アールグレイ日和

春畑 茜(短歌人+里俳句会)のつれづれ。
降っても晴れても、そこにサッカーはある。

『スサノオの泣き虫』(加藤英彦歌集)を読む

2006年09月17日 08時32分50秒 | 歌集・句集を読む
『スサノオの泣き虫』は加藤英彦さん(同人誌「Es」)の第一歌集。
歌歴の長い歌人で、あとがきによれば、第一歌集をと勧められてから二十年余りがすぎているそうだ。
この歌集には2000年以降の6年間の中から、371首が収録されている。

2006年9月9日、ながらみ書房発行。定価2835円(税込)。
装幀は花山周子さん。大胆で力づよい印象に仕上がっている。


*

・どのような世界にゆける黙したるこの水道の蛇口のくらさ


あとがきの中に
「せめて、限りなく日常の事実性から遠ざかることで、一首を自在な空間へ解き放とうと思った。(中略)そう、まちがっても日常生起する事実の堆積こそが現実であるなどと思わないことだ。言葉は、発せられた途端にたちまち虚構の芽をふきだすのだから。しかし、改めて作品を読み返して、ぼくの短歌はそのいずれからも遠かったように思える。非才は非才なりに、もう一度自らの足場を見つめるしかない。そう思った」とある。


先に上げた一首と、このあとがきから抜き出した真摯な言葉、それが私にとってはこの歌集の一番の魅力であると感じられた。
この作者がもう一度自らの足場を見つめたとき、この『スサノオの泣き虫』からさらにどのような作品世界がひらかれてゆくのだろうか。
たのしみにしたいと思う。



・叶うはずない夢ばかり指さきで折りかえす銀色の鶴首

・疾駆することなく過ぎし四十年 列島は未明の雨にうるおう

・テロリストにはなりきれぬ男いてその朝をふかくふかく渇けり

・とりもどしたき千の夜 千の夢。火ねずみがぐいと井戸をこぎだす

・目ざめれば雪ふるごとし病床になにもなかったように陽ざしは

・遂げえざる思いひとつを沈めたる沼あり今宵は月があがらぬ

・千の記憶、万の季節を駈けて来しひ悍馬いななく夢の野におり

・若き日の記憶が甦(かえ)る あたたかき父よあなたの手紙がもえる

・消しゴムで消すわたくしをわたくしの影をわたしのなかのわたしを




この『スサノオの泣き虫』が多くの方々に読まれますように。






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