猪瀬東京都知事の5000万円借用疑惑、いよいよ辞任は秒読み段階に入ったのではないだろうか。辞任以外に追及を逃れる手はないところまできている。
マスコミ記事から12月9日・10日の都議会総務委員会での猪瀬都知事の発言から自分なりの解釈で、猪瀬都知事の発言の矛盾を考えてみることにする。自分なりの解釈と言っても、自分だけの解釈というわけではない。自分ができる解釈といった程度で、結果は大したことのない解釈で終わるかもしれない。
先ずは郵送で返却された借用書の封筒の問題。《猪瀬知事、徳田議員に「借用証は見せていない」》(YOMIURI ONLINE/2013年12月7日09時07分)
12月6日の東京都議会一般質問。
――徳洲会側から郵送されてきた借用証が入っていた封筒は保管されているか。保管されていれば、提出してもらいたい。
猪瀬都知事「封筒は保管していない。私の事務所には毎日大量の郵便物を含む書類が届く。事務所のスタッフにより処分されたと聞いている」
――(問題発覚後に)徳田毅衆院議員に借用証を見せて確認したのか、見せたとしたらいつ見せたのか。
猪瀬都知事「借用証は見せていない。毅氏の秘書から連絡があって、確認した」
――(借用証に印紙が貼られておらず)印紙税法違反が指摘されているが。
猪瀬都知事「印紙税についても至らないところがあったので、納税するつもりだ」
――知事は、昨年11月6日に(神奈川県鎌倉市の病院に入院中の)徳田虎雄・元衆院議員と会ったとき、あいさつ程度だったと説明していたが、医療についての話はしていないのか。
猪瀬都知事「徳田氏が立志伝中の人物であるという話は聞いていた」
――副知事2期目の退職時に受け取った1026万円の退職金を返納する気持ちはあるか。
猪瀬都知事「私の行動が都政に様々な迷惑をかけていることは承知しており、その責任も感じている。退職金の返納については、ご意見として受け止めさせていただく」(以上)
要するに封筒の処分は「事務所には毎日大量の郵便物を含む書類が届」いて嵩張るから、郵便物の場合は封筒から出して剥き出しの状態で保管するというシステムになっているという意味であるはずだ。
だが、一般的には封筒入りで来た郵便物は封筒入りのまま、書類が剥き出しで届いた場合は逆に事務所の封筒等に入れて、それぞれ中身が何であるか分かるように封筒の表にマジック等で一筆入れて本立や戸棚に縦に入れて保管する。そうして置くと、後で簡単に探し出すことができるし、紛失もしにくくなる。また封筒に入れておけば、変に折れ目がついたり皺になったりするのを防ぐことができる。
郵送ではなく、手渡しで直接渡す場合も、相手は変に折れ目がついたり皺になったりしないように封筒に入れて持ってくるのが一般的である。
だが、わざわざ封筒から出して、記者会見で示したA4版程度の大きさの借用書1枚を剥き出しのまま貸し金庫に保管した。それは不自然ではないかと追及するだけでも、猪瀬知事に対するプレッシャーになるはずだが、記事を見る限り、尻切れトンボで終わっている。
「徳田毅衆院議員に借用証を見せて確認したのか、見せたとしたらいつ見せたのか」と質問しているが、ニセモノなら見せるはずはないし、ホンモノだとするなら、なお見せる必要は生じない。ニセモノかホンモノかを見分けるための質問としたら、無意味な質問であろう。
但し借用書の郵送に関してはこれまで差出人は徳田氏側、受取人は猪瀬事務所を前提とした追及と答弁となっている。ところがこの構造ばかりか、2012年11月6日の徳洲会鎌倉病院での徳田虎雄前理事長との面会では都知事選出馬の挨拶をし、虎雄氏の業績についての話を聞いただけという説明と貸し金庫に5000万円預けたという一件について、12月10日都議会総務委員会2日目集中審議では猪瀬都知事は自ら証言を崩す。
《資金提供問題 猪瀬知事「借用書は仲介人から郵送」と証言》(FNN/2013/12/10 18:04)
小山邦彦民主党議員「わたしは必ず、徳田虎雄氏と会うには、きちんとした、それもはっきりとした理由が知事にはあったはずです。それは何ですか?」
猪瀬都知事「応援につながるということです」
小山議員「応援というその中身、それが何なんですかという、わたしは一般的にお話を聞いているわけではなくて、知事ご自身がここで、何を依頼されて、何を応援の目的とされたのかということをお聞きをいたしております」」
猪瀬都知事「今、申し上げましたように、応援してくださるということは、たくさんの票につながったり、いろんな方々に話が伝わって、献金につながったりするだろうということを含めて、お願いしますよということで、お会いしたわけですよね」
小山議員「今、お話の中で、1つは票、1つはお金、献金。こういうことでございますね? よろしいですか?」
猪瀬都知事「それは、お願いするということは、そういうことです」
小山議員「ただ今の答弁から、1つは票、1つはお金であるということが、よくわかりました。その応援(要請)に行かれた結果、資金がのちのち、このあとお話をしますが、5,000万円の授受につながっています。それがつながっているというふうに、知事は、お考えにならないということですか?」
猪瀬都知事「そこは、わかりません」――
露骨に「資金も票もお願いしたいものですね」と言わなかったとしても、資金と票を期待する気持を込めて、「お願いします」と言ったことになる。
当然、猪瀬都知事が資金提供を直接的には口にしなくても、徳洲会側は5000万円出すについては資金と票を期待した猪瀬都知事の気持に応えた選挙資金の5000万円ということになって、いくら猪瀬都知事が選挙後の生活を考えた個人的借用だと強弁しても、選挙資金を使途目的としての両者間のカネの遣り取りとなる。
また、この票と献金を期待して応援をお願いした事実と、11月14日の東京都内和食店で交わした猪瀬都知事と徳田毅衆院議員と木村三浩氏の遣り取りについてのこれまでの証言との整合性、及び前日(12月9日)の都議会総務委員会での発言との整合性を見てみる。
11月26日公開記者会見。
猪瀬都知事「(11月14日の和食店では)いろんな話が出ました。ですから、そういう中で、もしお金がないのなら、いつでもお貸ししますよという話は出ています」
11月6日の徳洲会鎌倉病院での徳田虎雄前理事長との面会で既に票と献金を期待して応援をお願いしているのである。当然、「もしお金がないのなら」は資金不足かどうか分からないことを前提とした言葉ではなく、資金不足が承知を前提とした言葉となる。
だが、猪瀬都知事が説明した徳田毅議員の言葉は前者のニュアンスとなっている。この説明は自分から資金提供を申し込んだのではないことを事実とするための証言だからだろう。
12月9日都議会総務委員会での和食店での遣り取りは自らが描いてきた事実を更に変化させることになる。《猪瀬知事「政治団体代表が提案」》(NHK NEWS WEB/2013年12月9日 18時14分)
11月14日の和食店での遣り取り。
猪瀬都知事「会食の際、徳田議員と木村代表の間の会話で都知事選挙には選挙資金として1億円ほどかかると言っていたので人ごとのように聞いていた。自分としては過去の石原前知事の選挙で3000万円程度で済んだと聞いていたので、自己資金でまかなえると思った。
「『当時は有力候補も出てくるかもしれない状況で、小さな事務所を回していかなければいけないので不安がある』と話したら、木村氏が『そういうお金だったら貸してあげたらいいじゃないか』と話していた」――
12月10日総務委員会の証言は票と献金を期待して応援をお願いしたのである。これを事実とすると、都知事選挙ではどのくらいのカネがかかるかという話に「人ごとのように聞」くということは整合性を明らかに失う。
また11月6日に徳田虎雄・元衆院議員に票と献金を期待して応援をお願いした以上、「自分としては過去の石原前知事の選挙で3000万円程度で済んだと聞いていたので、自己資金でまかなえると思った」という証言も整合性を失うことになる。
後者を真正な事実とするなら、票と献金を期待して応援をお願いしたという前者の事実は存在し得ない。
矛盾だらけである。個人的借用を演出するための創作としか見えない。だが、都議会で追及されるに及んで、事実に近づけざるを得なくなった。
前出の「FNN」記事に戻って、12月5日の代表質問では「5000万円を貸金庫に預けた理由ですが」という質問に対して、「5000万円という大金を目にして、びっくりして、自宅に置いておくわけにいかない、これはすぐに、貸金庫にしまわなければならないなと思いました」としていた貸金庫保管と借用書についての12月10日都議会総務委員会2日目の発言の変化について見てみる。
猪瀬都知事「(徳田 毅議員が)11月19日に、5000万円を用意するから、あした、取りに来てくれという電話をかけてきましたので、うちの妻に、『もし、そういうことになれば、入れ物がないので、貸金庫を借りてくれ』というふうに頼みました」――
妻が借りて利用していた貸し金庫を5000万円の保管場所としたのではなく、5000万円の保管を目的として妻に借りさせた貸し金庫へと保管したということになって、この場合は変わるはずもない事実を作り変えたことになる。変わるはずもない事実を作り変えたということは単に整合性を失うだけではなく、明らかにウソをついていたということである。
勿論、記憶違いによって記憶を訂正する過程で事実が作り変えられることもあり得るが、個人的借用だと周囲に納得させるための自己正当化を目的とした前者の事実であって、記憶違いの訂正による事実の作り変えは同じ自己正当化であっても、それをより補強する形を取らなければ意味をなさないにも関わらず、逆に自己正当化を崩す証言となっている以上、いくらでも追及の方法があったはずだが、以後の遣り取りについて記事は触れていない。
借用書の返済について。
猪瀬都知事「(借用書は)日にちはわかりませんが、(仲介人の)木村三浩氏の方から送られてきました。徳田毅事務所から、木村三浩氏が受け取って、こちらに送ってきたということです」
徳留道信共産党議員「そんな貸借関係があるんですか? 貸した人から借用書が戻ってこなくて、違う人から戻ってくる」――
この質問に猪瀬都知事がどう答えたのか、やはり記事は触れていない。
だが、猪瀬都知事はこれまでは徳田議員から猪瀬事務所に封筒入りで郵送されてきたという事実を自ら描き出して、その事実を前提に遣り取りが行われてきた。ここに来ての事実の作り変えとなっている。これが真正な事実なら、落ちるのも時間の問題だろう。
一般的な常識としては徳留議員が「そんな貸借関係があるんですか?」と言っているように徳田毅事務所から木村三浩氏側に郵送されたという事実は考えにくい。木村三浩氏が直接借用書を受取りにいったことになるはずだ。
但し木村三浩氏が保証人になっているか、あるいは木村三浩氏の主導で貸し借りの話が推し進められ、徳洲会側が木村三浩氏の顔を立てる形で猪瀬側との貸し借りを成立させた場合は、借用書を木村三浩氏側に郵送することもあり得るかもしれない。
直接受け取りにいったのか、郵送なのか、その事実と、前者・後者いずれであっても、なぜの理由を問い質さなければならないはずだ。
いくらでも追及の余地を残した遣り取りとなっている。自己正当化の発言を行うたびに自己正当化とは逆の矛盾や整合性の欠如を曝すことになる個人的な借用を事実としたい執念の強さと、その執念の強さに比例した政治資金とすることへの強い拒絶反応は、政治資金とした場合、徳洲会が都心から離れた西東京市に介護老人保健施設と昭島市に病院を持つものの、都心に徳洲会病院の旗を立てることを悲願としているということに対して都が許認可権を持つために便宜供与の密約が疑われことからの個人的な借用を事実としたい執念の強さであり、政治資金とされることへの強い拒絶反応と疑えないこともない。
だが、個人的借用が最初からの神聖な事実なら、こうも矛盾した発言も整合性の取れない発言も出てこないはずだ。また、ただ単にヒモつきではない政治資金として借りただけなら、同じことを言うことができる。
事実の作り変えが余りにもひどい。いよいよ追いつめられ、辞任以外に追及を逃れる手はないところまできている。