現代川柳『泥』四号・・・青葉テイ子
ステンレスの沖八月を照り返す さとし
トラウマの八月炎天セピア色 さとし
遠い日の闇一面は蕎麦の色 さとし
クロムとニッケルを混ぜた合金 ステンレス。
岸から遠く離れた海や湖を指す 沖、となれば、ステンレスの沖、八月、この発想にまず度肝を抜かされる。
干涸らびた私の前頭葉は、何かを掴まんとしてぐるぐる空回りする。この想へと至るまでの過程と精神構造をも含めて、さとしの世界を探ってみたい。
体のディティールまで抉りだしかねない底光りするステンレスは、ときに得体の知れぬ脅威を呼び起こす。
揚出句、三句に共通するのは八月のテーマ、八月は慟哭である。唯一の被爆国日本、人間をモルモット化した一発の爆弾は、罪なき人々を一瞬のうちに壁にした。
魂の震えと憤怒は五十八年の歳月が経っても治まらぬ。戦争という犠牲の上になりたつ擬似平和、いまだ尾をひくトラウマの実体、強靭で妖しげなステンレスの奥を無言で見つめる黒い影、ぞっとする寂寥感が漂う。
一貫した主義主張、徹底した人間の好き嫌いの激しさは類を見ない。知る人ぞ知る論客である。ストレートな視点、目を覆いたくなるような虚無、カオスを背負って生きんとて、有象無象の火の粉を浴びてきた匂いがする。
花はらりはらり死体を埋めに来る さとし
光ってる笑ってる路傍の石たち さとし
波打ち際をいつも歩いている耳か さとし
死体埋葬人も、笑っている路傍の石たちも、生活のカルキ臭さからは生まれてこない。孤独の影を纏いながらシビアに自嘲気味に語るさとしのプロフィールに笑いはない。光っている石も、笑ってる石も自虐の域を一歩も出ていない。花はらりはらりのエモーションは心憎い。
何を探らんとして迷える魂は波打ち際を歩くのか。斬り落とされた耳の悲鳴を聞くがいい。そこから豊穣な世界がひらけるだろう。
神は哀しみ未来を探す手を呉れた さとし
疑いの目玉ぽろっと枇杷の種 さとし
切り株にぽつんと座っている仏 さとし
未来を探す手がかり・・・神はそんなもの解りがいいのか、無神論者の私にはわからない。しかし未来志向の作品になぜかホッとする。疑いの目玉は、シャイで緻密なさとしの透徹した目玉だ。メガネの奥暗い洞穴は、ピカリと光る。獲物を見つけた動物の嗅覚だ。にんげんを丸呑みして貪欲にも血や肉にしてきた目だ。
ぽつんと木の根株に座って仏と対峙、仏を希求する姿に弱さも悲しさも晒した影がいた。人を容易に寄せつけず凛として、雑音などどこ吹く風。
封筒の中も本降りになっている 不凍
天国へとどけ初恋Eメール
ステンレスの沖八月を照り返す さとし
トラウマの八月炎天セピア色 さとし
遠い日の闇一面は蕎麦の色 さとし
クロムとニッケルを混ぜた合金 ステンレス。
岸から遠く離れた海や湖を指す 沖、となれば、ステンレスの沖、八月、この発想にまず度肝を抜かされる。
干涸らびた私の前頭葉は、何かを掴まんとしてぐるぐる空回りする。この想へと至るまでの過程と精神構造をも含めて、さとしの世界を探ってみたい。
体のディティールまで抉りだしかねない底光りするステンレスは、ときに得体の知れぬ脅威を呼び起こす。
揚出句、三句に共通するのは八月のテーマ、八月は慟哭である。唯一の被爆国日本、人間をモルモット化した一発の爆弾は、罪なき人々を一瞬のうちに壁にした。
魂の震えと憤怒は五十八年の歳月が経っても治まらぬ。戦争という犠牲の上になりたつ擬似平和、いまだ尾をひくトラウマの実体、強靭で妖しげなステンレスの奥を無言で見つめる黒い影、ぞっとする寂寥感が漂う。
一貫した主義主張、徹底した人間の好き嫌いの激しさは類を見ない。知る人ぞ知る論客である。ストレートな視点、目を覆いたくなるような虚無、カオスを背負って生きんとて、有象無象の火の粉を浴びてきた匂いがする。
花はらりはらり死体を埋めに来る さとし
光ってる笑ってる路傍の石たち さとし
波打ち際をいつも歩いている耳か さとし
死体埋葬人も、笑っている路傍の石たちも、生活のカルキ臭さからは生まれてこない。孤独の影を纏いながらシビアに自嘲気味に語るさとしのプロフィールに笑いはない。光っている石も、笑ってる石も自虐の域を一歩も出ていない。花はらりはらりのエモーションは心憎い。
何を探らんとして迷える魂は波打ち際を歩くのか。斬り落とされた耳の悲鳴を聞くがいい。そこから豊穣な世界がひらけるだろう。
神は哀しみ未来を探す手を呉れた さとし
疑いの目玉ぽろっと枇杷の種 さとし
切り株にぽつんと座っている仏 さとし
未来を探す手がかり・・・神はそんなもの解りがいいのか、無神論者の私にはわからない。しかし未来志向の作品になぜかホッとする。疑いの目玉は、シャイで緻密なさとしの透徹した目玉だ。メガネの奥暗い洞穴は、ピカリと光る。獲物を見つけた動物の嗅覚だ。にんげんを丸呑みして貪欲にも血や肉にしてきた目だ。
ぽつんと木の根株に座って仏と対峙、仏を希求する姿に弱さも悲しさも晒した影がいた。人を容易に寄せつけず凛として、雑音などどこ吹く風。
封筒の中も本降りになっている 不凍
天国へとどけ初恋Eメール