積極的選択からの続投支持ではないということ――
昨29日午後、民主党が参院選大敗総括の両院議員総会を東京・永田町の憲政記念館で開催。予定の1時間が2時間になったということだから、荒れたことは荒れたのだろうが、これまでの党内対立と両議員総会の模様を伝えるテレビを見ていると、9月の代表選を見据えて、首相派と反首相派である小沢グループとの駆引き、前哨戦に否でも見えてくる。勿論、参院選大敗の責任を負う現執行部たる首相派に勢いはないが、勢いを見せたなら、何だ開き直りかと再批判を喰らうばかりだから、ひたすら低姿勢、反省の顔を予定の行動としてだろう、演出していたが、首相自身引き下がるつもりはないから、敵の攻撃に対してじっと耐えて時間の経過を待つ、これも予定の行動に違いない隠忍自重を用いた駆引きで応じていたといったところだろう。
両者とも主戦場はこのままの態勢で雪崩れ込むことになる9月の代表選だと承知の、それぞれの前以ての役割を果たした一芝居だったはずだ。
《首相 代表選で党内審判を》(NHK10年7月29日 21時8分)
以下、「NHK」記事動画から――
菅首相「私の、消費税を巡る、不用意な発言によって、大変、重い厳しい選挙をみなさんに、強いることに、なったことについて、深く、反省をし、惜敗された、候補者の方々、そしてご支援をいただいた方々に、心より、お詫びを申し上げます。・・・・」
中津川博郷衆議院議員「官総理の、本当に不用意な思いつき、ま、民主党が、消費税増税路線に走ったんじゃないかと。この支えるべきはずの幹事長が、まーた、他党と連携するなんて、とんでもないことを言って足を引っ張って、これ、幹事長、選対委員長、これは当然であります、責任を取るのは。
しかし、菅総理自ら、責任を取るべきだと、私は思います」
川上義博参議院議員「最高司令官が戦争で大敗北したんじゃありませんか。責任をどのように取るんですか。責任を取るのは当たり前の話なんです。あまり総理を代えたくない、それは国民の声でありますけれども、これ以上続けるとですね、段々それは力強い内閣ではなくて、力強い政治が発揮できないんじゃないですか」
(結束を訴える首相派の発言)
杉本和巳衆議院議員「民主党全員、岡田ジャパンに学ぶべきじゃないかと思っています。え、負けが続いて、そしてサッカーの本場に行きました。先ず、上を向かなければならない。そして、チームワークを考えないといけない。いま、我々が求められているのは結果であります。全体を纏めていただいて、何とか勝ち点を上げるチームに、仕立て上げていただきたいと思います」
最後に。
菅首相「9月に予定されている代表選で、改めて、えー・・・、私自身の行動を含めてですね、みなさんに、いー・・・、判断をいただくということは、当然、えー・・・、予定されてもいますし、そうあるべきだと、考えております。代表選では、是非、この体制の中で、対応を、させていただきたい。――」
全議員、全党員、全党友の審判を仰ぐことを以ってして責任の判断に代えたいと代表選を前倒ししてできる限り早い段階に行えば、小沢前幹事長自身は検察審査会の「不起訴不当」の議決を受けた東京地検特捜部の4回目の事情聴取の問題があって直接的には前面に出ることができないこと、小沢グループには小沢全幹事長に代る相応の大物が存在しないこと、国民が続投を支持していること等の有利な状況を利用すれば、再任されないことはないはずだが、そう決断するだけの判断はないようだ。
杉本和巳衆議院議員が、「岡田ジャパンに学ぶべきじゃないか」と言っているが、岡田ジャパンと決定的に違う点は、例え選手の入れ替えはあったとしても、常に11対11の同じ頭数の戦いであり、あとはボール回し、あるいはシュートのテクニック、駆引きの能力差の戦いであったが、参議院の頭数の点で民主党は違いを抱えることになっている点であろう。政治の場合は政治能力、あるいは政策に少しぐらい優劣があっても頭数が補ってくれる。自分たちの政治をスムーズに行うためには対等以上は必要な頼みの綱である頭数が対等でもなく、対等以下という劣勢の状況にある。
その点を無視した発言であるが、お互いの立場に添った利害からの発言でしかないから、利害上、立場に都合のいい発言しか出てこない。
川上義博参議院議員が「あまり総理を代えたくない、それは国民の声でありますけれども」と言っているが、国民ばかりか有識者や菅首相派の閣僚、党幹部も同じ趣旨の発言を繰り広げて、それを以て菅首相続投理由としている。
いわば、「国民の声」としてある「あまり総理を代えたくない」という消極的選択で菅首相は命拾いをしていると言える。
「国民の声」とは、勿論世論調査に現れている「声」であるのは断るまでもなくい。
大方が既に承知していることだが、参院選後の世論調査を改めて二三例挙げてみる。
7月20日記事の「NHK世論調査」――
菅内閣を「支持する」 ――39%
「支持しない」――45%
菅首相の続投「賛成」――47%、
「反対」――17%、
「どちらともいえない」 ――34%――
7月12、13日実施「朝日新聞社世論調査」――
菅内閣を「支持する」 ――37%
「支持しない」――46%
菅首相の進退
「辞任すべきだ」 ――17%、
「辞任の必要はない」――73%
12~13日実施の「読売新聞社世論調査」――
菅内閣の支持率――38%
不支持率――52%
菅首相の続投「賛成」――62%
「反対」――28%
閣僚の中では両院議員総会は29日午後開催だったが、その午前中に行われたTBSの番組収録で岡田外相が「国民の声」と同一歩調を取る発言をしている。《菅首相再選を支持=民主代表選、自らは出馬せず-岡田外相》(時事ドットコム/2010/07/29-12:46)
岡田外相「(首相が短期間で代われば)日本の存在感が小さくなりかねない。長い間やってもらいたいと国民も感じている」
岡田外相「(菅政権が)スタートしたばかりなのにまた代えるといえば、自民党と一緒だ」
民主党大敗の要因についての発言――
岡田外相「米軍普天間飛行場移設や『政治とカネ』の問題、マニフェスト(政権公約)で約束したことがどれだけできたかで評価された。菅さんだけの責任にするのは明らかに違っている」
記事題名の「代表選、自ら出馬せず」とは、「わたしは菅内閣の閣僚だというのが基本認識」と述べた発言を根拠としている。代表選で菅代表が再任されて菅内閣を再度組閣することになった場合、自身を閣僚と位置づけたと言うわけである。
菅二次内閣で閣僚から外されたなら、どうするのだろうか。外される確率は低いとしても、自身が外相として関わった普天間移設問題を敗因の一つに挙げて、「菅さんだけの責任にするのは明らかに違っている」と第三者的責任問題とし、自身はその責任から距離を置いている。この感覚はどう説明したらいいのだろうか。
「(首相が短期間で代われば)日本の存在感が小さくなりかねない」とも言っているが、指導力のない総理大臣が日替わりよりはちょっとましの年替り、菅首相の場合は月替りといったところだが、短期間に次々と入れ替わるのが日本の政治の等身大なら、それを表面的に取り繕うことの方が危険であろう。
国際会議に出ても、珍しく長く続いている日本の首相であったとしても、内心、指導力のない男だなとせせら笑われるのがオチだからだ。
6月25日からカナダ・トロント開催のG8首脳会議で日本の菅首相は「G8として北朝鮮に毅然とした態度で臨むべきだと私から申し上げ、G8のみなさんの合意を得た」とさもG8をリードしているかのように発言、「G8の正式な宣言の中で、北朝鮮の行為を強く批判したことの意味は非常に大きい。今、進行している国連の議論にも何らかの形で反映されると思う」と自身のリードによるG8北朝鮮非難が安保理の議論に大きく影響するかのような見通しを述べていた。だが、安保理の結末は強制力のある非難決議ではなく、強制力がないばかりか、間接的には北朝鮮の名前を上げていたものの直接的には名指しを避けた議長声明で終っていて、この菅首相の見通しの不確かな実態は問題解決の障害は中国の対北朝鮮ガードであり、その点についての合理的判断能力を欠いていることからきているものであって、決して先進国をリードするに足る指導性を発揮するとは思えない首相を日本は今後とも総理大臣としていただくことになるのである。
岡田外相はこの是非を抜きに発言している。
自民党政権末期の当時の麻生首相にしても、09年4月1日から開催のロンドン開催の金融サミット(G20)を前に英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューを受けて、「日本は欧米諸国に比べて(100年に一度の金融危機では)それほど傷が深くない。G20の中で積極政策をリードしていかなければならない」と大見得を切ったが、結果は金融危機脱出レースでは先進国の中で殆んどビリにつけているアップアップ状態にある。
この散々の体たらくにしても日本の経済構造や経済状況、財政状況等々を自己省察するに十分な合理的判断能力を持たなかったことからの大見得であり、日本の総理大臣がその程度の指導性しかなかったことの証明であると同時にそれが日本の総理大臣の等身大の才能だということの証明でもあるに違いない。
今度新しく中国大使に就く伊藤忠商事元社長の丹羽宇一郎氏も短期間の首相交代に反対する発言を行っている。《丹羽中国大使、相次ぐ首相交代「外交で信頼されない」》(日本経済新聞電子版/2010/7/26 12:58)
着任を控えた7月26日の日本記者クラブでの記者会見。記事は「リリーフ」という言葉は使っていないが、ここ数年の1年前後の短期間首相リリーフに関して。いわば首相が完投型エースではなく、リリーフをつないでいく形で終わっている状況について。
丹羽宇一郎駐中国大使「これでは外交の場でどんなに立派な事を言っても信頼されない。少なくとも数年間は世界のリーダーとお付き合いして初めて(日本の首相の)発言が信頼される」
発言力、あるいは発信力は在任期間で決まる問題点ではない。判断能力によって備わる言語力を条件とするはずだ。
丹羽氏は首相続投を支持しながら、これと矛盾する丹羽氏の辛口の発言を、《「これ以上勉強しても…」 丹羽・新中国大使が首相にチクリ》(MSN産経/2010.7.22 18:54)が伝えている。
7月22日の首相官邸での菅首相と丹羽宇一郎駐中国大使の会談。
菅首相(日中経済について)「10年近く勉強している」
丹羽宇一郎駐中国大使「長いですね。これからは何をするかの方が問題です」
記事はこの発言を、〈机上の空論よりも実行力が重要だと強調した。〉と解説している。
「10年近く勉強して」も、その「勉強」を具体的成果、具体的な外交成果、経済成果につなげなければ意味はない。だが、10年近い「勉強」の方を誇る。何が問題となっているのかの合理的に判断する能力を欠いているからだろう。トロントのG8自身のリードを実体あるが如くに誇っことと同じ轍を踏んでいる。
菅首相は次のように言葉を継ぐべきだった。
「10年近く中国を勉強している。今後はこの勉強を実際の政治につなげていくことができるかどうかが私自身の政治生命にかかってくる」と。ここまで言ったなら、丹羽氏の「これからは何をするかの方が問題です」は出てこない。次に出てくる言葉は「私にできる協力は惜しみません」といった言葉だろう。
米国防総省の東アジア担当グレグソン次官補も、日本の首相交代状況に一言物申している。《米高官“日本は負担増やすべき”》(NHK/10年7月28日 9時4分)
記事は日本の「思いやり予算」について7月27日に議会下院軍事委員会開催の日本の安全保障に関する公聴会での遣り取りの中で首相の交代にも述べている発言を伝えている。
先ずは思いやり予算について。
グレグソン次官補「同盟の鍵となる戦略的な柱であり、負担のさらなる削減は、地域の友好国や潜在的な敵に日本が安全保障に力を入れていないという誤ったメッセージを送る」
アメリカ側としたら、なるべく減らしたくない当然の発言であろう。自分たちの懐(=財政状況)を痛めたくないのは人情だろうから。
>質問の議員
グレグソン次官補「総理大臣や大臣がたびたび交代するので人間関係を築くのがとてもたいへんだ。政府といっても大事なのは個人なので、大臣になった人の仕事の進め方を理解できるようになるまで苦労している」
こういう発言を聞くと、首相は簡単に代えるべきではないと思わせられる。
菅首相が長く務めることになって、諸外国と人間関係を築くことになったとしても、丹羽宇一郎新中国大使が図らずも指摘した、問題がどこにあるか満足に把握もできない合理的判断能力の欠如の問題はついてまわるだろう。
このことは日本が置かれている諸状況を的確に把握する能力もなく、「日本は欧米諸国に比べて(100年に一度の金融危機では)それほど傷が深くない。G20の中で積極政策をリードしていかなければならない」と言っていた合理的判断能力を欠く麻生太郎を何年も長く総理大臣として務めさせることを考えたなら、容易に理解できることである。
あるいはアメリカで信頼されなかった鳩山前首相のような人物が長く首相を務めることになっても、人間関係さえ築くことができればアメリカは構わないということになる。そうなった場合、アメリカはきっと、いい加減代って欲しい思うに違いない。
問題としなければならないことは在任期間の長い短いではなく、諸課題に対して的確合理的に判断する能力に依拠した強い指導力だからだ。
そこに本質を置かない、単に期間だけを問題とする首相続投・交代論はさして意味はない。
にも関わらず、菅首相は1年交代でコロコロ変わるべきではないという「国民の声」、それと歩調を合わせた閣僚や様々な識者の消極的選択に助けられて現状では命拾いしている。
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