麻生太郎には分からない天下り・渡りの真の弊害

2009-01-11 13:19:38 | Weblog

 1月10日の『朝日』朝刊記事≪政策ウオッチ/天下り承認 法を覆す首相の「暫定権限」≫は次のように解説している。

 07年の通常国会で成立させた「改正国家公務員法」はこれまで官庁が行っていた天下り斡旋を官民人材交流センターに一元化するとの規定を盛り込んだが、センターが機能する3年間の移行期間中は内閣府に併せて設置する再就職等監視委員会が承認するとした。

 だが、民主党が参議院で国会同意人事に反対、委員不在で再就職等監視委員会は宙に浮き、麻生内閣は昨年末、暫定措置として再就職等監視委員会に代わって省庁による天下り及び渡りの斡旋を首相の権限で承認しできるとした政令を閣議決定。

 以下は≪「天下り」政令、焦点に=野党は撤廃要求、首相防戦≫時事通信社/2009/01/09-19:29)によると、この政令「改正国家公務員法」が2011年までに再就職斡旋(=天下り)を官民人材交流センターに一元化し、渡り斡旋は全面禁止することを定めていることに反して、経過措置として「必要不可欠と認められる場合」は渡り斡旋も行えるとしていることと、そうした決定に対して法律を国会を通さない閣議決定のみの政令で変えることは許されるのか、民主党の仙谷元政調会長が国会で追及、仙谷議員は「こんなことは霞が関のクーデターだ」と断じたと伝えている。

 麻生首相は「必要不可欠と認められる」例外規定を次のように挙げている≪首相「渡り」の可能性低いとの認識示す≫日刊スポーツ/2009年1月9日22時12分)。

 (1)国際機関の勤務経験が極めて豊富
 (2)外国当局との交渉への十分な経験

 同記事は麻生首相は記者会見で「渡りが出る確率は極めて低い」とした上で、例外的に認める場合でも「渡りが何回も行われることは考えていない」と述べたと伝えている。

 例外規定とした理由としては、「国が大事に育てた人材で経験は極めて高く評価される。『ぜひ』という声が出た場合、それを拒否するのはいかがなものか」


 天下りや渡りの弊害は税金が再就職先の公益法人等で二、三年勤めるだけで支払われる高額の給与や高額の退職金といった不当利益に消えるムダな点、不公平な点にあるだけではなく、真の弊害は例え民間企業に天下ったとしても、元官僚が天下り先・渡り先で出身組織や出身組織あっての自身の最終地位、さらに結びつきのある族議員を権威として、それらの諸々の権威をバックに自らを上に置き、再就職先の人間を下に置く権威主義的な上下関係を延々と循環生産することにあると私は思っている。

 日本人はただでさえ地位や学歴の上下・優劣で人間を価値づける権威主義を行動様式としている。政治家、官僚、官僚組織そのものが紹介すると、紹介を受けて再就職した者は権威主義の行動力学を発動して政治家・官僚、その組織の権威をそれぞれにバックとして上に立つ姿勢を示したり、紹介した側の政治家・官僚にしても同じく権威主義の力学を発揮して貸しをつくったことにして、何らかの見返りを求めたりする。

 社会保険庁に天下った厚労省の元官僚が高額給与・高額退職金に見合う仕事をせずに保険庁長官でございますと構えていられたのは厚労省の権威と自らの最終地位をバックとした権威主義的態度が許されていたからだろう。

 また06年当時のかつて防衛施設庁がゼネコンが引き受けた天下り元官僚の役職と高い給与に比例させて発注額を割振る「配分表」を作成して天下りへの給与がより高い企業により工事額の高い公共事業を請負わせていた企業と官庁との持ちつ持たれつの官製談合は権威主義的な上下関係の力学が機能していたからこそ可能としていた便宜供与と便宜供与に対する見返りの構図であろう。

 分かりやすく言うと、テレビドラマの『遠山の金さん』や『暴れん坊将軍』の老中とか勘定奉行と豪商との間に見ることができる不正利益を以ってして行う便宜供与対見返りの構図であり、それを可能としているのは同じく両者間に権威主義的関係が存在していたからだろう。

 企業側から言うと、天下りを引き受けることによって、それ相応の見返り利益、苦労せずに甘い汁を吸えることになるが、紹介を受けて再就職させた者に政治家・官僚の権威をバックにされたり、紹介した政治家・官僚と貸し借りの関係をつくることとなったり、相手の権威が上だからという理由だけで天下ってきた元官僚を上に置いて自分たちを下に置き、ペコペコ頭を下げたり、あるいは言いたいことも言えずに口を噤む絵柄は自身を精神的に自由の利かない状態に落とすこととなって、あるべき人間同士の関係からしたら何と言っても情けない姿としか言いようがない。

 この一点に於いて、いわば人間関係という根本のところで、日本は戦後60年も経過していながら、依然として民主主義国家とはなり得ていない。

 日本社会が諸々の権威をバックとした上が下を従わせ、下は上に従う権威主義的上下関係・優劣関係を人間関係としているからこそ、天下り元官僚の不当な高額の給与・高額な退職金、何様顔の上に立った態度を好きに許すこととなっている。内心では不公平・不平等だと思っていても、誰も口に出して異議申し立てができず、上が決め、上が勝手に受取る高額給与・高額退職金を現状維持させてしまう。例え殆ど仕事をせず、腰掛に過ぎなくても。

 権威主義的人間関係から離れて自分を上に置くでもなく、他を下に立たせることもない対等な関係を持つことによってお互いに自律(自立)した存在に向かうこととなって、そこに自由な意見の交換、忌憚のない議論の闘わせ、言葉の遣り取りが可能となり、不当は不当という意見、不平等は不平等ではないかという主張が生まれ、諸々の権威をバックとした天下り・渡りは肩身を狭くしていき、最終的には存在し得なくなる。

 麻生首相は渡り斡旋の例外規定として(1)国際機関の勤務経験が極めて豊富な人材であること、(2)外国当局との交渉の十分な経験のある人材であることとし、「国が大事に育てた人材で経験は極めて高く評価される。『ぜひ』という声が出た場合、それを拒否するのはいかがなものか」と人材の有効活用であるかのように言っているが、省庁を退職することになる者がもし自分を「国際機関の勤務経験が極めて豊富」であり、「外国当局との交渉」能力も「十分な経験」があると自負するなら、所属した組織や地位で得た元官僚としての権威も紹介政治家の権威も必要ではなく、自分の才能だけで勝負ができるはずである。そうしてこそ、ウソ偽りのない経歴となる。権威や縁故に頼った経歴は紛い物でしかない。

 企業側にしても自分たちを下に置くことになる代償を支払うことで見返りを得るといった情けない関係を求めずに、インターネット等で日本人、外国人を問わず、誰にも頼らない自身の力だけで広く人材を求めるべきだろう。そうすることによって自身を常に貸し借りのない精神的に自由な立場に置き、誰とでも上下関係とは離れた対等な関係が維持できる。

 再就職者にしても縁故に頼らず、権威を恃まず、見返り利益で自身の報酬や地位を維持するといったケチ臭いことなど考えずに、自身の能力発揮場所は履歴書を送ったり、自身で直接出かけて自分を売り込むといった方法で自身で開拓すべきであろう。

 仕事に臨むのに学歴や経歴、地位といった権威を力とするから、裏返して言うと、自身の裸の能力を唯一の力としないから、日本のホワイトカラー、公務員の生産性が国際的に低い数値を取ることになっているのではないのか。

 学歴や経歴、地位といった権威を離れて裸の能力を唯一の力とする存在形式を取らなければ日本人はいつまでも自律(自立)した存在足り得ない。学歴を権威としてバックとする、経歴を権威として背後の力とする、出身組織を権威付けて虎の威とする、そういった権威頼みの存在形式が真の力、能力に結びつくはずはない。

 日本は中央集権制の国家だと言われるが、権威主義を行動様式としていることから生じている中央を最上位に置き、その他を下位に置いた政治権力の一元的統一性であろう。国会議員や中央官僚を上に置き、地方官僚や地方政治家、あるいは民間を下の置いた上下関係、あるいは上を優位、下を劣位とした優劣関係がその一元性を許している。

 当然のこととして中央集権制から抜け出るには権威主義的な上下関係・優劣関係を離れて対等な関係を築くことによって達成可能となる。例え地方分権だと言って国の権限の多くを地方に移しても、中央に代わって都道府県が最上位の地位を占め、市町村を下に置く権威主義的上下関係が維持されたなら、都道府県を単位とした中央集権的一元性はそのまま残る。

 いわば地方分権が中央集権制の国から地方への移譲で終わることになる。

 日本人の行動様式・思考様式から一切の権威主義性を排除するには権威主義的地位を最も上に置き、それゆえに権威主義性を最も強く表現している国、あるいは官のその上下関係性の修正から取り掛かるべきである。天下りを完全に廃止することが取っ掛かりの象徴行為となる。
 ≪政策ウオッチ/天下り承認 法を覆す首相の「暫定権限」≫ (『朝日』朝刊/09.1.10)

 麻生首相は積極的に公務員の天下りを進めようとしているのではないか。こう疑われても仕方ないような事態だ。

 麻生内閣が先月決めた政令では、省庁による天下りの斡旋を首相の権限で承認し、天下りを繰返す「渡り」までその対象としている。8、9両日の衆院予算委員会で民主党が追及した。

 07年の通常国会で大激論の末、官庁の天下り斡旋を官民人材交流センターに一元化する改正国家公務員法が成立した。規定ではセンターが機能するまで3年間は再就職等監視委員会が承認するはずだったが、

 首相承認は暫定措置と言うが、法は承認権限を「委員会に委任する」と明記。首相に権限はないはずで、野党だけでなく与党内でも渡辺喜美元行革担当相や中川秀直元幹事長が批判している。

 立法府が決めた法を行政府が政令で覆す――。首相の姿勢は、再就職先の公益法人に無駄な税金を使うような天下りの弊害に目をつぶっている、と言わざるを得ない。 
 ≪「天下り」政令、焦点に=野党は撤廃要求、首相防戦≫時事通信/2009/01/09-19:29)

 国家公務員OBが公益法人などへの再就職を繰り返す「渡り」への政府の対応が、国会論戦の新たな焦点に浮上した。麻生太郎首相は「原則認めない」とするものの、政府が昨年12月に閣議決定した政令に例外規定が盛り込まれており、民主党など野党側は「官僚寄りだ」と姿勢を厳しく追及する。首相は、定額給付金に加え、天下りの問題でも、防戦を強いられる展開だ。

 「(改正国家公務員法の)立法の趣旨に反している」。9日の衆院予算委員会で、民主党の枝野幸男元政調会長は政令を厳しく批判した。

 改正国家公務員法は2011年までに、再就職あっせんを官民人材交流センターに一元化し、渡りあっせんも全面禁止することを定めているが、政令は経過措置として、「必要不可欠と認められる場合」に行えるとした。民主党は「必要不可欠」に当たるケースが今後続出すると見ており、仙谷由人元政調会長は「霞が関のクーデターだ」と断じた。

 民主党の追及を避ける狙いから、官邸サイドは当初、首相が渡りの全面禁止を明言することを検討したものの、最終的には「閣議決定した政令と矛盾する答弁はできない」(政府筋)と判断。9日の衆院予算委で枝野氏から、政令の撤廃を求められた首相は「(渡りに)厳格に対応する」と答弁するのが精いっぱいだった。

 もっとも、首相は公務員改革に後ろ向きとのイメージが有権者に広まれば、今秋までには行われる衆院選を控え、与党に一層の逆風となりかねない。このため、政府内では「政令を撤廃しないと持ちこたえられないかもしれない」(高官)との声が漏れるなど動揺が出始めている。(了)

コメント (2)
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