尖閣ネットビデオ流出から見る情報を隠す正義/情報を暴く正義

2010-11-16 08:17:54 | Weblog

 昨日2010年11月15日、夜7時半からのNHK「クローズアップ現代」【「尖閣映像」流出問題影響は】が海上保安菅のネットビデオ流出の是非を取り上げていた。

 ゲストの元外務省官僚田中均が基本的には政府は事実として公開すべきではなかったかの姿勢を示していたが、「政府が秘密にしていたものを政府の一機関の職員が公開すべきではない」といったことを発言していた。

 録画していなかったし、記憶力がいたって最悪に出来上がっているから、この番組に関する情報をネット上で探したところ、NHK関連のHP、《NHKクローズアップ現代【尖閣映像流出問題】詳細情報》を探し当てた。

 一応参考までに全文無断引用――

▽「尖閣映像」流出問題影響は】の詳細情報です。
◎キャスター:国谷裕子
◎ゲスト:
・田中均(日本総研国際戦略研究所理事長)
・立花隆(ジャーナリスト)

尖閣諸島沖での中国船との衝突事件の映像が流出した問題で、警視庁や東京地検は「自分が映像を流出させた」と話している海上保安官への事情聴取を進めていますが、海上保安官には国家公務員法の守秘義務違反が問われる可能性があると見られる一方、専門家の間には「国が映像を公開すべきだった」という声も上がっています。

さらに、一連の出来事を通じて「ネット社会の情報管理の限界」や「機密情報の取り扱いのあり方」「機密情報と国民の知る権利との関係か」などの問題が問いかけられ、今回のNHKクローズアップ現代では、映像流出の経緯を追うとともに、今回の問題が社会に投げ掛けた課題について考察しました。

尖閣諸島沖での中国船との衝突事件後、日本政府は中国船の船長を拘束しましたが、フジタの社員が軍事基地内に入ったことを理由に中国当局に拘束されたこともあり、日本政府は方針転換して中国船の船長を釈放しました。

現在取り調べ中の「尖閣映像」を流出させた海上保安官は「国民に広く知ってもらいたかった、本来隠すべき映像ではない」と言っていますが、同僚の海上保安官は「彼のやったことは理解できるがそれを認めてしまったら組織が成り立たない」と語ります。

内部告発専門サイト「ウイキリークス」では、アメリカ軍が3年前にイラク民間人を誤射した映像や、多額の税金が投入され国有化されたアイスランドの銀行のずさんな融資実態がわかる内部文書などが公開されていますが、アイスランド国営放送が事実を放映しようとしたところ、裁判所から放送直前にストップがかかりました。

これが問題視され、アイスランドでは「公共の利益になる場合、公務員は秘密を守る必要はない」という文言を盛り込んだ法律を制定する動きが出ています。

今回のNHKクローズアップ現代に出演した元外交官の田中均氏は、「政府の決定事項に対して海上保安官が自分の正義を主張するのは問題だが、今まで非公開にする保管体制があったのか?非公開は無理があったのではないか?公開非公開を問わず、今回の政府の対応は一貫性に欠け、国益になるか総合的にシミュレーションをすべきで、国民の感情をあおるのではなく説明責任をはたし、何が国益になるか最終的に決断するのは政治家」とコメントしていました。

また、ジャーナリストの立花隆氏は、「今回の映像流出問題は一個人が放送局の役割をして情報を短時間で拡散させたという意味で既存メディアにとって大事件、情報が拡散するネット社会は情報を隠している人には脅威で、知りたいという情報飢餓状態に火をつけたと言え、多くの日本人はいいことを知ったと思っているのではないかと思うが、公開非公開の判断基準はやはり公共の利益にかなうかどうかではないか」とコメントしていました。

 この記事では田中均の海上保安菅の行為についての是非論は「政府の決定事項に対して海上保安官が自分の正義を主張するのは問題だが」の言葉でのみ書いている。

 いわば政府は7分前後のほんの一部分公開以外は非公開の決定を行うことを政府の“正義”とした。これは“情報を隠す正義”に当たる。対して海上保安官はネットに公開するという“情報を暴く正義”を敢行した。

 政府が公開・非公開の権限を掌中のものとしていたことは仙谷官房長官のいくつかの発言を見れば明らかである。《中国漁船・尖閣領海内接触:ビデオ流出 秘密保全へ法整備 官房長官が方針》毎日jp/2010年11月9日) 

 仙谷官房長官は11月8日(2010年)、〈ビデオネット流出問題を受けて秘密保全の法整備のための検討会を新たに設ける方針〉を衆院予算委員会で表明している。

 〈法整備の議論は、自民党政権末期の昨年7月に設置された有識者会議で行われていたが、同9月の政権交代で中断。流出問題により法整備の遅れが再浮上し、民主党政権としても検討に乗り出すことになった。【野口武則】〉――

 仙谷官房長官「同盟国との関係で、安全保障上の機密保全は極めて重要。野党のお知恵を頂きながら、検討を早急に進める場を作りたい」

 要するに尖閣ビデオを「安全保障上の機密」――国家機密と看做していた。表向きはビデオを捜査中の証拠資料としていたが、その公開・非公開に実質的には政府の意志が関与していたことを示す。

 仙谷官房長官が望遠カメラで写されてスクープされ、盗撮だと騒いだ新聞の暴露記事――《映像公開で量刑下がる?仙谷長官「厳秘」資料》YOMIURI ONLINE/2010年11月9日12時31分)もビデオが国家機密となっていたことを証拠立てている。

 仙谷官房長官が9日午前の衆院予算委員会の答弁席で隣り合って座っていた菅首相に二つ折りを広げる形でリーフレット様の資料を見せている場面をテレビが流している。

 テレビでは判読できなかったが、その資料には「極秘」の文字が記されていて、ビデオの一般公開の法的根拠やメリット・デメリットが3項目に分けて書いてあったという。

 3項目とは、

 〈1〉国会提出済みの映像記録
 〈2〉動画投稿サイト「ユーチューブ」に流出した映像
 〈3〉マスター映像

 デメリット「流出犯人が検挙・起訴された場合、『政府が一般公開に応じたのだから、非公開の必要性は低かった』と主張し、量刑が下がるおそれがある」

 「犯罪者を追認するに等しく、悪(あ)しき前例となる」

 メリット「中国による日本非難の主張を退けることができる」――

 公開のデメリットに関しては捜査・裁判に限定した言及と言えるが、メリットに関しては国益上の問題としている。だが、「中国による日本非難の主張を退けることができる」メリットを見込むことができるとしていながら、政府は公開に一貫して拒絶反応を示してきた。

 考え得ることは「中国による日本非難の主張を退けることができる」メリットに優る中国を刺激して関係悪化する恐れがあるからとすることしかできない。

 政府がどう判断しようと、その正当性如何に関わらず、政府は“情報を隠す正義”を選択した。

 海上保安官の場合は、上記「クローズアップ現代」記事が「国民に広く知ってもらいたかった、本来隠すべき映像ではない」と書いているように“情報を暴く正義”を選んだ。

 どちらの“正義”を正当であるとするかであるが、世論調査では国民は政府の“情報を隠す正義”よりも圧倒的に海上保安官の“情報を暴く正義”に軍配を挙げているが、専門家の間でも意見が分かれていると、《映像「秘密」か 見解分かれる》NHK/2010年11月10日 19時54分)

 堀部政男・一橋大学名誉教授「流出した映像は、公に議論されている事件に関するもので、すでに国会議員も見ているため、国家公務員法上の『秘密』には当たらない。・・・・そもそも今回の映像は、国民の知る権利の観点からも当初から広く公開すべきものだった。今回の件で守秘義務違反で刑事罰を科すのは酷であり、起訴されても裁判で有罪となるかは疑問が残る」

 高井康行弁護士(元検察官)「流出した映像は、その存在は知られていても、詳しい内容までは明らかになっていなかったうえ、情報の漏えいにより中国との関係に大きく影響を与えることが予想されたもので、国家公務員法上の『秘密』に当たる。・・・・そもそも今回の映像は公開されるべきだったとは思うが、外交カードとして、公開の時期や方法が大切にされるべきものだった。捜査すべきではないという意見も聞くが、動機の解明や再発防止のために捜査は徹底して行う必要がある」

 両者共、“情報を隠す正義”に関しては否定的だが、後者は条件付で、「情報の漏えいにより中国との関係に大きく影響を与えることが予想され」るから、「外交カードとして、公開の時期や方法」は温存されるべきだと、ビデオをあくまでも国家機密扱いとした上で、公開・非公開を政府の権限にとどめ、公開は後のこととしている。直接的には言及していないが、情報公開法に従って何年後といったところなのだろう。

 菅内閣はビデオに関して“情報を隠す正義”を自らの正義とし、国民の多くは“情報を暴く正義”を正義としている。政府の“情報を隠す正義”に国民の誰もが唯々諾々と従った場合、その服従性を利用して、政府にとって公開は不利という理由のみで、国民の利益や国民の知る権利を無視して恣意的に“情報を隠す正義”を政府は選択する危険性が生じる。

 あるいは都合のいい情報に仕立てて国民をコントロールする情報操作の危険性が生じる。

 そうなった場合、政府側が発する「開かれた政治」といったお題目や国民の知る権利は有名無実化する。

 これらの危険性は最悪の場合、政府による権力の恣意的行使に行き着くはずである。

 ときには政府が唱える“情報を隠す正義”に単に唯々諾々と従うのではなく、国民、あるいは国民に代わるその他が“情報を暴く正義”で以て逆らう反逆性を示すことは政府側の情報に関わる正義の恣意性、あるいは権力の恣意的行使に歯止めをかける力となり得るはずである。

 一つの例として自民党政権が長いこと米国との間で核密約の存在はない、国民の知らないところで核の持込は行われていないと否定してきたが、政権交代後の当時の岡田外相が核密約の存在を暴いていることを挙げることができる。これは自民党政府の“情報を隠す正義”に逆らって、民主党政権が“情報を暴く正義”を敢行、国民の知る権利に応えたと言える。

 APECが横浜で開催された期間中の13日に日中首脳会談が行われたが、菅政府は首脳会談での具体的な発言内容を公表していない。政府は公表しないことを“情報を隠す正義”として選択した。《尖閣「日本の確固たる立場伝えた」 菅首相、中国主席に》asahi.com/2010年11月13日22時46分)

 福山哲郎官房副長官(胡主席の反応を含め、会談の詳細について)「外交上の理由から差し控えたい」」

 国民には日中首脳会談で菅首相と胡錦涛主席との間でどういうことが話し合われ、対中外交がどういうふうに進められようとしているのかを、政治が有効に機能しているのかどうかの判断材料とするためにも知る権利を有しているはずである。それを無視する政府の“情報を隠す正義”となっている。

 “情報を隠す正義”とするための理由として考えることができるのは、公表した場合の中国を刺激し、関係悪化に進む恐れからと、公表した場合の菅首相の発言内容から首相自身の政治家としての資質と能力が問われることになる、このいずれしか考えることができない。

 どちらの場合であって、“情報を暴く正義”の介在を条件としない以上、政府の“情報を隠す正義”が正しい判断か否か、恣意的な正義に過ぎないのかそうでないのかの判定は不可能となる。

 特に後者の場合、国民にとって最悪の不幸となる。最悪の“情報を隠す正義”に見舞われることになる。

 例えそれが犯罪であっても、政治に関する“情報を暴く正義”の道を閉ざしてはならないはずだ。


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