空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想 41 【歌姫】

2019-03-16 10:21:29 | 文化

 

 アンドロメダ銀河鉄道のブラック中央駅の入口の横には巨木が生えており、駅の構内は、色々な民族が集まっていた。その賑やかなこと。

弁当売りの背の高いキリン族の男が大きな声をはりあげている。

「弁当! 弁当こんなうまい弁当はどこの銀河にもないよ。銀河弁当だよ」

あの工場長に似たタヌキ族は茶色のカーディガンのような服を着た人が多いと吾輩は思った。

キツネ族は緑と白のまだらのワンピースに似た服が多い。

夢見る詩人と自分で言っていたリス族の若者に似たヒト達は赤系が好きなようだ。

そして、黄色地に黒い模様柄のチャイナ服に似た服を着た大柄な虎族。

インドのサリーのような布を頭からかぶるようにしているライオン族の衣装。熊族。猫族とそれぞれが民族衣装を着ている人が多いが、普通のラフな仕事着のように見える服を着ている人もいる。

それに、これだけの民族が集まると、顔つきもみな強い個性を持った感じがする。

これほどの民族が一挙に集まる場所は滅多にないことなので、吾輩は様々の民族衣装や様々な風貌をした顔立ちにも目移りがしてしょうがなかった。

花を売り歩く髪の長いリス族の娘が優しく元気な声をはりあげる。

「お花はいりませんか。いのちの宝石のような花ですよ。夢見るように美しいお花をいりませんか」

ブラック惑星の名物の宝石を、金持ちらしく見える銀河鉄道の客を狙って、売り歩くライオン族の目のあどけないがっちりした青年。

駅のプラットホームの中央には、奇妙な形の枝の松が飾ってあった。

 

 そこで舞姫が歌を歌っていた。舞姫は猫族だっただけに、吾輩の胸は久しぶりに高鳴った。薄い緑色の衣装で、肌が透けて見える。黄色い顔は優雅で、丸い目は情熱的だった。声はソプラノで澄んだような響きがあり、喜びと悲しみがミックスしたような魂の高揚が雑踏の駅の中に響いていた。

 

銀河の流れに乗っかり

旅する人達よ、

 

美しい星と宝石を身につけ、豊かな髪をなびかせて

喜びと悲しみの表情を浮かべて

どの惑星を旅するというのですか。

 

銀河の岸辺には柳や桜だけでなく、

色々な花が咲いていますよ。

 

 小さな花にも目をとめて、その花の中に無限のいのちが息づいていることを、そしてその花のいのちがあなたにあいさつを送りたがっていることを

 知って下さいね。

 そうなんです。岸辺の花たちは皆、孤独に耐えながら、

あなたの笑顔を待っているのです。

あなたの優しい眼差しを待っているのです。

 

 永遠のような銀河の旅は

喜びも悲しみもあるでしょう。

岸辺の向こうには色々な街角が見えますよ。

 

大きなお盆の上にのったような巨大な石壁の街の中から

いくつもの灯があなた方に挨拶をしていますよ。

もしかすると、ギターにあわせて静かな

甘い歌が歌われて、あなたの到来をうながしていますね

 

あなたの魂には、無限の優しい愛の光が眠っている。

その光が目覚めた時、岸辺の花も石も喜びに震えましょう。

街角では歓喜のアドバルーンがあげられることでしょう。

 

 我々は舞姫の歌に聞きほれながら、列車の中に入った。

 

我々は銀河鉄道に乗って、おもいがけない人物を見ることになった。

マゼラン金属の取締役で虎族のフキという女だ。

その席にネズミ族の大柄の男と、キツネ族の官僚ぽい男とブラック惑星のタヌキ族の軍服を着た男が座っていた。

何かこの四人が一つの組み合わせのように、談笑しているのを不思議に思いながらも、我々はそこを少し離れた席に、座った。

不思議な邂逅だと吾輩は思った。

ハルリラが言う。「時々、ホトン語が聞こえる。彼らの会話だ。死語なのに、使うとは変だな」

ホトン語とはラテン語に似たアンドロメダ銀河の死語だと宇宙インターネットには書かれている。

「変だね。アンドロメダ銀河鉄道の共通語はサンスクリット語だ。それを使わないで、ホトン語を使うとは」とハルリラは言った。

吾輩はサンスクリット語もホトン語も全く分からないで、ハルリラの言うことにあまり注意を払わなかった。

  

しばらくすると、その我らの横に、僧の服を着た少し背の高めのほっそりしたライオン族の好男子が座っていた。彼は頭を坊主にしていたので、ライオン族特有のたてがみのような貫禄のある髪の毛と髭をそりあげてあるので、一見すると、ライオン族とは分からない。

ただ、目が大きく、鼻も口も大きい。ライオン族としては大柄というわけではなく、がっちりした逞しさが身体全体にみなぎっている。さらに彼にはどこか睡蓮の花を思わすような優しい品格が備わっていた。

ハルリラは何か魔法界の小さな器械を取り出して、いじっていたが、「あの人は

ミチストラモトだ。魔法界にまで名前は響いている有名人だ。『尽十方世界是一箇明珠』を考察した本を出している。座禅をするアンドロメダの修行僧だ」

 

 彼は熱心に本を読んでいた。

  

出発した翌朝、ひと騒ぎが起こった。

車掌の知らせで「殺人事件」が起きたというのである。

車掌は興奮していた。この銀河鉄道でこんなことが起きたのは初めてのことで、列車には警察官も医者もそういう部類の人は誰もいないというのであつた。

 死んだのはシンアストランの弟だった。これには驚いた。

 ミチストラモトという僧が立ち上がった。

「どれ、わしが見てくるか」

しかし、犯人はこの列車にいても、犯人が名乗り出ない限り、逮捕は無理。

車掌は混乱していた。

その時、ミチストラモトが車掌に言った。「私がお手伝いしましょう。私は、昔、若い頃、警備会社に勤めていたことがあるので、何かのお役に立てるかもしれない」

ミチストラモトは少年のようにういういしい声で、目は宗教の長い修業によってつちかわれた天使のような洞察力に輝いていた。

 

 しばらくすると、ミチストラモトはマゼラン金属の取締役で虎族のフキの横に車掌から借りたのか、折り畳みの椅子を広げて座って、

「何の商談なのですか」と質問していた。

「あなたには関係ないことですよ」とフキの隣のたぬき族の軍人が答えた。

「アンドロメダ銀河の惑星に住んでいる者ならば、無関係とはいきません。

ネズミ国は武器の極度に発達した国。

先程、死んだシンアストランの弟さんはわしも知っている。なにしろ、シンアストランはわしの若い頃の修行仲間。

中年になって、修行の中身は変わったが、シンアストランとは一年に一度は会う。その弟さんが車の会社に勤めていたのは知っていたが、

こんな形で死ぬとは解せぬ。」

「あなたは何の権限で、わし等を詰問するのか」

何時の間に、後ろに立っている車掌が「警察や検察の方がおりませんので、銀河鉄道法によって、車掌の裁量によって、この方に捜査を依頼したのです」

「なるほど」とタヌキ族の軍人が言った。

 

ハルリラが立ち上がって、言った。

「この人達は武器の商談をしていたのですよ」

「何だ。この男」

「駄目ですよ。ホトン語が分からないと思って、銀河鉄道の中で武器輸出の商談なんかしていては。ぼくはホトン語が少し分かるのです」

 「しかし、わしらはあの男の死とは何の関係もない」

 「でも、あなたの内、三人は寝台車で寝ないで、ずっと、ここで居眠りしていた。シンアストランの弟も向こうの車両で寝ていた。

多くの人は寝台車で寝るのに、わずかの人がこちらの席で寝ていた、詰問されるのは仕方ないことでしょう」

 「何だ。この男」

 「ぼくは夜、トイレに起きたので、寝台車からトイレに行くまで、この二つの車両を見て回ったので、

あの時刻に誰が車両にいたか、覚えているのです。

 あの惨劇はぼくが寝室に戻ってからおきましたから」

 

吟遊詩人はハルリラの後ろに立って言った。

「それに、シンアストランの弟はブラック惑星で会ってきたばかりで、無関心にはなれないのです。彼が車のセールスと一緒にスピノザ協会と組む

アンドロメダ組合に熱心だったことを私は知っているのです。アンドロメダ組合は素晴らしいカント九条をわれらの銀河に普及させようと啓蒙活動をしています。我らの銀河に軍備の放棄と永遠の平和を約束するためにも、優れたカント九条が必要だったのです。

 

 それだけに、彼は故郷のネズミ国の武器輸出に深い悲しみをおぼえ、なんとかしなくてはと思い、強い関心を持っていたのです。あなた方にとっては、厄介な奴が乗っていたと思ったに違いないのです」

 「アンドロメダ金属の取締役で虎族のフキさんはあの時間つまり、夜中の二時ですね。寝室におられた。

しかし、キツネ族とネズミ族の男性二人、それにタヌキ族の軍人はここでしょ。」とミチストラモトが言った。

 「彼はどこで死んでいたの」とフキが聞いた。

「トイレの前の洗面所ですよ」

「トイレなら、そこの男の人のように、皆、夜中だって行く人がいるのだから、私達にだけそんな風に尋問するのはおかしいのでは」

「その通りです。しかし、あなた方の商談とシンアストランの弟さんの動きは相反している。つまり、衝突する。つまり、あなた方にとっては邪魔な存在」

 

その時だ。アンドロメダ銀河鉄道の窓の外に、オオカミのような動物の形をした白い巨大な雲が広がったかと思うと、真ん中のあたりが霧の晴れ渡るように穴があき、銀色ににぶく光る列車が宙に浮かんでいるのが見えた。

 「ネズミ族に滅ぼされたオオカミ族の幽霊検察列車が停まった」とタヌキ族の軍人が言った。

「そんなものある筈がない」とフキが強い調子で言った。

しかし、ネズミ族の官僚は真っ蒼になって、震えた声でつぶやいた。

「確かに。幽霊電車だ。ネズミ族に滅ぼされたことを恨みに思って、怨霊となって、ネズミ国のやることを邪魔しにやってきたのだろう。魔界メフィストがとりついているということがある。とすると、厄介だ。そもそも怨霊というのは、魔界メフィストの力がよく作用する。魔界の悪法によって、ヒトを裁こうとする。もしもメフィストの力がなければ、彼らは幻のように来るだけで、脅かすだけで何もできはしない」

 

虎族のフキはせせら笑っている。

「科学が発達しているだの、文明が極度に発達しているだのと言っているけど、

しょせん、ネズミ族ね。わたしら、虎族はそんな幻影みたいなものはびくつきもしないわ。

まあ、ともかく、私の話に乗った方が、ネズミ族の惑星にとってもいいことよ。」

ところが、幽霊列車の方から奇妙な霧のような白い煙が我らの銀河鉄道に向かってきて、窓から見る視界がひどく悪くなって、幽霊電車だけがその白い霧の中で鮮やかな黒い色彩でしばらく輝いていた。が急に幽霊電車は素晴らしい緑の邸宅のような形に変身して、天からは音なき雷の黄色い糸のようなものが降りてきて、拳銃を持ったオオカミ族の幽霊がその糸をたどっておりてきて、

緑の館に入り込んだ。それから、椅子を庭に持ち出し、そこで、彼らはこちらを眺め、珈琲を飲んでいるようだった。十名ほどいただろうか。その中に、知路がいる。緑色の目をした美しい服に身を包んで、すらりとした娘はオオカミ族の怨霊の中で、宝石のようにつくられた彫像のようだった。

 

 

フキは「ただの煙幕よ。放っておけば、消えるわよ」

ネズミ国の官僚は相変わらず、真っ蒼になっている。

 

                      【つづく】

 

 

 

  (ご紹介)

久里山不識のペンネームでアマゾンより短編小説 「森の青いカラス」を電子出版。 Google の検索でも出ると思います。

長編小説  「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版(Kindle本)、Microsoft edge の検索で「霊魂のような星の街角」は表示され、久里山不識で「迷宮の光」が表示されると思います。

水岡無仏性のペンネームで、ブックビヨンド【電子書籍ストア学研Book Beyond】から、「太極の街角」という短編小説が電子出版されています。ウエブ検索でも、書名を入れれば出ると思います。



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