精神機能と能力開発:心理学―教育学―社会学

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視覚と聴覚の特性 ~一長一短~

2014年12月31日 | 感覚・知覚


(1)視覚
1)視覚の長所:形が見える。確実・安全。情報を一覧できる(情報と情報の関係が見える)。
2)視覚の短所:背後が見えない(車の接近音で気づく)。障害物の先が見えない(ドアをノックしないと、中にいる人には見えない)。瞼を閉じる・就寝時は見えない。

(2)聴覚
1)聴覚の長所:周囲360度から情報を得られる。障害物があっても情報を得られる。言語音・コミュニケーション。呼び出し音・警報。災害時のラジオ放送。常に開いている。注意喚起力が高い(目覚まし時計)。
2)聴覚の短所:形が見えないので、安全や確認が不確実。情報を一覧できず、情報が線状になる(順を追って情報を得る)。

(3)健常者と障害者
1)健常者:視覚と聴覚を両方使っている(組み合わせている)。視覚の短所を、聴覚の長所で補っている(背後・障害物)。視覚と聴覚は、一長一短。
2)視覚障害者:視覚の長所を失い、聴覚の短所の制約を受ける。
3)聴覚障害者:聴覚の長所を失い、視覚の短所の制約を受ける。

丸暗記はなぜ良くないのか? ~覚えにくくて、忘れやすい~

2014年12月30日 | 学習


(1)丸暗記とは
無意味学習の機械的記憶。覚えにくくて、忘れやすい。テストが終われば、すぐ忘れる。
知識が身についておらず、活用できない。丸暗記の学習自体が、無意味になる。

学習に対して消極的。テストに出題されることだけを、効率よく覚えたい。余計な努力をしたくない。
しかし、情報を記憶することだけであれば、ITストレージの方が遥かに優れている。

(2)有意味学習
意味を考えて理解する。知識と知識を関連づける。覚えやすく、忘れにくい。
活用できる知識、新しい価値を生み出す知識。
学習に対して意欲的。学ぶことで、新たな発見や気づきを得ることに、喜びを感じる。


人間集団に働く2つの要因

2014年12月29日 | チームワーク


(1)つながりと成果
社会心理学のグループダイナミクス(集団力学)に関するPM理論では、集団にはP(Performance チームの成果)とM(Maintenance つながりの維持)がある。
PM理論は、三隅 二不二 教授(元九州大学教授、大阪大学名誉教授)による。

(2)厳しさと優しさ
厳しさ(ルール)と優しさ(リレーション)を兼ね備えている場合、学級経営が安定する(Q-U理論)。
Q-U理論は、早稲田大学の河村茂雄 教授による。

(3)競争と協同
個人主義的な競争が、学びを促進するという、一般通念があった。
しかし、学び方や働き方について、個人主義的な競争よりも、協力的な協同学習(互恵的な学び)の方が、有効であることが示された。

(4)平凡と非凡
日本民俗学の創始者である柳田國男は、村の伝統的な人間形成と、新たに登場した学校教育を比較した。
村の伝統的な人間形成は、平凡であることを尊重し、学校教育は非凡であることを称揚した。

<参考文献>
河村茂雄(2006)Q-Uによる特別支援教育を充実させる学級経営.図書文化社.
アルフィ・コーン(著) 山本 啓(訳)(1994)競争社会をこえて ノー・コンテストの時代.法政大学出版局.
広田照幸(1999)日本人のしつけは衰退したか 「教育する家族」のゆくえ.講談社.

キャリア・アンカー ~キャリアの拠り所となる自己イメージ~

2014年12月28日 | キャリア


(1)キャリア(career)とは?
職業(occupation オキュペーション)や職務(job ジョブ)とは異なる。
自分が関与している職業や人生の役割と結びついた、自己概念(自己イメージ)。 
自分の経験した職業や人生の役割の、過去の回顧と将来の展望を含む、軌跡

(2)キャリア・アンカー
MIT(マサチューセッツ工科大学)名誉教授のエドガー・シャイン(Edger H. Schein)による。
職業において拠り所となる自己概念(自己イメージ)。
アンカーとは、船の錨(いかり)。

キャリア・アンカーの8つのタイプ
1)特定の専門分野の専門性を追求する
2)ゼネラリストになる
3)自律や自由を求める
4)経済的な保障や安定を求める
5)新しいアイデアで起業する
6)誰も成し遂げていないことに、純粋に挑戦し続ける
7)奉仕や社会貢献を行う
8)ワークライフバランスを重視する

<参考文献>
藤原美智子(2007)エドガー・シャイン Edger H. Schein 組織内キャリア発達.渡辺三枝子(編著)新版 キャリアの心理学.ナカニシヤ出版 107-124頁.

発達障害である自閉症の全例が、幼児期に気づかれるとは限らないことの理由

2014年12月27日 | 発達障害(自閉症)


(1)自閉症と自閉症傾向
自閉症とは、診断基準の三つ組(対人関係・言語コミュニケーション・こだわり)をすべて満たすもの。
自閉的傾向とは、診断基準を満たさないものの、自閉症の行動特徴がみられるもの。

自閉症は、生後1年で気づかれる。しかし自閉症傾向は、全例が幼児期に気づかれるとは限らない。


(2)障害=個体×環境
国際生活機能分類(ICF)の考え方では、障害=個体×環境。
環境内で不適応となることが、障害。

対人関係について、環境に適応するために要求されるスキルが、年齢を追うごとに高くなっていく。
要求されるスキルが高くなるにつれて、その要求に応えきれず、次第に不適応が生じて、障害の状態となる。
(例)
人の身体的特徴(太っているなど)を、子どもが面と向かって口にしても、「子どもは正直だから」として、笑って許される。
しかし、同じことを大人が面と向かって口にすると、社会的に不適切な言動となり、その人の良識が疑われる。
本当のことであっても、相手が気にしていることは、口にしてはいけないのが、大人のルール。

平均への回帰 ~叱ると良くなるのか?~

2014年12月26日 | ヒューリスティックス・バイアス


(1)最小努力の法則
人間の判断や意思決定には、2つの系統(システム)がある。直観と熟慮。
熟慮には、心的努力(エフォート effort)が必要。コストがかかる。
人間は、できるだけ努力せずに済む方法を選ぶ。

(2)ヒューリスティックスとバイアス
物事の正しい判断には、熟慮が必要。しかし、熟慮には、努力(エフォート effort)も必要。
そこで、努力が不要な直観的な判断を行う。それが、ヒューリスティックス。
だだし、ヒューリスティックスによる判断には、誤謬や偏り(バイアス)が含まれる。

(3)平均への回帰
人間のパフォーマンスは一定ではなく、変動している。パフォーマンスが大きく変動した直後の試行では、パフォーマンスが平均値に回帰する確率が高い。そのことが、褒める・叱ると連動しているようにみえることもある。
(例)
選手が失敗したときコーチが叱ると、次は成功する。そこで、コーチが選手を褒めると、次は失敗する。
選手はコーチに褒められると、次は調子に乗って失敗する。
選手はコーチに叱られると、次は気を引き締めて成功する。
だから、コーチは選手を褒めずに、叱った方が良い …?

この選手のパフォーマンス(ゴールにシュート)は、偶然の変動によるもので、コーチの褒める・叱るとは関係ない。この選手のパフォーマンスの平均値に、回帰しているだけ。
コーチが失敗して叱る・成功して褒めるのは、パフォーマンスがこの選手の平均値に比べて、大きく低下した・遥かに優れていたとき。
これらのパフォーマンスは偶然の変動で、その直後は平均的なパフォーマンスに戻る確率が高い。

<関連記事>
ダニエル・カーネマンとADHD ~心的努力(エフォート effort)について~ >>このブログ内のリンク先
モチベーションの基本形 ~報酬を得る・罰を回避する~ >>このブログ内のリンク先




自閉症と雑談 ~1問2答のルール~

2014年12月25日 | 社会性・コミュニケーション


(1)自閉症と雑談
雑談とは、社交の会話。雑談には中身がない、結論がない、まとまりがない。
話をしていることに意味があり、それによって承認やつながりを確認している。
男性よりも、女性の方が雑談が上手い。

自閉症のある人は、雑談が苦手。
その理由としては、興味関心の幅が狭い、相手の心理状態をイメージすることが苦手、など。
またバロン=コーエンの「共感型(女性脳)―システム型(男性脳)」理論では、自閉症とは極端なシステム型(男性脳)。

(2)1問2答
「雑談力」は、明治大学の齋藤 孝 教授による。
質問されたことに答えるだけ(1問1答)では、会話が止まる。これでは拒絶したことと同じ。あなたとは、これ以上話をしたくない。

1問2答以上が、返しのルール。質問されたことに答えて、さらにプラスαの話題提供をすることで、雑談に発展する。

<引用文献>
齋藤 孝(2010)雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール.ダイヤモンド社
サイモン・バロン=コーエン(著)、三宅真砂子(訳)(2005)共感する女脳、システム化する男脳.NHK出版

学力における知識と思考

2014年12月24日 | 学力・リテラシー・コンピテンシー


(1)論語(為政篇)
子曰、学而不思則罔、思而不学則殆。
子曰く、学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)。
孔子先生は、こう言われた。人に知識を教わるだけで、それを自分で思考しなければ、物事の道理を理解できない。また、自分で思考するだけで、人に知識を教わらなければ、独断と偏見に陥る。

(2)「教えて考えさせる授業」
2001年に東京大学の市川伸一教授によって提唱された。「教えず考えさせる授業」に対するものとして。
知識の習得において、知識を教わる「受容学習」を行った後に、その知識を活用して「問題解決学習」に取り組む授業方法。

1)(知識を)習得する:教わる(基本・基礎の説明を受ける) ⇔ 考える(問題解決に活用する)
2)(知識を)習得する ⇔ (テーマを)探究する(知識を発見する) 
3)基礎から積み上げる ⇔ 基礎に降りていく

これらの「習得する(教わる考える)⇔探究する」の複合的な往還によって、理解を深めていく。

障害のとらえ方 ~ICFとICIDHの違い~

2014年12月23日 | 障害者福祉


(1)障害の3つの階層
国際生活機能分類(ICF)も国際障害分類(ICIDH)も、障害を3つの階層(レベル)に分けている。
1)身体レベル、2)日常生活レベル、3)社会生活レベル

(2)国際障害分類(ICIDH)
機能障害(身体)・能力障害(日常生活)・社会的不利(社会生活)
障害をマイナス面(-)からとらえる。できないこと。

(3)国際生活機能分類(ICF)
機能障害(身体)・活動の制限(日常生活)・参加の制約(社会生活)
障害をプラス面(+)からとらえる。できること。

<関連記事>
国際生活機能分類(ICF)のシンプルな理解 ~身体・生活・環境~ >>このブログ内のリンク先


障害受容 ~本人の受容と社会の受容~

2014年12月22日 | 障害者福祉


(1)障害の主観的側面
障害受容には、本人の受容と社会の受容がある。
しかし従来の障害受容は、本人の受容に偏っていた。
本人が一人で取り組み、乗り越えていくものとされていた。

(2)本人と社会の受容
1)自分で自分をどう思うか(本人)
2)人が自分をどう思うか(社会)
3)自分は人からどう思われているか(社会+本人)

<参考文献>
南雲直二(2010)障害の及ぼす心理的影響.小澤 温(編)障害の理解.ミネルヴァ書房 166‐187頁.

ダニエル・カーネマンとADHD ~心的努力(effort エフォート)について~

2014年12月21日 | 発達障害(ADHD)


(1)ダニエル・カーネマン
2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者。
人間の意思決定には、2つのシステムがある。直観(素早い)熟慮(ゆっくり)
熟慮には、心的エネルギーが必要。それがエフォート(effort)

(2)心的努力(effort エフォート)
注意欠如・多動性障害(ADHD)とは、心的努力(effort エフォート)の障害。
エフォート(effort)とは、努力を要する、意図的な動機づけ。

エフォート(effort)によって、遂行制御(executive control エグゼクティブ・コントロール)が作動する。
遂行制御(Executive)を作動させる動機づけ(Effort)を、Executive Effortと呼んだ(Fujita & Maekawa, 2011)。

ADHDとは、Executive Effort(エグゼクティブ・エフォート)の障害。
ADHDの衝動性は、反応決定(意思決定)の問題。

<引用文献>
ダニエル・カーネマン(著)村井章子(訳)(2014)ファスト&スロー(上・下)あなたの意思はどのように決まるか? 早川書房
ダニエル・カーネマン(著)友野典男・山内あゆ子(訳)(2011)ダニエル・カーネマン心理と経済を語る.楽工社
Fujita, H. & Maekawa, H. (2011) Improving Performance of Children With ADHD Through Self-Generating Motivation During Working Memory: Reciprocal Influences Between Executive and Motivational Aspects. 特殊教育学研究Vol. 49 (No. 6) p. 713-727 文献PDFリンク

国際生活機能分類(ICF)のシンプルな理解 ~身体・生活・環境~

2014年12月20日 | 障害者福祉


(1)すべてが相互作用する
国際生活機能分類(ICF)は、世界保健機関(WHO)が作成した、国際的な障害モデル。
ICFでは、障害に関連する全ての要因が、相互作用する。
すべてが相互作用するICFは、実はとても複雑。
そこで、ICFを単純化すると、3つの要因に整理される。

(2)身体・生活・環境
1)身体 : 身体機能・精神機能 (ICFでは、心身機能)
2)生活 : 日常生活・社会生活 (ICFでは、活動と参加)
3)環境 : 生活環境・社会環境 (ICFでは、環境因子)

<関連記事>
障害のとらえ方 ~ICFとICIDHの違い~ >>このブログ内のリンク先
障害を理解する3つの視点 >>このブログ内のリンク先

障害を理解する3つの視点

2014年12月20日 | 障害者福祉


障害とは…

(1) 身体 ⇔ 生活
身体(心身)の問題であり、生活の問題でもある。心身の機能が低下し、(環境因子との間で)日常生活・社会生活に影響が生じる。

(2) 個人(本人) ⇔ 社会
本人の問題であり、社会の問題でもある。障害を負ったのは個人(本人)の問題であり、本人が生活する社会の問題でもある。

(3) 客観的 ⇔ 主観的
客観的なニーズ(問題)であり、主観的な問題でもある。身辺の日常生活動作(ADL)の問題であり、主観的な障害受容の問題でもある。

発達障害と高次脳機能障害の違い ~発達障害は高次脳機能障害なのか?~

2014年12月19日 | 発達障害(全般)


(1)高次脳機能障害 ~法律用語と学術用語~
古典的な高次脳機能障害とは、a)失語症、b)失認、c)失行、d)半側空間無視のこと。
それに対して、現在の高次脳機能障害とは、法律用語。
これは、1)注意障害、2)記憶障害、3)遂行機能障害、4)社会的行動障害の4つ。

失語症や片麻痺など、普段よく使う機能の障害は気づかれやすい。
しかし、失語症や片麻痺がない場合、高次脳機能障害が見過ごされ易かった。そのために設けられた。

(2)発達障害は高次脳機能障害か?
発達障害とは、認知発達の偏り。認知とは、高次脳機能。それでは、発達障害も高次脳機能障害なのか?
発達障害は、学術用語としての「高次脳機能」の障害とみることもできるが、法律用語としての高次脳機能障害ではない。

発達障害とは、「発達」することの障害。基本的には、生まれつきの障害。
これは、1)知的障害、脳性麻痺、2)学習障害、注意欠如・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症。

(3)小児の高次脳機能障害(小児神経疾患)
小児の高次脳機能障害は、脳の病気や怪我による。生まれつきではない。
特にADHDについて、子どもが多動で不注意ならADHD(発達障害)、とは限らない。
ある時から多動や不注意の症状が始まり、その症状が進行している場合、それは発達障害(ADHD)ではなく、小児神経疾患(小児の高次脳機能障害)。対応がまったく異なる。治療が必要で、様子をみてはいけない

指導の万能薬「見通しを与えること」の2つの目あて ~ADHDと自閉症の違い~

2014年12月18日 | 臨床指導のコツ


(1)指導の万能薬 ~手立てと目あて~
「見通しを与えること」は、指導の万能薬。すべての発達障害児に、どのような場面でも有効な、手立て。
しかし、その機能(目あて)は、いつも同じではない。

(2)残り時間を知らせる ~ADHDの場合~
注意欠如・多動性障害(ADHD)児の場合、待ち時間や残り時間を知らせることが、目あて。
あとどれくらいの時間を、待てばよいのか?あとどれくらいの時間で、終わりになるのか?
ADHD児は、何もすることがない待ち時間が、苦手。

(3)一日の予定を立てる ~自閉症の場合~
自閉症児は、一日のスケジュールや予定を知らせることが、目あて。
これから(この後)、自分は何をすればよいのか?
自閉症児は、場面の理解や場面の切り替え、予定の急な変更が苦手で、不安になる。