だが麻生首相は自らも担っているその合理性に反して、式辞でこう述べている件がある。
「我が国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えております。国民を代表して、深い反省とともに、犠牲となられた方々に、謹んで哀悼の意を表します」(YOMIURI ONLINE)
アジアに対して行った侵略戦争とは言っていない。だが、非のある戦争、非は日本にありとしている。非があるとするから、謝罪を附随させなければならない。
「国民を代表して、深い反省とともに、犠牲となられた方々に、謹んで哀悼の意を表します」――
もし日本の戦争が“非のある戦争”なら、国家権力に位置する者は靖国に祀られている戦没者を顕彰の対象とするのではなく、謝罪の対象としなければ矛盾が生じる。“非のある戦争”に駆り立て、尊い命を犠牲にさせたと。そうすることで矛盾は解消可能となる。
いわば“非のある戦争”によって「アジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」たと謝罪するなら、靖国に祀った戦前日本軍の兵士であった戦没者に対しても同じ謝罪の列に置かなければならないはずである。
だが、「アジア諸国の人々に対して」謝罪しておきながら、靖国に祀っている戦没者にはどのような謝罪もせず、逆に「国のために戦って尊い命を捧げた」と顕彰している。まさしく矛盾行為ではないだろうか。
「国のために」という言葉を「非のある戦争」という言葉に代えてみるとよく理解できる。
「非のある戦争のために戦って、尊い命を捧げた」――
“非のある戦争”は尊い命を捧げるべき対象とはならない、対象とはすべきではないはずだから、「非のある戦争のために戦って、尊い命を捧げた」は行動矛盾そのものとなる。
勿論戦争をしている間は“非のある戦争”だとはカケラも思っていなかったろう。大東亜共栄の戦争だ、八紘一宇の戦争だと信じ込まされて戦争に加わった。
だが、現在の価値解釈としてその戦争が大東亜共栄の戦争でも八紘一宇の戦争でもなく、麻生自身にしても、“非のある戦争”だとしてアジア「アジア諸国の人々に対して」謝罪している。
当然、靖国神社に祀っている戦没者に対しても現在の価値解釈を行うべきを戦前の価値解釈を引き続いて施している。「非のある戦争のために戦わせて、尊い命を犠牲にさせてしまった」と謝罪すべきを、“非のある戦争”とはせずに「国のために戦って、尊い命を捧げた」と顕彰している。
今回の全国戦没者追悼式には衆院議長は解散中のため出席しなかったが、出席した江田五月参院議長は追悼の辞で次のように述べている(《64回目の戦没者追悼式 首相「過去を謙虚に」 江田議長、加害責任強調》msn産経/2009.8.15 16:48 )から。
「わが国の侵略行為と植民地支配により、アジア諸国をはじめ、広い地域の人々にも多大な苦しみと悲しみを与えた」
日本の戦争の性格と「国のために戦って尊い命を捧げた」の顕彰とが論理矛盾をきたしていることがさらに理解できるように江田五月参院議長の言葉に代えてみる。
「侵略行為と植民地支配のために戦って、尊い命を捧げた」――
侵略戦争に尊い命を捧げるのは現在では北朝鮮やミャンマーといった全体主義国家の国民が国家権力に唆されて行うぐらいだろう。だが国家権力自体は侵略戦争とは言わない。正義の戦争と位置づけるに決まっている。戦前の全体主義国家日本がそうであったように。
だが、現在「侵略戦争」だと言うなら、あるいは“非のある戦争”だとするなら、否定されるべき「国」の態様であり、同じく否定されるべき「国のため」の奉仕であり、否定されなければならない「命を捧げる」国民の行動性だが、そのような価値解釈を施さずに戦前の価値解釈で以て依然として顕彰の対象としている。
麻生の「我が国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えております」云々がサラサラ心にない口先だけの謝罪で、ホンネは日本の戦争を正義の戦争、アジア開放の戦争だと看做しているということなら、「国のために戦って尊い命を捧げた」の顕彰に如何なる矛盾も存在しないことになる。
実体はそんなところなのだろう。
64回目の終戦記念日の8月15日、政府主催の全国戦没者追悼式が東京都千代田区の日本武道館で開催された。日本の戦争の総合終着点を「終戦記念日」と表現していること自体に日本人がその戦争をどう把え、どう解釈しているか、その合理性が窺える。
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