菅首相の指導力まる見えの国家戦略室迷走

2010-09-18 09:34:34 | Weblog

 民主党が2009年衆議院選挙のマニフェストに、「官邸機能を強化し、総理直属の『国家戦略局』を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」と謳い、法律の裏付けを取るまでの暫定措置として鳩山前首相が9年9月に内閣官房に設立した「国家戦略室」を菅首相が参院選大敗を機に与野党逆転状況の参院を通らない見通しから「局」格上げを断念、名称は「国家戦略室」のまま、機能を首相に政策提言や情報提供を行う「助言機関」へと菅首相自らの政治主導(?)で格下げした。

 「国家戦略室」について「民主党HP」が次のように解説している。
 
 国家戦略室って何?

国家戦略室は、政治主導の政策決定を実現するため、縦割り行政を打破し、総理のリーダーシップの下に新時代の総合的な国家ビジョンを打ち出していくことを目的として内閣官房に設置された総理直属の機関です。具体的には、「税財政の骨格」、「経済運営の基本方針」のほか、内閣の重要政策に関する基本的な方針等のうち内閣総理大臣から特に命ぜられたものに関する企画・立案や、政府全体の総合調整を任務としています。国家戦略室と行政刷新会議は政策や予算の優先順位を決定し、新しい社会を創り出す車の両輪、共同のエンジンとしての役割を果たしています。

 要するに「国家戦略室」にしても「国家戦略局」にしても、法律の裏付けがあるかないかの違いのみで、ちょっと大袈裟になるが、政治主導国家創造運営機関だということである。

 だとするなら、「局」への格上げを断念し、「助言機関」への格下げは、法律の裏付け獲得を断念するだけではなく、“政治主導”の司令塔としての役目そのものの断念を意味する。

 大体が「国家戦略室」と、「戦略」の名前を冠したまま、助言機関とすること自体が矛盾する。政治に関して言うなら、「戦略」とは全体的・長期的展望に立った体系的・統一的な政治の創造・策定・運用を言うはずだからである。

 尤も菅首相は「戦略」の名前を冠したままの「助言機関」への移行を矛盾だとも思っていないし、“格下げ”とも認めていない。“格下げ”はマスコミが言っているに過ぎないと見ていたはずだ。

 7月18日に岐阜県八百津町野上の豪雨による土砂崩れ現場を視察、記者団に「国家戦略室」について話している。《豪雨災害「情報の提供しっかりやりたい」18日の菅首相》asahi.com/2010年7月18日19時54分)

 「国家戦略室については若干皆さん方の報道で色々まあ、色々ありますけども、真意はですね、イギリスでポリシーユニットというものがあって、当初、私と古川現官房副長官が去年の6月に視察に行ったときに、ポリシーユニットをひとつのモデルにしたらどうかというのがあったわけです。まあスタートの段階ではポリシーユニットを超えた権能を、特に私が、あの、担当になったもんですから、総理ということも含めて多少そういうものを超えた権能を総理から、当時の総理から言われたわけですが、今回は官房……失礼、政調会長が大臣としても入ってもらうことになりましたし、また、官房長官にもしっかりと内閣主導で、官邸主導でやっていただくということになりましたので、国家戦略室は元々のですね、総理に対する直接のアドバイス、まあ、ある意味で総理直属のシンクタンクと。こういう位置づけでしっかりした態勢をつくっていただくということで、この間話をしてまいりました。

 これは決して何かこうウエートが下がったということではなくて、私の見方からすると、より大きな役割をお願いすると思っています。たとえば従来は国家戦略室は外交関係は、少なくとも私や仙谷さんの時代は一切触れておりませんでしたが、総理に対するアドバイス、シンクタンクという中では、いろんなですね、たとえば『専門的な知識を持った人の、こういう人に会って話を聞いたらいいですよ』とか、『こういう論文はぜひ総理自ら読んだほうがいいですよ』とか、そういう政策的アドバイスという意味では、あらゆる分野についてもですね、広くかかわってもらおうと思っていますので、性格は変わりますが、しかし重要性は別の意味で大変重要な役割を担っていただくと、そういう風に考えています」・・・・

 かつて自ら、「言語明瞭・意味不明」と自身の発言を評した元首相がいたが、菅首相は「言語不明瞭・意味不明」の全面短所となっている。もう少し明快に論理立って発言できないものだろうか。少なくともどのような組織にしたいのか、自らの頭に何度も思い描いていたはずである。思い描くにつれ、考えは整理整頓され、表現は簡潔化されて的確な説明の姿を取る。

 いわば的確な説明の姿を取った発言が上記発言なのだろう。どうにか意味を要約すると、「ウエートが下がったということではな」いと格下げを否定、逆に「より大きな役割お願いする」と格上げであると指摘。組織の役割としては多方面からの専門的な助言・情報の処理機関として「重要性は別の意味で大変重要な役割を担っていただく」と、「助言機関」であることに変わりはないことを強調している。

 2010年7月30日の総理大臣記者会見では菅首相は「国家戦略室」を次のように言っている。

 「国家戦略室については、総理に直接意見具申をするシンクタンクとしての機能を強化していただきました。これは、各省庁が総理大臣にいろいろな意見や情報を上げてくるときには、どうしてもその役所がやりたいことに沿った情報で、それと矛盾する情報はなかなか上がってきません。そういったことに対して、縦割りの役所とは違う立場から、総理大臣として知っておくべきこと、考えなければならないことを国家戦略室にしっかりと収集し、総理に伝達していただく。より重要な仕事をお願いをしているとこのように考えております」(首相官邸HPより)

 前以て原稿を用意したからだろう、スムーズな話し方となっている。「機能を強化」しているとし、「より重要な仕事をお願いをしている」と、ここでも格下げどころか、格上げであるかのように発言し、「シンクタンクとしての機能を強化」と言っているが、「シンクタンク」とは研究機関のことを言うのだから、「戦略」の名前を冠したままの助言機関であることを説明しているに過ぎない。

 ところが8月1日日曜日の「NHK日曜討論」でこの格下げが菅首相自身によってではなく、枝野幹事長によってその風向きに乱れが生じる。《枝野氏 戦略局格上げに努力の余地》NHK/10年8月1日 13時45分)

 江田みんなの党幹事長「戦略局を総理大臣直属の機関とし、政治任用のスタッフを増やすように修正するのであれば、法案に賛成したい」

 多分、みんなの党のこの誘い水をキッカケにみんなの党を民主党勢力に引き込みたい思惑があったのだろう。菅首相の「国家戦略室」の助言機関への移行意思をあっさりと無視、たちまち色気を見せる。

 枝野「国家戦略局の法案が今の政治状況で通りにくいだろうという前提の中、別のやり方で当面やっていこうということでやっているが、みんなの党の協力で、具体的に前に進むならば、国会で十分に議論の余地があると思っている」

 多分、江田みんなの党幹事長の発言に恋をしたのは枝野幹事長ばかりか、江田幹事長の背後にある衆院5+参院11の財産目当ての思惑を一致させて、菅首相もたちまち恋に落ちたに違いない。

 「日曜討論」から2日後の8月3日の午後の衆院予算委員会。《戦略室の格上げ目指す=デフレ脱却は雇用回復最優先-菅首相》時事ドットコム/2010/08/03-17:28)

 みんなの党の江田幹事長の質問に答えての菅首相の答弁。いわば誘い水の質問だったに違いない。記事は、江田幹事長が提示した戦略局の機能を次のように書いている。、

〈(1)首相直属とし局長は閣僚
 (2)国会議員や民間人を増員
 (3)所掌事務は予算編成の基本方針の企画立案および総合調整〉

 2009年民主党衆議院マニフェストに謳った機能とほぼ同じであることが分かる。2009年民主党衆議院マニフェスト回帰とも言える。

 「衆院で継続審議になっている。まずはその審議をしかるべき国会で継続させていただきたい」

 審議を継続し、参議院の過半数は121議席、122議席の賛成を得ることができれば成立する。民主党106議席に対してみんなの党の11議席の賛成と国民新党3議席の賛成120議席、あと2議席。4議席の社民党の扱い方で成立の見通しが立たないわけではない。

 例え成立したとしても、菅首相は自らの発案で助言機関としたのである。それをいとも簡単に元の姿に回帰させる首尾一貫性のなさ、ブレは残る。

 みんなの党の誘い水に渡りに船とばかりに乗った審議継続の予定であるにも関わらず、同じ3日夕方の首相官邸での記者会見では矛盾したことを言っている。

 《国家戦略室「直接意見具申できる機能を」3日の菅首相》asahi.com/2010年8月3日20時59分)

 記者「秋の臨時国会で国家戦略室を局に格上げを議論すると。総理の意向は戦略室を格上げしたうえでシンクタンク化するという考えでいいか」

 「あの、格上げという言葉そのものがですね、この間、格下げという言葉も使われたんですが、私としていつも申し上げているのは、総理に直接意見具申ができる、そういう機能をですね、しっかり持った国家戦略室に、あるいは国家戦略局になってもらいたいと、こう思っております。で、この法案についてはですね、ま、次期国会で、えー、議論をしてもらいたい。そう思ってます」 ・・・・

 江田みんなの党幹事長が、「所掌事務は予算編成の基本方針の企画立案および総合調整」と提示しているのに対して、「総理に直接意見具申ができる、そういう機能をですね、しっかり持った」助言機関に相変わらず位置づける矛盾を見せている。
 
 菅首相は翌8月4日の参議院予算委員会で国家戦略室を「局」に格上げする法案の取り扱いについて答弁している。《首相 財政健全化へ決意示す》NHK/10年8月4日 12時29分)

 「法案には、総理大臣官邸の機能を強化するための官房副長官の増員などの内容も入っている。この法案を基本に議論し、各党の議論も含めて、そのまま成立させるか、法案を修正させるかになる。法案を取り下げることは考えていない」

 参院選に大敗するや、参院通過は無理だろうと「戦略室」から「戦略局」への格上げを盛り込んだ政治主導確立法案の成立をあっさりと断念しておきながら、「法案を取り下げることは考えていない」と様変わりの強気を見せている。自身のコロコロと代る姿勢には気づいていないから、たいしたものだ。

 そして8月6日に臨時閉会、9月1日告示、9月14日投開票の民主党代表選に向けた前哨戦と本番に突入。代表選は菅首相の大差での勝利で決着。昨9月17日、改造内閣が発足。

 玄葉光一郎国家戦略相の菅改造内閣発足後の今日9月18日未明の記者会見。《戦略室“当初の構想に戻す”》NHK/10年9月18日 5時35分)

 記事の解説。〈国家戦略室について、前の鳩山内閣では、予算編成の基本方針の策定などを行う政治主導の政権運営の柱となる組織と位置づけられていましたが、菅総理大臣は、ことし6月の就任後、総理大臣に政策提言を行うことにとどめる組織に改める方針を示していました。〉・・・・

 玄葉国家戦略担当大臣国家戦略室のねらいは2つあり、1つは総理大臣への提言だ。ただ、民主党の政策調査会長と国家戦略担当大臣を兼ねるので、これからは、もう1つのねらいである、重要政策の企画立案や閣内の調整も担う立場になったと考えている。機能を元に戻し、民主党政権の発足当初構想していた国家戦略局をしっかりと稼働させるのが自分の役割だ」

 玄葉「国家戦略室を『局』に格上げする法案は、臨時国会で成立が図れればいいが、官房長官の所管でもあるので、調整しながら判断したい」

 みんなの党という恋人の当てがあることからの法案提出だろうが、「機能を元に戻し、民主党政権の発足当初構想していた国家戦略局をしっかりと稼働させるのが自分の役割だ」は内閣の一員として単独行動は許されないのだから、菅首相の指示を受けた「役割」であろう。

 だが、「国家戦略室のねらいは2つあり、1つは総理大臣への提言だ」としていることは、「国家戦略室」から助言機関に格下げした菅首相自身の発案を否定するわけにはいかないことからの“狙い”の付け足しであろう。

 2009年民主党衆議院選挙マニフェストは、「官邸機能を強化し、総理直属の『国家戦略局』を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」と謳っているのみで、「総理大臣への提言」などどこにも謳っていない。

 謳わなくても、提言・助言の類は常なる付き物だからだ。「国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する」場合に於いても、助言・提言の類なくして成り立たない。助言・提言の類があって、初めて機能する。わざわざ「国家戦略室のねらいは2つあり、1つは総理大臣への提言だ」と謳わなくてもいいはずだ。

 菅首相の助言機関への格下げ発案を正当化し、決して迷走ではないことを示すために謳う必要があった。

 勿論、提言機関、助言機関と機能を限定し、役割を提言・助言に集約する場合もあるだろうが、組織設立の趣旨は提言・助言に機能を限定することになり、あくまでも“戦略機関”とは別物であろう。

 玄葉氏のこのゴマカシは国民との契約を目指すマニフェストを「マニフェストと言うのは生きものであり、常に手入れが必要なものだというふうに認識をしております。従って、環境や状況の変化に柔軟に対応することが重要だということで、改めるべきは改めると言う観点から書かれているということです」と、契約書からいつでも手直しが許される政策ガイドラインに変えた誤魔化しに通じる。

 菅内閣が6月8日に発足して3カ月余、たった3カ月の間に「国家戦略室」が何と迷走したことが。この迷走は菅首相の指導力、リーダーシップに呼応した迷走そのものであろう。


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