金賢姫来日は中井拉致担当相のパフォーマンスなのかそうでないのか

2010-07-23 09:04:21 | Weblog

 今回の金賢姫来日に野党からパフォーマンスだ何だと批判が出ている。正当なる批判か、不当なる批判か。私自身は一昨日の当ブログで、《金賢姫訪日は何ら拉致解決策を見い出せない日本政府の無策を隠し、それを埋め合わせる単なる儀式》だと書いた。

 《「政権のパフォーマンス」=金元工作員来日、自公が批判》時事ドットコム/2010/07/22-20:59)

 谷垣自民党総裁「(拉致問題解決に向けた)新しい進展がないという話もある。全くパフォーマンスのためにしたもので、極めて疑問が多い」

 鳩山前首相の別荘を滞在先としたことについて――
  
 谷垣自民党総裁「(元工作員が関与した)大韓航空機事件で115人が亡くなった。こういうテロ事件の実行犯を日本に迎えるときにVIP待遇というか、国賓待遇といったら言い過ぎかもしれないが、国際的に、日本がテロをどう考えているのか理解を得られないのではないか」

 山口公明党代表「何が目的で、どういう効果を狙っているのか定かではない。税金を使う以上は国民に対し説明する必要があるが、(政府の説明は)不十分だ」

 確実に言えることは、もし自民党時代の出来事だったなら、民主党は野党の立場から同じ批判をしていただろう。

 野党は批判を専らの仕事としているということを言っているのではない。野党時代は批判しているようなことを与党となると、批判したことも忘れて二の舞を平気で演ずるということである。あるいは逆に与党時代に自分たちがしていたことを、野党となって与党が同じようなことをすると批判する。勿論、与党の立場であろうと野党の立場であろうと、ハイ、そうですかと批判を素直に受け付けるようなことはしない。

 軽井沢の鳩山別荘から東京への移動にヘリコプターを使用したことが、特にマスコミからの批判の対象となっている。《遊覧!?金賢姫元工作員が40分間ヘリ搭乗》日刊スポーツ/2010年7月22日22時10分)

 午前9時半頃  ――金元工作員、軽井沢鳩山別荘を車で出発。
 午前11時45分頃――東京都調布市調布飛行場到着。
 午後0時15分頃 ――ヘリコプター搭乗・離陸。
 午後0時55分頃 ――東京へリポート(東京都江東区新木場 )到着。被害者家族が待つ千代田区のホテル
           へ車で移動。

 但し、調布飛行場から東京ヘリポートまで直線で30キロの距離を神奈川県江の島上空、横浜市上空を経由、40分の飛行時間を要して東京ヘリポート着だったとのこと。

 ヘリコプターの時速は約200キロからだというから、200キロとして30キロの距離は9分程度の飛行時間で済む。9分では呆気なさ過ぎるから、時速200キロで40分の飛行、133キロ相当を飛んだということではないのか。

 これを以て記事は、〈移動だけが目的とは考えにくく“遊覧飛行”ととられかねない行動だ。〉と、遊覧飛行に仕立てたい衝動をあからさまに見せている。

 何、どうせ国のカネだ。それが例え国民の税金を原資としていたとしても、自分の懐を痛めるわけではない。

 金賢姫が政府チャーター機で来日したのは7月20日未明。その日、中井拉致担当相は記者会見で次のように述べている。《中井拉致相「証言得られれば、大きな前進」》日テレNEWS24/2010年7月20日 14:32)

 中井「新しい証言が得られれば、大きな前進になる。元気な(拉致被害者の)横田めぐみさんを直接見聞きした人に初めて会うことは(横田さん夫妻への)一つの励ましにもなるだろう」

 金賢姫来日の主目的はあくまでも拉致解決の「前進」であって、「元気な(拉致被害者の)横田めぐみさんを直接見聞きした人に初めて会うことは(横田さん夫妻への)一つの励ましにもなる」は従目的としていた。後者が主目的化したなら、主客転倒となる。

 前者の目的に適ってこそ、国のカネ(=国民の税金)を投入することが許される。国民も納得する。

 但し、「新しい証言が得られれば」の条件付の話で、最初から確証はなかった。「新しい証言が得られ」ない場合も想定した訪日要請であった。当然、「新しい証言が得られ」ない場合に備えた用心深さも前以て準備していたはずだ。無闇矢鱈とカネを使ってはいられないぞという用心深さである。勿論、カネの出し具合で決まってくる「新しい証言」といった案件であるなら、出し惜しみしていられないが、そういった案件ではないはずだ。

 米中央情報局(CIA)はイランの原子力科学者にイラン核開発の情報提供の見返りに500万ドル(約4億4千万円)を支払っている。カネの出し具合で決まってくる情報提供だったからだろう。尤も口座に入れたそのカネは本人がイランに帰国したために、イランからでは引き出せないそうだ。

 無闇矢鱈とカネを使ってはいられないぞという用心深さとは、例えば「新しい証言」が得られないと分かったなら、態度をガラッと変えて、早々に帰国していただくとかの態度である。そんな失礼なことはできないと言うだろうが、それくらい計算高くなれなければ、中国の強かな外交にいつまで経っても敵わないことになる。

 拉致被害者の横田めぐみさんの家族が21日夕方から鳩山別荘に宿泊予定で金賢姫と共に時間を過ごし、翌22日の朝、記者会見を開いている。《横田さん夫妻「特別新しいものない」 金元死刑囚と面会》asahi.com/2010年7月22日8時32分)

 横田夫妻「特別新しいものは出てきませんでした」

 中井拉致担当相が期待した「新しい証言」はなかった。この時点で主目的たる拉致解決前進の希望は断たれたのである。尤も政府チャーター機でお出迎えの来日招請といった面倒な手間をかけずとも、韓国で事情聴取したとしても同じ結果――「新しい証言」は出なかったろう。本人は元々韓国及び日本の警察機関に話した以上のめぼしい「新しい証言」など持っていなかったのだから。持っていたなら、既に吐き出していたはずだからだ。

 このような素地の元、記事が書いている、〈滋さんによると、金元死刑囚はめぐみさんの写真は何度か見たことはあるが、会ったのは1度だけだと話したという。早紀江さんは「めぐみと近しいところにいた金さんと会えて、夢のようだった」と話し、金元死刑囚にベージュ色の上着をお土産としてプレゼントしたと話した。 〉辺りの状況から、従目的たる横田夫妻“励ましの会”が前面に出てきて主目的化の様相を呈してきた。

 いわば金賢姫訪日要請の主目的が横田夫妻を励ます彼女との面会となり、実質的には「新しい証言が得られれば、大きな前進になる」は面会を実現させるための口実に過ぎなかったということである。だから、簡単に主客転倒を許すこととなった。

 もしも中井本人が「前進」だと信じていて、張り切っていたとしたしたら、冷静合理的な客観的判断能力ゼロの政治家だからできた、鳩山前首相の別荘のお膳立てまでして舞台を用意した金賢姫訪日劇のパフォーマンス(=儀式)といったところだろう。

 だからこそ、「新しい証言」がなかったことが判明した時点で拉致解決前進に何ら期待できないことが判明したにも関わらず、なるべく税金を投入しないよう、撤退を図るだけの臨機応変の措置さえも取ることができずに時速200キロ何がしかのヘリコプターで江ノ島くんだりまでの“遊覧”飛行サービスのお膳立てまでするムダ遣いのさらなるパフォーマンスを続けることができた。

 金賢姫の口からただ単に「新しい証言」が出なかったでは格好がつかないから、その埋め合わせに中井本人が「新しい証言」を用意することになったのではないのか。

 《6~7年前まで元気との情報》NHK/10年7月22日 13時19分)

 22日の記者会見――

 ――韓国の拉致被害者の家族会の代表が「田口八重子さんが今も北朝鮮にいる」と話しているが、情報はあるのか。

 中井「韓国の家族会の代表が言ったような状況とは別に、田口八重子さんが、6~7年前まで北朝鮮で元気でいたという情報がある。誰からどういう情報を得たかということについて、お話しできる事柄ではないと考えていますが、家族にはそれとなくお伝えしています」――

 韓国の拉致被害者の家族会の代表の情報とは、《田口八重子さん生存情報、被害者団体代表が伝える》YOMIURI ONLINE/2010年7月22日 10:59)が伝えている。

 〈北朝鮮に拉致された韓国人被害者の家族らでつくる「拉北者家族の会」の 崔成龍(チェソンヨン)代表は22日、「信頼できる北朝鮮の情報源」から、日本人被害者の田口八重子さんが現在、平壌の 万景台(マンギョンデ)区域にある集合住宅で生活しているとの情報を聞いたと明らかにした。〉

 情報源は、〈脱北者ではなく、平壌で働き、海外にも行き来する関係者〉であり、〈日本政府関係者にも、こうした情報を伝えた〉としている。

 記事は、〈崔代表は2004年、横田めぐみさんが韓国人被害者と結婚しているとの情報を入手し、日韓両政府が2006年、事実と確認したことがある。〉とその情報把握の確かさを遠まわしに保証している。

 中井は北朝鮮に拉致された韓国人被害者の家族らでつくる「拉北者家族の会」の情報とは別の情報だとして、自身が入手している情報を明らかにした。

 だが、入手した当時は「新しい証言」に当たるその情報を活用して、拉致解決に「大きな前進」を図ることができなかった。できていたなら、それを突破口に横田めぐみさんの手がかりを得る可能性まで期待できたはずであるし、韓国で事情聴取すれば片付く金賢姫をわざわざ来日させるまでもなかったはずだ。

 ところが家族に伝えておくだけで、それ以上は必要でないとして入手当時に公にしなかった情報を、いくら韓国の「拉北者家族の会」の情報があったからとしても、この場に及んで公表したのは、いわば必要でないとしていたことをここに来て必要としたのは金賢姫から「新しい証言」が出なかった埋め合わせに中井本人が用意した「新しい証言」としか理由を見つけることができない。

 すべてがパフォーマンス(=儀式)に彩られた訪日劇であったから、カギとなっている「証言」を用いた形の策を弄する必要性が生じる。中井の一世一代のパフォーマンスのために税金が使われた。

 勿論、日本政府が拉致解決に何ら有効な拉致解決策を見い出せない無策が冷静合理的な客観的判断能力ゼロの政治家中井をして、ゼロであるがゆえに唆すこととなったパフォーマンスの側面を否応もなしに持つはずである。

 《【金元工作員来日】「パフォーマンス」「税金使う目的と効果は」“厚遇”に批判続々》MSN産経/2010.7.22 23:14)

 記事は上出「時事ドットコム」とほぼ同様に谷垣自民党総裁や山口公明党代表の批判を載せた上で、鳩山前首相の別荘貸与の発言を伝えている。

 鳩山前首相「拉致は国として措置をとるべきだからそれなりのコストは許される。別荘は私だけが住むような場所ではないので多くの方に使ってほしいと思っていたのでよかった」――

 相変わらずの単細胞だ。あくまでも国民の税金である以上、「それなりのコスト」は少しでも拉致解決に資すると予測可能な事柄に計画立てて消費される「コスト」でなければならない。訪日の手間を取っても「新しい証言」が出なかったということは、訪日の手間を取らなくても出てこなかった「新しい証言」であり、韓国にいてもそのことは証明された“証言劇”だったということなら、拉致解決に資する事柄とはならないとする逆の予測可能を持つべきで、許されない「コスト」と言わざるを得ない。

 金賢姫訪日目的を拉致問題に関わる世論喚起と拉致被害者家族を慰めることに目的を絞るべきだたったろう。そうすればパフォーマンスとなる余地はなく、当然、コストもそれなりに抑えた支出となったに違いない。わざわざ前首相の別荘を宿泊先に用意することもなかったはずだ。勿論、ホテルよりはカネはかからなかっただろうが、パフォーマンスをパフォーマンス足らしめる騒ぎ立ての対象ともならなかったはずだ。

 中井としたら、「新しい証言」が得られなくて却って幸いしたのではないだろうか。「新しい証言」が出た場合、拉致担当を担っている立場上、拉致解決進展に向けた結果責任(=成果)を否応もなしに求められることになるからだ。それを見越したパフォーマンスだったとしたら、冷静合理的な客観的判断能力ゼロの政治家であることとは別の意味で、なかなかの判断能力を持った政治家と言わざるを得ない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする