空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想  42【脱原発】

2019-03-21 10:39:29 | 文化

 

   いつの間に銀河の野原の、緑の邸宅の周囲を巨木の菩提樹が二本おおいかぶさるようにはえている。

「見てごらん、あのコーヒーを飲むオオカミ族のヒトの幽霊を」とハルリラが言った。

吾輩はじっと見た。オオカミ族の亡霊の涙が珈琲の茶碗に落ちるその一滴に過去の栄光の影が映ったような気がした。が、吾輩はそれ以上に知路の緑の目に引き付けられた。それはまるで月の光のようではないか。その光が我らの吟遊詩人の方に向けられているような気がしたのは吾輩の思い過ごしか。

ぼうっと幻影のような色々な肌色をした顔立ちのオオカミ族の紳士。服は黒っぽいが透き通ったようなものを皆、着ていた。よく見ると、右手にコーヒー茶碗を持ち、左手に拳銃のようなものを持ち、お互い、相手に向けている。

「あれではオオカミ族が滅びたのも当然でしょう。それにしても、知路は何故あんな所にいるのだろう」とハルリラは言った。

 

 ハルリラの知るところによると、アンドロメダ銀河全体の沢山の惑星では相当のばらつきはあるが、日本の明治初期程度の文明にやっとたどりついた所がいくつかある。もちろん、まだ原始時代など文明の段階に達していない所も多いのだが、中世や戦国時代に突入した惑星もちらほらあるらしく、中にはネズミ国のように高度の文明を持つところもいくつかあるという。

オオカミ族の惑星は文明段階に入って、かなりの科学技術も発達させていたが、ネズミ国の噂を聞くににつれ、自分の惑星の文明を一挙に高度化するためには、かねてから高度の文明を持つネズミ族の惑星から密かに、色々の文明の利器の情報を盗もうと画策していたという。

「科学技術を中心にした文明も大切だが、精神の豊かさをしめす文化の発達も大切」と吟遊詩人はハルリラの目を見ながら言った。ハルリラがうなづくと、詩人は微笑してさらに続けた「それに、この文明と文化がバランスよく発達することが、ヒト族の健全な進化にとつて必要だと思う。しかし、とかく、文明が発達して、物質が豊かになると心は貧弱になり、あくなき欲望のために、より物をほしがる、そうすると危険なのは争いが起こるということである。

そして、オオカミ族はネズミ国の情報を盗み取ろうとしたがゆえに戦争となり、崩壊したということだよね」と吟遊詩人は言った。

「その通りだと思います」とハルリラは答えた。

「このオオカミ族の滅びの道へ哀惜の情を以前、詩にしたことがある」と言って、吟遊詩人は歌う。

 

 なにゆえに こころは 乱れ迷い 亡霊となる

銀河 霧深き天空の波さわぐ所

名も知れぬ巨木の幹の黒き肌に

いくつもの緑の葉が糸のように天に伸びている

 

しなやかな枝の伸びゆく空間のあたりにすみれ色の音がして

銀河の天空もオオカミ族の亡霊に満ち、狂えり

折しも かなたの星々の野原の上は

珈琲のにおう不思議なオオカミ族の墓の跡

 

 

  名も知れぬ巨木の年輪の刻まれた太い幹に

りこうそうなリス一匹悲しき笛を持って立つ

珈琲から立ちのぼる白き蒸気はゆらゆらと幻となりて

そこに昔の雄々しき君ありし

 

オオカミ族の在りし日の君はそこにいる

ああ、栄光の日は過ぎ去り

幻影の亡霊となりて

あでやかに浮かびたつ昔の悪の道

何ゆえに わが心 かくも乱れ 君を悲しむ

 

 

「滅ぼされた者達の怨霊だけが残ったのだ。」とハルリラが言った。

地球の日本でも、オオカミは絶滅したことを何故か、吾輩は思い出した。

なにはともあれ、アンドロメダ銀河で、進化してヒトとなったオオカミ族という民族が滅びたのだ。

それを吟遊詩人が悲しんでいるのだろうと、吾輩は思った。

 

「ネズミ族は長い間、鎖国を国是としていたので、オオカミ族のそういう行動をキャッチして用心をしていたが、核兵器と原発の情報をオオカミ族に盗まれた。しかし、オオカミ族は科学の発達が未熟だったので、その情報をこなすのに、時間がかかる。

それでも、オオカミ族が着々と、武力の点で、いずれネズミ族と対等になろうという野心を持ったことに、ネズミ族は烈火のごとく怒ったようだ。」とハルリラは言った。

 

  「ただ、オオカミ族のうちわ争いも深刻だった。ネズミ国から得た情報だけが一人歩きし、脱原発と反核を唱えるオオカミ族のヒト達は、推進しょうとする多数派から魔女のように扱われたのだ。脱原発・反核の側もある程度の人数がいたし、この両者の争いはオオカミ族の毛の色、大別すると白と黒とブルーと茶の四色なのだが、他にも戦略の微妙な争いということがあり、お互いにレッテル貼りが進み、その争いが絡み合い、時に嵐のように吹き荒れることがあった。

中には、脱原発の本を書いただけで、処刑されたヒトもいた」と吟遊詩人が悲しそうな表情で言った。

 

ハルリラは微笑して、「それで、ネズミ国はチャンスとばかりに戦争をしかけ、オオカミ族は、圧倒的なネズミ族の戦力に滅ぼされたようだ。気の弱いネズミ族が気の強いオオカミ族を滅ぼしたというのも奇妙ではあるが、アンドロメダ銀河の歴史に残る事実となったのである。」と言った。  

              

「滅ぼされた怨念だけがこの銀河に残り、幽霊検察列車だと言って、アンドロメダ銀河鉄道みたいな優雅な旅をしている列車を邪魔する権力の権化になりはててしまったわけですね」と吾輩は言った。

 

「放っておくと、いつまでも我らの銀河にまつわりついて、いずれはピストルは我らに向けて発射されますよ。弾はここまで届きませんが、音だけは嫌な響きを我らのような優雅な旅を続けている者の邪魔をするというわけです。嫉妬ですね。嫉妬は人間性の中に深くあるのです」とハルリラが言った。

 

吾輩はこの話を聞きながら、地球の京都の哲学の道の近くに住む懐かしい銀行員のことを思い出した。そう言えば、彼が変人と言われたきっかけはどうも、彼が脱原発の小説を1997年頃に自費出版したことに原因があったらしいと、最近思うようになった。出すのが早すぎたというわけだ。

しかし、今や「脱原発は常識である」という声が吾輩の耳に届いたのは不思議だった。

 

 

 猫である吾輩、寅坊を育ててくれた懐かしい銀行員の1997年頃の小説の「脱原発」のいくつかの文章が目に浮かんだ。

 

【そして、急に「ひどい」という声がする。その声の間延びした感じから、彼女が酒に酔っぱらっている感じがした。そしてしばらく沈黙したあと、ギターがなる。

そしてギターと共に、歌を歌う。聞いたことのない哀切なトーンの歌だ。その調子も酔っぱらって歌っている感じだ。

  オラはさ、原発反対したのさ、

あれはさ、放射能という毒になるものをまき散らすからさ、

それなのにさ、飛行機より安全だと信じて、オラが間違っているのだとさ

  驚いたよ 驚いたよ

それでオラは悪人にされてしまったのよ。

ああ、世の中、転がっていくぞ、どこへさ、

オラ 知らんよ。

親鸞様はおっしゃつた、自我は悪であると、ああ、本当さ、本当さ。

そのことが分かれば、人間は清らかになれる

美しくなれる

そうじゃないか

戦争の全てが自我と自我の衝突

平和の時の人の笑顔こそ宝さ。

 

そこまで、彼女が歌うと、急に静かになった。寝てしまったのだろうか。私の部屋の開いた窓から、美しい三日月が見えた。春が近いと思われる涼しく心地よい夜気が月の光と共に入ってきた。】

 

吾輩の耳には「良寛」の和歌も聞こえるのだった。

「かくばかり憂き世と知らば奥山の

草にも木にもならましものを 」

 その時、銀色の竜巻のようなものが巻き起こり、もわっとした巨木のようなものが、現われたと思うと、黒い髭と四角い大きな目をした巨人に変身し、知路を手招きした。「メフィストだ」とハルリラは叫んだ。

知路はメフィストに対して首を振り、横笛をふいた。終わると、吟遊詩人が声を高らかに歌った。

 

                【つづく】 

 

 

 

 

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