方向オンチな福田首相の賃上げ要請

2008-03-09 07:08:52 | Weblog

 二つの「毎日jp」記事がある。

 ≪福田首相:メルマガで賃上げ要求 「生活者重視」強調≫
                     (2008年3月6日/毎日jp)
 
 <福田康夫首相は6日配信の福田内閣メールマガジンで「今こそ改革の果実が給与として国民、家計に還元されるときだ」と指摘し、春闘が本格化している中、経営側に異例の「賃上げ要求」を行った。原油、穀物価格の高騰で食料や日用品の値 上げが相次ぐが、看板の「生活者重視」姿勢を強調することで、政権への批判をかわす狙いもありそうだ。

 首相は「日本経済はここ数年、成長を続けている。大企業を中心に、これまでで最高の利益を上げている。構造改革の痛みに耐えて頑張った国民の努力のたまものだ」と指摘。「給与を増やして消費が増えれば、利益につながる。給与引き上げの必要性は経済界も同じように考えているはずだ。政府も経済界トップに要請している」と結んだ。【坂口裕彦】>・・・
 * * * * * * * *
 ≪春闘:福田首相、経団連会長に賃上げを要請≫(毎日jp/ 2008年3月6日)

 <福田康夫首相は6日夕、官邸に日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)を招き、「景気浮揚のためにも春闘に期待する」と賃金上げへの協力を求めた。これに対し、御手洗会長は「経済状況は厳しくなっているが、余力のあるところは賃上げに努力する」と述べ、「財政状況が厳しいのは承知しているが、政府も賃金の上昇が手取りの増加に結びつくように、(所得税)減税などを検討してほしい」と要望した。

 春闘に絡み、首相が経営側に賃上げの対応を求めるのは異例。

 福田首相は同日付のメールマガジンでも「企業と家計は車の両輪。給与引き上げの必要性は、経済界も同じように考えているはず」と語っている。【内山勢】>・・・・

 同じ「毎日jp」は3月の毎日新聞による世論調査で福田首相の支持率は過去最低の30%、不支持率は51%に達すると伝えていて、(≪クローズアップ2008:毎日新聞世論調査 内閣不支持51%≫08.3..3)福田内閣の先行きに不吉な暗い影を落としている。

 暗い影の原因は自民党の不備・不完全な年金政策や育児政策、医療政策、道路政策等の負の遺産の相続によってもたらされているが、外的要因として上記記事も指摘しているように原油の値上げによって燃料費の高騰だけに収まらず、穀物類のバイオ燃料化等が複合した食品を中心とした生活物資の値上による庶民生活の先行きに落としている暗い影、アメリカのサブプライムローンを震源とした景気減速による日本の輸出製造業の先行きに落とし始めた暗い影も影響した内閣の先行きに対する黒い影であろう。

 当然の措置として福田首相は内閣の先行きに落としているその不吉な暗い影を、竹箒が役に立つなら竹箒を使ってでも吹き払わなければならない。安倍前首相が温かいお土産に残した政治遂行上の逆境がなければどうにか凌ぐことのできる不支持状況だが、温かいお土産は福田総理大臣誕生をもたらしたサプライズだから、痛し痒しといったところだろう

 春闘での労働組合の賃上げ要求に「景気浮揚」を託して応えるよう、経営者側にお願いするというのも些か他力本願に傾いた遣り方だが、支持率回復のために役に立つなら竹箒だって使うだろうから、そんなこと言ってはいられない「オッパッピー」の他力本願に違いない。

 経団連と渡り合う労働組合の「連合」(日本労働組合総連合会)加入の労働者は670万人だそうで、殆どが大企業の正規社員であろう。厚労省の「平成19年版労働経済の分析」によると、「2006年10~12月期」で役員を除く雇用者5,132万人のうち正規雇用者は3,443万人(67.1%)。670万組合員は3,443万人の約20%に過ぎない。670万人がまるまる賃上げの恩恵を受けたとしても、その余沢が残りの2770万人すべてに等しく及ぶのだろうか。

 さらに同じ「2006年10~12月期」でパート・アルバイト、契約社員・嘱託、派遣社員等の「非正規の職員・従業員」1,691万人(33.0%)にどれ程のおこぼれが分配されるだろうか。

 福田首相の春闘を機会とした「賃上げ期待」は他力本願なだけではなく、末端までの全体的波及となると、上層から下層に蛇口から水滴がぽたぽたと垂れる程度のおこぼれ式浸透を待つ「景気浮揚」策であり、正規社員が非正規社員と比較して一般的にはより確かな身分の保証とより高い給与の保証を受けていることを考慮すると、従来どおりの上に厚く、下に薄い格差観を内に隠した景気対策と言える。

 このことは福田首相がキャッチフレーズとしている「生活者重視」が特定の「生活者」に偏った「重視」であることを暴露している。

 昨07年に最低賃金上げを巡って、一律千円を掲げる民主党と企業側に立って千円否定を掲げる政府との攻防があったが、12月に「改正最低賃金法」が成立、道府県別の最高は東京都の20円引き上げの739円。最低は秋田県・沖縄県の共に8円引き上げの618円に決定した。1時間8円の値上げとはどういうことなのだろうか。大幅な引き上げは中小企業の経営を圧迫するというのが自民党政府の口実だったが、自民党の大企業優先政策が中小企業圧迫の企業格差をつくり出しておきながら、そのことを棚に上げた中小企業擁護に過ぎない。

 いわばじんわりと痛めつけておきながら、痛めつけるわけにはいかないと言っているようなものである。彼らの本音からすれば、予想される次の総選挙のためにもこれ以上痛めつけることはできないということだったのだろう。

 果して最低賃金一律千円によって、中小企業が受けると言われている経営圧迫を避ける方法はないものなのだろうか。

 07年5月26日の『朝日』夕刊(≪米最低賃金引き上げ≫)によると、アメリカ政府は昨07年5月に約10年ぶりに連邦最低賃金を2年かけて時給5・15ドル(約630円)から約40%高い7・25ドル(約880円)に引き上げることを決めている。

 最低賃金引き上げにはアメリカでも日本と同様に中小零細企業が反対していたと上記記事は伝えている。米政府は賃上げの反対給付として今後10年間中小企業を中心に総額約48億ドル(約5800億円)の減税を実施するらしいが、中小企業救済の一つの方法であろう。

 07年3月4日の『朝日』朝刊は<最低賃金を全国一律で時給千円に引き上げたら、消費の活性化などで国内総生産(GDP)が0・27%、約1・3兆円増加するとの試算を民間シンクタンクの労働運動総合研究所(労働総研)がまとめた。>とする記事(≪最低賃金自給1000円上げ GDPが1・3兆円増加≫を載せている。

 時給千円未満で働く労働者683万人の賃金を一律で千円に引き上げた場合、企業が負担する賃金の支払額は2兆857億円増えるが、所得が増える分、家計の消費支出1兆3234億円増加するため、企業の生産拡大などでGDPを1兆3517億円押し上げる経済波及効果があるというもの。

 肝心な点を記事は2点解説している。

 <年収1500万~2千万の高所得者の賃金を同じ支払い総額分(=2兆857億円)上げた場合、消費支出は7545億円にとどまる。>

 一律千円上げによる消費動向は<低所得層では食料品や繊維製品など中小・零細企業が多い産業分野に回る傾向が強く、最低賃金上げの恩恵は中小企業の方に多い>

 調査に当たった<労働総研代表理事の牧野富夫・日本大経済学部長「低所得者の賃上げのほうが景気刺激策としては有効」>

 自民党政策とは反対に下に厚くした方が経済効果が高いという指摘である。

 「時給千円未満で働く労働者683万人」という労働人口は「連合」加入の670万の労働者を僅かに上回る。彼らの方にこそ賃上げの手を差し伸べた方が景気政策に有効だとする調査だということだろう。

 最低賃金一律千円によって経済波及効果が生じるまでの中小企業の経営悪化問題は、これまで石油ショックやバブル崩壊、その他の要因で景気が減速したとき、大企業は下請け叩きで急場を凌いできたのである。大企業の利益を社員の賃上げに回すのではなく、下請け中小企業の下請け単価上げに回して、側面から最低賃金上げによる中小企業の負担を軽減し、その経済効果が下請けではない中小企業に波及するのを待つことで解決するのではないか

 この方法だと大企業と中小企業との賃金格差の縮小、また都市と地方関係なく一律最低賃金千円によって、都市と地方の経済格差の縮小に貢献しないだろうか。

 民主党の主張どおりに最低賃金を一律千円に上げていたなら、身分不安定な非正規社員に先ず恩恵が及び、現在の物価高騰にもそれ相応に耐え得る元気を与えて、彼らの悲惨な生活を少なからず救ったのではないだろうか。当然福田内閣の支持率にも影響していく。

 格差社会だとかしましく言われている。福田首相の正規社員により確かな恩恵をもたらす賃上げ要請は例え下層の非正規社員に僅かながらでもおこぼれが行き渡るとしても、賃金格差・生活格差を逆に大きくする恐れのある方向オンチな政策に思えて仕方がない。 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 増田防衛次官の「定例記者会... | トップ | なぜ官僚のイヤシイ「コジキ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Weblog」カテゴリの最新記事