厚生労働省医薬食品局は、6月1日(平成19年)に「コクヨS&T」が製造した「抗菌デスクマット『デスクマット軟質(非転写・抗菌仕様』」の使用に伴う重大製品事故について発表しました。
報道発表によると、このデスクマットは、平成9年10月から平成13年2月までに累計で約35万枚販売され、軽症のものを含めアレルギー性皮膚炎の被害が581件確認されています。コクヨS&Tの報道では、接触部位が赤く腫れるような重篤な事例は40例弱あったとのことです。
皮膚炎発症の原因は、デスクマットに含有されていた抗菌剤(2,3,5,6-テトラクロロ-4-〔メチルスルホニル〕ピリジン(略称TCMSP)であると考えられています。本製品は、平成18年10月から数回、社告などで注意喚起が行われ、製品の回収・交換が行われていますが、回収は約3万枚(19年5月末現在)にとどまっています。
現在、多くの製品で「抗菌」加工のものが出回っています。抗菌製品が広まった直接のきっかけは、1992年にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染が問題になったことによるもので、まず、病院内で当該製品の使用が広がりました。その後、1996年に大腸菌O-157の被害の拡大や24時間風呂によるレジオネラ菌の発生などで、台所・調理用品や日用品をはじめとして、多くの製品が抗菌加工されるようになったのです。
【殺菌・除菌・抗菌の違い】
抗菌の他に、殺菌、除菌ということばがありますが、これらの違いは次のとおりです。
・「殺菌」とは、細菌を殺す効果を意味し、薬事法に規定された殺菌剤を含む商品に明記されています。このため、商品に「殺菌」表示をする場合には、薬事法に基づく登録が必要です。登録された商品は「医薬部外品」と表示されています。
・「除菌」とは、その名のとおり細菌を取り除くことでその数を減らす効果をいいます。商品に除菌剤を使う場合には、薬事法に基づく登録や薬剤の表示は不要です。当然ながら、「殺菌」よりも効果は低くなります。
・「抗菌」とは、細菌の付着や繁殖を抑制する効果をいいます。「抗菌」には法的な拘束力はなく、抗菌剤の表示も不要です。抗菌剤には、無機系・有機系・天然系の3種類があります。無機系には銀が多く、有機系には、ジンクピリチオン、トリクロサン、クロルヘキシジン、第4級アンモニウム塩、硫化剤などの薬剤が用いられています。また、天然系のものには、ワサビ、ヒバ、カラシなどがあります。有機系のジンクピリチオンは劇薬で光毒性が指摘されていますが、ヘアローションやシャンプーなどに使われています。その他の有機系抗菌剤も発ガン性、アレルギー性を有したものが少なくありませんが、ほとんどのメーカーが「企業秘密」を理由に薬剤名を明らかにしていません。
「抗菌」は、商品を販売する際に他の商品との差別化をはかって消費者への訴求力を高める目的で使われることが多いのが現状です。
【抗菌加工製品の危険性や効果】
抗菌加工製品があふれる一方で、これを使用したことによる問題や効果に疑問のあるものが多いのが現状です。
・院内感染防止のために用いた抗菌カテーテルによって急激な血圧低下や呼吸困難に陥った事例が報告されています。
・抗菌マスクを使用したことによって、マスクとの接触部分が赤く腫れたり湿疹ができるなどの皮膚炎になる人が増えています。花粉症などのアレルギー体質の人が酸化亜鉛入りの抗菌マスクを使った場合、症状はさらに重くなり、呼吸困難になった人までいます。
・台所用製品の抗菌スポンジには、「水槽等の洗浄には使用しないでください」という注意が書かれているものがあります。このスポンジを用いて掃除した水槽に、スポンジと一緒に金魚を入れたところ、その金魚が死んでしまったという実験報告があります。スポンジ製品に用いられる抗菌剤には無機系と有機系のものがありますが、有機系抗菌剤として使われる薬剤は特に危険です。メーカーは企業秘密として、使われている薬剤を公表していませんが、TBZや塩化ベンザルコニウムなどの有害物質が検出されたこともあるようです。塩化ベンザルコニウムは毒性が強く、飲むと嘔吐や錯乱、けいれん、昏睡などを引き起こし、重症の場合には呼吸器系のマヒで死に至ることもあります。また、無機系の抗菌剤で金属を使ったものは金属アレルギーを誘発することがあります。
・抗菌加工のまな板は、表面についた細菌の増殖を防ぐことはできますが、傷がついたものは効果がほとんどありません。
・食器棚に敷くシートもTBZを使ったものが販売されています。
・抗菌加工の弁当箱は食べ物が箱と接触している部分だけ抗菌効果があり、抗菌加工していない弁当よりもカビの発生が多かったという実験結果もあります。
・エアコンのフィルターやファンには、防カビ・抗菌処理を施したものがありますが、冷却部にホコリが溜まって臭うことが多く、カビや菌の繁殖の温床となっています。また、薬剤として使われているチア・ベンダ・ゾール(TBZ)やオルトフェニルフェノール(OPP)などは、催奇形性や発ガン性、アレルギー性があります。
・抗菌加工製品が多くなると体が細菌にさらされる機会が少なくなるために、細菌に対する抵抗力が低下して、わずかな感染でも病気を引き起こしやすくなります。
以上、いくつか事例を示したように、病院のような特殊な環境を除いて、抗菌加工された日用品には多くの人が感じているようなメリットはあまりありません。逆に、有機性の抗菌剤などは、化学物質過敏症を引き起こす恐れもあります。
私たちは、メーカー側の思惑に乗せられることが無いように留意することが大切です。
【法律のマメ知識】
消費生活用製品安全法の改正法が平成19年5月14日に施行され、消費生活用製品の製造事業者又は輸入事業者は、重大製品事項が生じたことを知ったときは、発生の事実を知った日から起算して10日以内に、当該消費生活用製品の名称、事故の内容等を経済産業省に報告しなければならなくなりました。
主な参考文献等
・厚生労働省報道発表資料 デスクマットの使用に伴う重大製品事故について
・毎日新聞 <抗菌マット>アレルギー性皮膚炎発症で回収 コクヨ(平成19年6月1日)
・地球とからだに優しい生き方・暮らし方 天笠啓祐著 つげ書房新社
・家庭用品危険度チェックブック 体験を伝える会 添加物110番編 情報センター出版局
・食品・化粧品危険度チェックブック 体験を伝える会 添加物110番編 情報センター出版局
・使うな、危険! 小若順一 食品と暮らしの安全基金 講談社
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報道発表によると、このデスクマットは、平成9年10月から平成13年2月までに累計で約35万枚販売され、軽症のものを含めアレルギー性皮膚炎の被害が581件確認されています。コクヨS&Tの報道では、接触部位が赤く腫れるような重篤な事例は40例弱あったとのことです。
皮膚炎発症の原因は、デスクマットに含有されていた抗菌剤(2,3,5,6-テトラクロロ-4-〔メチルスルホニル〕ピリジン(略称TCMSP)であると考えられています。本製品は、平成18年10月から数回、社告などで注意喚起が行われ、製品の回収・交換が行われていますが、回収は約3万枚(19年5月末現在)にとどまっています。
現在、多くの製品で「抗菌」加工のものが出回っています。抗菌製品が広まった直接のきっかけは、1992年にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染が問題になったことによるもので、まず、病院内で当該製品の使用が広がりました。その後、1996年に大腸菌O-157の被害の拡大や24時間風呂によるレジオネラ菌の発生などで、台所・調理用品や日用品をはじめとして、多くの製品が抗菌加工されるようになったのです。
【殺菌・除菌・抗菌の違い】
抗菌の他に、殺菌、除菌ということばがありますが、これらの違いは次のとおりです。
・「殺菌」とは、細菌を殺す効果を意味し、薬事法に規定された殺菌剤を含む商品に明記されています。このため、商品に「殺菌」表示をする場合には、薬事法に基づく登録が必要です。登録された商品は「医薬部外品」と表示されています。
・「除菌」とは、その名のとおり細菌を取り除くことでその数を減らす効果をいいます。商品に除菌剤を使う場合には、薬事法に基づく登録や薬剤の表示は不要です。当然ながら、「殺菌」よりも効果は低くなります。
・「抗菌」とは、細菌の付着や繁殖を抑制する効果をいいます。「抗菌」には法的な拘束力はなく、抗菌剤の表示も不要です。抗菌剤には、無機系・有機系・天然系の3種類があります。無機系には銀が多く、有機系には、ジンクピリチオン、トリクロサン、クロルヘキシジン、第4級アンモニウム塩、硫化剤などの薬剤が用いられています。また、天然系のものには、ワサビ、ヒバ、カラシなどがあります。有機系のジンクピリチオンは劇薬で光毒性が指摘されていますが、ヘアローションやシャンプーなどに使われています。その他の有機系抗菌剤も発ガン性、アレルギー性を有したものが少なくありませんが、ほとんどのメーカーが「企業秘密」を理由に薬剤名を明らかにしていません。
「抗菌」は、商品を販売する際に他の商品との差別化をはかって消費者への訴求力を高める目的で使われることが多いのが現状です。
【抗菌加工製品の危険性や効果】
抗菌加工製品があふれる一方で、これを使用したことによる問題や効果に疑問のあるものが多いのが現状です。
・院内感染防止のために用いた抗菌カテーテルによって急激な血圧低下や呼吸困難に陥った事例が報告されています。
・抗菌マスクを使用したことによって、マスクとの接触部分が赤く腫れたり湿疹ができるなどの皮膚炎になる人が増えています。花粉症などのアレルギー体質の人が酸化亜鉛入りの抗菌マスクを使った場合、症状はさらに重くなり、呼吸困難になった人までいます。
・台所用製品の抗菌スポンジには、「水槽等の洗浄には使用しないでください」という注意が書かれているものがあります。このスポンジを用いて掃除した水槽に、スポンジと一緒に金魚を入れたところ、その金魚が死んでしまったという実験報告があります。スポンジ製品に用いられる抗菌剤には無機系と有機系のものがありますが、有機系抗菌剤として使われる薬剤は特に危険です。メーカーは企業秘密として、使われている薬剤を公表していませんが、TBZや塩化ベンザルコニウムなどの有害物質が検出されたこともあるようです。塩化ベンザルコニウムは毒性が強く、飲むと嘔吐や錯乱、けいれん、昏睡などを引き起こし、重症の場合には呼吸器系のマヒで死に至ることもあります。また、無機系の抗菌剤で金属を使ったものは金属アレルギーを誘発することがあります。
・抗菌加工のまな板は、表面についた細菌の増殖を防ぐことはできますが、傷がついたものは効果がほとんどありません。
・食器棚に敷くシートもTBZを使ったものが販売されています。
・抗菌加工の弁当箱は食べ物が箱と接触している部分だけ抗菌効果があり、抗菌加工していない弁当よりもカビの発生が多かったという実験結果もあります。
・エアコンのフィルターやファンには、防カビ・抗菌処理を施したものがありますが、冷却部にホコリが溜まって臭うことが多く、カビや菌の繁殖の温床となっています。また、薬剤として使われているチア・ベンダ・ゾール(TBZ)やオルトフェニルフェノール(OPP)などは、催奇形性や発ガン性、アレルギー性があります。
・抗菌加工製品が多くなると体が細菌にさらされる機会が少なくなるために、細菌に対する抵抗力が低下して、わずかな感染でも病気を引き起こしやすくなります。
以上、いくつか事例を示したように、病院のような特殊な環境を除いて、抗菌加工された日用品には多くの人が感じているようなメリットはあまりありません。逆に、有機性の抗菌剤などは、化学物質過敏症を引き起こす恐れもあります。
私たちは、メーカー側の思惑に乗せられることが無いように留意することが大切です。
【法律のマメ知識】
消費生活用製品安全法の改正法が平成19年5月14日に施行され、消費生活用製品の製造事業者又は輸入事業者は、重大製品事項が生じたことを知ったときは、発生の事実を知った日から起算して10日以内に、当該消費生活用製品の名称、事故の内容等を経済産業省に報告しなければならなくなりました。
主な参考文献等
・厚生労働省報道発表資料 デスクマットの使用に伴う重大製品事故について
・毎日新聞 <抗菌マット>アレルギー性皮膚炎発症で回収 コクヨ(平成19年6月1日)
・地球とからだに優しい生き方・暮らし方 天笠啓祐著 つげ書房新社
・家庭用品危険度チェックブック 体験を伝える会 添加物110番編 情報センター出版局
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