ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

自然エネルギーは雇用をもたらす・・・フランスの場合。

2011-07-21 21:29:19 | 社会
浜岡原発は停止だ、他の原発にもストレステストを、脱原発、節電を・・・さまざまな言葉が永田町からは発せられていますが、脱原発への具体的な道筋が見えてきません。どのようなスケジュールで、何を、いつまでに、どのように行うと、原発のない社会になるのでしょうか。ある朝突然にはならないので、それまでの経過措置も必要です。会議は踊る、ならぬ、言葉は躍る。

しかも、原発の海外輸出は継続するのか、再検討するのかも、はっきりしない。再検討という声も、どう検討するのか、詳細が語られず、個人的夢でしかないようで、鴻毛の軽さと言われるしまつ・・・脱原発を進めたいと言いながら、原発を他国に輸出していいものでしょうか。

許せない、と思ってしまったりするのですが、政治の世界は、魑魅魍魎。原発を輸出しておきながら、国内では自然エネルギー、再生可能エネルギーへ舵を切りつつある国は何も日本だけではないようです。そう、原発大国のフランスでも、国内では自然エネルギーの開発に力を入れ始めています。もちろん、原発は危険だなどとは言っていません。安全な原子力エネルギーを中心にしつつ、再生可能エネルギーも活用する。その一環として、例えば、風力発電。

風力発電の場合、回転するプロペラが発する低周波の音が周辺住民へ何らかの影響を与えるのではないかとも言われています。そこで、フランスが進めているのは、周辺に人のいない海上に設置する風力発電システム。何基つくるのでしょうか。いつまでに。発電量は・・・11日の『ル・モンド』(電子版)が紹介しています。

8か月前から待たれていた海上風力発電に関する入札がついに政府によって発表された、と日刊経済紙“La Tribune”(トリビューン)が伝えている。2月に産業界の専門家に委託された入札方法は、11日のその詳細が発表されることになっている。発電業者たちは、電力買上げ価格が当初発表されたものより引き上げられることを期待している。

今回の入札対象は、フランス本土の沖合に2015年までに建設する600基の風力発電装置。発電量は3,000MW、建設費は100億ユーロ(約1兆1,200億円)の投資になるとみられている。環境省によると、政府は2020年をめどに、海上風力発電量を6,000MWにすることを目指しており、その建設費は、将来のコスト削減を見込んでも総額で150~200億ユーロ(約1兆6,800億円~2億2,400億円)になる予想だ。

環境相のナタリー・コシウスコ=モリゼ(Nathalie Kosciusko-Morizet)は、「私の目標は、今回の事業により、フランス国内に多くの雇用を創出することだ。産業界は数万人の雇用を生み出せると言っているが、私は慎重派なので、1万人以上と言っておく。過大な期待は抱かないでほしい」と11日に述べている。

海上風力発電事業に関心のある企業は、英仏海峡および大西洋上に設定された5か所の候補地のどこに応札するかを2012年1月11日までにエネルギー規制委員会(CRE:la Commission de régulation de l’énergie)へ届け出ることになる。

この市場に参入すべく、すでにいくつかのコンソーシアム(企業連合)が結成されている。発電装置を設置する予定の5か所は、Dieppe-Le-Tréport(Seine-Maritime県)、Courseulles-sur-Mer(Calvados県)、Fécamp(Seine-Maritime県)、Saint-Brieuc(Côtes d’Armor県)、Saint-Nazaire(Loire-Atlantique県)の沖合だ。第2期は2012年4月に入札が公示される予定だが、場所は未定だがやはり5か所での建設となる。

1,200基の発電施設プロジェクトを2期に分けたのは、すべての建設予定地が確定していないためだ。「却って第2期での入札の際に計画を調整することができ、好都合とも言える」と環境省の担当者は語っている。

フランスは、この計画により、海上風力発電における遅れを取り戻そうとしている。本土だけで5,800kmもの海岸線を有しながら、フランスは現在、海上風力発電装置を1基も稼働させていない。この6月末時点で、EU各国の合計は950基にも達している。このプロジェクトはまた、雇用の創出にも大きく貢献することを目標としている。

・・・ということで、2015年までに600基、その先2020年までにさらに600基、合計1,200基の海上風力発電装置を設置しようというフランスの民活プロジェクトです。

しかし、『ル・モンド』が表記しているフランスの海岸線の長さ、間違っているようです。日本の海岸線の長さを調べようと、“CIA World Factbook”(あのCIAです、Central Intelligent Agency)のサイトを見たところ、日本の海岸線は29,751kmで世界6位。ついでにフランスの欄をみたところ、3,427kmしかない! 国境線+海岸線の合計の長さがほぼ5,800kmに近い数字になっています。スペイン、イタリア、スイス、ドイツ、ルクセンブルク、ベルギーなどとの国境線も含めてしまっているのでしょうね。『ル・モンド』にしても、このような細かいミスはよくあります。何を言いたいのかという論旨と、その論理的展開が肝心であり、論旨にあまり影響のない数字・データには細心の注意を払わないようです。

一方、完璧を求めるわれらが祖国では、細部にも正確さが求められ、時には重箱の隅をつつくようにチェックすることが主目的になってしまっているケースさえ散見されます。彼我の差ですが、経営陣などトップ層に人材の多いフランスと、生産現場の力が支えている日本、その差がこんなところにも見え隠れしているような気がしてしまいます。もちろん、『ル・モンド』の数字の間違い、日本人ゆえ気づいたわけです。

ところで、上記の3万kmにも達するほどに長い海岸線を有する我らが日本。その自然を生かした発電はどうなっているのでしょうか。風力発電、潮力発電、そして海底資源を活用したエネルギー。エネルギー争奪が大きなテーマになろうという時代にあって、日本は実は資源大国なのではないかとも思えてきます。自然とともに共生してきた我々が、少し自然の恵みをエネルギーに転換させてもらっても、大丈夫なのではないでしょうか。問題は、いつ、だれが、どうやって・・・そうしたマスター・プランを作る人がいるのか、いないのか。作る気のある人がいるのか、どうなのか。なでしこジャパンに元気と勇気をもらった、という人が多くいます。21世紀のエネルギー政策を提示できる人が、永田町や霞ヶ関から登場することを願ってやみませんが、現場頼みの国では、叶わぬ夢なのでしょうか・・・