ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

格付け会社ってどんな会社・・・S&Pパリ・オフィス見学記。

2011-08-22 21:45:07 | 経済・ビジネス
スタンダード&プアーズがアメリカの長期国債の格付けを引き下げたことにより、ドルの独歩安(当然、円高)、株の乱高下が引き起こされています。以前から格付け会社の発表する国債格付けが下がったといっては、債券市場での利回りが上がったりしています。では、その格付け会社はどのような組織なのでしょうか。一般的にはあまりメディアに登場しないだけに、いっそう神秘的な存在として、その格付けが半ば神格化されてしまっているような気もします。その結果、一企業による格付けに国家が振り回されている・・・

「ガイトナー長官はS&Pによる米国債格下げについて『非常にひどい判断』と指摘。『彼らは基礎的な米政府予算の計算に関する知識不足を露呈した。わたしは、彼らが今回の財政計画合意から間違った結論を出したと考える』と語った。」(7日:ロイター)といった記事や、「米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は7日までに、同社の米国債格下げの判断に対し、米財務省が財政赤字の算定で2兆ドル(約157兆円)の間違いがあると反論したことについて、『格付けは主に将来3~5年(の見通し)で決めている』とした上で、『判断には影響しなかった』と強調した。」(8日:時事通信)という記事もありました。また、「米司法省、金融危機までの数年間にスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が行ったモーゲージ証券の格付けの妥当性について調査」という見出しが『ニューヨーク・タイムズ』に出ていると、ロイターが伝えていました(18日)。格下げされた国は、反論・反駁・反撃したくなるのでしょうね。

では、格付け会社(S&P、ムーディーズ、フィンチなど)とはどのような会社なのか、のぞいてみたい気がしますね・・・『ル・モンド』もそう思ったのかどうか、S&Pのパリ・オフィスを訪問したようです。社員へのインタビューも含め、社内の様子を紹介しています。20日の電子版です。さっそく、のぞいてみましょう。

8日、世界各国の証券取引所で株価が大幅に値を下げた。5日にアメリカ長期国債の格付けを格付け会社(l’agence de notation)、スタンダード&プアーズ(S&P)が引き下げたことが原因だ。いたるところがパニックに陥った。その中で、S&Pのパリ・オフィスは例外だ。そこでは皆、自信を持っているようだ。「社内的には、確かでポジティブな判断だと社員たちは受け取っている。アメリカ長期国債の格付けを引き下げたことはS&Pがどこからも影響を受けていない、独立した組織であることを物語っているからだ」と、S&Pのヨーロッパ地区責任者、Carol Sirouは自賛している。

S&Pパリ・オフィスの静けさは、証券取引所の喧騒と好対照をなしている。「ここは蜂の巣じゃないですから」と、広報担当のArmelle Sensは語っている。赤い椅子がくすんだグレーのカーペットとコントラストをなしている新しいオフィスを彼女が案内してくれた。しかし残念ながら、ドアを開けるのに必要な彼女の社員カードも、アナリストたちの部屋のドアを開けることはできなかった。しかも、その部屋の入り口には監視カメラが取り付けてある。「秘密主義というわけではなく、機密保持のためなのです」と、彼女は含みを持たせて語った。

しかし、各国のデータが閲覧できるというわけではない。パリ・オフィスでアナリストたちが行っているのは、S&Pによる分析を希望する銀行や企業の業績について検討することだ。例えば、金融担当のAurélie Thiellet。アナリストたちの部屋で会ったが、そこには特に変わったものは何もない。あるのは、コンピューター、電話、新聞くらいだ。Aurélie Thielletは、大学でマクロ経済学と金融を学んだ後、2001年にS&Pに入社。その後、定量・定性のデータを収集したり、担当する銀行の経営陣に会ったり、会議をアレンジしたりして働いてきた。

パリ・オフィスのトップはCarol Sirouなのだが、彼女をスタッフはファースト・ネームで呼び、親しみのある語法(tutoiement)で話しかけている。彼女は、「アナリストはつねに二項式(二重チェック)で作業をしている。同じ書類を異なった視点で見ることは大切なことだ。また、何年も同じスタッフが同じ企業を担当することはない。ローテーションを行っており、そのことでプレッシャーを削減することができる」と語っている。アナリストとして企業を担当すると、中小企業を経営しているようなプレッシャーを感じることがあり、利害の対立を避けるため、ローテーションなどを実施しているそうだ。彼女の下で90人のアナリストが働いているが、誰もが入社の際18ページの書類にサインをしなくてはならない。その書類に記載された規則により、アナリストやスタッフは、担当する業種の株を保有することを禁じられている。他業種の株であっても会社に申告する義務がある。そして、クライアントからいかなる利益供与も受けてはならない。

「昼食にも規制がある。クライアントに報告をしっかり行う際には、丸一日かかるのが普通だ。そこで、昼食に誘われることがよくあるのだが、その食事代は1人25ドル(17ユーロ:約1,900円)を超えてはいけない。このような規定はよくからかいの対象になる。特に食事の場でさまざまなことが決まることの多いフランスでは」と、細く黒いフレームのメガネをかけ、紺のジャケット、グレーのパンツを穿いたAurélie Thielletは語っている。

しかし、食事のテーブルで多くのことが決まるフランス文化など、S&Pはまるで気にかけていない。Aurélie Thielletの直属の上司はマドリッドにおり、その上の管理職はロンドンやフランクフルト勤務だ。共通の言語は英語で、“Financial Times”紙や“Crédit Week”誌が読まれている。七つある会議室は、それぞれパリの公園の名前が付けられているが、ある社員は“les Sept Nains”(七人の小人)の方が合っていると言っている。その七つの会議室では、ペーパーボードはスクリーンとビデオカメラに取って代わられている。格付け発表の後、テレビ会議で委員会が行われるのも、この青白い明かり下、全体的に冷たい印象のある会議室においてだ。

「格付けとは、借り手がその借金を返済する能力があるかどうかについての意見であり、それ以上の何物でもない。格付けは、その企業担当のアナリストによって選ばれ、召集された5人から7人によって行われる。つまり、毎日その企業を注視しているアナリスト・グループが格付けを行うのではなく、合議制で決められるのだ」と、Carol Sirouは一語一語区切りながら、力説した。格下げに同調できないアナリストは、その格下げに反対することもできる。格付けの決定にはエゴや利己的考えが入り込む余地はなく、そこには価値あるアイデンティティしかない。「S&Pによる決定」(C’est S&P qui décide)というアイデンティティであり、あたかもスローガンのように聞こえてくる。

「ここでは、すべてがアメリカ流だ。フレックス・タイム制を取っているが、その分結果には大きな期待がよせられる」と、Carol Sirouは述べているが、Aurélie Thielletも「子どもたちの世話をするため、週三日の勤務だが、その三日間で35時間働いている」とそのことを裏付けている。こうした労働条件と他業種より良い給与が、就職希望者を惹き付ける。履歴書(CV)が山のように届けられるのだ。Aurélie ThielletはS&Pでしか働いていないが、メディアにどんなに袋叩きに遭おうとも、履歴書の山がS&Pの競争力を物語っていると確信している。

「もしS&Pが妄想の産物であるなら、それは人々が金融経済の知識に欠けているからだ。もし格付けの原則に反対意見があるとすれば、それは人々が格付けとともに公表される分析を読んでおらず、また、格付けは相対的な評価であり、絶対的なものではないことを忘れているからだ」と、Carol Sirouは説明し、格付け会社の役割を小さなものに抑えようとしている。さらには、「格付け会社は投資家たちに投資先に関する技術的情報を提供しているのであり、一般大衆に何かを発信しているのではない」とも語っている。引き続く経済危機に伴い、スポットが当てられてきているが、S&Pはまさに黒子としての存在を好んでいるようだ。

・・・ということで、企業や投資家だけを相手に、特殊な世界で高給を取りながら生きてきた格付け会社は、突然、スポットを、それも非難の色合いの濃いスポットを浴びて、戸惑い、大樹の陰に逃げ込もうとしているようです。

格付け会社のアナリストたちは、できれば陰の世界に留まっていたいようですが、スポットを浴びたい人々も・・・今や、アナリスト、ストラテジスト、エコノミストの時代。ワイドショーやニュース番組を見れば、いつもかれらが出ています。しかも、万能の神・・・経済・金融・財政に留まらず、政治、外交、はては芸能、スポーツまで、分野を問わずコメントを発しています。

しかし、ほとんどが、金融、コンサルタント業など民間企業の社員。視聴者のためになる情報、つまり自分の働く企業の業績にマイナスになりかねないような情報を、果たして提供してくれているのでしょうか。神である前に、企業の社員であることを、私たち視聴者は、肝に銘じておく必要があるのではないかと思います。

それにしても、出る方も出る方ですが、使う方も使う方だと、思えてしまいます。製作費縮小の折、一人で何でも話せるコメンテーターがほしい・・・

なお、Carol Sirouのコメントが、ロイターの記事(18日)に出ていました。もちろん、格付けについてです。

 米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のフランス責任者、Carole Sirou氏は18日、RTLラジオで、S&Pはフランスが最上級の「AAA」格付けと「安定的」の格付け見通しを維持すると確信している、と述べた。
 同氏は「われわれはこのAAA格付けが変わらないことに自信がある」と述べ、格付けの等級は特定の財政上のコミットメントではなく、「コミットメントの軌跡(トラジェクトリー)」に依存しているとの考えを示した。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。