環境と体にやさしい生き方

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迫りくる食糧危機~これだけの理由~

2008年01月28日 | エネルギー・食料・資源
食料品の値上げが続いています。しかし、今起こっている食料品価格の高騰は、これから始まる本格的な食糧危機の前触れに過ぎません。このままいくと、食料自給率の低い日本にとっては、極めて厳しい未来が待ち受けています。

食糧危機は、はるか先のことではありません。多くの現実が、私たち消費者に近い将来起こりうるであろう食糧危機を予兆しています。

なお、食料と食糧は、広辞苑 第五版によると、下記のようになっています。食料が食べ物全般を意味するのに対して、食糧は米や麦などの主食を意味するものと理解してよいかと思います。
食料:食べ物とするもの。食料品。
食糧:食用とする糧。糧食。食物。主として主食物をいう。





【食糧需給の現状】
米国農務省が、2007年10月に発表した2007/08年度の世界の穀物・大豆需給見通しは下記のとおりです。なお、穀物とは、小麦、粗粒穀物(とうもろこしなど)、米(精米)です。
(詳細は、「農林水産省 食料需給インフォメーション 米国農務省穀物等需給報告」を参照してください。)

・生産量:20億7,243万トン(対前年比 4.1%増)
・消費量:20億9,377万トン(対前年比 2.4%増)

これを見ると、生産量は対前年比で増加しているにもかかわらず、消費量がこれを上回り、在庫を取り崩していることがわかります。同報告書によると、期末在庫量は3億1,324万トンで対前年度対比6.4%減(期末在庫率:15.0%)となっています。(期末在庫率=期末在庫量×100/消費量)

なお、世界中で生産される全食料のうち穀物及び大豆で半分近い量を占め、2007/08年度予想では、小麦約6億トン、とうもろこし約7.7億トン、米(精米)約4.2億トン、大豆約2.2億トンで合計約20億トンとなっています。


【食糧危機を予兆する多くの事実】
近い将来の食糧危機を予兆する多くの証拠があります。これらの事実を簡単に紹介します。

①世界人口の増加による食糧需要の急増
1950年に約25億人だった世界の人口は、2008年1月に66億人を超えています。そして、2020年に76億人、2050年には約92億人に増えるとの予測もあります。これは、単純に計算しても、約12年後には現在の食糧の1.15倍、約40年後には1.4倍の量の食料が必要になることを意味します。

②一人当たりの穀物消費量の急増
世界人口の約42%(約30億人)を占めるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の経済発展が著しく、所得の増大に伴って食生活の質の向上と多様化が進んでいます。このため、畜産物や乳製品の需要が急増し、飼料に供される穀物の量が増大しています。ちなみに、家畜の飼料のほとんどは穀物であり、肉1kgを生産するのに必要な穀物は、牛肉で10kg、豚肉で7kg、鶏肉で4kgです。

③穀物収穫面積拡大の限界と単収の伸びの鈍化
農林水産省:「世界の穀物収穫面積、単収の推移、環境問題等」によると、世界の穀物収穫面積は、1961~63年の6.5億haから、2002~2004年は6.7億haとほぼ横ばいの状態が続いています。また、単収(単位面積当たりの収量)の伸びも1960年代 3.0%(年率)、70年代 2.5% 、 80年代 1.8% 、 90年代から最近では2.1%と鈍化傾向にあります。

特に最近の特徴としては、化学肥料の大量使用等による土壌の劣化や地球温暖化による砂漠化、塩害、工業用地や宅地への転換など、耕地面積の減少や単収の減少要因が増えてきています。このため、今後、穀物の収量が大幅に増加する可能性はほとんどありません。

④世界的干ばつの増加
地球温暖化による異常気象で米国やオーストラリア、カナダをはじめとして、世界的に干ばつが増えています。特にオーストラリアでは、ここ数年、深刻な干ばつが続いています。近年の世界的な干ばつは在庫の取り崩しに拍車をかけ、2007/08年度の期末在庫率予想では、小麦17.4%、とうもろこし14.5%、米(精米)16.7%とそれぞれ年間消費量の2か月分前後しかありません。

⑤食糧市場とエネルギー市場の競合
近年、各国では地球温暖化防止と安全保障上の問題から、バイオ燃料の生産に重点を置いています。このため、とうもろこし由来のバイオエタノールや大豆由来のバイオディーゼルの生産が増え、食糧市場とエネルギー市場での穀物争奪が激しくなっています。

⑥極めて低い主要農産物の貿易比率
過去ブログ「食料問題とWTO、EPA/FTA」でも書いたように、世界全体の主要農産物の貿易率は極めて低く、2004年実績で、小麦17.3%、米7%、とうもろこし10.2%、大豆27.3%となっています。そしてこれらの輸出国と輸入国は特定の少数の国に限定されています。このことは、輸入量が輸出国の国内の生産量に大きく左右されることを意味します。ちなみに日本はとうもろこしの最大輸入国であり、その96%を米国に頼っています。この他、米国からの輸入に大きく依存しているものに、小麦(54%)、大豆(76%)があります。(いずれも2006年実績)

⑦穀物メジャーの勢力拡大
世界的な規模で穀物を集荷し、流通、加工まで支配する、カーギルやADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド)などの穀物メジャーの勢力が拡大してきています。これらの企業は、自ら生産を行わないので、価格の変動や異常気象などのリスクを回避しながら、企業の利益を高める方法を臨機応変に選択できるという強みを持っています。
過去ブログ「バイオ燃料の増加が食糧不足を加速」でも紹介したように、ADMは、トウモロコシを『食糧・飼料』と『燃料』の両方で販売することが可能であり、それぞれの相場を比較しながら高い方に流通させています。


これまで書いてきたように、食糧需要の急激な増加に供給が追いつかない状態がますます鮮明になってきています。また、このような状況を好機と捉え、食糧支配を行おうとする企業が勢力を拡大しています。

このまま行くと、食糧危機が近い将来に起こることは必然です。そして、このような環境下で最も脆弱なのは、食糧自給率が39%まで低下した日本でしょう。

果たして、これらのリスクをどれほどの政治家が真に認識しているのでしょう。




【主な参考文献】
 ・食糧争奪 日本の食が世界から取り残される日 柴田明夫著 日本経済新聞出版社

食糧争奪―日本の食が世界から取り残される日
柴田 明夫
日本経済新聞出版社

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