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浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

もう一つ、良い社説

2013-05-04 10:48:31 | 日記
 社説というのは、特に強い主張をするためにはストレートでなければならない。昨日の護憲派と言われている『朝日』。『毎日』のストレートではなく、すこし斜視に構えたものは、薬にはならない。

 最近の『朝日』『毎日』は、毒にも薬にもならない主張を繰り広げている。もちろんなかにはよいものもタマにはあるが、もう両紙の歴史的役割は終わっている。

 さて、今日は『信濃毎日新聞』の社説を紹介する。ストレートで建設的だ。

9条の価値 平和に生きる人権こそ 05月04日(土)


 日本はなぜ、あの戦争をしたのか。松本市の横田・元町9条の会が月1回、開いている学習会のテーマだ。

 「9条を守る」がお題目ではいけない。なぜ守るのかを実感するには歴史を知る必要がある。横田に住む元信大学長の宮地良彦さんが提案して始まり、3年になる。

 最初は10人ほどだった参加者は約20人に増えた。信大生もいる。日本の戦争責任に「自虐史観だ」と異を唱える人もいる。

 宮地さんは言う。「同じ考えだけの内輪の会にはしたくない。歴史を知って、自分で考え判断し、行動することが大切だ」

   <イラク戦争の卵>

 岡谷市の弁護士、毛利正道さんはイラク自衛隊派遣訴訟に原告として参加した。

 2008年4月、名古屋高裁は派遣差し止め請求を棄却した。だが、航空自衛隊の一部活動が戦闘地域だったとして違憲の判断を示した。原告は上告せず確定した。

 憲法が保障する基本的人権は平和の基盤なしでは存立せず、前文にある「平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)は法的権利として認められると判断した。

 憲法違反の戦争が起き、加担や協力を求められた場合、裁判所に救済を訴え出ることができる。

 毛利さんは「社会運動、政治参加、そして裁判。市民が戦争を止める権利を得た」と考える。

 米国のイラク戦争はもう一つ、大きな卵を産んだ。国際社会が開戦を阻めなかった反省から、スペインの非政府組織(NGO)が始めた「平和への権利」運動だ。

   <国と市民の論理>

 平和への権利は誰もが平和のうちに生きられるよう国家や国際社会に要求できる権利だ。日本の憲法の平和的生存権と通じる。

 戦争防止に加え、貧困など社会の在り方から生まれる構造的暴力の根絶を目指す。国連人権理事会で宣言草案が話し合われている。

 東京都新宿区の弁護士、笹本潤さんは「平和への権利」運動に力を入れている。人権理事会や草案づくりの諮問委員会で憲法や名古屋高裁判決を紹介してきた。

 国際政治が武力による解決に頼り、日本の周りには北朝鮮などの問題がある。国際政治の在り方を変えなければ、9条改定の動きは続く。そうした危機感が運動参加を後押しした。

 草案は武力行使の放棄や軍縮などを求めている。国連憲章が認めている自衛権行使をはじめ、国家の権利を縛るため反対は根強い。

 「国と市民の論理がぶつかる大変な試み」。草案を起草した神戸大学大学院教授の坂元茂樹さんは合意づくりの難しさを感じつつも可能性に託したいと思う。

 「21世紀は市民の社会。1700を超えるNGOが賛同している重みがある。日本の憲法もその論議を通して、意義を見直されていることを知ってほしい」

   <13条「個人」の重み>

 この潮流に自民党の憲法改正草案を置いて読み直してみたい。

 まず9条。戦力を持たないとする現行2項を削除、国防軍を創設する。任務は国防に加え国際平和活動や治安維持活動を認める。

 海外での武力行使や集団安全保障の制裁行動にも道を開く。

 徴兵制は明示していない。ただし、3項にうたう「協力」の名目で、領土保全や資源確保に国民が動員される懸念が指摘される。

 13条改定に注目したい。現行は個人の尊重と、生命・自由や幸福追求の権利を公共の福祉に反しない限り最大限、尊重するとの規定だ。草案は「個人」を「人」、「公共の福祉」を「公益及び公共の秩序」に書き換えている。

 武力行使を「規制緩和」する一方で、公が優先される時には「個人」がとやかく言えないよう権利を制約する。そうにも読める。

 ルソン島の戦場体験を持つ憲法学者の久田栄正さん(1915~89年)は13条の「個人の尊重」を平和の基礎に据えた。

 戦争は人権を根こそぎ壊す。個人の尊重が徹底される国は戦争を起こせない、と。この平和的生存権の考えは今に続く。早大大学院教授の水島朝穂さんとの共著「戦争とたたかう」にある。

 平和に生きる人権こそが保障されねばならない。歴史を見つめ、世界に目を広げたい。憲法は市民一人ひとりに問うている。