クイズです。全地球で最も多い石は何でしょう。
けっこう難しいクイズかもしれない。
まあこれちょっとレトリックのトリックがあって、「多い」は体積比、「石」は「鉱物」「元素」ではない。
まあそれでも圧倒的に「一番多い石」があって、そのことは一般にあまり知られていない。それは何でしょう。(勿体ぶるな)
答えは「橄欖岩」。(あら)
普通「最も多い石」というと長石あたりを思い描くけれど、実は橄欖岩。
地球全体積中、なんと82.3%が橄欖岩。玄武岩は1.62%、花崗岩0.62%、金属15.4%。これで99.94%となる。余の岩石は0.06%ということになる。
なんでこんなことになるのかというと、「マントル」があるから。
マントルは橄欖岩からできている。だから量がめちゃめちゃ多い。
「そりゃずるだぜ」「マントルって岩石と言えるのか?」という反駁もあるでしょうけど、多少溶けていようが、結晶構造を持ち、他の鉱物も含んでいるから、岩石でしょう。
橄欖岩の主要構成鉱物は橄欖石。その美しいものがペリドット。
しかし、信じられますかねえ。地球の大部分は「橄欖岩」でできている。地球は「ペリドット」の星だぜえ。橄欖岩とペリドットはイコールではないけど、マントルはかなり純度が高いだろうから、似たようなものだ。(ほんとか?)
と、これは『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著、講談社ブルーバックス、2017年)の受け売り。この本、わかりやすくてものすごく面白いです。
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透明緑の美しい石、ペリドット。橄欖(オリーブ)というだけあって、少し渋めの独特な色。もっとも「オリーブ」を「橄欖」としたのは誤訳で、橄欖は中国の別の植物。とのこと。
これはパキスタン産原石。
お安いルース。これであちきのルース禁制は崩壊したのでした。
何度か上げたけど、このさざれ石の美しさ。いいさざれ石はいいです。
超美品結晶は別として、ペリドット自体はそれほど高くない。
天然石業界のダイ〇ーさんでは、5ミリくらいの玉のブレスレットが1000円台で売っていたりする。それでも透き通っていて美しい。
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けど、こやつ、オリヴィンと言われたりフォルステライトと言われたり、わけわからん。
オリヴィン=橄欖石は、シリケート SiO4 が単独(ネソ)でマグネシウム、鉄などと結合したもの。グループ名で、やたらと定義が広い。
M SiO4 M=Mg,Fe,Mn,Ca
その構成員でマグネシウム単独のやつがフォルステライト(苦土橄欖石)
Mg2SiO4
鉄単独のやつがファイアライト(鉄橄欖石)
Fe2SiO4
ところがオリヴィンの多くはフォルステライトとファイアライトの固溶体(だいたい鉄が5~40%)なので、普通はこの固溶体をオリヴィンと呼ぶ。なんかスキャポライトでも似たようなことがあったな。だからわけわからなくなる。
オリヴィン=〇SiO4
オリヴィン=(Mg,Fe)SiO4
こりゃちょっとひどい。
で、さらにオリヴィンに輝石などが加わったものが「橄欖岩 peridotite」になる。オリヴィナイトとは言わないのね。ぐちゃぐちゃ。
で、この(Mg,Fe)SiO4オリヴィンのうち美しいものをペリドットと呼ぶ。多くは緑で、その緑は鉄イオンによる発色。つまり純粋なフォルステライトだと緑にはならない。無色透明なフォルステライトのルースも売られているけど、それはペリドットとは呼ばないみたい。
ああややこし。
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で、このオリヴィンが、上部マントルを形成している。
上部マントルは、おおまかに地下60キロから660キロにわたってあり、上から橄欖石層、変形スピネル相、スピネル相と分かれている。そして最上部の橄欖石層の真ん中部分、地下100キロから300キロは流動性が高い。液体っつうことね。つまり、
地殻の下、60キロから100キロは固体のペリドット。
100キロから300キロは液体ペリドット。
300キロから440キロがまた固体ペリドット。
ということになる。
下部マントルは「ペロブスカイト」と呼ばれるもので、超高温高圧で結晶構造が違っているらしい。「82.3%」はこれも含めてのことでしょうか。
うーむ。
地殻の下には何十キロにも及ぶ固体ペリドット層がある? その下は液体ペリドット? さらにその下はまた固体ペリドット? 上部マントルは透き通った緑のペリドットの世界?
だとしたらペリドットってすごくね?
もし地底探査船が作れるのなら、地殻を突き破ってペリドットのみの世界に行けるかもしれない。
ほんとかしら。
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ペリドットの最大産地はアメリカの「ペリドット・メサ」。膨大な橄欖岩マグマ(マントルそのもの)が噴き出した溶岩大地。25センチもあるペリドットの塊がごろごろしているらしい。こちら参照。
日本にも橄欖岩噴出地はあって、北海道日高山脈南端の幌満にあるアポイ岳は全山橄欖岩でできているとか。緑に輝いている山を想像したけど、そういうわけではなさそう。(そりゃそうだ)
地殻というのは分厚いので、マントルがそのまま噴き出すということはめったにない。普通はマントル上部でできたマグマでも、上昇するに従って橄欖岩は変化し、蛇紋岩や玄武岩になってしまう。けれど、プレートとプレートが激突する地点で、稀に地殻の底にあるマントル質が飛び出すことがある。そうすると橄欖岩がもろに地表に露出する。そしてあのきれいなペリドットが見られる、ということらしい。ペリドットは、一般の石とはかなり異なる、特別な石ということになりませんかね。
ダイヤモンドも、上部マントルの上部あたりで形成されたと言われていて、キンバーライトという橄欖岩の一種が地殻の亀裂などから高速で噴き上がり、それに守られて地上に出現すると考えられているようです。
ペリドットがペリドッタイトの一種のキンバーライトを生み、そのキンバーライトがダイヤモンドを生む。ペリドットはダイヤモンドの祖父なのです。(そなあほな)
まあ、誰も見たことがない、見ることができない世界のお話。実際はどうなっているのかは、人類にとってはおそらく永遠の謎。遠い宇宙は観察できても、足下の世界はどう逆立ちしても実際に観察することは不可能なんですねえ。
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ペリドットは美しいだけでなく、そんな謎をほんの少しばかり明かしてくれる、神秘な石と言えるのではないでしょうか。