表通りの裏通り

~珈琲とロックと道楽の日々~
ブルース・スプリングスティーンとスティーブ・マックィーンと渥美清さんが人生の師匠です。

Blind Willow. Sleeping Woman『めくらやなぎと眠る女』

2024-09-01 22:35:19 | 映画

最初にお断りしておきますが、僕は俗にいう”ハルキスト”と呼ばれる人種ではありません。

ただ高校生の頃に『羊をめぐる冒険』を読んでからの40年来のファンです。大ベストセラーになった『ノルウェーの森』が出版された頃、ちょうど主人公ワタナベと同じ歳だったせいもありドハマり。そこからはずっとムラカミ作品と共に人生を歩んできたといってもよいかも。

でも『羊』三部作以降の長編は、読み切るのに莫大なエネルギーを必要とするようになりました。もちろん『国境の南』や『1Q84』のような大好きな作品もあるけど、僕はやっぱりムラカミさんの短編やエッセイが大好きです。

https://blog.goo.ne.jp/giuliacoupe/e/bffb391afd4d2b4bf62fe0d9fc7f5e99

そんなムラカミ短編が大好きな方に向けた、ステキな映画が絶賛公開中です。

映画『めくらやなぎと眠る女』日本語版特別映像

初期の短編集『蛍、納屋を焼く、その他の短編』収録の「めくらやなぎと眠る女」と、阪神淡路大震災後の短編集『神の子どもたちはみな踊る』収録のSF大スペクタクル「かえるくん、東京を救う」を軸に、僕の大好きな「バースデイ・ガール」、「UFOが釧路に降りる」、「ねじまき鳥と火曜日の女たち」、「かいつぶり」を”再構築”して一本の長編にまとめた(劇場版パンフレットより)不思議なアニメーション作品。

観終わって一番最初に感じたのは

ムラカミさんの作品が苦手な方や原作を読んでいない方が観たらどう思うんだろう?

ってことでした。余計なお世話かな?

 

通行人や電車の乗客などのエキストラは半透明にすることで、主要人物が浮き出て強調される手法は、どこか『千と千尋の神隠し』を彷彿とさせました。これが全編を通して効果的でした。

でも個人的には(原作を読んだ頃の)主要登場人物の片桐さんはもう少し若い感じ、小村さんはもうちょっとイケメンな感じ、レストランの店長(原作ではフロア・マネージャー)はもっと背が高い古尾谷雅人さんのようなイメージを持っていました。

キョウコは様々な作品の登場人物の合成なので、明確なイメージはなかったけど、「釧路に...」に登場する小村さんの奥さまは、『万引き家族』のときの虚ろな目が印象的だった安藤サクラさんあたりかな。

しかし小村さんの人物成型は見事でした。あの作品の彼があーなってこーなって...なるほど。磯村勇人くんのセリフ回しも相まって、とっても魅力的な主人公の一人。劇中で全く絡まないけどもう一人の主人公片桐さんも愛すべき人物。塚本晋也さんの喋りが、片桐さんのキャラクターを一層魅力的な人間臭いものにしてくれましたね。かえるくんの古館寛治さんも最高だったけど、一番はレストラン・オーナーの柄本明さん。初めて「バースデイ」を読んだときから、柄本さんをイメージしていたのでもう言うことありません。カンペキです。

英語版やフランス語版を観ていない(仙台で観るのは絶望的)のでエラそうなことは言えませんが、絵のタッチやアニメーションの雰囲気、そして登場人物たちの喋り方(これは声優・役者さんたちのご尽力)が、まるでムラカミさんの短編を朗読してもらっているかのような心地よいリズムで、至極の時間を過ごさせて頂きました。

今回原作になった作品は、どれも何十回(もしかすると三ケタ回)以上読んでいるものばかり。それなのにピエール・フォルデスさんが”再構築”したこの愛すべき物語たちは僕の予想を(いい意味で)裏切りまくり。「かいつぶり」をどこで使っていたのか最初分からずに、改めて読み返してみて「あーそこを使う?」とビックリしました。てっきり「図書館奇譚」からの引用かと思ったくらいですもん。もう一度全部読み直してみなきゃいけませんね。

そして今回の片方の軸となった「ねじまき鳥...」の話のカギを握るワタナベノボル。原作では見つからずじまいでしたが、ピエールさんは最後の最後にまさかまさかのステキなプレゼントを僕らに用意していてくれました。この”原作はあくまでも原作。料理するのは自分”というピエールさんのスタンス(または信念)が羨ましかったです。スゴい解釈。

今までも幾多のムラカミ作品が映像化されてきましたが、『ドライブ・マイ・カー』以外はどうしても原作の呪縛(人気がゆえ?)から逃げられなかったけど、『めくらやなぎ』も含めてついにそこから脱却したのではないでしょうか。アニメーションというのも良かったですね。

次に映像化されるのは一体どの作品になるでしょうね。

まだ映像化されていないムラカミ作品の中であれば、『蛍』収録の「踊る小人」を徹底的にリアルな映像(CGアニメーションでも)で観てみたいです。象工場の様子や酒場の描写、森の中で(周りにレコードを散らかして)踊る小人がどんな風に見れるか?

誰か作ってください!