ごく当たり前のことを言うに過ぎないが、「基本的人権」とは人間が生まれながらにして与えられている人間が人間として生きていく上ですべての面でベースとなる、決して欠かすことのできない基本的な権利であって、憲法の保障があって初めて獲得する権利ではない。
なぜなら人間生命の十全な発露は基本的人権を共にして初めて可能となるからだ。基本的人権の制限を受けたり、否定されたりした場合、人間生命の十全な発露は様々な制約を受け、制約に伴う障害を来たすことになる。
いわば基本的人権が生まれたときから本来的に備わっている権利であることによって、人間が人間として生きていく人間のあるべき存在性が満足のいく形を取ることが可能となる。
憲法の保障は人間が生まれながらに持っている基本的人権を条文によって担保したに過ぎない。時に国家権力によって侵害される危険に曝されるからである。
基本的人権は自然権に入る。自然権とは、国家及びその法律に先立って個人に本来的に備わっているものであるとするゆえに国家によって侵されることのない、あるいは侵されてはならない権利を言い、基本的人権はその代表格としてある。
そのように位置づけなければならないにも関わらず、基本的人権が生まれながらに与えられた人間のあるべき存在性を保障する権利であることを無視して国家権力を用いて侵害する国があるが、それは国家権力による人間のあるべき存在性に対する愚かで僭越な挑戦としか言いようがない。しかしそのような否定されるべき挑戦が多くの国で蔓延している。
基本的人権が人間が生まれながらに与えられている自然権である以上、その権利は国籍や民族によって制約を受けない普遍性を本来的に備えているはずである。それはチベット人であろうとミャンマー人であろうと、北朝鮮人であろうと変わりはない人類普遍の権利であって、国家権力・政治体制のみが制限を設け、あるいは否定する。
もし基本的人権が国籍や民族によって制約を受けるとするなら、人間に違い、あるいは差別を設けることとなり、如何なる個人も国家権力もそうする権利はないはずである。
基本的人権が人間が生まれながらにして与えられている人間生存の権利であり、且つ国籍や民族によって制限を設けてはならない人類普遍の権利である以上、基本的人権に国境は存在しないことになる。
すべての国のすべての国民が等しく享受しなければならない国家主権を超えた権利であって、国家体制によって制限や違いを設けてはならないとしなければならない。当然の帰結として、基本的人権に関してはそれぞれの国家の内政問題から切り離され、《内政不干渉の原則》には抵触しないことになる。
逆説するなら、国家権力による国内的な基本的人権の侵害に対する外国からの干渉を拒絶・無視する国家権利としての「内政不干渉の原則」は基本的人権の問題に限って無効化させなければならない。
いわば、基本的人権はそれぞれの国家によって恣意的に扱われてなならない。如何なる場合も国家権力の犠牲となってはならない。
人間が生まれながらに与えられている人間生存の権利である基本的人権を国家権力によって認めない国は法治国家とは言えない。法治国家とは「国民の基本的人権の保障を原則とし、国民の意志によって制定された法に基づいて国家権力が行使される国家」(『大辞林』三省堂)を言うのだから、思想・信教の自由、言論の自由等、基本的人権の一つでも欠いた国は法治国家とは言えない。
中国、イラン、北朝鮮、ミャンマー等はどのような法律を抱えていようとも、決して法治国家とは言えない。
基本的人権に関わる「内政不干渉の原則」の無効化は特に国連加盟国に於いてその遵守を原則としなければならない。なぜなら国連憲章は「前文」で次のように規定しているからである。
「我々連合国の国民は我々の一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い、基本的人権と人間の尊厳及び価値と男女及び大小各国の同権とに関する信念をあらためて確認し、正義と条約その他の国際法の源泉から生ずる義務の尊重とを維持することができる条件を確立し、一層大きな自由の中で社会的進歩と生活水準の向上とを促進すること、並びに、このために、寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活し、国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせ、共同の利益を追求する場合を除いて武力を用いないことを原則とする方法の受諾設定によって確保し、すべての人民の経済的及び社会的発達を促進するために国際機構を用いることを決意して、これらの目的を達成するために、我々の努力を結集することに決定した。」
すべての国連加盟国はこの規定に従う義務と責任を負うはずだが、果たして中国は特に常任理事国の地位にありながら、上記義務を果たしていると言えるのだろうか。
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