貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

おおつごもり

2022-12-31 20:04:19 | 漫筆

一年も終わりですね。
いやあ、とんでもない一年。
疫病と戦争というのは黙示録的世界ではないですか。
けれど社会は崩壊していない。人々はだいたい普通に暮らしている。
すごいものですね。

大晦日にふさわしい石……なんて、ないですわな。
で、これまで登場しなかった諸君の中から、一つ。

ゴシェナイト・スケルタル。無色透明のベリル(緑柱石)の蝕像。
澄んだ氷のよう。何があろうとこういう澄み通った心でいたい。
侵蝕を受けてもなお、いやそれがゆえにより精緻精妙に輝きたい。

お付き合いくださった方々、ありがとうございました。よいお年を。


主な鉱物の比重リスト[おべんきょノート]

2022-12-31 12:26:44 | お便利メモ

重たい石というものがある。科学的に言うと比重が大きいということね。(そんなん誰でもわかるわい)
手に持ってずっしりと来る石というのはいい。まあ逆に軽いのも面白いけど。
けど、石集めしていてあんまり比重ということは気にしない。意識するのは鉛の鉱物くらいかな。翡翠なんてずっしりとした感じがあるから重いんじゃないかな、などと思ったりもして。
で、ちょっと調べてみた。鉱物全部をリストアップするわけにも行かない。石集めでよく聞くものを勝手に選んでリストにしてみました。
ちなみに、大陸地殻の比重は2.7、海洋地殻は3.0、マントル橄欖岩は3.3と言われている。

◆とにかく重い連中
プラチナ 21.5
金 15.2~19.3
銀 8.9
水銀 13.5

  純鉄は自然界にほとんと存在しないけど7.8くらい。
  まあね、そりゃそうだの世界。

◆鉛は重い
ガレナ 7.6
セルサイト 6.6
パイロモルファイト 7.0


ガレナ。重くてピカピカしてとてもいいです。


パイロモルファイト。繊細なので重いとは思わなかった。

◆鉄は重いのも軽いのも
マグネタイト 5.2
パイライト 5.0
ゲーサイト 4.3
ヴィヴィアナイト 2.6

  ヴィヴィアナイトは水晶より軽いんですねえ。不思議。

◆銅も重いのも軽いのも
キュープライト 6.1
カルコパイライト 4.2
マラカイト 4.1
アズライト 3.8

  アズライトって重厚な感じがあるけどそれほど重くはない。

◆その他金属系の連中
シナバー(水銀) 8.1
バナディナイト(バナジウム) 6.8~7.1 
ウルフェナイト(モリブデン) 6.5~7
キャシテライト(錫) 7.0
シェーライト(タングステン)6.1
ジルコン(ジルコニウム) 4.7
スティブナイト(アンチモン) 4.6
バーライト(バリウム) 4.5
ルチル(チタン) 4.2
セレスタイン(ストロンチウム) 4.0
ロードクロサイト(マンガン) 3.7
エリスライト(コバルト) 3.06

◆一般的な美石で割合重い(恣意的選択です)
コランダム 4.0 (ルビー・サファイア)
ガーネット 3.7~4.3
ダイヤモンド 3.6
カイヤナイト 3.6
トパーズ 3.5
エピドート 3.4
ペリドット 3.2
フローライト 3.175 - 3.56
アパタイト 3.2
ジェイダイト(本翡翠) 3.3
スポデューメン(リチア輝石) 3.1~3.2
ホーンブレンド(角閃石) 3.0~3.5
トルマリン 2.9~3.1

  ダイヤモンドというのはそんなに重くないんですね。
  フローライトやアパタイトはなんとなく軽いと思っていたけど違うんだ。失敬。
  翡翠は特に重いということはないみたい。ううむ。

◆一般的な美石で軽いほう(同前)
ベリル 2.63~2.92 (エメラルド、アクアマリンなど)
アイオライト 2.6
アラゴナイト 2.9
カルサイト 2.7
長石 2.6~2.8
沸石 2.1~2.3

◆石英御三家
クォーツ 2.7
カルセドニー 2.6
オパール 2.1


最も軽いのはオパール、沸石、硫黄あたりですか。2.1くらい。
ガーネット、コランダム、ジルコンあたりが意外と重い。
重ければ偉いというわけではないけれど、密な質感があるとは言えるかも。屈折率も一般的には高くなるらしいから、見た目に美しそう。

待てよ。石は重さで表示することが多い。特にルースは。同じカラットなら重い石は軽い石より小さいということになる。水晶の3カラットはルビーの3カラットより大きい。って何か変な気がする。まあ当たり前か。
案外面白いものですね。


クリノヒューマイト

2022-12-28 20:25:20 | ややレア

クローン・ヒューマノイドだと? (ちょっと違い過ぎるだろ)
はあ。ヒューマイトというのは人名ヒューム由来なのね。ヒュームといえばあの「懐疑主義のお化け」。「99回やって同じ結果が出ても100回目は違うかもしれない」とかね。あちきなんかは電卓で計算すると3回やって3回とも違う。(それ懐疑論と違う) 人間の懐疑精神というのは恐ろしい刃で、とことん疑うと何も証明できなくなる。5分前には世界は存在しなかったとかね。いやあちき自身が本当に存在するのかどうか。(何の話だよ)
でもこのヒュームさんは全然違う人みたい。(要するに全然関係ない話ね)
まあとにかく変な名前ですね。「新鉱物」「レア」っぽい扱いを受けているらしい。

     *     *     *

Clinohumite。和訳すれば斜ヒューム石。(Mg,Fe)9(SiO4)4(F,OH)2。ネソ珪酸塩(単独派)。
ヒューマイト・グループの中のヒューマイト・サブグループに属する。で、ヒューマイトという名前はまたまたグループ名としても単独鉱物名としても使われるのでしばしば話がぐちゃぐちゃになる。こういうのやめて。

ヒューマイト・サブグループの鉱物は以下。
 ヒューマイト Humite                 Mg7Si3O12(OH)2
 クリノヒューマイト Clinohumite           Mg9Si4O16(OH)2
 ハイドロキシクリノヒューマイト Hydroxylchondrodite Mg9(SiO4)4(OH)2
 ノルベルジャイト Norbergite             Mg3SiO4(OH)2
 コンドロダイト Chondrodite             Mg5Si2O8(OH)2
 ハイドロキシルコンドロダイト Hydroxylchondrodite  Mg5(SiO4)2(OH)2

なんか全部おんなじじゃね?(よく見なさい)

「ハイドロ」は近年の新発見でそれ以前は4種とされていた。
といっても詳しく分析しないと識別はできないとのこと。じゃあみんなヒューマイトでいいじゃん。(鉱物学はそういうわけにはいかん)
コンドロダイトというのもコンドライト(隕石)とコンドーしやすい(つまらん)名前ですね。ノルベルジャイトはノーバージャイトと書くべきかも。

クリノヒューマイトは19世紀にすでに発見されていて、基礎的な「造岩鉱物」とされてきたけれど、1980年代後半に宝石質のものが出て、レアストーン扱いになった。色は赤・橙・黄など。
マグネシウムが豊富なスカルン鉱床によく出るが、火山噴出物、変成橄欖岩、超塩基性複合体などからも出ることがある。
「フォルステライトMg2SiO4構造をもつ層と、ブルーサイトMg(OH)2構造をもつ層とが互層している」という。
大雑把に言えばペリドットの水煮ね。(またかよ) そういう意味ではサーペンティン(Mg,Fe)6Si4O10(OH)8 に近い。
とはいえ、造岩鉱物の割には無名。少ないのかな。そしてそんな造岩鉱物が透明の結晶になるのは珍しくて、つまりレアということになる。

     *     *     *

パーフェクトストーンさんでこの「レアストーン」が千円台とお安く出ていたので思わずポチっと。ポチッてから1桁間違えてないかと不安になったのは内緒だあ。(誰に内緒だよw) まあ0.1ctとチビチビですから妥当なのかな。2ct とか3ct とかの大きめのものもあるようですけど、そういうのはとても高い。

美しいカットルース。輝きもなかなか。少しインクルがある。
ところがこれ、よく色がわからない。基本は淡いオレンジだけれどバイオレットが混じる。単斜晶系なので方向変色するのだろうか。
おまけに写真に撮れない。肉眼だとふんわりした色なのに、どぎつくなったりする。
上の1枚目が一番肉眼に近いけど、もっと軽やかに明るい。下の2枚は少し強い光を当てている。そうすると肉眼でもどぎつくはなる。けどこれほどおどろおどろしい感じではない。



あちきの技術がへたなのかと思って、パーフェクトストーンさんの商品写真を見直したら同じようにどぎつく写っている。どういうことなのかさっぱりわからない。
そして内部はけっこうわちゃわちゃっとしている。輝石のわちゃわちゃに似ている。小さな結晶が集まっているのか。「フォルステライト構造とブルーサイト構造とが互層している」せいなのか。高質な純粋ものだと違うのかもしれないけど、あちきはこういうの好きです。
どうも不思議な石です。一見、オレンジサファイアに似てるかなと思ったけど、もっと複雑で変。とても面白い。

クリノヒューマイトとかボーウェナイトといったものは、「広く見られる造岩鉱物なのに、めったにない透明なもの」ということでも価値があるのでしょう。どうやったらこんな純粋なものができるのか、不思議ですねえ。

 


ピーコック・オア

2022-12-23 09:43:51 | 単品

昨日、ちょっと肉体労働をして疲れたので久しぶりに銭湯へ行ったら、「ゆず湯」だった。ああ、冬至だったのね、と。いい香りで嬉しかったですねえ。
というくらいで、日本ではあまり冬至のお祭りというのはない。ゆず湯に入るというのはお祭りではないですな。太陽様が「復活」する日なのに、なぜだろうとちょっと不思議。地方へ行くと「里神楽」というのがあってなかなか素晴らしいのだけど、あれは冬至のお祭りじゃないしね。

そういう意味では、クリスマスはありがたいものかも。あれがなかったら冬はひどく地味になりそう。
去年もクリスマスにかこつけて「クリスマスツリーの石」と題してビスマスを取り上げましたけど、今年も悪乗りで。

ピーコック・オア。孔雀の鉱石。ちょっとド派手だけどきれい。







動画はこちら

ピーコック・オアというのは通称で、鉱物は
 斑銅鉱 ボーナイト Bornite Cu5FeS4
 黄銅鉱 キャルコパイライト Chalcopyrite CuFeS2
のいずれか。なんかほとんど同じに見えるけど。
本来は斑銅鉱で表面に自然に虹色光沢を見せるものを指したけれど、今は黄銅鉱の表面を酸で処理して同様の輝きを出したものが多いという。これも石屋さんのラベルでは「黄銅鉱(斑銅鉱)」と日和っていたけど、たぶん黄銅鉱の酸処理でしょう。まあ何かを蒸着させたものではないからいいでしょう。水晶だって酸で洗うしね。(ちょっと違くね?)

Chalcopyrite は「カルコパイライト」ないし「キャルコパイライト」と読むらしい。めんどい。
ちなみに Aurichalcite(水亜鉛銅鉱)も「オーリカルサイト」だと mindat には録音付きである。なんかカルサイトとまじゃっちゃいそう。過去記事直さなきゃ。
「カ」なのか「キャ」なのかも悩ましい。「カルカンサイト」を「キャルキャンサイト」と書くのはなんかうざい。カルサイトをキャルサイトと書く人はいない。しかし猫はキャットであってカットではない。(こまけえこたあAA略)

銅を主要成分とする鉱物はたくさんある。こちら。青が美しいものが多いけど、この二つはきんきらきんですね。

まあとにかく、この絢爛豪華はすごいものです。


琥珀

2022-12-18 11:45:06 | 単品

ちとネタ切れで更新が少なくなってますね。わざわざ訪れてくださった方には申し訳ごじゃりません。(一応気にしてるんだw)

     *     *     *

「阿房列車」という名作で鉄オタの道を拓いた内田百閒大先生のエッセイに「琥珀」というのがある。
幼い内田栄造君は琥珀という石が松脂からできるということを知った。栄造君の家は造り酒屋なので樽の隙間を塞ぐための松脂が置いてある。職人にそれを溶かしてもらって、地面に穴を掘って埋めた。けれどわくわくして夜も寝られない。翌朝早々に寝床から抜け出して地面を掘り返してみた、というもの。……ダイジェストにすると全然面白くないね。(名作随筆というのはそういうものだ)

琥珀はしばしば「宝石」扱いされるけど、鉱物ではない。じゃあ何だ、と言われると戸惑う。化石? 化石というのは何だ、と言われるとまた戸惑う。
まあ要するに樹脂。地中深くの高温高圧で石のようになったもの。硬度が高いものをアンバーと言い、生焼け(は?) のものを「コーパル」と言う。らしい。
古代ギリシャでは「エレクトロン」と呼ばれた。太陽の光の意味。これを擦ると静電気が発生するので、近代になって電気のことを「エレクトロニシティ」と呼ぶことになった。そうです。へえ。
子供の頃あちきたちはセルロイドの下敷きをこすって、友達の髪の毛を逆立てさせて遊んだ。今の子供たちはそんな遊びをするのかな。セルロイドも樹脂だわな。

化石は守備範囲外ということになっているので、買うつもりはなかった。のだけど、あちこちで見るし、蛍光の色がすごいというし、歴史ある「宝石」でもあるので、まあ一つは持っていてもいいかな、などと思って、セルフクリエイションさんで美しそうなものがあったので他のものと一緒にぽちっ。(禁制みたいなのを作っておきながら節操なくそれを破るのがお得意みたいだね)
メキシコ産「ブルーアンバー」。けっこう大きい。



軽い。ものに当てても石のような高質な音はしない。硬度はあるというけど、どことなく手触りが柔らかい。不思議。冷たくないせいか? いや、どうも手は対象の質というものを敏感に感じ取っているらしい。人間の手の繊細さ、敏感さはすごいものです。

通常の光では、かなり真っ黒。少し強い光だと中が透ける。ウイスキーの色ですな。もじゃもじゃしていて美しい。そしてごくわずかな部分が青く見える。

透過光だと、かなりもじゃもじゃがはっきり浮き出る。

そして蛍光。鮮やかな青だけれどこれももじゃもじゃに蛍光する。

まあこの変身ぶりは見事なものです。知りませんでした。

琥珀もいろいろあって、奥が深そう。
よく知られているのが虫入りですね。恐竜家族のアイディアの発端となったやつ。(全然話が違ってるよ) いくら完璧なものが入っていてもDNAを採るのは無理らしいけど。
逆にあんまりすっきりしたものだと石油系樹脂と似てしまうような気がする。こういうもじゃもじゃ不純なのが返って味わいがあって良いように思えます。