日銀人事/「政局」、「党利党略」結構毛だらけ猫灰だらけ

2008-04-10 19:21:48 | Weblog

 日本銀行の副総裁を総裁に昇格させる政府提案の人事案が9日午前の与党その他の野党の賛成多数で可決、同意の運びとなった。だが、前財務官の渡辺博史副総裁案は民主党その他の野党の反対で否決。不同意となった。

 民主党は全員が反対したわけではない。「造反・欠席・棄権は7人」と『毎日jp』(08.4.10≪日銀総裁:後任人事 民主、党運営に火種 造反・欠席・棄権7人、小沢氏への反発拡大≫)は伝えている。

 その理由は渡辺副総裁案がふさわしい人事であるにも関わらず小沢氏主導の不同意が「政局がらみの判断」だからというものらしい。

 いわば小沢一郎の「政局がらみの判断」は間違っていると断罪した「造反・欠席・棄権」の意思表示というわけである。

 ここで問題としなければならないのは、小沢一郎の「政局がらみの判断」は間違っているという7人の判断が果して正しい判断なのかと言うことである。つまり渡辺氏が日銀副総裁にふさわしい人事だから「同意」とする判断が果たして正しい判断だと言い切れるのかということである。勿論、現在の政治状況にあってという条件付きである。状況に応じてた正しい・正しくないは違いが生じる場合があるからである。

 優等生意識があるのか、自信過剰なのか、何となく小賢しさが鼻につく前代表だか元代表だかの民主党前原誠司も<「本音は同意したかった」と発言。「党内の大半が容認していた中で『反対』となった。相当、党内に不満がたまっているのではないか」>と上記記事が伝えているが、これも小沢一郎の「不同意」は「政局がらみの判断」であって、間違っているとする立場であろう。

 先ず小沢一郎がその頭に思い描いている最大・最終シナリオは断るまでもなく、「解散・総選挙・民主党政権誕生」である。そのようなシナリオ意識に立っているから、与党が出すすべての政策に対する対応が「解散・総選挙・民主党政権誕生」の一点に光を集める政治行動を取ることとなっている。4月6日日曜日の朝7時半からのフジテレビ「報道2001」でも9時からのNHK「日曜討論」でも「解散・総選挙・民主党政権誕生」に言及している。参議院与野党逆転状況であることのみならず、それを武器として追い込んだ福田内閣低支持率の今がそのチャンスだと見ていることからの当然の態度であろう。

 フジテレビ「報道2001」で語った内容を「MSN産経」(2008.4.6 20:45)が伝えている。
 
 ≪「できればサミット前後に解散に追い込む」 報道2001で小沢氏≫

 <民主党の小沢一郎代表は6日、フジテレビの「報道2001」に出演し、衆院解散・総選挙に向けた戦略について語った。主なやりとりは次の通り。

 ――政府・与党は揮発油(ガソリン)税の暫定税率復活のため、衆院の再議決に踏み切るか
 「国民が許すかどうかだ。『けしからん』という意見が大きくなったら、自公政権は再議決できない」

 ――再議決した場合、福田康夫首相に対する問責決議案を出すか
 「具体的にはその時だが、あらゆる選択肢を考えてやる」

 ――7月の洞爺湖サミット前後の衆院解散に追い込む考えか
 「できれば。国民の意識がどこまで盛り上がるかによるが」

 ――福田内閣が総辞職する可能性は
 「行き詰まれば総辞職になるかもしれないが、ぼくらは『早く選挙をしろ』ということだ。国民が『自公政権でいい』と言うなら仕方がない。『民主党やってみろ』と言うなら頑張る。その判断を早く国民にしてもらいたい

 ――総辞職で新内閣が発足した場合、対応しにくくなるのでは
 「いや。頭をすげ替えて、年金やガソリン税の問題が何とかなることはない。誰になったっていいが、早く国民の判断を問うてほしい」

 ――福田首相は道路特定財源の一般財源化に関し「『骨太2008』に盛り込むことを検討する」と述べた
 「官僚の作文だ。『盛り込みます』と言わなければ『検討した結果どうなるの』という話になる」>・・・・・

 NHKの「日曜討論」でも小沢一郎は同じ姿勢を示している。司会者から「小沢さんの戦略からしますとね、いわばここまでは(暫定税率期限切れ廃止のこと)第一幕で、解散・総選挙に持ち込んで政権交代を実現すると、言うところまで行かないと、シナリオは完結しないと思うんですけども――」

 小沢一郎「そう」(と即座に答えている。)

 司会「そういう意味で、どうなんでしょう?ここまで来たってことは今どの辺まで来ているのか、もうシナリオは目前まで来たっていう感じですか?」

 小沢「と、あのー、思っています。ガソリン税について言えば、もう今の福田総理は、3分の2でまた値上げすんだと、そう言っておられるますけれども、このぐらい国民の皆さんが期待していることをまた引っくり返して値上げするようなことになりますと、それこそ混乱しますし、こういう事態のときは要するに年金もあれば、防衛省の問題ということもありますね。色々もう膿が吹き出ていますけど。ですから、国民主権者の、僕は、審判を仰ぐ以外に方法はない。そう思います。そしてそれがやっぱり民主主義の一番の機能、効果じゃないでしょうかね。それで、国民のみなさんが何をやったって自民党・公明党の政権でいいと言えばしょうがないし、いや、やっぱりこの辺で一つ大掃除して、国民中心の生活中心の、民主党政権をつくろうと、言うことであれば、そう判断していただく。まあ、どっちか判断していただく以外ないと思います」・・・・・

 福田首相はマスコミに早期解散を否定しているが、小沢代表はいつ解散しても選挙に万全を期することができるよう民主党に指示を出している程に「解散・総選挙・民主党政権誕生」に向けて積極的である。今のチャンスを逃してなるまいという意識を強くしているからだろう。

 この解散に関わる相反する両者の姿勢は昨9日のNHKニュースが伝えた福田対小沢の党首討論にも如実に現れている。実況ではなくニュースで伝えているのだから、不必要箇所をカットした放送となっている。

 小沢代表「大蔵省の経験をした人が、入るちゅうのは、あの、鼻っからいけないと言っているわけではないんです。日銀の総裁、副総裁、その中に必ず大蔵省がポストを占めると、そういう既得権益の中にあるから、それがいけないって言うんですよ。そういう支配の構造を直さなければならない――」

 福田首相「日銀というのは誰でもできるというポストでもないと思うんですよね。適材適所、人物本位、そのこともお考えいただきたい。ま、正直言って、翻弄されました。翻弄されたですよ。そんな思いが致しておりますけども。しかし、その人事権は政府にあるんだと、ですね、余っ程変な人事をしないんであれば、それをお認めいただくというのが、それが議会の、その、国会の人事制度だと思います。もう4人も否定したんですから。武藤氏以来。そういうのは権力の乱用って言うんです。人事権の乱用って言うんです。これはね、私はね、いただけない」

 小沢一郎「内閣は二院制の中で一院しか多数を持っていないんです。そういう状況の中で、政府・与党の出したことは、みんな、とにかく、あのー、呑まなきゃいけないことでは、それはあり得ないんで、本来ならば、予算編成の段階から、その、色々と協議しようと言うならば、協議するのが当たり前でございますが、国民が与えてくれた過半数に対する認識が違うんじゃないかな、そのように思います」

 福田首相「一つ一つの大事なことについて、結論が遅いですよ。民主党と申しますか、野党は。遅い。昨年の10月以来、もう、本当に何度も何度も、その政策協議したいと言うことは申し上げてきたんですよ。代表の気持ちはやっぱり、これ一緒に、いなくて、やらなきゃできないということを考えてね、あの会談をセットされた、こういうふうに思っておりますんでね。その気持は今でも、私の気持ちは一杯あるんですよ。誰と話をすればですね、信用できるのか、そのこともですね、是非お示し、教えていただきたい。大変苦労してるんですよ――」(以上)

 小沢代表の方は「協議」自体は否定していないが、「国民が与えてくれた過半数に対する認識が違う」という表現で自分が手にエースのカードを握っていることを十分に承知していることを示し、切り札としてのその優位性に自信たっぷりなところを見せている。

 勿論、この優位性が小沢氏をして「政局」行為、「党利党略」を可能たらしめている。

 対して福田首相の方は大連立に未練を残している。大連立は自民党を権力の一角に温存させることを意味する。権力温存が意識にあるから、日銀人事での民主党の不同意を「権力の乱用」、もしくは「人事権の乱用」という解釈が出てくる。

 もし小沢一郎の戦略が「解散・総選挙・民主党政権誕生」以外にないと思い定め、腹を括ることができていたなら、日銀人事に対する不同意、その他の小沢手法が「政局」目的の当然の措置だと観念しただろうから、「権力の乱用」だとか「人事権の乱用」と言った言葉は益もないことだから口に出すことはなかったろう。腹を括るしかないのだが、括ることができないから、「権力の乱用」、「人事権の乱用」が泣き言に聞こえてくる。

 自民党幹事長の独善的な不平不満居士伊吹も民主党の日銀副総裁人事不同意について<「やや国益を離れた党利党略的な判断が優先したとしか思えない」と批判。参院の採決で同党から造反者が出たことを指摘し、「真っ当な意見を持った人がいたことは民主党執行部はしっかりと考えてほしい」と語った。>(≪日銀総裁 空席解消)白川氏、午後に任命≫08.4.9『朝日』夕刊)と語っているが、小沢一郎からしたら伊吹のこの言葉を知った時点で「解散・総選挙・民主党政権誕生は長期的には国民の利益となるのだから、それこそが国益であって、そのための党利党略のどこが悪い」と腹の中でせせら笑ったに違いない。NHK「日曜討論」で話していたように「民主主義の一番の機能、効果」というわけである.

 「国益を離れた党利党略的な判断」などと表面的にしか解釈できない伊吹不平不満居士に対して、「燕雀安(いずく)んぞ鴻鵠(こうこく)の志(こころざし)を知らんや」(「ツバメやスズメのような小さな鳥にオオトリやクグイのような大きな鳥の志がわかるだろうか。小人物には大人物の大きな志は分からない。」『大辞林』三省堂)と思ったかどうかは推測しようがないが。

 小沢一郎の財務省の天下り・既得権益を口実にした財務省出身官僚の日銀人事不同意が「解散・総選挙・民主党政権誕生」という大事を実現するための、その大事から比較したらごくごく小事でしかない確信犯的「政局」行為であり、「党利党略」判断なのだと受け止めるなら、小沢一郎主導の不同意を民主党内の「造反・欠席・棄権」の7人が「政局がらみの判断」だと批判したのは「解散・総選挙・民主党政権誕生」の戦略を弱める批判となり、正しい判断とは言えなくなる。「解散・総選挙・民主党政権誕生」を望んでいないということなら、逆に正しい判断となる。野党民主党に所属していながら、隠れ自民党議員ということで、望める立場にないということなのだろう。前原にしても普段から自民党べったりの主張を展開している。

 「解散・総選挙・民主党政権誕生」に持っていくためには「政局」も「党利党略」も結構毛だらけ、猫灰だらけではないか。今のチャンスを逃したなら、民主党に政権のお鉢がいつ回ってくるか分かったものではない。鉄は熱いうちに打てである。「政局」、「党利党略」で押しまくる以外に政権交代の機会を手に入れることができるというのだろうか。

 福田政権が生き残るためには小沢一郎の挑戦に乗ってイチかバチかの勝負にかける以外ないだろう。これ以上支持率を下げていき、解散に追い込まれたら、生き残る道は万が一にもなくなる。微かな希望を託して吉と出るか凶と出るか賭けに出る。今以上に日本の政治を混乱させないためにも国民の審判にすべてを委ねる。それは政権党の役目でもあり、責任でもある。福田康夫はただただ安倍の二の舞を恐れているとしか思えない。

 例え二の舞を演じることとなっても、安倍晋三の有難い置き土産が招いた二の舞なのだから、恨むなら安倍晋三を心ゆくまで恨めばいい。
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 ≪日銀総裁:後任人事 民主、党運営に火種 造反・欠席・棄権7人、小沢氏への反発拡大≫)(毎日新聞 2008年4月10日 東京朝刊)
 「3度目の不同意」となった9日の日銀人事案の参院本会議採決で、前財務省財務官の渡辺博史氏を副総裁に起用する案を巡り、民主党内で小沢一郎代表に対する不満があらわになった。造反・欠席・棄権は7人。同一会派の無所属議員1人を加えると8人で、4人だった前回(3月19日)の倍に増えた。造反議員は党内の大勢だった容認論に反する党方針を「政局がらみの判断」などと批判。党方針を決定付けた小沢代表に対する反発の広がりは、今後の党運営に大きな火種を残した。
 「党の決定はおかしい。小沢代表は非常にかたくなに何かに固執された」。渡辺副総裁案に同意票を投じた大江康弘氏は記者団に語った。渡辺秀央氏も小沢氏の言う天下りに当たらないと主張し「民主党に国を任せることに疑問が出てくる」と懸念を示した。
 日銀正副総裁人事の採決は今国会で3回目。民主党の造反者増に加え、統一会派を組む国民新党が2回目から同意に回ったため、同意と不同意の票差は次第に縮まっている。
 衆院採決で党の方針に従った前原誠司氏も「本音は同意したかった」と発言。「党内の大半が容認していた中で『反対』となった。相当、党内に不満がたまっているのではないか」と指摘した。
 こうした声に小沢代表は9日の会見で「違う意見をまとめるために組織がある。組織のプロセスを経て決めるのは当たり前」と反論した。しかし、欠席にとどめたある議員は「ダメージは大きい。今回はまずい」と漏らした。【上野央絵】


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