現代川柳『泥』四号・・私のイリュージョン・・木村政子
ぽあんぽあんと生きる乾いた右脳 テイ子
気が付くとうっすらと口を開けテレビに見とれている。
すさまじい勢いで開けたてする女子アナの口元に見とれている。血の飛び散るドラマに見とれている。若い娘が如何にも上手そうに温泉料理を食べて見せる、下顎の卑しげな動きに見とれている。殺されて飛び散るイラク人のかけらも写らない、清潔な侵略戦争の報道番組に見とれている。
一蓮托生のしじみと砂を噛む テイ子
ごくごく短い管(くだ)がある。長い長い管もある。
ハエにトンボにイタチにブタに、あなたにわたしに管がある。命はいのちをかみ砕き、管に流して甦る。
傷痕に染みる水の重さと水の刑 テイ子
ああ、なんて嫌な奴。さりげなく調子を合わせつつ、五度も六度もそう思う。この人まだ笑ってる・・・この鈍感さが堪らない。口を開けて食べないで。手をひらひら泳がせないで。検事のように糾弾し判事のように裁決し、わたしはニコニコ面(面)を付けたまま。
バス停でとろんと犬の目を拾う テイ子
こんなところでどうしたの。いったいどこへ行くつもり。ちちははの待つ故郷(ふるさと)へ帰りたいのに返れない。バスに乗っても帰れない。八つの頃には帰れない。
ひざを抱えて待つばかり。迷子の犬と待つばかり。
餌を拾うこともなく彷徨う 狂女たり テイ子
夫に恵まれ子に恵まれても忍び寄る不安。満ち足りてなお朽ちるたましいもある。それだってうらやましい。夫の職場は会社更生法、子は定職に就けず引きこもり、友達はいつからか敬遠疎遠になって、それがわたしの現実。家に直行する勇気も失せ、パートの帰りにカラオケルームでしばしの道草。2時間500円。たったひとりの独唱。
モノクロの静止画像は終戦日 さとし
あの日は抜けるような青空と、ラジオのノイズと落胆と安堵と空腹と・・・。56年後の7月26日、アメリカ合衆国アジア州日本では、イラク復興支援特別措置法が村議会を通過した。元帥を夢見る村長小泉純一郎の脳裏には、勇ましい軍靴の音と日の丸の旗がひるがえる。
ステンレスの沖八月を照り返す さとし
戦後間もなく出回った、鮮やかな色に艶やかな光沢、そして如何にも堅牢そうで、それがまったくのまやかしだった・・・人絹の、あのてらてらとした感触が、波打つことを忘れた海の怠慢と、どうしても重なる。あの日の雲ひとつ無い空の青さとも重なる。
続く・・・・。
11月原流 けものみち出て一対の窮まりぬ 不凍
ぽあんぽあんと生きる乾いた右脳 テイ子
気が付くとうっすらと口を開けテレビに見とれている。
すさまじい勢いで開けたてする女子アナの口元に見とれている。血の飛び散るドラマに見とれている。若い娘が如何にも上手そうに温泉料理を食べて見せる、下顎の卑しげな動きに見とれている。殺されて飛び散るイラク人のかけらも写らない、清潔な侵略戦争の報道番組に見とれている。
一蓮托生のしじみと砂を噛む テイ子
ごくごく短い管(くだ)がある。長い長い管もある。
ハエにトンボにイタチにブタに、あなたにわたしに管がある。命はいのちをかみ砕き、管に流して甦る。
傷痕に染みる水の重さと水の刑 テイ子
ああ、なんて嫌な奴。さりげなく調子を合わせつつ、五度も六度もそう思う。この人まだ笑ってる・・・この鈍感さが堪らない。口を開けて食べないで。手をひらひら泳がせないで。検事のように糾弾し判事のように裁決し、わたしはニコニコ面(面)を付けたまま。
バス停でとろんと犬の目を拾う テイ子
こんなところでどうしたの。いったいどこへ行くつもり。ちちははの待つ故郷(ふるさと)へ帰りたいのに返れない。バスに乗っても帰れない。八つの頃には帰れない。
ひざを抱えて待つばかり。迷子の犬と待つばかり。
餌を拾うこともなく彷徨う 狂女たり テイ子
夫に恵まれ子に恵まれても忍び寄る不安。満ち足りてなお朽ちるたましいもある。それだってうらやましい。夫の職場は会社更生法、子は定職に就けず引きこもり、友達はいつからか敬遠疎遠になって、それがわたしの現実。家に直行する勇気も失せ、パートの帰りにカラオケルームでしばしの道草。2時間500円。たったひとりの独唱。
モノクロの静止画像は終戦日 さとし
あの日は抜けるような青空と、ラジオのノイズと落胆と安堵と空腹と・・・。56年後の7月26日、アメリカ合衆国アジア州日本では、イラク復興支援特別措置法が村議会を通過した。元帥を夢見る村長小泉純一郎の脳裏には、勇ましい軍靴の音と日の丸の旗がひるがえる。
ステンレスの沖八月を照り返す さとし
戦後間もなく出回った、鮮やかな色に艶やかな光沢、そして如何にも堅牢そうで、それがまったくのまやかしだった・・・人絹の、あのてらてらとした感触が、波打つことを忘れた海の怠慢と、どうしても重なる。あの日の雲ひとつ無い空の青さとも重なる。
続く・・・・。
11月原流 けものみち出て一対の窮まりぬ 不凍