していたが、石亭も幼時から珍奇な石を好み、物産学者津島如蘭、田村元雄(藍水)に学ぶ。藍水同門にはあのエレキテルの平賀源内(別名風来山人・貧家銭内[ひんかぜにない])がいた。諸国を旅し2000種を超える石を収集、独自に分類して『雲根志』『蔵石目録』『曲玉問答』『天狗爪石奇談』『竜骨記』などを著した。また「弄石社」を結成し、諸国の愛好家を結集、指導的役割を果たした。享和3年(1803年)の弄石社名簿には156人の弄石家の名が記されている。
石亭は学問的な態度を持ち石鏃の人工説も唱えており、日本の鉱物学・考古学の先駆者とも評される。シーボルト『日本』の石器・勾玉の記述は彼の業績の引用。
近代の文献として中川泉三編『石之長者木内石亭全集』全6巻、斎藤忠『木内石亭』がある。

なかなかの怪物ですな。時々こういう人って出る。石亭コレクションは残っていないのでしょうかね。

「弄石」は明治以降は「水石」「盆石」などの呼称で庶民の間で生き続けたらしい。水石・盆石は石の飾り方の名称でもあり、流派の名前でもあり、複雑。
以前は骨董屋の店先によく大きな岩石が置いてあった。誰が買うのだろうと思っていたけど、弄石の伝統を脈々と継いでいる人たちがいたのでしょうね。

なお、日本の石鑑賞には、もう一つ、平安以来の「州浜」の伝統(「蓬莱台」「島台」)があるらしいけれど、それは不明なところが多いのでパス。


いいものが、あたったあ

2022-06-11 21:11:48 | 漫筆

(なんちゅうタイトルだよw)

抽選に当たるなどという経験は130年生きてきて(妖怪か?)たぶん二度か三度しかない。宝くじなんか当たらないしね。(君はそもそも買わないだろw)
先日、ツイッターでプレゼントキャンペーンがあって、応募しました。「フォロー&リツイート」というお手軽な方式。ごく時たまやっております。
そしたら、godogstone という石屋さんのプレゼントになんと当選してしまいました。

この石屋さん、なんと、「レインボー・ラブラドライト」専門店。「ラブラドライ党」を掲げて、この石の魅力を広く伝えようとしているらしい。
何度か書きましたけど、あちきもムーンストーンから導かれて、この七変化の魅力に取り憑かれているところ。このお店のことはつい先頃知ったのです。
すごいじゃん、と思って注目しているのですけど、毎日更新というわけではない。不定期でツイッターで予告が出る。で、行ってみるともう「sold」の焼け野原w。あちきのようなもたもたしているジジイには買えないのです。
ちなみにこういうネットショップというのはいくつかあって、この前なんかパーフェクトストーンさんではわずか3分で更新分すべて sold になった。唖然。
こういうお店では物をじっくり見て、他と較べて、なんてやっていたらだめですな。更新時刻きっかりにアクセスして、ぱっと見てぱっと買う。でないと買えません。それでもジジイのふるえる手で(よっぽどジジイだなw)操作しているとアウト。恐るべきものです。

賞品は小品の(つまらん)クリア・レインボーラブラドライト。何ちゃらカット。(おぼえろよw)
小さいけど、すごいパワーです。青を中心にして様々な色が浮き上がる。
あちきの写真じゃ土台無理なんだけど。



多少七変化がわかる動画はこちらで。

やっぱいいですねえ。この石。
しかしこれを「レインボー・ラブラドライト」と呼ぶのは、やはりもったいない。ラブラドライトというとどうしてもあの不透明で表面が輝くやつをイメージしてしまう。鉱物名的にも「アンデシン・ラブラドライト」かもしれないし。「ムーンストーン」とも違うし。
「ウォータークリア・レインボー・斜長石」(どうして最後だけ日本語になるw)というのが一番忠実だろうけど、そんなん長くてね。(斜長石はプラジオクレースだよ、いいかげん覚えなさい)
「オーロラストーン」なんていかがでしょう。(君は石屋か?w) この不思議な、どこからともなく生まれる色光は、オーロラみたいなんですよねえ。

「ラブラドライ党」のgodog さんにはぜひ頑張っていただいて、この石の素晴らしさをもっと世に広めていただきたいと願うものであります。あ、もっと買いにくくなるかw