空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 4 (高邁な志)

2018-08-15 14:03:14 | 文化

 ブログ村に昨日まで、小説家と散文詩の両方、入っていたが、小説家の方は都合で抜けた。

この二つが一緒になっていることに、不思議な気持ちを持っておられる方もおられたようなので、簡単な説明をしておこうと思う。

過去の小説家の中には名文家がいて、その文は散文詩というに相応しい。

永井荷風の「フランス物語」の文章は散文詩のように流麗である。

外国では、会話を詩で書いた人に、シェイクスピアがいる。

彼の有名な文をいくつか上げておくと、分かりやすいと思うので、いくつか書いておく。

三つの物語の有名な文章を書いてみる。これらは、みな登場人物の会話の中で言われる

言葉なのだ。

 

ヴェニスの商人

【ロレンゾウ】     月の光が、花々の上に、なんとやさしく眠っていることか。

ここに座って、音楽の響きに心を浸そう。

この夜のやわらかな静寂こそ、楽の音の心地いい諧調には またとなくふさわしい。

さ、おすわり、ジェシカ

ごらん。天空をびっしり満たしているあの星々、まるで漆黒の夜空にはめこんだ、

黄金の螺鈿細工さながらに輝いている。

その中で、今、君に見えているいちばん小さな星だって、

天使のように歌を歌っているんだよ、

瞳もあどけないケルビㇺの歌声に、

永遠に声を合わせて。

この地上に住むぼくら人間にだって、不滅の霊魂のうちには、それほどにも清らかな音楽、

美しい調和が、じつは秘かに流れている。

けれども、やがて塵となって朽ち果てる肉体に包まれている限り悲しいかな、

ぼくらの耳には、聞こえないんだ。[安西徹雄氏訳 ]

 

 

 

 

ハムレット

【妃】   小川のふちに柳の木が、白い葉裏を流れにうつして、斜めにひっそり立っている。

オフィーリアはその細枝に、きんぽうげ、いらくさ、ひな菊などを巻きつけ、それに、口さがない

羊飼いたちがいやらしい名で呼んでいる紫蘭を、無垢な娘たちのあいだでは死人の指

と呼びならわしているあの紫蘭をそえて。

そうして、オフィリアはきれいな花輪をつくり、

その花の冠を、しだれた枝にかけようとして、よじのぼった折りも折

意地わるく枝はぽきりと折れ、

花輪もろとも流れのうえに。

すそがひろがり、まるで人魚のように川面をただよいながら、

祈りの歌を口ずさんでいたという

死の迫るのも知らぬげに、水に生い水になずんだ生物さながら。

ああ、それもつかの間、ふくらんだすそはたちまち水を吸い、

美しい歌声をもぎとるように、あの憐れないけにえを

川床の泥のなかにひきずりこんでしまって。それきり、あとには何も。(福田恒存 訳 )

 

 

 

マクベス

 明日、また明日、また明日と、時は

小きざみな足どりで一日一日を歩み、

ついには歴史の最後の一瞬にたどりつく

昨日という日はすべて愚かな人間が塵と化す

死への道を照らしてきた。消えろ、消えろ

つかの間の燈火! 人生は歩きまわる影法師

あわれな役者だ、舞台の上でおおげさにみえをきっても

出場が終われば消えてしまう。白ちのしゃべる

物語だ、わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、

意味はなに一つありはしない

 

 

このマクベスの言葉はニヒリズムの極致。西欧では、キリスト教の神への信仰を失うと、こういう精神状態になる場合があるようだ。

東洋は違う、空海、最澄、法然、親鸞、日蓮、道元、白隠、良寛、白隠と素晴らしい精神文化を持っている。

それを、どうやって、現代に浸透させるかというのも、私の小説のテーマの一つとなっている。

 

 

 

 

3 高邁な志

 

 吾輩と吟遊詩人とハルリラが郵便局とパン屋のある所まで来ると、そこは薔薇の花に囲まれた小さな広場になり、三つの方向に石畳の路地が広がり、路地の周囲は赤や黄色や青や緑の壁と色とりどりの家が並んでいた。

 

さらに、並木道を歩くと、美術館ともホテルともとれるような建物の前に、地下街への入り口があった。その入り口の所に、レストランやカフェがいくつかあるという看板が立っていた。そこに二人の若い女と中年の女が並んで立っていて、どこの店が一番うまいか、どんな風にうまいかなどいう会話をしていた。

それが歌うように会話するのだから、面白い。

中年の女が「ここの蕎麦屋はうまいよ。のどにするすると入る時のうまさは極楽。そばは天下一品だよ」と言う。

その歌うような声に答えるような顔をして、若い女が言った。

「わたしの所のカレーはインドにも負けない」

「そば屋に並ぶのは中華。ラーメンは胃の中に入ったら、胃がウマ―イと言うほど」

「何。何。カレーと並ぶのはすしだな。ここのすしは海を泳ぐまぐろが目に浮かぶほど、新鮮。口の中にとろけるように入るのは最高」

こんな風に二人は歌うように会話して、宣伝しているのだ。

 

  我々は腹が空いていたので、赤い葉の樹木に取りかまれた建物のことも気になったが、ともかくめしだということで、地下街に降りて行った。そして、おしゃれなレストランを選び、中に入り、テーブルの前に腰かけた。

みな、それぞれ、自分の好きな食品を選んだ。吾輩の前に出たのは、柿に似た赤い果物と、ほうれん草に似た野菜のいためものと、魚はさんまのようなもので京都の秋の味覚のさんまを思い出した。ごはんには栗が入っていて、この味はカボチャに似ているような気がしたが、地球では食べたことのないという感触もあった。

吾輩の好きな果物は主食の合間にも少しずつ口に入れた。

味は地球で食べたりんごとも言えない、柿とも言えない、しかし両方に似ているような甘いかりりとするものだった。

ハルリラが注文したのは カレーだが、吾輩のイメージするのとは違って、色は緑色がかっていて、中には小魚が入っているみたいだった。

詩人はスープの中に野菜や魚が料理されているものを食べていた。

 

食べていると、耳の長いウサギ族の女の子が盆を持って、出てきて、それを落としてしまった。コップがいくつも載っていたから、かなりの音がして、ガラスが飛び散った。

一つ、かけらがハルリラの足元にも飛び散った。

その時の音が吾輩の耳に京都の銀行員の主人のよく聞いていたオペラ「セビリアの理髪師」のある場面を思い起こさせ、その舞台よりもオペラ全体の不思議な音色が耳に響いた感じだった。

オペラの中の女の「ああ、何の音でしょう」という声。男の皿八枚に、カップ八枚われてしまったというイタリア語の声を吾輩は思い出した。

そして、何故か、映像に映った指揮者の外観の面影が吾輩の頭にちらりと浮かび、目の前にいる吟遊詩人と似ているような気がしたのだった。

 

白いブラウスと紺のガウチョパンツ姿の女の子はあわてて、目の前のガラスを拾ってから、周囲に散らばったのも拾っていた。

その時、ハルリラは不思議なことをした。

一種の呪文を唱えると、飛び散ったガラスがみんな元にもどり、完全に回復して、盆の上に元のガラスのコップが並んだ。女の子は驚いたような顔をしていた。

 

 

 「不思議だ」

「うん。でも、完全ではありませんよ。割れたひびが模様になって残ってしまっている」

我々は見せてもらう。

不思議だ。確かに ガラスのコップはひびが入っていて模様のようになっているが、元のコップになっている。

「使えるの」

「使えますけど、長持ちはしませんね。しばらく使ったら、廃棄した方がいいと思いますよ」

「それにしても不思議だ」

「何をしたのですか」

「魔法ですよ」

 

 

 プランターに植えられた観葉植物の緑の葉がさわさわと揺れ動いていた。

「風もないのに」と吾輩は葉を指さした。

「わしの魔法ですよ。ハハハ」

「どうしてそんなことが出来るのですか」

「僕は魔法次元から来た男ですから。でも、これ、他の人に言わないでください。銀河鉄道のお客さん、特に地球から来た方へのプレゼントで言っているのです。一般的には喋らないんです」

「秘密。何故ですか」

「紳士道です。礼節が大切なのです」

「礼節ですね。確かにね。でも、この惑星ではまだ旅の始まりですからね」

うさぎ族の女の子は茶色のキュロットをはき、白いニットを着ていた。顔はリンゴのような赤さと白がまざりあって、目は大きかった。

「ガラスが我々のテーブルの下まで飛んできたのですよ。」とハルリラは言って、テーブルの下にもぐり、ガラスのかけらを見せた。

「これだけのかけらがこちらに飛んできて、さらに嫌な音をたてているのに、『すみません』も言わない。他に客がいないのにですよ」

「忙しくてうっかりしていたとか。もしかしたら、ハルリラさんの魔法に驚いたからでしょう」

 

「確かにね。もしかしたら、あの女の子は素晴らしい子なのに、毒界【魔界】の連中のいたずらなのかもしれませんな。そういうことも大いにありうる。」

「魔界の連中は姿が見えないのですか」

「わしのような正義をめざす剣士の邪魔をするのが好きな連中。わしの魔法レベルがまだ三段ですからね。メフィストの子分は透明人間で姿が見えないことの方が多いです」

「それでは魂が綺麗とかそうでないとかいうハルリラさんの錯覚ということですな」と吾輩は皮肉をこめて言った。

「いや、わが魔法界ではそういう判定法がはやっているのですよ。特にアンドロメダの惑星の旅に出た時はね。魂の色合いには、固定的なものはないけれど、常時輝いていて美しい人と、常時よどんでいる人とかあると思いますよ。美しい人も怒ると曇る。よどんでいる人も親切にしたり、微笑したりすると輝く」

「ふうん、面白い理屈だね」

「これは宇宙インターネットによると、地球では空海なんか魂が異生羝羊心という善悪をわきまえない迷いの心と動物的な所から、真理のあることを知り人に親切にするようになる愚童持斎住心という第二段階へとのぼり、さらに学び、階段を昇っていくように魂をみがき、浮揚していくとやがて自我に実体がないという第四段階になり、そうやって階段をのぼっていくと、最高の悟りの秘密荘厳心に至るという話が書いてあったけれども、これと符合するのではないかな」

 

 

 ハルリラはそう言って、美しい微笑をした。

 

城の周囲の町に入った途端の偶然のハプニングに、なんとなく変な気持ちを味わいながらも、外に出た。

 

並木道の道々、ハルリラは自分の志を話した。これは銀河鉄道の中でも、聞いた話だが、この道の話には彼の情熱がこもっていた。

平和な国づくりだった。銃も大砲も戦車もない国が理想だった。何故か、刀だけはいいようで、サムライ精神の重要性を言った。

そして、革命によって時代が変わり、新政府が憲法をつくっているが、それは良いことで、その中に平和の宣言とカント九条を入れるべきだと主張した。

「カント九条とは」と質問されると、ハルリラは目を輝かして説明した。アンドロメダ宇宙インターネットによると、多少の誤差のある情報ではあるが、天の川と言われている銀河系宇宙に、ある惑星があって、カントという偉人が出て、永遠平和の惑星をつくるべきだとして平和の提言をしている。噂によると、そのいくつもの提言の中の九条がまるでモーゼの十戒のような美しい響きを持っているという。なにしろ、戦争を否定し、武力による威嚇、又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては永久に放棄すると書いてあるそうだ。これを俗にカント九条という。

宇宙でもハルリラの知る限り珍しい考えである。ハルリラの希望は これを向日葵惑星のテラヤサ国の新政府にのませることだという。

 

それから、格差のない社会だった。ワーキングプアのない社会だった。価値観が金銭や競争にあるのでなく、いのちの美しさにある社会だった。エネルギーは自然エネルギーを応用するのを夢見た。水素エネルギーと太陽エネルギーが理想だった。神々が感じられる町。神々が小川にいる、道端にいる町、そんな国がアンドロメダ銀河にあったら、そこで仕官し、結婚相手を見つけ、家族をつくり、その惑星の発展に貢献して、またいずれ、魔法次元に返る気持ちだった。それがハルリラに託された使命だと思っていた。

 

 

 「カント九条は素晴らしい話だ。私はそれに福音を伝えたい。」と吟遊詩人カワギリが言った。

「福音とは」

「人間や宇宙の色々なことを考察していくと、空しいと思うことが多い。最終的に人は死にますしね。でも、人生には真実のものがある。」

「それは何ですか」

「そうですね。そこの薔薇の花を見なさい。自分がこちらにいて、客観的に薔薇があると見るのでなく、自分が薔薇になったと思うまで、じっと見ることですよ。そうすれば、本物の薔薇のいのちが見えるかもしれません。

それは一人一人が見つけるものです。

私が言えるのは永遠に確固とした価値のあるもの、それは不生不滅のいのちと言っても良いのでしょうけど、そういう風に言うだけなら、簡単なんですけど、それは物凄く奥が深く、理性がとらえられる範囲を超えているという意味で、人生そのものの航路の中で見つけるものでしょう。

私が言えるのはそういう素晴らしいいのちの実在があるということだけです。それは愛に満ちているのだと思います。それをこの目でしっかり確認したいために、私はアンドロメダの旅に出たのです」

「いい詩が生まれるといいですね」

「そうです。優れた芸術の多くはこの福音を表現したものだと思っています」

「では、セルビアの理髪師もそうですか」

 

 

 吾輩は京都の銀行員の主人がこのオペラが好きで年中聞いていたことをあのコップの割れる音で思い出したからだ。

「セビリアの理髪師」と吟遊詩人はつぶやいた。

「理髪師って、何でもできるというか、何でもやなんです。彼が出入りしている金持ちは姪の両親の死のあとの遺産と彼女との結婚を狙っていた所、若い伯爵がこの姪に恋をする。しかし、伯爵は伯爵というブランドのない生の自分をこの女性が愛してくれるかという不安があったのか、彼女の誠実な人柄を知りたくて、貧乏な男に変身し、求愛して成功するという物語だったね。

こんなどこにでもあるような喜劇の中に神秘な音色が流れる。これはたとえ音楽がなくても、我々の生きるという生活の中に既にある神秘ないのちが目にも見えず耳にも聞こえない音色が響いているということかもしれないね。それを音楽でプッチーニが表現したものではないのかね」

「平凡な生活の中に、既に永遠の神秘ないのちが流れているというわけですね」

「そう」と言って、吟遊詩人は笑った。

     

            [つづく ]

 

 

 

 

 


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