2014年12月27日に閣議決定した日本創生「長期ビジョン・総合戦略」は今後5年間で地方での若者雇用30万人創出、5年目以降も年間10万人の安定的雇用創出を謳っている。
だが、安倍晋三はここに一つの情報を隠している。まあ、何を隠しているのか誰にも分かることだが、その情報とは安倍政権となって雇用が増え始めた当座から隠し、今回の選挙前も隠し続けて、選挙中も隠してきた延長線上の情報の隠蔽である。
断るまでもなく、情報の隠蔽とは隠蔽を目的とした情報操作を言う。
但し野党がその隠蔽を追及した場合にのみ、ゴマカシの論法で言い抜けてきた。言抜けに過ぎないのだから、隠蔽に変わりはなく、本質的には隠蔽と同質の情報操作を行ったに過ぎない。
例えば隠蔽に変わりはない言抜けを21月1日の日本記者クラブ主催の「8党党首討論会」での非正規雇用に関する発言にも見ることができる。
小沢一郎生活の党代表が、「非正規雇用が40%に達している。非正規の雇用では将来が不安定、待遇も悪い。若い人たちが結婚もできない、結婚しても、子どもを産んで育てることができない。非正規雇用については一定の限度を将来設けるべきではないか」と質問をした。
安倍晋三「我々が政権をとって雇用を100万人ふやしています。景気回復局面ではどうしても経営者が慎重になりますから、パートや非正規という形で雇用します。働き始める人たちも、それから始める人たちも結構多いのも事実であります。
しかし、民主党政権時代のことを言って、海江田代表、大変恐縮なんですが、民主党政権時代は、雇用そのものが減っていました。その中において100万人近く非正規がふえていたのも事実であります。
われわれは雇用全体のパイがふえている中において、やっとその中で7月、8月、9月、10万人、新規採用が、正規の雇用者がふえました。そして、正規の皆さんの有効求人倍率は、統計をとってきた過去最高です。そして、新規求人倍率、これから新たに正規で頑張っていこうという人たちに対して、正規の雇用を用意する会社、1人の求職者に対して1人の求人、これは新規です。これが1を超えた。
統計をとってきて最高であるということも申しあげておきたいと思いますし、また、パートやアルバイトの方々の時給も1,050 円になった。これも統計をとり始めて最高の額であると
いうこともお示しをしたい。
勿論、非正規労働者をふやそうという考え方は毛頭ないということは申しあげておきたいと思います」(以上)
「我々が政権をとって雇用を100万人ふやした」と言っているが、正規と非正規の割合とそれぞれの増減率の情報は隠蔽したままである。
さらに、「正規の雇用を用意する会社、1人の求職者に対して1人の求人、これは新規です。これが1を超えた」と言っているが、「正規の雇用を用意する会社」ばかりではなく、非正規の雇用を用意する会社も存在する以上、求人倍率が1を超えたとしても、1人の雇用=正規雇用とするのは非正規雇用の存在を隠す情報操作そのものである。
「景気回復局面ではどうしても経営者が慎重になりますから、パートや非正規という形で雇用します。働き始める人たちも、それから始める人たちも結構多いのも事実であります」と言って、経営者側は景気回復が軌道に乗れば、さも非正規から正規への雇用転換に応じ、働き手側も非正規から仕事を始めて、正規へと進んでいく、非正規から正規への雇用転換が可能となっている状況にあるかのような情景を描いているが、人手不足による囲い込みという形の非正規から正規への雇用転換は一部に見られたが、企業側が非正規から正規への雇用転換をルールとしていて、そのルールに則った自発的積極性に基づいた転換ではなく、あくまでも人手不足という状況に応じた、ルールとは無縁の臨時的措置に過ぎない。
このことに加えて、安倍政権が考えている非正規社員の新しい雇用形態は派遣会社(派遣元)が正社員(無期雇用)として採用している者を派遣先企業が非正規として雇用する場合は3年限度としていた非正規雇用期限を無期限に雇用可能とし、その無期限雇用の保障として派遣社員個人に関しては派遣限度3年の規制を残しつつ、業務単位での期間制限は廃止して、派遣先企業内の業務部署を変えることによって、いわば業務部署ごとに3年ずつ使い回すことによって無期限雇用を可能とするカラクリを用意しているのだから、こういった具体的な情報を隠した実体なき非正規から正規への雇用転換の思わせぶりの情報操作を駆使したに過ぎなり。
また、安倍晋三が考えている上記新しい雇用形態は企業の賃金抑制のメカニズムを背後に隠していることも情報隠蔽に当たる。
安倍晋三が経団連に対して賃上げ要請を行い、各企業が賃上げに応じたとしても、その恩恵は大企業とその周辺の企業の正社員に限られて、賃上げによる企業の人件費負担が逆に特に非正規雇用者に向かって賃金抑制の力となって働く確率は高い。
このことは企業が賃上げに応じた春闘以降、雇用が増加傾向にある中で正社員の減少・非正規社員の増加という状況の依然とした継続が何よりも証明している。
このことは、《労働力調査( 基本集計)平成26年(2014年)11月分(速報)》(総務省統計局/2014年12月26日)から見て取ることができる。
・就業者数は6371万人。前年同月と同数
・雇用者数は5637万人。前年同月に比べ18万人の増加
・正規の職員・従業員数は3281万人。前年同月に比べ29万人の減少。((雇用者全体に占める割合は約58%)
・非正規の職員・従業員数は2012万人。前年同月に比べ48万人の増加(雇用者全体に占める割合は約37%)
・主な産業別就業者を前年同月と比べると,「医療,福祉」などが増加,「製造業」などが減少
安倍晋三が言っているように正規従業員が一時的には増加した時期もあったが、正規従業員の減少・非正規従業員増加の基調に変化はない。
この状況は企業による賃金抑制の力学そのものの現れであって、春闘に於ける企業の賃上げや夏冬のボーナス金額の高い伸びといった状況は正規従業員の減少・非正規従業員増加によって企業が支払っている人件費の負担を平均化させて、雇用全体として見た場合、半ば無効化させているはずだ。
また、この平均化は企業が賃金抑制経営を専らとしている以上、常に平均値の減少方向への圧力を常態的に孕ませていることになる。
そうであるなら、この賃金抑制のメカニズムは安倍晋三の地方創生若者地方雇用30万人にも反映されることになる。賃金抑制と平均化のために都会から比較した地方の低い賃金水準を当てはめられるばかりか、正規と非正規の使い分けが行われることになる。
若者地方雇用30万人の実現は景気回復をバックにすることになるから、正規従業員の減少・非正規従業員増加の傾向は年々その割合を高める形で維持していくことになるが、2014年11月分の正規対非正規の割合を機会的に当てはめると、若者地方雇用30万人のうち正規は約17万4千人。非正規は約11万1千人の計算となる。
だが、安倍晋三はさも全てが正規であるかのように一口に30万人と言い、そこに多くの非正規が含まれる高い可能性を隠蔽する情報操作を行っている。
都合の悪い情報の隠蔽と言う情報操作は安倍晋三にとって国民の支持を得る最も得意とする政治手法であるようだ。
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