ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

マリーヌ・ルペン、「フランスの春」を約束する!

2011-05-03 20:24:07 | 政治
5月1日と言えば、まず思い出すのが、スズラン売り。野山に咲いたスズランの花を、子どもや親が摘んで来て、街角で売ります。この日だけは、営業許可がなくても、大丈夫。ちょっとしたテーブルにスズランの花束を積んで、売っています。春の到来を実感する歳時記です。今年は、干ばつが心配されるほど暖かく、雨の少ない4月だったようですが、スズランの花はこの日まで残っていたでしょうか。

また、5月1日と言えば、メーデー。労働組合の強いフランスでは、今でも多くの労働者が街に繰り出してデモに参加します。CGT(la Confédération général du travail:労働総同盟)のティボー書記長(Bernard Thibault)をはじめとした主要労組のトップが先頭に立ち、横断幕や旗を春の風になびかせながら、ゆっくりと行進してゆきます。もちろん、この日は祝日です。

そして、同じ日にパリの街を行進することを慣例としているのが、極右政党、国民戦線(le Front national:FN)。5月1日の朝、オペラ広場からピラミッド広場までを行進し、黄金に輝くジャンヌ・ダルク像の前で、党首がスピーチを行うことになっています。昨年までは、党の設立者でもあるジャン=マリ・ルペン(Jean-Marie Le Pen)がアラブ人批判や外国人排斥を声高に叫んでいましたが、今年からは昨年党首に選出された娘のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)が演説を行うことになります。

FNの行進風景、そして来年の大統領選挙へ向けて、かなりの追い風を受けているマリーヌ・ルペンのスピーチ・・・1日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

5月1日恒例の国民戦線によるジャンヌ・ダルクを称える行進が、今年もこの朝、オペラ広場を出発した。その行進の後には党首演説があり、今年からはマリーヌ・ルペンがその任に当たることになっている。多くの世論調査で来年の大統領選挙では決選投票に進出するだろうと予想されているマリーヌ・ルペンがオペラ広場に到着すると、支持者たちは「マリーヌ大統領」と連呼しながら、拍手喝采で迎えた。彼女は、名誉党首の父・ジャン=マリ・ルペンや欧州議会議員のブルーノ・ゴルニッシュ(Bruno Gollnisch)など党の主要メンバーとともに、行進の先頭に立った。

国民戦線・青年部のメンバーは、「右でも左でもなく、国民戦線を!」(Ni droite ni gauche, Front national !)、「青、白、赤、フランスをフランス人の手に」(Bleu, blanc, rouge, la France aux les Français)などとスローガンを叫び、またブルーのTシャツや自由(liberté)と染め抜かれた旗を配りながら歩を進めていく。この「自由」が、マリーヌ・ルペンの記念すべき5月1日の演説、第1回のテーマだ。

行進はパリの中心部を練り歩いて、終点のピラミッド広場に到着する。そこでは、ジャンヌ・ダルク像の前に演壇が設えられており、昨年までジャン=マリ・ルペンが行っていたように、今年からはマリーヌ・ルペンがメッセージを送ることになる。なお、FNはマリーヌのイメージを損ねないよう、スキンヘッドが行進に加わらないよう指示を出していた。

「大統領選まで1年となり、各種の世論調査で20%の支持率を獲得しているとはいえ、まだ油断は禁物だ。どのような挑発が行われるか分からないのだから」とマリーヌは語っている。彼女は党首に就任以来、社会的テーマを前面に打ち出しているが、この日の行進も労働者のための行進と位置付け、ユーロと国際化に翻弄されている労働者を守りたいと語っている。

労働組合の行進は午後、より多くの参加者とともに行われるが、それに先立ちFNは労働者支援の気持ちを表すため、組合出身者に行進の2列目を用意した。そこに参加したのはわずか3名だけだったが、そのうちの2名はFNのメンバーであることが分かり組合を除籍されたばかりだ。その1人、先の県議会議員選挙にFN公認で出馬し、価値観が相容れないとしてCGTを除名されたファビアン・アンジェルマン氏(Fabien Angelmann)は、実際には多くの組合員が行進に参加していたと語っている。

アンジェルマン氏はまた、「FNに加わる組合員の数が増えている。もはや左翼には期待できないことが分かっているからだ」と述べている。FNのルイ・アリオ副党首(Louis Aliot:マリーヌ・ルペンの現在のパートナー)は、「FNは今や庶民の党であり、中産階級の党となっている。そのため党員が増えており、支持率も上がっている。FNは労働組合とは異なり、EUの超自由主義に反対している。組合は労働の世界を守るというが、労働者のわずか8%しか加盟しておらず、一方FNには36%の支持が集まっている」と語っている。この36%という数字は、最近の世論調査でマリーヌ・ルペンに投票したいと回答した労働者が36%に達したことが根拠となっている。因みに、社会党のドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss-Kahn)は17%、サルコジ大統領は15%の支持率だった。

演説で、マリーヌ・ルペンは、ド・ゴール将軍やフランスにおける奴隷解放を主導したヴィクトル・シュルシェール(Victor Schoelcher)の言葉を引用しながら、「今日数百万のフランス人がFNの言葉に耳を傾けている。そして彼らは、どうか鎖を断ち切り、隷属状況から解放してくれ、と我々に懇願している」と語りかけた。また、党員たちには、「後1年もすれば、暗闇から脱して、『フランスの春』を享受できるだろう」と訴えかけた。

ジャンヌ・ダルクの像の前で演説をすることは、父の代からの伝統だが、マリーヌは共和国の価値を強調することと、自分の政策を語ることで、新風を吹き込んだ。その政策だが、ユーロ圏からの離脱を訴えるとともに、フランスから立法・司法・通貨・財政上の自由を奪い、フランス国民を隷属させているEUを痛烈に批判している。またユーロの崩壊やEUの失敗をもたらす「国際化」を痛罵し、ユーロ圏は今、世界の他の地域から完全に孤立しているが、これはあきれた自殺的政策だと語った。

・・・ということで、「アラブの春」ならぬ「フランスの春」を約束したマリーヌ・ルペン。右寄りの思想を持つ人々だけではなく、一般的には左寄りとみられる労働組合員までを惹きつけ始めているようです。

それは、国民の多くが抱いている不満を見事にすくい上げていること、しかも不満として堂々と言えるように言い換えていることによるではないかと思います。

移民は出て行け、外国人は出て行け、という気持ちを、文化の相容れないイスラム批判にし、工場の海外移転などによる雇用の喪失、安い外国製品の流入により失われる雇用への不満を、反「国際化」として批判し、また、EUの枠組みによって、窒息寸前のフランス中華思想に対しては、反EUを訴える。父親のジャン=マリ・ルペンのようにアラブ人は出て行けと「人」を標的にしてしまうと、同じ言葉で語ることに躊躇する人も多いのでしょうが、イスラム教を批判の対象にすれば、堂々と言えてしまう。国際化も、反EUも一般国民が堂々と述べることができるテーマです。

マリーヌ・ルペン支持は広がっても右翼だけではないか、その影響を蒙るのはサルコジ大統領なのだろうと思っていたのですが、どうして、左翼の一部までも取り込みそうな勢いです。国民の不満の一番近くにいる。だから支持される。それはそれでいいのですが、「反○○」のオンパレードだけでは、大統領職は務まらないのではないでしょうか。どう変えて行くのか、その新しいパラダイムの提示が求められると思います。

しかし、いずれにせよ、マリーヌ・ルペンと新しい国民戦線、今後の動向が一層注目されます。

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