日本は世界最大の食料純輸入国です。政府は、先進国では極めて低い食料自給率を高めるためいろいろな施策を行っていますが、その一方で、さらに自給率を低下させかねないWTO交渉やEPA/FTAの問題がクローズアップされてきています。
周知のとおり、日本のカロリーベースの食料自給率は40%(平成17年度)とかなり低く、8年連続の横ばい状態です。一方、主要先進国における食料自給率は下記の表のとおりで、ほとんどの国が日本と比べてかなり高くなっています。
(以下の2つの表のデータは、「我が国の食料自給率 -平成17年度 食料自給率レポート-」から抜粋)
主要先進国の食料自給率(2003年)
※カロリーベースの食料自給率とは、その国に供給されている食料のカロリー(熱量)のうち、国産のものがどの程度あるかを示したものです。この場合、たとえ国産の畜産物であっても、輸入した飼料で生産された分は自給率に算入されません。
また、日本における主な食料の自給率は次のとおりで、総合食料自給率40%を上回るのは米、野菜、魚介類のみです。表には明記していませんが、畜産物は輸入飼料による生産部分が49%です。
主な食料の自給率(2005年)
一方、主要農産物の貿易率と輸出国別のシェアをみると、下表のとおり貿易に供される農産物の比率は低く、少数の特定国や地域による寡占化が生じていることがわかります。
主要農産物の貿易率と輸出国別シェア(2004年)
(「海外食料需給レポート2006」抜粋)
農畜産物は、一部例外はありますが基本的に生産国内での消費が優先され、余剰分が輸出に回されます。しかし、干ばつや大雨などの被害で生産量が減ると、これまで輸出に供されていたものが国内消費用として振り向けられます。特に、既出の「主要農産物の貿易率と輸出国別シェア」でもわかるように、主要農産物のうち貿易に供される比率は低い上に、その多くを少数の国で占めているため、これらの輸出国で生産量が減ると、日本はたちどころに食料危機に陥りかねません。
最近、異常気象のほかに、食料と燃料(バイオエタノール)の競合、途上国の経済発展、人口増加などで、食料自給率の低い日本では、食料危機を招く危険が極めて大きいと考えられます。
これらの状況にさらに追い討ちをかけるのが、WTO農業交渉やEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)の問題です。(各用語の説明については文末を参照してください。)
WTO(世界貿易機関)には150の国と地域が加盟(2007年2月26日現在)し、関税や輸出入条件を減らしたり無くしたりすることで、貿易の円滑化を促進しています。また、日本とオーストラリアの間で交渉が続いている日豪EPAでは、オーストラリアが輸出を目指している品目が、牛肉や乳製品、小麦、大麦、砂糖、米など、日本の重要品目と一致しているため、日本の農業に大きなダメージを与えることが危惧されています。
経済財政諮問会議WG資料(「国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響について」2007.2.26)によると、国境措置としての関税を撤廃すれば、安価な外国産農産物が大量に国内に流入して、約3兆6千億円もの国内生産額が減少するとしています。また、これらの問題の影響が他の産業にも波及して、国内総生産(GDP)が合計で約9兆円も減少するとともに、多くの失業者が発生、食料自給率も10%台前半までに低下すると指摘しています。
ただでさえ国内農業は、
・農家戸数、農業就業人口の減少と高齢化
(45年前と比べて、農家戸数は半分弱、農業就業人口は4分の一以下、2005年の65歳以上の農業従事者58%)
・耕地面積の減少1990~2005年のわずか15年でも11%も減少)
が続いており、極めて脆弱なのが現状です。
WTO交渉、EPA/FTAは、それらの関係者だけの問題ではなく、国民それぞれの身近な問題としてとらえ、もっと関心を持つことが必要だと思います。
そして、世論の高まりによって、政府に対して食料自給率を高めるためのより抜本的な施策の企画立案を促していくことが大切ではないでしょうか。
【用語の説明】(農林水産省・農林水産関係用語集より引用)
・WTO
World Trade Organization(世界貿易機関)の略。ウルグアイ・ラウンド合意を受け、関税及び貿易に関する一般協定(ガット)に代わり、1995年1月に発足した国際機関。本部はジュネーブにあり、貿易障壁の除去による自由貿易推進を目的とし、多角的貿易交渉の場を提供するとともに、国際貿易紛争を処理する。
・WTO農業交渉
WTO農業協定20条の規定に基づき、2000年3月に開始。2001年11月に立ち上げられた新ラウンドの一部として交渉が行われている。2004年7月にジュネーブで開催された一般理事会において、農業分野を含め、枠組み合意がなされた。
・モダリティ(交渉の大枠)
WTO農業交渉においては、市場アクセス、国内支持、輸出競争の3分野等について、具体的な削減率等の各国に共通に適用されるルールをいう。ウルグアイ・ラウンド農業合意でみると、「助成合計量の実施期間中の20%削減」や「農産物全体で平均36%(品目ごとに最低15%)の関税削減」等がこれに当たる。
・EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)
Economic Partnership Agreement/Free Trade Agreementの略。2以上の国が関税の撤廃や制度の調整等による相互の貿易促進を目的として他の国を排除する形で締結されるもので、物やサービスの貿易を自由にする協定をFTAという。FTAの内容を含みつつ、市場制度や経済活動等、幅広く経済的な関係を強化する協定をEPAという。これらは本来、WTOの最恵国待遇に反するものとされている。しかしながら、その貿易自由化効果ゆえに、一定の要件([1]「実質上のすべての貿易」について「関税その他の制限的通商規則を廃止」すること、[2]廃止は、妥当な期間内(原則10年以内)に行うこと、[3]域外国に対して関税その他の通商障壁を高めないこと等)のもとに認められている(貿易及び関税に関する一般協定(ガット)第24条他)。
【主な参考文献等】
・農林水産省「我が国の食料自給率 -平成17年度 食料自給率レポート-」
・農林水産省「海外食料需給レポート2006」
・農林水産省 「WTO農業交渉をめぐる情勢について 平成19年4月」
・農林水産省 「日豪EPA/FTAの交渉に当たって」
・JAグループパンフレット「貿易のために食を売り渡すな!」
・日経ビジネス2007.7.9号「置いてきぼりニッポン 出遅れFTA戦略のツケ」
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周知のとおり、日本のカロリーベースの食料自給率は40%(平成17年度)とかなり低く、8年連続の横ばい状態です。一方、主要先進国における食料自給率は下記の表のとおりで、ほとんどの国が日本と比べてかなり高くなっています。
(以下の2つの表のデータは、「我が国の食料自給率 -平成17年度 食料自給率レポート-」から抜粋)
主要先進国の食料自給率(2003年)
237% | |
145% | |
128% | |
122% | |
89% | |
84% | |
84% | |
70% | |
62% | |
58% | |
49% |
※カロリーベースの食料自給率とは、その国に供給されている食料のカロリー(熱量)のうち、国産のものがどの程度あるかを示したものです。この場合、たとえ国産の畜産物であっても、輸入した飼料で生産された分は自給率に算入されません。
また、日本における主な食料の自給率は次のとおりで、総合食料自給率40%を上回るのは米、野菜、魚介類のみです。表には明記していませんが、畜産物は輸入飼料による生産部分が49%です。
主な食料の自給率(2005年)
95% | |
76% | |
57% | |
37% | |
34% | |
24% | |
17% | |
13% | |
3% | |
25% |
一方、主要農産物の貿易率と輸出国別のシェアをみると、下表のとおり貿易に供される農産物の比率は低く、少数の特定国や地域による寡占化が生じていることがわかります。
主要農産物の貿易率と輸出国別シェア(2004年)
(「海外食料需給レポート2006」抜粋)
10.4% | 米 国 37.7% | オーストラリア 11.0% | アルゼンチン 9.1% | |
17.3% | 米 国 29.3% | オーストラリア 17.3% | カ ナ ダ 14.2% | |
7.0% | タ イ 36.1% | イ ン ド 17.3% | ベトナム 14.8% | |
10.2% | オーストラリア 42.9% | ウクライナ 23.7% | カ ナ ダ 10.6% | |
10.2% | 米 国 65.7% | アルゼンチン 14.4% | ブラジル 6.8% | |
27.3% | 米 国 45.8% | ブラジル 34.4% | アルゼンチン 11.7% | |
9.5% | ブラジル 23.7% | オーストラリア 20.9% | カ ナ ダ 9.2% | |
4.4% | EU25 27.6% | カ ナ ダ 19.8% | 米 国 18.9% | |
7.0% | 米 国 22.8% | 南アフリカ 19.6% | ト ル コ 9.2% |
農畜産物は、一部例外はありますが基本的に生産国内での消費が優先され、余剰分が輸出に回されます。しかし、干ばつや大雨などの被害で生産量が減ると、これまで輸出に供されていたものが国内消費用として振り向けられます。特に、既出の「主要農産物の貿易率と輸出国別シェア」でもわかるように、主要農産物のうち貿易に供される比率は低い上に、その多くを少数の国で占めているため、これらの輸出国で生産量が減ると、日本はたちどころに食料危機に陥りかねません。
最近、異常気象のほかに、食料と燃料(バイオエタノール)の競合、途上国の経済発展、人口増加などで、食料自給率の低い日本では、食料危機を招く危険が極めて大きいと考えられます。
これらの状況にさらに追い討ちをかけるのが、WTO農業交渉やEPA(経済連携協定)、FTA(自由貿易協定)の問題です。(各用語の説明については文末を参照してください。)
WTO(世界貿易機関)には150の国と地域が加盟(2007年2月26日現在)し、関税や輸出入条件を減らしたり無くしたりすることで、貿易の円滑化を促進しています。また、日本とオーストラリアの間で交渉が続いている日豪EPAでは、オーストラリアが輸出を目指している品目が、牛肉や乳製品、小麦、大麦、砂糖、米など、日本の重要品目と一致しているため、日本の農業に大きなダメージを与えることが危惧されています。
経済財政諮問会議WG資料(「国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響について」2007.2.26)によると、国境措置としての関税を撤廃すれば、安価な外国産農産物が大量に国内に流入して、約3兆6千億円もの国内生産額が減少するとしています。また、これらの問題の影響が他の産業にも波及して、国内総生産(GDP)が合計で約9兆円も減少するとともに、多くの失業者が発生、食料自給率も10%台前半までに低下すると指摘しています。
ただでさえ国内農業は、
・農家戸数、農業就業人口の減少と高齢化
(45年前と比べて、農家戸数は半分弱、農業就業人口は4分の一以下、2005年の65歳以上の農業従事者58%)
・耕地面積の減少1990~2005年のわずか15年でも11%も減少)
が続いており、極めて脆弱なのが現状です。
WTO交渉、EPA/FTAは、それらの関係者だけの問題ではなく、国民それぞれの身近な問題としてとらえ、もっと関心を持つことが必要だと思います。
そして、世論の高まりによって、政府に対して食料自給率を高めるためのより抜本的な施策の企画立案を促していくことが大切ではないでしょうか。
【用語の説明】(農林水産省・農林水産関係用語集より引用)
・WTO
World Trade Organization(世界貿易機関)の略。ウルグアイ・ラウンド合意を受け、関税及び貿易に関する一般協定(ガット)に代わり、1995年1月に発足した国際機関。本部はジュネーブにあり、貿易障壁の除去による自由貿易推進を目的とし、多角的貿易交渉の場を提供するとともに、国際貿易紛争を処理する。
・WTO農業交渉
WTO農業協定20条の規定に基づき、2000年3月に開始。2001年11月に立ち上げられた新ラウンドの一部として交渉が行われている。2004年7月にジュネーブで開催された一般理事会において、農業分野を含め、枠組み合意がなされた。
・モダリティ(交渉の大枠)
WTO農業交渉においては、市場アクセス、国内支持、輸出競争の3分野等について、具体的な削減率等の各国に共通に適用されるルールをいう。ウルグアイ・ラウンド農業合意でみると、「助成合計量の実施期間中の20%削減」や「農産物全体で平均36%(品目ごとに最低15%)の関税削減」等がこれに当たる。
・EPA(経済連携協定)/FTA(自由貿易協定)
Economic Partnership Agreement/Free Trade Agreementの略。2以上の国が関税の撤廃や制度の調整等による相互の貿易促進を目的として他の国を排除する形で締結されるもので、物やサービスの貿易を自由にする協定をFTAという。FTAの内容を含みつつ、市場制度や経済活動等、幅広く経済的な関係を強化する協定をEPAという。これらは本来、WTOの最恵国待遇に反するものとされている。しかしながら、その貿易自由化効果ゆえに、一定の要件([1]「実質上のすべての貿易」について「関税その他の制限的通商規則を廃止」すること、[2]廃止は、妥当な期間内(原則10年以内)に行うこと、[3]域外国に対して関税その他の通商障壁を高めないこと等)のもとに認められている(貿易及び関税に関する一般協定(ガット)第24条他)。
【主な参考文献等】
・農林水産省「我が国の食料自給率 -平成17年度 食料自給率レポート-」
・農林水産省「海外食料需給レポート2006」
・農林水産省 「WTO農業交渉をめぐる情勢について 平成19年4月」
・農林水産省 「日豪EPA/FTAの交渉に当たって」
・JAグループパンフレット「貿易のために食を売り渡すな!」
・日経ビジネス2007.7.9号「置いてきぼりニッポン 出遅れFTA戦略のツケ」
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