朝日新聞の6月12、13日実施全国世論調査(電話)が参院選大敗に大ショックを受けていた菅首相に心癒す大プレゼントを進呈したようだ。《菅首相辞任「必要ない」73% 朝日新聞世論調査》(asahi.com/2010年7月13日23時9分)
写真のキャプションには、〈世論調査で続投への支持率が高かったことに対し、笑顔で「うれしいです」と答える菅首相=13日午後、首相官邸、西畑志朗撮影〉と書いてある。
6月8日の総理大臣記者会見で記者から、「全閣僚の政府会見、そして何と言っても菅さんが先ほどおっしゃいました官房長官の会見等を、国民のために完全に開くという御意気はあるのかどうか。鳩山前首相はそれについては約束をしてくださいましたが、菅総理はどうなのかお伺いします」と問われて、「オープンにすることは非常にいいが、取材を受けることで政権運営が行き詰まるという状況もなんとなく感じている」と言っていたマスコミ不信の毛嫌いを、鳩山前首相が朝と夕方の1日2回開いていたのに対して、朝は拒絶、夕方のみの1日1回に減らす首相官邸でのぶら下がり記者会見で形にして見せていたが、自分に都合のいいマスコミ報道にはいとも簡単に抱きつき、自分から頬ずりさえするご都合主義を単純にも見せているようだ。
参院選投票日前日の福井県坂井市の街頭演説では、「財政破綻(はたん)に陥らないため税制について議論する必要があると言った。そうしたら翌日の新聞が『菅直人が明日から消費税を上げるんじゃないか』と書いた。・・・・次の総選挙まで1円も上げない。このところだけ外して報道が流れた」と、民主党過半数割れ、現有議席後退のマスコミ予想に益々マスコミ不信の毛嫌いを募らせて、内閣支持率の低下、選挙不利状況の責任を事実でないことを言ってマスコミ報道に転嫁していたが、マスコミ不信の毛嫌いをいともあっさりと打ち忘れて、不信とは正反対の信頼できる事実とするご都合主義を曝している。
〈世論調査―質問と回答〉のうち、民主党と自民党のみを見てみる。(丸カッコ内の数字は6月3、4日の前回調査の結果)
◆菅内閣を支持しますか。支持しませんか。
支持する 37(39)
支持しない 46(40)
◆いま、どの政党を支持していますか。
▽民主党 27(30)
▽自民党 21(15)
◆今回の参議院選挙の比例区で、どの政党、またはどの政党の候補者に投票しましたか。
▽民主党 31
▽自民党 24
◆参議院選挙の結果、民主党は44議席しか取れず敗北しました。この結果はよかったと思いますか。よくなかったと思いますか。
よかった 48
よくなかった 30
◆菅首相は、首相を続ける考えを表明しました。菅首相は、参議院選挙の結果の責任をとって、首相を辞任するべきだと思いますか。辞任する必要はないと思いますか。
辞任するべきだ 17
辞任する必要はない 73
◆消費税の引き上げに賛成ですか。反対ですか。
賛成 35(39)
反対 54(48)
◆今回の選挙で投票先を決めるとき、菅首相の消費税をめぐる発言や対応を重視しましたか。重視しませんでしたか。
重視した 32
重視しない 57
◆消費税引き上げの議論は進めた方がよいと思いますか。進めない方がよいと思いますか。
進めた方がよい 63
進めない方がよい 29
中身を仔細に見てみると、〈笑顔で「うれしいです」〉では簡単には済まない事実が見えてくる。ただ単に「辞任する必要はない 73」の数字だけを見て、単細胞にも大歓迎しただけのようだ。元来、指導力を形作る重要な要素となる合理的判断能力を欠いているから、数字だけの判断となったのだろう。
そもそもからして国会が開催されれば、否応もなしに参議院のねじれ状況が待ち構える。野党との駆引き次第では政権運営が行き詰まらない保証はない。行き詰まる場面までいかなくても、野党の攻撃に曝されて少しでも政権運営が滞った場合、「辞任する必要はない 73」は確かな砦となってくれる数字ではなくなるはずだ。いわば脆さを内側に抱えた「73」と見なければならない。あるいはヌカ喜びで終わる危険性を抱えた「73」かもしれない。にも関わらず、〈笑顔で「うれしいです」〉とすることができる。
「辞任する必要はない 73」であるにも関わらず、菅内閣支持率は投票日前の調査から2ポイント下げた、「支持する 37」、「支持しない 46」にしても、前回調査から6ポイントも上げていて、差引き「支持しない」が9ポイント上回っている、この参議院に劣らないねじれ現象はどう説明したら、整合性を得ることができるのだろうか。
唯一考えることのできる理由は、自民党安倍内閣から民主党鳩山内閣までの4人の首相がほぼ1年毎にコロコロと代わってきたことを挙げることができる。ここにきて菅首相までが6月8日に菅内閣がスタートして1カ月かそこらの短命、次にバトンタッチとなったら、国際的信用に関わると多くの政治評論家やその他の有識者、そして政治家自身が、その多くは菅擁護の立場からの自己都合な発言だが、口にしていて、そのことが国民の頭に浸透して、同じ懸念を共有していることになっているからではないか。
菅首相自身もマスコミの世論調査で民主党の参院選敗北の状況が現実味を帯びて色濃くなった7月4日日曜日のNHKのテレビ討論で同じ趣旨の、自身を擁護する発言を行っている。《54議席獲得できずとも辞任せず》(NHK/10年6月25日 0時32分)
菅首相「この間、日本の首相が毎年のように代わったことで、たいへん弱い政治、弱い外交になったと思う。今回の選挙で議席を大きく伸ばしたいと思っているが、すぐにあきらめてしまうということは、わたしはまったく考えていない」――
確かに指導力は頭数に対応した変数の関係にあるが、このことがすべてではないことは衆参両院とも頭数を確保していながら、発揮できなかった鳩山首相の指導力が証明している。
いわば、「日本の首相が毎年のように代わったことで、たいへん弱い政治、弱い外交になった」とは必ずしも断言できな事実で、各首相の指導力の欠如自体が、「首相が毎年のように代わ」るような状況を招いたことは否定できないはずだ。
もし菅首相の言っていることが真正なる事実なら、「首相が毎年のように代わ」らなかった時代に於いて、アメリカ追従外交だとか、政治三流国だとか、あるいは日本の政治には戦術はあっても戦略はないといった有難い称賛を受けることはなかったはずだが、哀しいかな、日本の歴史・文化・伝統として長いことこの手の称賛を受けることとなっていた。
例え「首相が毎年のように代わ」ることで国際的な信用を失うことになったとしても、いわば世界に向けた世間体と合理的判断能力を欠き、このことが影響して指導力まで欠いている菅首相を日本の政治を主導する総理大臣の位置に就けておくことと、どちらが国民にとって実質的な利益となるだろうか。
日本の政治の国際的信用性は日本の政治の身の丈から出ている評価であって、背伸びしたり取り繕ったりしても隠せる信用性ではあるまい。
前原国交相にしても、鳩山前首相を擁護して、「総理がコロコロ代るってことは、私は、如何なものかと思う」と言っていた。だが、国民は辞任を歓迎して、菅内閣の発足に高い支持率を与えて歓迎した。
上記朝日新聞世論調査の消費税に関わる調査を見てみる。
消費税の引き上げに、「賛成 35」、「反対 54」でありながら、消費税引き上げの議論は 「進めた方がよい 63」、「進めない方がよい 29」と、これもねじれ現象を見せている。
これは以前ブログで書いたが、日本の財政状況、巨額借金体質から考えた場合、頭では消費税引き上げの議論は進めなければならないと理解していても、現実問題として、自己の生活への影響を考えた場合、上がるのは困るといった心境からの消費税引き上げの議論は 「進めた方がよい 63」に対して消費税の引き上げに「反対 54」ということではないだろうか。
このことによる評価であるなら、消費税引き上げ「賛成 35」は、引き上げたとしても困らない生活者となる。
最近気づいたことだが、消費税引き上げといったことに対する国民の意識を問う世論調査の場合、生活に直接影響することだから、年収区分まで問うべきではないだろうか。
年収200万以下の生活者が消費費税増税に賛成としていたなら、なかなかの勇気ある人間が、丸きりのウソつきかどちらかに違いない。
私自身は消費税の議論を進めることに賛成であり、消費税が引き上げも現在の苦しい生活をなお苦しくすることになると分かっていても、いつかは来る道と覚悟をして反対はしてはいない。
私が重視したのは、消費税発言を党内論議を経ない準備不足のまま公表した菅首相の合理的判断能力の欠如であり、増税率を自民党の10%を参考にする政権党の責任者にはあるまじき主導性の欠如であり、消費税発言で支持率を下げると、それをマスコミに責任転嫁した無責任性であり、参院選大敗の結果を受けると、その原因を、「もっと慎重にしっかりとした議論を進めるようにと。つまりは丁寧な扱い、国民のみなさんが求められた」と後付で気づく判断能力の欠如であり、それらの欠如と深く関連し合っている指導力への失望感であった。
物事を満足に判断できない人間に満足な指導力など備わるはずはない。そういった指導力なき首相を国際的信用を失うからと首相の地位に居座り続けさせる。
もう一つ別の菅首相擁護論がある。米倉弘昌日本経団連会長や民主党の蓮舫、荒井聡等に代表される発言である。《「みんなの党は『浮動票』」米倉弘昌日本経団連会長のやり取り全文》
Q 菅首相は消費税の説明不足を敗因に挙げているが
A 若干そういう印象はあるが、私は説明不足が要因だとは思っていない。菅内閣は発足後1カ月足らず。国民はその前の内閣のあり方をご覧になっていたのではないか。
菅首相側近の荒井聡国家戦略担当相「消費税よりこの10カ月の政権運営への評価」(MSN産経)
蓮舫「政治とカネ、普天間問題などが前提にあった」(同MSN産経)
すべて菅首相擁護となる発言である。菅首相冤罪論でもある。
6月24日公示2日後の6月26、27の両日実施朝日新聞社全国世論調査(電話)によると、
消費税引き上げに反対 44%
消費税引き上げに賛成 46%
選挙の争点は
全体で、
消費税を最大の争点とする 19%
消費税以外にも大きな争点はある 71%
消費税引き上げに反対44%のうち
消費税を最大の争点とする 25%
消費税以外にも大きな争点はある 61%
消費税引き上げに賛成46%のうち
消費税を最大の争点とする 15%
消費税以外にも大きな争点はある 81%――
選挙後の上記世論調査では、
◆今回の選挙で投票先を決めるとき、菅首相の消費税をめぐる発言や対応を重視しましたか。重視しませんでしたか。
重視した 32
重視しない 57――
この差が縮まっている事実。さらに6月8日の菅内閣内過去発足後世論調査で鳩山政権支持率が20%を切る危険水域から60%前後から多いところは65%前後まで支持率をV字回復した事実、だが、6月17日のマニフェスト発表記者会見消費税発言後の世論調査で支持率を5ポイントから10ポイント前後まで下げた事実、そして菅首相が不利な状況を消し去ろうと消費税の税還付や軽減税率を設ける発言、税関還付の場合の対象年収区分まで発言しながら、それが街頭演説場所で異なる数字を上げたこともあるだろうが、じりじりと支持率を下げていった事実、最後に今回調査の菅内閣自体の支持率が「支持する 37」、「支持しない 46」となっていて、菅首相自身が支持されていない事実等を考えると、「国民はその前の内閣のあり方をご覧になっていた」という菅首相擁護は擁護となっていないように見える。
少なくとも菅内閣発足当時は「その前の内閣のあり方」と菅内閣自体を別個に扱っていたゆえの支持率V字回復だったはずだからだ。
但し、消費税発言に対する菅首相個人への国民の不信が国民の記憶に植えつけられていたマニフェスト変更や「政治とカネ」の問題、普天間基地移設問題の迷走等の「その前の内閣のあり方」への不信を呼び覚ます発火装置となった可能性は否定できない。
だとしても、不信の出発点、あるいは不信を膨らませていった主役は消費税発言であることに変わりはない。菅擁護の、あるいは菅冤罪論の発言はすべて擁護のための擁護、冤罪だとするための冤罪論に過ぎないご都合主義な発言に思える。
13日午前の参院選後初閣議での前原国交相の発言も菅擁護論となっている。
前原国交相「消費税の発言だけに敗因を求めていたら、本当の選挙の総括はできない」
しかし一旦は支持率をV字回復させたのだから、「国民はその前の内閣のあり方」や、「この10カ月の政権運営」、あるいは「政治とカネ、普天間問題など」に敗因を求めるべきではないはずだ。消費税発言後、支持率を下げていった経緯の中に求めるべきだろう。菅首相の合理的判断能力の欠如、このことと関連した指導力の欠如が総括の結果として自然と浮かんでくるはずだ。
要するに前原発言も「その前の内閣のあり方」に敗因を求めようとする意図を潜ませたご都合主義な発言に過ぎない。
「マニフェストと言うのは生きものであり、常に手入れが必要なものだというふうに認識をしております。従って、環境や状況の変化に柔軟に対応することが重要だということで、改めるべきは改めると言う観点から書かれているということです」と、マニフェストを「環境や状況の変化」に対応した変幻自在の変数とすることでマニフェストを国民との契約から政策ガイドラインに貶めたご都合主義者玄葉公務員制度改革担当相(民主党政調会長)が参院選大敗、過半数割れを受けるや、再度そのご都合主義を発揮している。
《消費増税案、来年度に先送り=公務員改革、みんなの党と連携模索-玄葉氏》(時事ドットコム/2010/07/13-13:06)
6月13日午前の閣議後の記者会見。消費税を含む税制抜本改革の具体案取りまとめ時期について――
玄葉「(来年)3月というのはなかなか大変ではないか」
これは菅首相が6月17日のマニフェスト発表記者会見で、「既に消費税について、政府税調の方で、議論を始めていただいておりますけれども、今年度内、2010年度内に、そのあるべき税収や、あるいは逆進性対策を含むこの消費費税に関する改革案を取りまとめていきたい、今年度中のとりまとめを目指していきたいと考えております」と公約したことを破棄し、先送りする意図を持たせた発言である。
記事は、〈菅直人首相は当初、「10年度内」に具体案を取りまとめる考えを示していたが、枝野幸男幹事長が12日の記者会見で、期限にこだわらない考えを表明。玄葉氏もこれに同調した形だ。〉と書いているが、要するに参院選大敗を受けた状況下で消費税でこれ以上支持率を下げた場合、菅内閣が持たなくなる恐れから、ご都合主義にもいとも簡単に方針転換を図ったということなのだろう。
“ギリシャの威し”を振りまわし、財政再建は待ったなしだと言っていたあの切迫感は何だったのかということになる。
もう一つご都合主義がある。玄葉の公務員制度改革についての発言。
玄葉「みんなの党と考え方、方向性は一致している。歩み寄れる余地はあるのではないか。・・・・どこまで歩み寄れるのかを含めて、党の方で検討してもらうのも一つの方法」――
党内に公務員制度改革に関するプロジェクトチームを設ける考えを示したという。
参議院ねじれ議席で政権運営が危なくなった。どこかの党と例え個別政策連合であっても、連携しなければならない。選挙中に民主党敗北の予想を受けて、枝野幹事長がみんなの党に秋波を送ってもいた。
だが、みんなの党とは公務員制度改革では「考え方、方向性は一致している」としても、消費税増税に関しては「考え方、方向性は一致してい」ない。正反対の絶対反対の立場を取っている。
だとしても、参議院のねじれを乗り切るためには、みんなの党の協力が欲しい。求愛する方が立場を弱くするから、ネックとなっている消費税に対するそれぞれの態度の内、自らの態度を引っ込めなければ、求愛は成り立たない。そこで菅首相が「今年度内、2010年度内に、そのあるべき税収や、あるいは逆進性対策を含むこの消費費税に関する改革案を取りまとめていきたい」としていた公約をあっさりと捨てるご都合主義を演じたというわけなのだろう。
こう見てくると、民主党の閣僚にはご都合主義な面々が我先に座を占めているとしか見えない。
これからも困難な局面でご都合主義を演じていくだろうが、一度でも政策ごとの部分連合を組めば、相手がみんなの党ではなくても、菅内閣の立場を弱め、当然、指導力を弱めることとなって、支持率を下げていくことになるかもしれない。