ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

外国人留学生よ、卒業したら、さっさと帰れ!

2011-11-18 20:40:16 | 社会
 「国内の大手企業に、若手社員を積極的に海外に派遣する動きが広がっている。三菱商事や伊藤忠商事など大手商社が、入社2~8年目までの全社員に海外での語学や実務研修を義務づける制度をスタート。トヨタ自動車は今年度から、採用内定の段階から海外体験を促す留学支援制度を導入した。背景には、ビジネスの主戦場が先進国から新興国にシフトした市場の変化に人材育成が追いついていないことへの危機感があり、各社は入社後の早い段階から異文化や商習慣の違いを経験できる環境を提供し、グローバル人材の育成を急ぐ。」
(11月18日:フジサンケイ ビジネスアイ:電子版)

しかし、

 「だが海外駐在が当たり前の大手商社でさえ、最近の若者の内向き志向の影響は深刻な様子。『新興国にいきたがらない若手社員もいて、改めて鍛え直す必要がある』(大手商社幹部)のだという。」
(同上)

という状況は、すでにさまざまな場で語られています。しかし、ここで再び、しかし、なのですが、

 「あなたは将来、グローバルな人材になりたいですか? 2012年4月入社を希望する大学生(大学院生を含む)に聞いたところ『なりたい(どちらかというを含む)』と答えたのは77.7%であることが、レジェンダ・コーポレーションの調査で分かった。
 またグローバルな人材になるためには、どのような能力・資質が必要だと思いますかという質問には『語学力』『英語力』『コミュニケーション能力』を挙げる人が多かった。例えば『英語をはじめとした語学力はもちろん、自分の意志を伝えて理解してもらうためのコミュニケーション力』『文化、人種、考え方など、人のアイデンティティに対して、固定概念を持っていないこと。「何でもやってみよう」という前向きさやチャレンジ精神があること』といった意見があった。」
(11月16日;Business Media 誠)

先進国なら行ってもいいが、新興国には行きたくない、ということなのでしょうか。それとも、海外はどこであっても行きたくない、ということなのでしょうか。

社会へ出たばかりの人たち、あるいは、これから社会へ出ていこうとする人たちの本音はどこにあるのでしょうか。面倒な海外勤務など嫌なのか、グローバルな人間目指して、世界で飛躍したいのか・・・就職難の今、企業が求めるグローバルな人間になりたいと、マニュアルに従って就職試験では答えるものの、本心では海外へはできれば行きたくない? 

いや、そう決めつけては、見失ってしまうことがあるのではないでしょうか。今や、日本も格差社会。新興国や途上国でも、十分に生き抜くだけの強さと意欲にあふれた人たちと、住み慣れた日本でぬくぬくしていたい人たちに分かれている。そんなふうに思います。どちらに焦点を当てるかで、見え方も違ってくるのではないでしょうか。均質社会から、格差社会、いや、「違いのある社会」へ、そして「違いを認め合う社会」へ。

そう思いたいのですが、アメリカでの日本人留学生が減少しているのは、いかんともしがたい現実で、政治の場でも言及されるほど。アメリカへ留学しない、というくらいですから、いわんやフランスへをや。たぶんフランスへ向かう日本人留学生も減少しているのではないかと思われますが、その傾向にさらに拍車をかけるかもしれない政治的動きが、フランスで現れています。

どのような政策なのか、16日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

クロード・ゲアン(Claude Guéant:内相)は首尾一貫した、毅然たる男だ。4月に、ゲアン内相は毎年フランスが受け入れている正規移民を10%削減したい(現在の20万人ほどを、10%カットして18万人にしたい)と発言した。5月には、労働移民の削減に尽力し、2007年の大統領選でサルコジ大統領が打ち上げた「選択的移民」政策を葬り去ってしまった。内相曰く、「巷間言われていることとは異なり、我が国は移民の才能、能力を必要としてはいないのだ。」

そして5月31日には、グザヴィエ・ベルトラン(Xavier Bertrand)労相とともに、就労移民に関する2006年の法律をできる限り厳格に適用するようにという趣旨の通達に署名した。具体的には、大学、あるいはグラン・ゼコールを卒業した外国人留学生に就労を認める前に、その仕事がフランス人で行えないのかどうかをしっかり検証するよう県知事たちに命ずる内容だ。

この通達の効果はすぐに現れた。ここ3カ月の間に、数10人、いや、数100人の留学生、それもエコール・ポリテクニック(Ecole Polytechnique:理工科大学校)、HEC(Ecole des hautes études commerciales:パリ経営大学院)、Essec(Ecole supérieure des sciences économiques et commerciales:エセック経済商科大学院大学)、シアンス・ポ(Science Po:パリ政治学院)といった名だたるグラン・ゼコールを卒業し、企業の採用を勝ち取った留学生が、滞在許可を拒否されている。

何物も内相を屈服させることはできない。フランス、そしてその高等教育機関の魅力が大きく損なわれることを危惧するグラン・ゼコール協議会の警告も、外国の大学との間で締結している協定に違反することになると憂慮する大学学長協議会の問題提起も、内相を説得することはできない。

フランス自身が教育を施し、グローバル化する世界でのビジネスにとって大きな戦力となりうる留学生をフランスが締め出してしまうことは理解し難いという民間企業連盟(l’Association française des entreprises privées)の動揺も、お構いなしだ。滞在許可を却下された留学生たちの怒りや、社会党の上院議員たちが11月15日に提出した決議文において示した批判など、どこ吹く風だ。

それだけではない。9月には、予算相であるヴァレリー・ペクレス( Valérie Pécresse:前高等教育研究相)が、フランスの大学をより魅力あるものにするための戦略を提案した。ペクレスの後任であるロラン・ヴォキエ(Laurent Wauquiez)も、10月7日の『ル・モンド』でこの上なく明確に語っている。「フランスで教育を受けた、つまりフランスが投資した留学生たちは、フランスと母国とを結ぶ終生変わらぬ架け橋となるだろう」と述べ、さらに、エンジニアリングのような戦略的な分野へは、フランスの高等教育機関は毎年3万人の卒業生を送り出しているが、実際にはフランスは4万人を新たに必要としている、と指摘している。

クロード・ゲアンは、そのような提案や言及など、全く意に介さない。大統領選まで5カ月となり、極右の国民戦線(Front national:FN)からのプレッシャーも高まる中、フランスにおける移民の数を減らすことが重要だ。有名な台詞、“La France aux Français”を聞けば、留学生の排除が国や企業の利害に反するといったことは、さして重要でなくなる。ゲアン内相が推し進める政策は支離滅裂なだけではなく、恥ずべきものだということも、重要なことではないようだ。

・・・ということで、すべては、大統領選のため。政治は、戦いだ。勝つか、負けるか。勝つためには、手段も選ばず。負ければ、下野し、最悪の場合は、ただの人。何が何でも、勝ち抜かねばならぬ。右傾化する社会に合わせ、移民排斥を押し進める。さすがに、極端にはできないが、できるところから、推進する。留学生だって、例外ではない。フランス人自身の失業率が高止まりしているのだ。留学生に与えるポストがあるなら、フランス人に回せ。失業率が下がれば、与党にとって有利な材料になる。戦う武器は、多いほどいい・・・

フランスに留学し、無事卒業。企業から内定ももらえた。それなのに、労働ビザが出ず、帰国せざるを得ない・・・そうした状況が増えているようです。日本人留学生の場合、フランスに残ってフランス企業に就職しようという人は、それほど多くないでしょうから、それほど重大な影響を蒙ることもないのかもしれませんが、フランスの大学を卒業した留学生でもこうした困難に直面しているということは、語学留学などからビザを書き換えることは、今まで以上に難しくなっているのではないでしょうか。憧れのフランスが、ますます、遠くなる・・・

そして、日本にいる私たちが考えざるを得ないのは、留学生は終生変わらぬ架け橋ということです。日本に留学した外国の学生たちが、良い思い出を持って帰国してくれれば、しっかりした架け橋になってくれるでしょう。あるいは、卒業後も日本で働きたいという人の希望がかなえられれば、さらに堅固な架け橋になってくれるかもしれません。

ただし、その勤務経験が、アメリー・ノートン(Amérie Nothomb)の『畏れ慄いて』(“Stupeur et tremblements”)のような結実とならないことを願っています。
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