マニフェストを語る資格のない野田首相の「国会公認答弁」の覚悟の程度

2012-07-14 11:41:40 | Weblog

 野田首相が7月12日(2012年)午前の衆議院予算委員会で茂木自民党議員の質問に対して次回総選挙で消費税増税のマニフェスト明記に反対議員は公認しないと答弁した。

 この問題は6月26日(2012年)午後の消費増税関連法案の衆院採決で与党内で反対票を投じた議員に対する処分に端を発している。いつ衆議院が解散、総選挙に雪崩を打つか分からない状況下で2カ月、3カ月と、あるいはそれ以上に党員資格停止の処分を受けた議員が資格停止中に選挙があった場合、公認されないという噂だか話したかが流れた。

 小沢グループの離党・新党結成の動きもあって、公認されないなら新党に加わった方がいいという動きを抑えるために、民主党は党員資格停止中も公認するという方針を打ち出した。

 党員の資格を失っている議員に党の公認を与えるということは矛盾そのもだが、小沢グループの目減りの上にさらに目減りを加えるわけにはいかないという自己利害からの打算を働かせた結果の方向転換なのは明白である。

 しかも元総理の地位にありながら党決定に造反したと当初は6カ月の党員資格停止に処した鳩山元首相も3カ月に短縮と相なった。

 この選挙都合の寛大な処置に自民党や公明党が3党合意の信義に反するとして猛反発したという経緯がある。

 7月12日午前の衆院予算委での野田首相と茂木自民党議員の質疑応答を見てみる。 

 茂木自民議員「財源がないのに政策はできません。これは一回生議員でも分かっていただかなきゃいけないことなんだなと思います。ですから、総理も税と社会保障の一体改革と、こういったことを仰ってるんだと思います。

 まあ、あのー、鳩山元総理の処分、あの、党員資格停止が、えー、6カ月から3カ月に軽減されたと。これは税と社会保障、支持していただいている国民からも強い批判が出ているのは間違いないことであります。

 ただ、処分は民主党の問題であります。ただ、この税と社会保障の一体改革、我々は全員賛成し、今支部長として落選している我々の仲間もですね、これはきちんとやっていこうと必死で地元で訴えているんです。

 一方で、民主党で造反をされた方、国会では党の方に残っている。しかし地元に戻ると、私は消費税で反対をした、増税の前にやるべきことがあるんだ。こういったことを今でも言っている。

 私、今これを見るとですね、呉越同舟状態、さらに言えばですね、獅子身中の虫ですよ。こんな状態放置してしていいんですか。総理お答えください」

 野田首相「あのー、いわゆる投票行動、行動についての対応は先般の党内の手続きを経て、対応させていただきました。で、これからも引き続きですね、党内のコンセンサスを得られるように一致結束した対応できるよう。

 勿論、これから参議院の審議ですから、参議院のまさに結束というものもありますけれども、あの、衆議院に於いても、おー、まさに地域の活動と絡んでまいります。賛成を苦渋の決断で賛成された方も、一生懸命、今国民の皆さんに説明をされているときに、そうでない方が違う形で隣の選挙区でやっているというのは、どなたも違和感を持つと思いますので、そういうことのないようなコンセンサスづくりをやっていきたいというふうに思います」

 茂木自民議員「是非代表としてですね、そこら辺、指導力を発揮して欲しいですよ。総理が政治生命をかける。こう言っている法案でありますから、党内に残られるからには、この一体改革、きちんと賛成をする。苦しくてもやはり国民に説明をする。こういう努力なかったら、私は残念ながら、党員として失格じゃないかな、こんなふうに思います。

 あの、因みにですね、獅子身中の虫、これ元々仏教語なんですね。えー、菩薩になろうと誓った人が守るべき規律を定めた梵網経、これに言葉がありまして、仏法を破り、害をもたらすのは内部にいると。

 ぜひご参考にしていただきたいと、こんなふうに思うわけでありますが、野田総理はこれまでですね、消費税、マニフェストには書いてなかった。だから、引き上げの決定はするけれど、引き上げの前には国民に信を問う。こういうことを行ってこられたと私は思っております。

 当然、次回の選挙では今度こそ、民主党の選挙公約、マニフェストで言うか別にして、選挙公約にこの税と社会保障の推進、そして消費税の引き上げ、公約として盛り込まれますね」

 野田首相「これは国民生活に非常に直結するテーマであります。社会保障の持続可能性を確保して、その安定財源を確保するということは、それは本当に国民のためだと思って、厳しい決断でありますけども、あの、推し進めてきたわけでありますので、国民生活のために我々はそれを約束としてマニフェストに明記したいと思っております」

 茂木自民議員「マニフェストで明記をされると明言されました。で、小泉元総理は郵政改革の時に郵政改革に反対の我が党の議員、切ってですね、賛成の候補者、刺客とも呼ばれましたが、すべての選挙区に立ったわけであります。

 当時、小泉総理は殺されてもいいんだと。そんなことも言っていました。やはり私は政治生命をかけると言ったことには、そういう覚悟が必要なんだと、こんなふうに思っております。

 それで、次の選挙に、その消費税の問題、公約として掲げる。そうなりますと、この消費税・一体改革に反対をされる議員、これを公認することはまさかありませんね。

 党内の手続きの規定の問題を聞いているんじゃありません。総理の覚悟を聞いているということです。明確のお答えください」

 野田首相「これは、あのー、この一体改革だけではなくて、それぞれ今回掲げ…ま、マニフェストの中身はそれぞれこれからあると思いますが、しっかりマニフェストに書いたことをちゃんと順守するかどうかというのは公認の基準になると思います」

 茂木自民議員「一丁目一番地だと思います、総理にとって。そう仰ってきた。我々もその意気込みに協力をしてきた。

 それをマニフェストに掲げる。それについて反対の方は公認されない。トーゼンのことだと思います。明確に是非お答えください」

 野田首相「マニフェストに明記することに賛同できないんだったら、それは公認の基準から外れると思います」

 茂木自民議員「えー、明確にお答えいただきました。えー、次回選挙、民主党、消費税、そして一体改革の推進に反対する議員は公認をしない。

 えー、総理の方からしっかり仰っていただきました」 (以上)

 茂木議員は「総理の覚悟」を聞いた。それに対して野田首相は勿論総理としての「覚悟」を述べた。

 それが、「マニフェストに明記することに賛同できないんだったら、それは公認の基準から外れると思います」という発言となった。

 覚悟ということなら、「公認の基準から外します」という主体的意志提示の強い言葉となるはずだが、またそのような言葉遣いをすることによって普段言っている「不退転」の姿勢と整合性を獲ち得るはずだが、「外れると思います」と受動的推定語となったのでは覚悟の程を窺うことができない。

 だから茂木議員はわざわざ「明確にお答えいただきました」とか、「総理の方からしっかり仰っていただきました」と念を押す形の言葉を繰り返さなければならなかったのだろう。

 但しこの茂木要求には誰の目にも分かる仕掛けがある。

 消費税増税反対議員が公認欲しさに増税反対の旗を降ろしたなら、信念のない政治家だと非難を受けて、公認を得たとしても次の選挙で当選は覚束なくなる。原口一博なら、元々信念などないから、空売りの形でいくらでも信念を売るだろうが、普通の議員は信念のある政治家だという体面を保つためにも離党の選択を選ばなくてはならない。

 離党が続発して民主党議員の数が減ることは自民党や野党にとって都合のいいことこの上ない。野田首相にしたら、この仕掛に潜む危険性を承知で敢えて覚悟を示すことができる強い言葉を発信することができなかった。

 「総理の覚悟」が茂出木議員が念を押さねければならなかった程度のものだったと、野田首相自身の発言によって分かるのは、いわば受け身の推定語を使ったとおりだったと分かるのはその日の夕方(6月12日夕方)、いわば舌の根が乾く暇もないうちの国会の憲政記念館で開催の民主党両院議員総会の場であった。

 野田首相「マニフェストの原則論に立って答弁したつもりだが、誤解を生むことになった。すぐ衆議院を解散するわけではないが、丁寧に政権公約をつくり、公認候補については、私だけではなく、輿石幹事長や県連も含め、適正に判断したい」(NHK NEWS WEB

 茂木議員は「マニフェストの原則論」を聞いたのではない。消費税関連法案の参議院審議を控えて造反を避けるためにも不退転の決意で「税と社会保障の一体改革」の実現のために党内の反対議員を次の総選挙で公認しないという形を前以て示すことができるのかどうかと「総理の覚悟」を聞いたのである。

 尤も茂木議員の質問に対する覚悟も何もない野田首相の国会答弁から判断したなら、上の発言となったとしても不思議は何もない。

 但し、当然と言えば当然だが、この「覚悟」違反の発言を自民党や公明党が黙ってはいなかった。

 《石原自民幹事長「首相はうそつき」》時事ドットコム/2012/07/13-17:09)

 13日党本部で記者団に。

 石原伸晃自民幹事長「うそつきだ。首相がこのような態度を続けるなら、首相と決別することもある。首相には『きょろきょろするな。腹を据えて当たれ』と言いたい」

 13日記者会見。

 岸田文雄自民党国対委員長「首相は予算委員会での(当初の)発言の重みをどう考えているのか。あまりに無責任ではないか」

 渡辺喜美みんなの党代表「朝令暮改で(発言を)変えた。代表再選を確実にしようといろんなところに気を使うから、発言のぶれが出てくる」

 公明・山口代表「ぐらつくなら国会で答弁するな!」 野田首相の消費税反対議員「公認しない」発言にMSN産経/2012.7.13 11:31)

 山口公明党代表「「公認基準など政党内(の問題)を首相の立場で国会で答弁することではない。自らの国会答弁の内容がぐらつくことになるなら国会で答弁しないほうがいい。国会の答弁を軽視していると言っても過言ではない」

 野田首相は翌日7月13日午前の参院本会議でも同じような趣旨の弁解を行なっている。

 《朝令暮改? 「消費税反対は公認せず」は一般論 野田首相が釈明》MSN産経/2012.7.13 11:34)

 自民党の愛知治郎氏への答弁。

 野田首相「マニフェスト(政権公約)は所属議員の議論を集約して作成され、候補者はそのマニフェストを掲げて選挙を戦うのが自然な姿であるということを、一般論として答弁したつもりだった。

 候補者の公認は、幹事長らも含めた執行部として、各都道府県連の意見も含めて判断すべきだ」

 「マニフェストの原則論」が「一般論」に変わっている。どちらであっても、例外を除外している。例外を認めるということである。

 まあ、この程度の覚悟だとは思っていた。「不退転、不退転」と言っていても、言葉の人、口先だけだとは見抜いていた。今回の3党合意にしても妥協の産物に過ぎない。不退転の産物とは程遠い。

 野田首相の「覚悟」の程度が分かっていながら、茂木議員の仕掛けに引っかかって離党者を多く出せば、そのうち何人かは小沢新党「国民の生活が第一」に流れるのではないかと期待したのだが、ついつい果敢ない期待を抱いてしまった。野田首相の「覚悟」をバカにしたい気持だけが残った。

 そもそもから言って、野田首相にはマニフェストを語る資格はない。インターネット上に流れている野党時代の発言がそのことを証明している。

 野田首相「マニフェスト、イギリスで始まりました。ルールがあるんです。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです。それがルールです。

 書いてないことを平気でやる。これっておかしいと思いませんか。書いてあったことは4年間、何もやらないで、書いてないことは平気でやる。
 
 それはマニフェストを語る資格がないというふうに、是非みなさん思っていただきたいと思います」――

 書いてないことをなり振り構わずに命がけで妥協して実行したのだから、野田首相は自分からマニフェストを語る資格を投げ捨てたのである。

 マニフェストを語る資格のない政治家の自らの発言に対する当然の「覚悟」の程度といったところなのだろう。


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